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2020年1月 6日 (月)

2020年年金法改正の論点@『労基旬報』2020年1月5日号

『労基旬報』2020年1月5日号に新春特別寄稿として「2020年年金法改正の論点」を寄稿しました。

 今年の通常国会に提出される予定の年金法改正案は、短時間労働者への適用拡大を始めとして労働法政策と関連する論点が多く、年の初めに若干整理しておきたいと思います。
 直接に法改正に向けた審議は昨年8月27日から社会保障審議会年金部会で開始され、2019年財政検証結果を確認した上で、被用者保険の適用拡大、高齢期の就労と年金受給の在り方等について議論を重ねてきました。本稿執筆時点ではまだ部会報告に至っていませんが、今後改正法案を作成して今年の通常国会に提出される予定です。ただしこのうち最重要事項である適用拡大については、2018年12月から働き方の多様化を踏まえた社会保険の対応に関する懇談会が開催され、2019年9月に議論の取りまとめがされていました。一方、高齢期の就労と年金については、2019年6月に閣議決定された『成長戦略実行計画』において70歳までの就業機会確保という政策が打ち出され、こちらも今年の通常国会に高齢者雇用安定法の改正案が提出される予定になっています。

短時間労働者への適用拡大等

 まず、適用拡大の中でも最も重要な短時間労働者の取扱いですが、そもそもの出発点は1980年6月に出された3課長内翰で、所定労働時間が通常の労働者の4分の3未満のパートタイマーには健康保険と厚生年金保険は適用しないと指示したことです(条文上には根拠なし)。この扱いがその後パート労働者対策が進展する中で見直しが求められるようになり、2007年には法改正案が国会に提出されましたが審議されることなく廃案となり、ようやく2012年改正で一定の短時間労働者にも適用されるようになりました。その適用要件は、まず本則上、①週所定労働時間20時間以上、②賃金月額88,000円以上、③雇用見込み期間1年以上、④学生は適用除外というルールを明記し、附則で当分の間の経過措置として⑤従業員規模301人以上企業という要件を加えたのです。その後、2016年改正でこの⑤の要件について、500人以下企業でも労使合意により任意に適用拡大できるようになりました。
 2012年改正法の附則第2条には、2019年9月30日までに短時間労働者に対する厚生年金保険及び健康保険の適用範囲について検討を加え、必要な措置を講ずるという検討規定が盛り込まれていました。一方、2017年3月の『働き方改革実行計画』には、兼業・副業に関して社会保険の検討が求められ、また雇用類似の働き方についても触れられていました。これらを踏まえ、2018年12月から上記検討会が開催され、2019年9月に議論の取りまとめがされたのです。そこではまず基本的な考え方として、「男性が主に働き、女性は専業主婦という特定の世帯構成や、フルタイム労働者としての終身雇用といった特定の働き方を過度に前提としない制度へと転換していくべき」と、いわゆる標準世帯を基準にすべきでないという考え方を明確に打ち出し、「ライフスタイルの多様性を前提とした上で、働き方や生き方の選択によって不公平が生じず、広く働く者にふさわしい保障が提供されるような制度を目指していく必要がある」と、多様な働き方に中立的な制度を求めています。そして、それにとどまらず、「個人の働く意欲を阻害せず、むしろ更なる活躍を後押しするような社会保険制度としていくべきであり、特に、社会保険制度上の適用基準を理由として就業調整が行われるような構造は、早急に解消していかなければならない」と、単に中立的であるよりはむしろ就業促進的な制度にすべきとの考え方を打ち出しています。
