今野晴貴『ストライキ2.0』
今野晴貴さんより『ストライキ2.0 ブラック企業と闘う武器』(集英社新書)をお送りいただきました。
佐野サービスエリアのスト、保育士の一斉退職、東京駅の自販機補充スト……。
1970年代をピークに減少した日本のストだが、2010年代後半から再び盛り上がりを見せている。
しかも、かつての「国鉄スト」などと違い、これらにはネット世論も好意的だ。
実は産業構造の転換により、日本でもストが起きやすい土壌が生まれていたのである。
現代日本でストが普通に行われるようになれば、ブラック企業への有効な圧力となることは間違いない。
一方、海外では現在まで一貫してストが起きている。
特にアメリカでは、「2018年はストの年」といってよいほど頻発した。
しかも【教師が貧困家庭への公的支出増額を訴える】、【AI・アルゴリズムの透明化を求める】、【性暴力を防ぐ職場環境を要求する】など「社会問題の解決」を訴える「新しいストライキ」が海外では行われ始めている。
このように、ストはアップデートし、もはや賃上げ要求だけを求めるものではなくなっている。
こうした新しい潮流を紹介し、日本社会を変える道筋を示す。
ここ数年、雑誌『POSSE』で繰り返し取り上げてられてきた新たな労働争議の姿を描きつつ、労働運動の歴史をその間にちらちらとはめ込み、近年極めて数少なくなっている集団的労使関係についての入門書にもなっています。歴史からいえば、ここに描かれている今のは「2.0」じゃなくって、産業革命以前の職人組合から考えれば「4.0」くらいになるはずですが、それはともかく、今野さんらしい読みやすい筆致で、さらりと読めます。
メッセージ的に重要なのは、第4章の最後のあたりで打ち出されている「自由に働かせろ」「自由・自律的な働き方」の要求でしょうか。この台詞を目にすると、なまじ近年の労働問題に詳しい人ほど、裁量制や高度プロフェッショナルやフリーランスといったことが想起され、否定的な反応をしがちなのですが、今野さんは必ずしもそちらにのみ与しません。
・・・ここで、ストライキの戦術は二つに分かれることになる。ひとつは、「自由な労働は現実には虚構だ。本当は会社に従属しているのだ」と主張し、今までの労使関係の諸制度を適用するように主張するものだ。このような主張は、多くの裁量労働制やクラウドワークの労働実態を考えれば、まったく正論である。
だが、労働者が求めているものは、そうした「従属の証明」によって労働法の保護を受けることだとは、必ずしも限らない。むしろ、「本当の裁量労働を実現してほしい」「ウーバーのアルゴリズムに対抗したい」という労働者が増えているのではないだろうか。・・・
こうした主張を受けて、裁量労働制ユニオンでは今後、違法な裁量労働制に対して、ただ残業代を請求するだけではなく、「本当の裁量を求めるストライキ」を実施することを計画している。・・・
裁量なき裁量制に対して、現に裁量がないじゃないかといって残業代を要求する道と、本来あるはずの労働の裁量を奪い返す道と、ここで今野さんは大変重要な問題提起をしているのです。
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