益尾知佐子『中国の行動原理』 on 新型コロナウイルス
武漢から世界に広がりつつある新型コロナウイルスの事態を見ながら、最近買った益尾知佐子『中国の行動原理』を読んでいると、いろいろなるほどと思うところがあります。
http://www.chuko.co.jp/shinsho/2019/11/102568.html
世界各国と軋轢を起こす中国。その特異な言動は、中華思想、米国に代わる世界覇権への野心などでは説明できない。なぜ21世紀に入り、中国は海洋問題で強硬姿勢に出たのか、経済構想「一帯一路」を始めたのか――。本書は、毛沢東・鄧小平から習近平までの指導者の動向、民族特有の家族観、社会の秩序意識、政経分離のキメラ体制など国内の潮流から、中国共産党を中心とした対外行動のルールを明らかにする。
益尾さんは国際政治学者であり、本書も基本的には中国の外交を分析した本なのですが、分析の基本概念がなんと、エマニュエル・トッドの家族システム論なんですね。例の、共産主義と相性のよいと言われる外婚制共同体家族という家族形態が中国の内政外交のすべてを規定しているという理論なんです。家父長一人にすべての権力と権威が集中し、組織は縦に連なる重層的な関係性ではなく、家父長と息子たちとの一対一の関係の束で成り立ちます。そういうところで何か問題が起きるとどうなるか。
・・・中国型の組織では、ボトムアップの解決に期待できない。同じ世代の息子同士は互いに内政不干渉だからだ。・・・上から圧力がかからない限り、うちはうちのやり方でやる。平等な組織同士は調整をしない。それが中国人のやり方だ。・・・
・・・こうした秩序の在り方は、場合によってはより深刻な問題を招く。中国の従業員たちは、善意ある人間であれば、たとえ組織の中で問題を見つけても、自分の持ち場と関係なければマナーとしてみて見ぬふりをする。もし自分の持ち場で問題が発生し、ボスがまだそれに気づいていない場合は、従業員はなんとか取り繕うか、それがどうしても無理ならボスを怒らせないように問題の所在を慎重に報告する。
・・・ボスは従業員に対するほぼ全ての権限を持つため、従業員は自分の身を守るために損害を過小報告しがちとなる。つまり、問題が深刻であればあるほど、中国ではボトムアップの問題解決の可能性が小さくなる。
・・・中国型の組織が成功し成長するには、万能で、あらゆる物事に目配りがきき、息子たちの長所短所を使い分けて、初めから問題が起きないような人材配置を行い、みんなに畏怖され尊重される強面のボスが欠かせない。ボスがしっかりしていなければ、そもそも組織が組織として機能しないのだ。・・・
いやまあ、昨年11月25日に発行された本書が、12月に発症して今年に入って急拡大した新型コロナを予知しているはずはないのですが、この一節を読んでいくと、なんだか予言の書みたいにすら思えてきます。
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