『2020年版経営労働政策特別委員会報告』
経団連より『2020年版経営労働政策特別委員会報告』をお送りいただきました。いつもありがとうございます。
http://www.keidanren-jigyoservice.or.jp/public/book/index.php?mode=show&seq=569&fl=
労働力人口の急速な減少、デジタル革新の進展など、企業を取り巻く経営環境が大きく変化する中、企業は、こうした変化をチャンスとして捉え、新たな価値創造を目指すことが必要です。企業は、働き手一人ひとりが自ら育つ環境を整備しながら、エンゲージメントを一層高めて、生産性向上を実現することで、その果実を様々な処遇改善につなげることができます。一方、世界経済の減速を受けて、足もとの企業業績はまばら模様であり、日本経済の先行きへの不透明感は高まっています。賃金については、様々な考慮要素を勘案しながら、適切な総額人件費管理の下で、自社の支払い能力を踏まえ、労働組合等との協議を経て賃金を決めるという「賃金決定の大原則」に則りながら、自社の状況に見合った賃金引上げ方法について、企業労使で徹底的に議論を行い、検討していくことが重要です。
2020年版の「経営労働政策特別委員会報告」(経労委報告)は、今年の春季労使交渉・協議における賃金改定や総合的な処遇改善に関する経営側の基本スタンスを示すとともに、アウトプットの最大化に注力する「働き方改革フェーズⅡ」の考え方、働き手のエンゲージメントを高める施策のポイント、日本型雇用システムの課題と今後の方向性、Society 5.0時代に活躍する人材育成のあり方、直近の雇用・労働分野における法改正の内容と企業に求められる対応などについても言及しています。今次労使交渉・協議における経営側の指針書としてご活用ください。
既にマスコミ等で大きく取り上げられていますが、今回の報告は、日本型雇用システムの見直しを正面から取り上げた点が注目されています。
戦後から長きにわたって我が国企業の発展を支えている「日本型雇用システム」は、①学校を新たに卒業した学生等の一括採用、②定年までの長期・終身雇用を前提に、企業に所属するメンバー(社員)として採用した後、職務を限定せず社内でさまざまな仕事を担当させながら成長を促す人材育成プロセス、③勤続年数や職務経験を重ねるに伴って職務遂行能力(職能)も向上するとの前提で毎年昇給する年功型賃金などを主な特徴としている。こうした雇用システムは「メンバーシップ型」と称される。特定のポストに空きが生じた際に、その職務(ジョブ)・訳医割を遂行できる能力や資格のある人材を社外から獲得あるいは社内での公募により対応する欧米型の「ジョブ型」と対比される。・・・
と、拙著でも繰り返してきた教科書的な説明の後、
そのメリットとデメリットを列挙し、今後の方向性として、「直ちに自社の制度全般や全社員を対象としてジョブ型への移行を検討することは現実的ではない」とした上で、「まずは、「メンバーシップ型社員」を中心に据えながら、「ジョブ型社員」が一層活躍できるような複線型の制度を構築・拡充していく」ことを示しています。
複線型というのは、つまり、
・・・各企業においては、自社の経営戦略にとって最適な「メンバーシップ型」と「ジョブ型」の雇用区分の組合せを検討することが基本となる。・・・
と、そういう言葉は出てきませんが、25年前の『新時代の「日本的経営」』の雇用ポートフィリオみたいなイメージですが、だとすると、25年前の「高度専門能力活用型」が不発に終わった失敗を繰り返さないように、どう手当てをしていくかという点が重要でしょう。こういう台詞は出てきますが、やや迂遠な感もあります。
・・・キャリア面では、メンバーシップ型とジョブ型社員の双方から、経営トップ層へ登用していく実績を作り、自社における複線型のキャリア発展空間を感じてもらうことで、定着率向上を図ることが考えられる。
一方で、経労委報告の半世紀近く前からの本題である春闘の賃上げ話については、「企業が社員を雇用する際に必要な費用の総額である「総額人件費」の観点が不可欠」と、メンバーシップ型を前提とした総額人件費主義に立っていて、連合の春闘方針の月例賃金引上げ偏重を批判していますが、このあたり、雇用システムの総論に対するスタンスと、具体的な賃金引上げの議論のスタンスが、ずれているように見えるのも興味深いところです。
本当にジョブ型になるんだったら、ほっといても定期昇給で上がっていくということはなくなるので、「定昇込みいくら」なんていうごまかしはきかなくなり、ガチンコの賃上げ交渉にならざるを得ないはずですが、そこまでの発想は労使双方ともないのでしょう。
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