職階制-ジョブ型公務員制度の挑戦と挫折@『季刊労働法』2020年春号(268号)
というわけで、『季刊労働法』2020年春号(268号) が刊行されました。中身のラインナップは既に9日に紹介していますのでそちらを御覧頂くとして、
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/03/post-3c7f27.html
ここでは、私が書いた「職階制-ジョブ型公務員制度の挑戦と挫折」の冒頭の部分と小見出しをチラ見せしておきます。
はじめに日本の公務員制度についての労働法からのアプローチは、長らく集団的労使関係制度の特殊性(労働基本権の制約)とその是正に集中してきました。それが国政の重要課題から消え去った後は、非常勤職員という非正規形態の公務員が議論の焦点となってきています。しかし、正規の公務員については、終身雇用で年功序列という日本型雇用システムのもっとも典型的な在り方を体現しているというのが一般的な認識でしょう。最近話題となった小熊英二『日本社会のしくみ』(講談社現代新書)では、日本型雇用の起源を明治期の官庁制度に求め、その任官補職原則が戦後日本の職能資格制度という形に残ったと指摘しています。日本社会の大きな流れとしては、この認識は全く正しいと言えます。ただ、まことに皮肉なことですが、立法政策史の観点からすると、それとは正反対の徹頭徹尾ジョブに基づく人事管理システムを法令上に書き込んだのが、戦後日本の公務員法制であったのです。「職階制」と呼ばれたこの制度は、驚くべきことに、1947年の国家公務員法制定時から2007年の同法改正(2009年施行)に至るまで、60年間も戦後日本の公務員制度の基本的オペレーティングシステムとして六法全書に存在し続けてきました。しかし、それが現実の公務員制度として動かされたことは一度もなかったのです。今回は、究極のジョブ型公務員制度というべきこの職階制の歴史をたどります。
1 1947年国家公務員法
2 1948年改正国家公務員法
3 職階法
4 S-1試験
5 職種・職級の設定
6 格付作業
7 間に合わせの任用制度
8 間に合わせの給与制度
9 職階制の挫折
10 その後の推移
11 職階制の廃止
・・・・ 徹底したジョブ型の制度を法律上に規定していながら、それをまったく実施せず、完全にメンバーシップ型の運用を半世紀以上にわたって続けてきた挙げ句に、それが生み出した問題の責任を(実施されてこなかった)職階制に押しつけてそれを廃止しようという、まことに意味不明の「改革」ですが、そもそも公務員制度改革を人事労務管理のマクロ的観点から考えるような見識のある人々は、21世紀には完全に姿を消してしまっていたのかもしれません。
今日、非正規公務員問題を始めとして、公務員制度をめぐる諸問題の根源には、さまざまな公務需要に対応すべき公務員のモデルとして、徹底的にメンバーシップ型の「何でもできるが、何もできない」総合職モデルしか用意されていないことがありますが、それを見直す際の基盤となり得るはずであった徹底的にジョブ型に立脚した職階制を、半世紀間の脳死状態の挙げ句に21世紀になってからわざわざ成仏させてしまった日本政府の公務員制度改革には、二重三重四重くらいの皮肉が渦巻いているようです。
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