 短時間労働者への適用拡大については、「被用者として働く者については被用者保険に加入するという基本的考え方」が示される一方、「具体的な適用拡大の進め方については、人手不足や社会保険料負担を通じた企業経営への影響等に留意しつつ、丁寧な検討を行う必要性」が示されています。
 具体的な各要件のうち、見直しに積極的な姿勢が示されているのが適用拡大の対象企業の範囲です。2012年改正法附則第17条の経過措置による対象企業の限定(従業員501人以上)に対して、「企業規模の違いによって社会保険の取扱いが異なることは不合理であり、経済的中立性、経過措置としての位置づけ等にも鑑みれば、最終的には撤廃すべき」、「企業規模要件が労働者の就業先選択に歪みをもたらしている、グループ企業内での人事異動の妨げとなっている」などの意見を列挙し、結論的に「企業規模要件については、被用者にふさわしい保障の確保や経済活動への中立性の維持、法律上経過措置としての規定となっていることなどの観点から、本来的な制度のあり方としては撤廃すべきものであるとの位置づけで対象を拡大していく必要性が示された」と述べた上で、「現実的な問題として、事業者負担の大きさを考慮した上で、負担が過重なものとならないよう、施行の時期・あり方等における配慮や支援措置の必要性について指摘された」と、一定の経過措置や中小企業向け支援措置を示唆しています。なお最近の新聞報道によれば、適用拡大は2段階で、2022年10月から従業員101人以上規模企業に、2014年10月から従業員51人以上規模企業に拡大する予定とのことです。
 もう一つ見直しに積極的な姿勢が示されているのが勤務期間要件(1年以上)です。取りまとめでは「フルタイム労働者に係る2か月の基準に統一してはどうかとの意見」、「現行の雇用保険の基準に合わせ、期間を短縮する方向で見直してはどうかとの意見」、「勤務期間要件への該当の有無は雇用契約当初の時点では判断困難であるとして、要件の必要性自体を疑問視する意見」などが列挙され、結論的に「勤務期間要件については、事業主負担が過重にならないようにするという趣旨や、実務上の取扱いの現状を踏まえて、要件の見直しの必要性が共有された」と述べています。
 これらに対し、労働時間要件(20時間以上)、賃金要件(8.8万円以上)、学生除外要件については、程度の差はあれ見直しに慎重な記述となっています。たとえば労働時間要件については、「基準を引き下げれば労働時間を減らす誘因になってしまう恐れがある」とか「20時間という数字は雇用保険も同様で、被用者性の基準として分かりやすい」といった意見が列挙され、「まずは週労働時間20時間以上の者への適用拡大の検討を優先的課題とする共通認識」が示されており、今回は取り上げない方向が窺われます。
 一方賃金要件については、「賃金要件が就業調整の基準として強く意識されている」ので見直すべきといった意見と、「国民年金第1号被保険者の負担及び給付とのバランスの観点」から現行基準を維持すべきとの意見が並列され、そもそも論としてはやや両論併記的ですが、「最低賃金の推移を見ると、近いうちに週 20 時間労働で当然 月額 8.8 万円を超えてくることも想定される」ので今次改正で賃金要件の見直しを行う必要性はないという意見を示すことで、見直しの緊要性の観点から今回は取り上げないという方向性がやや滲んでいるように思われます。
