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2020年1月23日 (木)

残業代と有休の時効@『労基旬報』2020年1月25日号

『労基旬報』2020年1月25日号に「残業代と有休の時効」を寄稿しました。

 昨年(2019年)末の12月27日、労政審労働条件分科会はなんとか「賃金等請求権の時効の在り方について」建議にこぎ着けました。この経緯については周知のところですが、一応簡単に振り返っておきましょう。2017年5月に民法(債権法)の大改正が行われ、来る2020年4月から施行される予定ですが、その中に時効に関する規定の改正があります。これまでは原則は10年ですが、月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料にかかる債権は1年間行使しないときは消滅するという短期消滅時効の規定があったのですが、これが廃止され、債権者が権利を行使することができることを知ったとき(主観的起算点)から5年間行使しないとき又は権利を行使することができるとき(客観的起算点)から10年間行使しないときに時効で消滅することとなりました。
 一方、民法の特別法としての労働基準法では、短期消滅時効の1年を少し伸ばして、賃金、災害補償その他の請求権は2年間行使しないときは消滅するとされています(115条)。ところが民法改正で原則が5年に延びるのに、労働者保護のための労働基準法の保護水準が民法の一般原則よりも低くなってしまうのは問題ではないか、というのが、今回の見直しの出発点です。厚生労働省は2017年12月から「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」(学識者8名、座長:岩村正彦)を開催し、2019年6月に報告書を取りまとめたのですが、そこでは賃金等請求権の消滅時効について将来にわたり2年のまま維持する合理性は乏しく、労働者の権利を拡充する方向で一定の見直しが必要と述べていますが、具体的な数字は挙げていません。これは使用者側の反対が強かったためです。また、後に論じますが、年次有給休暇請求権については取得率向上という政策に逆行するとして延長に否定的な見解を示しています。
 これを受けて同年7月から労政審労働条件分科会で公労使による審議が始まり、冒頭述べたように年末の12月27日にようやく建議にこぎ着けたわけです。その内容は一言で言えばまさに妥協の産物で、原則は民法に合わせて5年とするとしながらも、「賃金請求権について直ちに長期間の消滅時効期間を定めることは、労使の権利関係を不安定化するおそれがあり、紛争の早期解決・未然防止という賃金請求権の消滅時効が果たす役割への影響等も踏まえて慎重に検討する必要がある」として、当分の間3年とするというものです。3年という数字の根拠としては、現行の労基法109条の記録の保存期間に合わせたという説明ですが、やや後付けの理屈という感があります。
 実を言えば、経営側が5年への延長に強く反発したのは、これがもっとも影響するのが不払い残業代請求、それも解雇や退職をめぐるトラブルでいわば事後的に出てくる残業代請求の事案だからでしょう。本来からいえば払うべきと分かっていて不当に支払っていなかった賃金債務を免れたいというのはあまり堂々と言える話ではないはずですが、不払い残業代事案の場合、管理監督者や固定残業代といった仕組みの下で、労働者も納得して不支給だったはずなのに、辞めた後に残業代不払いだといって遡って請求してくるのはおかしいじゃないか、という気持ちがあるのだと思われます。
 しかし、この問題に対してはもう一つ別の視点からの議論がありうるのではないかと思います。それは、賃金請求権以外の請求権については、現行の2年の消滅時効期間を維持すべきだとされていることとの関係です。とりわけ年次有給休暇請求権については、「労働者の健康確保及び心身の疲労回復」という制度趣旨から、年休権が発生した年のうちに確実に取得するべきもので、消滅時効期間を延長したら却って年休取得率向上という政策の方向性に逆行するとしています。この点については労働側も同じ意見であり、5年に延ばすべきではないと言っています。
 ここで、賃金問題と労働時間問題との間に線引きがされています。賃金問題はそもそも民法の雇用契約に基づく報酬請求権であり、そちらに従うのが原則であるのに対して、労働時間問題は労働者の健康確保という政策目的に資するかどうかで判断すべきだと。この線引きには私もまったく同意します。しかしだとすると、残業代問題は単純に賃金問題と言っていいのか、これこそまさに労働者の健康確保のための政策ではないのだろうか、という疑問が湧いてきます。
 労働基準法37条は、同法第3章(賃金)ではなく第4章(労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇)に置かれています。現実はともかく、少なくとも建前上は、同法37条による残業代・休日手当は、少ない基本給を補填するためではなく、本来あるべきでない残業や休日出勤を(使用者に対するコストを通じて)抑制するための政策手段であるということになっています。
 だとすると、賃金請求権のうち残業代・休日手当に係る部分(労基法37条によって創設された部分)については、民法の一般原則に従うのではなく、労働者の健康確保という政策立法の趣旨に従って、できるだけ早いうちに、退職後になってから遡って請求するのではなく、できれば在職中に残業や休日出勤をできるだけ抑制しうるように、5年に延長せず、短期のままにとどめるべきなのではないでしょうか。有休と同じように。
 いやもちろん、これは現実の労働者の感覚とは遥かにかけ離れた超建前論です。しかし、今回の改正の影響する最大領域である不払い残業代問題の根底には、こういう本質的な疑問を呼ぶ部分があるということは認識しておいていいのではないでしょうか。 

 

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