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2020年2月20日 (木)

カリフォルニア州のギグ法@『労基旬報』2020年2月25日号

たまたま今朝の毎日新聞に、「個人請負の運転手が都労委申し立て 「雇用類似」どう保護するのか」という記事が出ていましたが、

https://mainichi.jp/articles/20200220/k00/00m/040/017000c

インターネット上で荷主と運転手を仲介する配送サービスを運営するCBcloud社(東京都千代田区)が団体交渉に応じないとして、登録運転手だった男性(51)と労働組合「東京ユニオン」が、東京都労働委員会に対し、不当労働行為の救済を申し立てた。20日から調査が始まる。運転手は自営業(個人事業主)として扱われているが、実際には「雇用類似」だとして、団交に応じるよう求めている。労組によると、ネット上でビジネスの場を提供するこうした「プラットフォームビジネス」を巡り、その使用者性や働く人の労働者性について判断を求める初めてのケースとみられ、都労委の判断が注目される。

いよいよ、日本でも、いわゆるギグワーカーの労働者性を正面から問う事案が労働委員会にやってきましたね。

というわけで(わけでもないが)、『労基旬報』2月25日号に寄稿した「カリフォルニア州のギグ法」をアップしておきます。

 近年、「雇用類似の働き方」という言葉が労働政策の内外で飛び交うようになりました。今日の動きの直接の出発点は2017年3月にとりまとめられた「働き方改革実行計画」です。これを受けて厚生労働省は、2017年10月から「雇用類似の働き方に関する検討会」を開催し、関係者や関係団体からのヒアリング、日本や諸外国の実態報告の聴取などを行い、2018年3月に報告書をまとめました。この報告書は2018年4月に労働政策審議会労働政策基本部会に報告され、その後同部会でもヒアリングや討議が行われて、同年9月に部会報告「進化する時代の中で、進化する働き方のために」がまとめられ、翌10月に「雇用類似の働き方に係る論点整理等に関する検討会」が設置され、検討が進んでいます。

 一方、最近日本でもフードデリバリーのウーバーイーツが急速に拡大し、その配達員の労働者性が議論の焦点になりつつあります。旅客運送型のウーバーはまだ解禁されていませんが、荷物運送型のウーバーイーツの急拡大によって、日本もこの問題に直面しつつあるのです。この関係で、最近注目を集めた政策動向として、アメリカのカリフォルニア州が2019年9月に公布した州労働法典の改正法、いわゆるギグ法があります。これは、カリフォルニア州最高裁判所が2018年4月に下したダイナメックス事件判決におけるいわゆるABCテストを成文化したもので、独立請負業者と認められるための要件を厳格に限定しています。なお、それまで同最高裁はボレロ・テストというより緩やかな要件を採用していましたが、今回の改正法は一定の職業についてはABCテストではなく従来のボレロ・テストにより労働者性を判断するとしています。ギグ法は既に2020年1月から施行されており、日本も含めて世界各国に影響するところが大きいと思われますので、やや詳しく紹介しておきたいと思います。

 改正法第1条は上記最高裁判決と改正法の趣旨を、独立請負業者と誤分類されることにより最低賃金、労災補償、失業保険、病気休暇および介護休暇といった州法による保護を奪われている労働者にこれらの権利を回復することと、誤分類によるこれらの保険料収入の喪失への対処であると謳っています。

 改正法第2条により労働法典に第2750条の3が追加され、これが今回の法改正の主要部分となります。改正法第3条により労働法典第3351条(被用者の定義)が改正され、第(i)項として「2020年1月1日以降、第2750条の3に従い被用者であるすべての個人」が追加されています。

(イ) ABCテスト条項

 労働法典第2750条の3第(a)項が、ダイナメックス事件判決が確立したABCテストを規定しています。

第(a)項(1) 本法典及び失業保険法典の規定並びに産業福祉委員会の賃金命令において、報酬を得るために労働又は役務を提供する者は、以下のすべての要件を充たすことを使用主体(hiring entity)が証明しない限り、独立請負業者ではなく被用者であるとみなされる。

(A) その者が労務の遂行に関連して、労務遂行契約上もかつ実態においても、使用主体の管理(control)と指揮(direction)から自由であること。

(B) その者が、使用主体の事業の通常の過程以外の労務を遂行すること。

(C) その者が、遂行した労務と同じ性質の独立した職業、業務、事業に慣習的に従事していること。

 この第(A)号から第(C)号までの3要件をすべて充たさなければ被用者とみなされ、労働法典や失業保険法が適用されるのですから、極めて厳格な規定といえます。しかしながら、同条第(b)項から第(h)項に至るまで、今回の法改正はかなり膨大な適用除外を設けており、そこまで見なければ全貌は分かりません。

(ロ) ボレロ・テスト条項

 これら膨大な適用除外には、ダイナメックス事件判決によるABCテストではなく、これまで確立してきたボレロ・テストが適用されます。ボレロテストは以下の11項目です。

①「発注される仕事が職業か事業か」、

②「いつも決まっている事業かどうか」、③「経費負担を発注者と労働者のどちらがしているか」

④「仕事に必要な投資は労働者自らが行うかどうか」

⑤「与えられるサービスが特別なスキルを必要とするかどうか」

⑥「発注者の監督下にあるかどうか」、⑦「損失が労働者自らの管理能力によるかどうか」

⑧「従事する時間の長さ」

⑨「仕事上の関係の永続性の程度」

⑩「時間単位か業務単位かの報酬支払い基準」

⑪「発注元と発注先のどちらかが雇用関係が成立していると感じているかどうか」

 ABCテスト適用除外されるもの(ボレロテストが適用されるもの)を簡潔に一覧化すると以下のようになります。

第(b)項

(1) 保険法典に基づき保険局の許可を受けた保険代理店

(2) 事業・職業法典によりカリフォルニア州の許可を受けた医師、歯科医、足治療師、心理士、獣医

(3) カリフォルニア州の許可を受けた弁護士、建築士、技師、探偵、会計士

(4) 証券取引委員会又は金融規制機関の許可を受けた証券取引人、投資顧問又はその代理人

(5) 失業保険法典で適用除外が認められている直接販売員

(6) 一定の要件を満たす漁師

第(c)項 一定の要件を満たす以下の専門サービス

(i) 独創的で創造的なマーケティング

(ii) 標準化困難な人的資源管理

(iii) 旅行代理人

(iv) グラフィック・デザイン

(v) 補助金申請書作成

(vi) 美術家

(vii) 財務省の許可を受けた税理士

(viii) 決済代行人

(ix) 一定の写真家

(x) フリーランスの記者、編集者、漫画家

(xi) 許可を受けたエステティシャン、ほくろ・いぼ除去師、爪美容師、理容師、美容師

第(d)号

(1) 許可を受けた不動産取引人

(2) 許可を受けた債権回収人

第(e)号 一定の事業向けサービス・プロバイダー

第(f)号 一定の要件を満たす建設業の下請人

第(g)号 一定の顧客向けサービス・プロバイダー(個人指導、家の修理、引越、掃除、使い走り、家具の組立て、犬の散歩や世話等)

 条文上はこの「一定の要件」も細かく規定されていますが、これを見ると今回の法改正はウーバーのような近年登場したプラットフォーム型の就業形態を狙い撃ちしたもので、従来から社会のあちこちに存在してきた雇用類似の働き方にまで被用者扱いを広げようとするものではなさそうです。  

 

 

 

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