短時間勤務有期雇用教職員(最年少准教授)の懲戒解雇
例の最年少准教授(短時間勤務有期雇用教職員)に対し、雇用主である国立大学法人東京大学が懲戒解雇の処分を下したようです。
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/press/z1304_00124.html
東京大学は、大学院情報学環 大澤昇平特任准教授(以下「大澤特任准教授」という。)について、以下の事実があったことを認定し、1月15日付けで、懲戒解雇の懲戒処分を行った。
<認定する事実>
大澤特任准教授は、ツイッターの自らのアカウントにおいて、プロフィールに「東大最年少准教授」と記載し、以下の投稿を行った。
(1) 国籍又は民族を理由とする差別的な投稿
(2) 本学大学院情報学環に設置されたアジア情報社会コースが反日勢力に支配されているかのような印象を与え、社会的評価を低下させる投稿
(3) 本学東洋文化研究所が特定の国の支配下にあるかのような印象を与え、社会的評価を低下させる投稿
(4) 元本学特任教員を根拠なく誹謗・中傷する投稿
(5) 本学大学院情報学環に所属する教員の人格権を侵害する投稿
大澤特任准教授の行為は、東京大学短時間勤務有期雇用教職員就業規則第85条第1項第5号に定める「大学法人の名誉又は信用を著しく傷つけた場合」及び同項第8号に定める「その他この規則によって遵守すべき事項に違反し、又は前各号に準ずる不都合な行為があった場合」に該当することから、同規則第86条第6号に定める懲戒解雇の懲戒処分としたものである。
その東京大学短時間勤務有期雇用教職員就業規則も添付されておりまして、
https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400130020.pdf
(懲戒の事由)
第85条 短時間勤務有期雇用教職員が次の各号の一に該当する場合には、懲戒に処する。
(5) 大学法人の名誉又は信用を著しく傷つけた場合(懲戒)
第86条 短時間勤務有期雇用教職員の懲戒は、戒告、減給、出勤停止、停職、諭旨解雇又 は懲戒解雇の区分によるものとする。
(6) 懲戒解雇 予告期間を設けないで即時に解雇する。
というわけで、事業所内部における法的根拠は上記の通りですが、いうまでもなく大澤氏にはこれを不当解雇として訴える権利があります。
その場合の参照条文は労働契約法のこれですが、
(懲戒)
第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
懲戒処分としても解雇としても、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められるかどうかが問題になるわけですが、
実は、大澤氏はテニュアのある常勤准教授ではなく、短時間勤務有期雇用教職員ですので、今回の解雇は労働契約法16条の解雇ではなく、次の17条の方になります。
(契約期間中の解雇等)
第十七条 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
おそらく圧倒的に多くの方々(労働法関係者を除く)の常識に反すると思われますが、有期契約労働者の期間途中解雇は無期契約労働者の解雇よりも(理屈の上では、上だけでは)難しいのです。後者は客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性があればいいのに、前者は「やむを得ない事由」が必要なんですから。それがそうなっていないのはなぜかというのは、雇用システム論を小一時間ばかり論ずる必要があるので、ここではパスしますが。
もひとつ、労働行政関係者であればここで思いだしておかなければならない規定がありますね。労働基準法20条1項但し書きです。
(解雇の予告)
第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
2 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
3 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。
今回の懲戒解雇は「「大学法人の名誉又は信用を著しく傷つけた場合」という「労働者の責に帰すべき事由に基いて」「予告期間を設けないで即時に解雇する」ものですから、本条3項により19条第2項が準用されます。
(解雇制限)
第十九条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
2 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。
つまり、今回の懲戒解雇は、それが即時解雇であるがゆえに労働基準監督署の認定を受ける必要があります。まあ、労働法学者が何人もいる東京大学ですから、そこは抜かりはないでしょうが。
ちなみに、なぜかブログが閉鎖されている労務屋さんが、ツイッターで本件にコメントしていますが、
https://twitter.com/roumuya/status/1217346484024168448
ということで懲戒処分を行うことは正当としても、解雇は重きに失するのではないかというのが私の印象です。あくまで過去の判例などをもとにした検討であり、私の価値観は一切含まれておりませんのでどうかそのようにお願いします。
わたしは解雇相当と思いましたが、それは当初の民族差別的発言それ自体というよりも、いったん反省したような発言をしながら、その後東大の部局や教員を誹謗中傷するような発言を繰り返したことが悪質と判断されたものと思われます。
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> わたしは解雇相当と思いました
> 東大の部局や教員を誹謗中傷
当然、当該の中傷が「事実に反するか、どうか」の問題が大きいですから、
事実に反する中傷を氏は行った、と判断をしています、ということですね。
投稿: 名誉棄損 | 2020年1月17日 (金) 11時44分
> 差別的発言それ自体というよりも、いったん反省したような発言をしながら、その後東大の部局や教員を誹謗中傷するような発言を繰り返した
> (1) 国籍又は民族を理由とする差別的な投稿
これを1番目に持って来たのは「ある種の困った人々のガス抜き」のためでしょうね。
このガス抜きは誤解を拡散することでもある訳で東大も本当に「困った組織」ですね。
もちろん、反省文なんか、書かずに、「個人的信条の表明であって東大とは一切、関係
ありません」と言っておけば良かっただけのことですから、氏にも困ったものですが。
投稿: 国立大学 | 2020年1月17日 (金) 20時51分
もちろん、上で述べたように
>いうまでもなく大澤氏にはこれを不当解雇として訴える権利があります
ので、それこそ腕利きの労働弁護士にでも依頼して、解雇無効の地位確認請求訴訟でもなんでも起こせばいいと思いますが。例の余命何年とかで懲戒請求を受けた労働弁護士諸氏なんか、不当解雇を争うならとても力になりますよ。
ただ、大澤氏が氏のツイッターで毎日のように叫んでいるような調子でやっていると、弁護士にも顧客を選ぶ権利がありますから、どなたか別の弁護士の先生に依頼されたらいかがですかと、やんわり断られる可能性は否定しがたいものがありますけれど。
投稿: hamachan | 2020年1月18日 (土) 20時03分