 学生除外要件についても、「将来社会人になって被用者保険の適用対象とされていくべき学生を、他のパート労働者と同じ枠組みで議論すべきではない」といったこれまでの常識的な意見の一方、「学生像・学生の就労も多様化しており、本格的就労につながるインターンシップや、就職氷河期世代など比較的高齢な非正規労働者の学び直しのケースもある」との指摘、さらには「学生が安価な労働力として濫用されることを防ぐためにも、基本的には学生を適用対象に含めていくべき」との意見も示され、両論併記的です。結論部分も「近時の学生の就労状況の多様化や労働市場の情勢等も踏まえ、見直しの可否について検討する必要性が示された」と、どちらに転んでもいいような書きぶりとなっています。
 もう一つの適用拡大問題が適用事業所の問題です。実は1985年改正により法人であれば5人未満事業所でも適用されるようになりましたが、個人事業所は依然として5人以上でなければ適用されませんし、さらに厚生年金保険法第6条第1項第1号は未だに適用事業を各号列記で規定しており、各号列記事業に当てはまらない事業は、第2号の「法人」ですくわれない限り、言い換えれば個人事業であるかぎり、5人以上事業所でも適用されないという状況が続いています。
 この点について取りまとめは、「現行要件は制定後相当程度の時間が経過しており、非適用事業所に勤務するフルタイム従業員のことも斟酌すれば 、労働者の保護や老後保障の観点から、現代に合った合理的な形に見直す必要がある」、具体的には「従業員数5人以上の個人事業所は、業種ごとの状況を踏まえつつ原則強制適用とすべき」と適用拡大に前向きで、特に「いわゆる士業等が非適用となっていることの合理性」には疑問を呈し、方向性としては「適用事業所の範囲については、本来、事業形態、業種、従業員数などにかかわらず被用者にふさわしい保障を確保するのが基本」と述べています。ただ、「非適用業種には小規模事業者も多く、事務負担や保険料負担が過重となる恐れがある」との指摘も付け加え、結論的には「非適用とされた制度創設時の考え方と現状、各業種それぞれの経営・雇用環境 などを個別に踏まえつつ見直しを検討すべき」とやや慎重な姿勢を見せています。
 一方、兼業・副業の関係では、現在の運用では適用の判断は事業所ごとに行い、週所定労働時間も1事業所で判断される一方、複数事業所でそれぞれ適用要件を満たす場合には報酬を合算して標準報酬月額を決定することとされています。複数事業所の労働時間を合算して適用判断することについては、「引き続き議論」とかなり慎重な姿勢です。さらに、雇用類似の働き方への対応についても、「引き続き議論」にとどめています。
 社会保障審議会年金部会では2019年9月27日に適用拡大について議論され、大勢は適用拡大に積極的な意見でした。ただこの問題はとりわけ非正規労働者を大量に活用するビジネスモデルが確立している流通・サービス系の中小企業にとっては大きな影響を与えるものであり、2007年改正案や2012年改正の際にもその強い反発が大幅な適用除外という形になった経緯があります。今回も、大企業を代表する経団連は適用拡大に積極的ですが、中小企業を代表する日本商工会議所は消極的な姿勢を示しており、適用拡大の幅についても、従業員50人とか100人といった数字が飛び交っており、最終的にどういう形で着地するのか、まだ見えてきません。

