山田久『賃上げ立国論』
ある方から勧められて山田久『賃上げ立国論』(日本経済新聞出版社)に目を通しました。実はかなりの部分は、今までの山田さんの本における主張と重なる点も多いのですが、この凄いタイトルの真骨頂に当たる部分は、第5章の「賃上げを可能にする国家戦略」の、とりわけ「賃上げを誘導する第三者機関設置を」という項でしょう。山田さんはこれをスウェーデンの中央調停局からインスパイアされたアイディアのように語るのですが、いやだいぶ文脈は違うように思います。むしろ、日本的な雇用システムのゆえに内発的に賃上げへのドライブがかかりにくい日本社会に、いわば「上から」賃上げのメカニズムを作り出してしまおうという発想です。曰く:
・・・具体的には、2013年秋に創設された「政労使会議」を再稼働させ、その下に労使双方が信頼する経済学者の重鎮を座長とし、労働側及び使用者側の経済学者・エコノミスト2名ずつの計5名からなる「合理的な賃金決定のための目安委員会(仮称)」を設置してはどうか。
・・・・客観的な分析に基づく中期的な望ましい賃金上昇率の目安を一定レンジで、その客観的な根拠と共に示すことをミッションとする。この事務局案を「合理的な賃金決定のための目安委員会」がチェックし、毎年、新規労使交渉の3か月前をめどに公表するのである。
これって、「目安」という言葉からしても、いかにも現行の最低賃金の目安の審議にパラレルな感じで、しかもそれを春闘前に公表して、世の中に賃上げの雰囲気を作ってしまおうという、日本社会をよくにらんだアイディアになっています。
と同時に、そのすぐ後に山田さん自身が明示的に書かれているように、政府中枢における労働政策推進に労働組合をきちんと組み込もうという三者構成的発想が控えており、ここは強調する値打ちのあるところだと思います。
・・・経済財政諮問会議や未来投資会議など、安倍政権で首相が参加する常設の重要会議体は、経営トップや有識者をメンバーとするが、労働組合トップは外されている。
しかし、実効性ある労働政策には労働組合の積極的な関与が不可欠であり、連合会長をコア構成員の一人とする「政労使会議」が望まれる。・・・
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