『日本労働研究雑誌』2020年特別号(715号)
『日本労働研究雑誌』2020年特別号(715号)は、昨年6月の労働政策研究会議の報告をまとめたもので、メインは外国人労働者問題です。
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2020/special/index.html
パネルディスカッション●外国人労働者をめぐる政策課題
論文
外国人労働者をめぐる政策課題─労働法の観点から 早川智津子(佐賀大学教授)
特定技能制度の性格とその社会的影響─外国人労働者受け入れ制度の比較を手がかりとして 上林千恵子(法政大学教授)
労働需給ボトルネック発生メカニズムと国際・国内移動の経済効果の分析─労働市場と外国人労働者政策の日独比較研究から 井口泰(関西学院大学教授)
外国人労働者をめぐる政策課題 指宿昭一(暁法律事務所)
ぱらぱら見ていくと、上林さんの報告の中に、私が10年前に書いた一節が出てきて、思わずのけぞりました。
・・・この点が、濱口桂一郎による「労使の利害関係の中で政策方向を考える労働政策という観点が否定され、もっぱら出入国管理政策という観点からのみ外国人政策が扱われてきた。言い換えれば、「外国人労働者問題は労働問題に非ず」「外国人労働者政策は労働政策に非ず」という非現実的な政策思想によって、日本の外国人労働者問題が取り扱われてきた」(濱口2010:274)という批判につながったのである。
これに対して特定技能はフロントドアからの外国人労働力導入政策なのですが、そこには早川さんや指宿さんも指摘するようにいろいろな問題があります。
実はこの特定技能の評価も含めた日本の外国人労働政策に関するわたくしの最新の認識については、今年3月に刊行予定の野川忍編著『労働法制の改革と展望――働き方改革を超えて』(日本評論社)に寄稿した第13章「日本の外国人労働者法政策――失われた30年」でやや詳しく論じております。
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784535524224
それ以外の自由論題の中では、雨夜真規子さんの「副業・兼業労働者に係る給付基礎日額の算定基礎についての検討」が、ちょうど今国会に提出される法改正案のなかの労災保険の通算を扱っています。
この論文でも引かれていますが、多重就業者の労災保険についてはいくつか裁判例があり、そのうち国・淀川労基署長(大代興業ほか)事件につは、結局ジュリストには載せませんでしたが判例評釈したことがあり、
http://hamachan.on.coocan.jp/rohan151113.html
その時にこういう感想を述べておりました。
・・・上記1で一般論としては否定的に論じた労働時間の通算についても、空間的に同一場所において行われる類似した業務を別々の企業に請け負わせることによって通算を回避することがあり得るとすれば、むしろ通算を肯定的に解すべきではないかとも考えられる。
本件ではA興業の業務だけで業務起因性が肯定されるほどの過重労働となっていたので、争点は主として給付基礎日額の算定にとどまったが、仮に上記さまざまな業務を細かく切り分け、別々の企業に行わせていたら、単体としては業務起因性が肯定され得ないような短時間の労働が同一場所で連続的に行われるような状況もありうるのであり、かかる状況に対しても「何ら関係のない複数の事業場において業務に従事し、何ら関係のない複数の事業主からそれぞれ賃金の支払いを受ける場合」とみなすような解釈でいいのかも考えるべきであろう。
4 現行法規を前提とする限り、本件において本判決の結論を否定することは困難であるが、従来から重層請負が通常であった建設業に限らず、近年広い業種においてアウトソーシングが盛んに行われている現在、少なくとも上記労災補償法制や安全衛生法制と類似した状況下にある者については、何らかの対応が必要であると思われる。会社をばらばらにして別々に委託すれば、まとめて行わせていれば発生したであろう使用者責任を回避しうるというようなモラルハザードは望ましいものとは言えない。
« 『Japan Labor Issues』2010年2月号 | トップページ | 稲葉振一郎氏の労働未来論 »
コメント