高齢期の就労と年金受給の在り方

 かつては、高齢期の就労と年金受給の在り方といえば、年金支給開始年齢の引上げが最大の論点でした。1994年に定額部分の支給開始年齢を段階的に60歳から65歳に引き上げていくという年金法改正がなされ、これを援護射撃するべく同年に65歳までの継続雇用を努力義務とする高年齢者雇用安定法の改正がされるとともに、高年齢雇用継続給付が雇用保険法に規定されました。また2000年に報酬比例部分の支給開始年齢をやはり60歳から65歳に引き上げていくという年金法改正がなされ、労働法サイドでは2004年に65歳継続雇用の原則義務化(労使協定による例外あり)、2012年には65歳継続雇用のほぼ完全義務化がなされています。
 しかし今回は、雇用就業サイドで70歳までの就業機会確保が打ち出されているものの、年金支給開始年齢を70歳に引き上げていくという政策は否定されています。それは動かさず、制度上年金を受給できる60歳代後半層の高齢者の就業を促進するという新たな手法をとることとしたわけです。もっとも、制度上年金を受給できるからといって、受給しなければならないわけではありません。むしろ2004年改正で導入された繰下げ規定によって、就業し続ける65歳以上の高齢者が受給年齢を繰下げることによって、その年金額を増額することができるようになっており、できるだけ多くの高齢者がそちらのルートに載っていくことを期待している政策体系になっているといえます。さらに、成長戦略実行計画では年金制度について次のように記述しています。
 他方、現在60歳から70歳まで自分で選択可能となっている年金受給開始の時期については、70歳以降も選択できるよう、その範囲を拡大する。加えて、在職老齢年金制度について、公平性に留意した上で、就労意欲を阻害しない観点から、将来的な制度の廃止も展望しつつ、社会保障審議会での議論を経て、速やかに制度の見直しを行う。
 このような取組を通じ、就労を阻害するあらゆる壁を撤廃し、働く意欲を削がない仕組みへと転換する。
 支給の繰下げを70歳以後も可能にする法改正や、在職老齢年金(高在労)の見直しも打ち出されています。これを受けて、社会保障審議会年金部会では、10月9日、18日に高齢期の就労と年金受給の在り方について審議が行われました。そこでは上記計画で言及されていた在職老齢年金の見直しと繰下げ制度の柔軟化が議論されています。在職老齢年金には60歳から65歳までの低在労(月収28万を超えると年金減額)と65歳から70歳までの高在労(月収47万を超えると年金減額)があり、主として議論されているのは高在労の方です。労働収入が高いと年金額を減らされるので就労意欲を削ぐという批判です。10月9日に提示された事務局の見直し案では、基準額を62万円に引き上げるという案と完全に撤廃するという2案が示されましたが、委員からは慎重な意見も呈されたようです。また、与党から金持ち優遇との批判の声が上がり、国会で野党からも批判されるなどしたため、11月13日に提示された修正案では基準額を47万円から51万円に僅かだけ引き上げるという案になり、さらに批判を受けて現状維持となりました。
 受給の繰上げ、繰下げ制度とは、原則の支給開始年齢である65歳より早く(最大60歳から)受給し始めれば、その分支給額が少なくなり、65歳より遅く(最大70歳から)受給し始めれば、その分支給額が多くなるという制度です。何歳から受給し始めても、トータルの受給額が変わらないように設計されています。今回の改正案は、この繰下げの上限年齢を70歳から75歳に引き上げようというものです。
 ただ、70歳就業機会確保政策との関係で言えば、現在でも可能な70歳までの繰下げを選択する人をもっと増やそうというのが現時点での政策目標ということになるでしょう。実は、ここで上述の在職老齢年金(高在労)が邪魔者として登場してくるのです。本来、繰下げ支給とは、受給開始を繰下げた分だけその後の受給額が増えるはずです。ところが、繰下げ支給制度と在職老齢年金制度を掛け合わせると、在労で減らされた分は(本来受給できた分ではないので)受給開始後戻ってこないことになってしまうのです。これでは、受給を繰下げようという意欲が大幅に減殺されてしまいます。今回の制度改正の大きな柱が、支給開始年齢の引上げではなく受給の繰下げで対応という点にある以上、それが大きな課題となることは理解できます。

その他

 社会保障審議会年金部会では、この二大論点以外にもいくつか細かい論点が議論されています。細かな業務運営改善事項は別にして、適用対象の範囲という点で注目に値するのは、10月30日に提示された短期労働者の適用拡大と11月13日に提示された適用事業所の拡大です。
 前者は、2ヵ月以内の期間を定めて使用される者について、雇用開始の時点では適用せず、「2か月を超えて引続き使用されるに至った場合」に適用するとしていますが、これを「2か月を超えて使用されることが見込まれる者」については最初から適用するというやり方に変えようというものです。具体的には、雇用契約上契約更新があることが明示されている場合や、同一事業所の同一契約で更新等により2か月を超えて雇用された実績がある場合が想定されています。雇用保険法では、基準は1か月ですが雇用見込み要件となっていますし、そもそも2012年改正で導入された短時間労働者の適用要件(上記③)は、1年以上の雇用見込みを要求しており、フルタイムとパートタイムで何重にもずれが生じています。
 後者については上述の通り、検討会の取りまとめでも見直すべきとの意見が示されていましたが、事務局案では非適用業種のうち、法律、会計等に係る行政手続等を扱ういわゆる「士業」を適用業種とすることとしています。

 

 

 

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