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2020年1月 1日 (水)

松下プラズマディスプレイ事件原告Xのその後

Gendi 今日、マネー現代にアップされたこの記事(前編、後編)は、かつて私も評釈したことのある松下プラズマディスプレイ(のちにパナソニックプラズマディスプレイ)事件の原告X(偽装請負の派遣労働者)のその後をルポしたもので、いろんな意味で心に沁みるものがありました。

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/69546 (年越し派遣村から約10年…いま「ネトウヨ」と呼ばれる男の過酷人生)

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/69547  (パナソニックと闘った「ハケンの男」の壮絶すぎる半生)

職を失った人たちが日比谷公園に集まった「年越し派遣村」から約10年。時代は変わって令和になった。当時、怒りに震えて、失意に打ちひしがれた彼ら、彼女らはあれからどうしているのだろうか。
「いま僕はネトウヨと呼ばれています。正直、心外ですけどね」
東京・池袋の居酒屋で数年ぶりに再会した男は開口一番、こう語った。筆者は約12年前、非正規雇用の労働問題をよく取材していたのだが、その時に知り合ったのが彼だった。彼は当時、パナソニックを相手に労働争議を戦っていた。 

ちょうどマスコミが大手企業の偽装請負問題を批判するキャンペーンを張っていた時期でもあり、この松下プラズマディスプレイ事件は派遣法批判のシンボルのように持ち上げられていました。

その勢いの頂点になったのが、たまたまわたしが評釈することになった2008年4月25日の大阪高裁の判決でした。

http://hamachan.on.coocan.jp/nblhyoushaku.html (「いわゆる偽装請負と黙示の雇用契約」 ――松下プラズマディスプレイ事件)

かなり多くの人々がこの高裁判決を支持評価していましたが、私は理論的にどうしても支持し得ないと考え、批判的な評釈を書き、のちの最高裁判決はほぼ私の評釈の線に沿った逆転判決を下しています。

もちろん事案自体は明らかな偽装請負なのですが、だから労働者供給事業だ、だから違法だ、だから雇用関係がある・・・というロジックは成り立たないよ、という割と素直な解釈論です。基本的にその後の諸判決はほぼその理屈で動いていると思います。

その後、天下の松下(パナソニック)相手に裁判闘争を敢行したこの原告Xが、労働弁護士らとともに労働運動界隈で活躍している姿がちらちらと目に入っていましたが、最近はあまりその界隈では見ないなと思っていましたが、「ネトウヨ」と呼ばれるようになっていたんですね。どういう経緯があったかは、この記事からはよくわかりませんが、

「10年前の社会問題は〝派遣切り″でしたが、いまの日本が抱える社会問題は韓国や中国の横暴と、それを制止できないリベラル勢力の存在です。とくに最近は中国や韓国の問題をネット上で調べることが多くなりました」・・・・
岡田はその後、さまざまな社会問題に取り組んでいく。日本の労働運動家、人権活動家として、韓国や、イラクに招待されたりもした。
筆者が岡田に再開したのは、2013年のこと。東日本大震災後に、反原発運動に身を投じていた岡田は、経済産業省の前に陣取った「脱原発テント」のまえで、自前の「反原発バッジ」を売り歩いていた。
この運動の最中、かつて岡田の裁判や運動を支援した左派活動家たちと、イベントをめぐって激しく対立する。岡田が借金と身銭を切って準備した反原発のロックイベントの運営を巡りトラブルになったのだ。これによって岡田は大きな経済的損失を被ってしまう。これが岡田が運動から身を引くきっかけとなった。・・・・
そんな岡田は、いまもツイッターで社会問題について盛んに発言を続けている。
「根底にあるのは社会への怒り、理不尽な仕打ちへの怒りです。いま僕が『ネトウヨ』と呼ばれているし、それを批判する人もいる。でも僕はおかしいと思うものに声を上げずにはいられない」・・・・
無名とは言え岡田は2000年代の日本社会の矛盾が生み落とした労働運動家であり、社会運動家の一人だったと言えるだろう。しかしもとより、彼の奥底にあったのは「正社員になりたい」という極々ふつうの願いに過ぎなかったのだ。

この10年で間違いなく増大したのは、(古典的な左翼に対する伝統的な右翼ではなく)特定のアジア諸国に対してのみエスニックな敵愾心を掻き立てるネトウヨという特殊な心性(それこそ「反日種族主義」の鏡像としての「嫌韓種族主義」等々)でしょうが、その原動力となっているのが10年前に派遣切りに対して燃やされていた「怒り」や原発に対して燃やされていた「怒り」と同質の「怒り」(彼が言うところの「おかしいと思うものに声を上げずにはいられない」)であるというこの記事の指摘は、21世紀日本(あるいはむしろ21世紀東アジア)を覆う狭量な種族主義の蔓延の原点が奈辺にあるかをよく物語っているように思われます。

41sc00gs1jl_sx300_bo1204203200_ ていうか、これはすでに高原基彰さんが14年前に『不安型ナショナリズムの時代』で描き出していた姿ではあるんですが。

(参考)

Ⅰ 事実の概要
 Yは、松下電器と東レの共同出資により設立された子会社で、プラズマディスプレイパネル(PDP)を製造していた。Aは家庭用電気機械器具の製造請負を目的とする会社で、取引先メーカーの要望に応じて、業務委託契約の形式によりその従業員を作業に従事させていた。YとAは平成14年4月1日以降、PDPの生産業務につき業務委託基本契約を締結した。YとAの間に資本関係、人的関係、特定の取引関係はない。
 XはAの面接を受け、平成16年1月20日、契約期間2ヶ月、更新あり、賃金時給1350円、就業場所Y茨木工場内A事業所等の労働条件を定めて雇用契約を締結し、PDP製造業務封着工程に従事した。XはAの従業員からではなく、Yの従業員からの指示を受けていた。A・Y間の雇用契約は2ヶ月ごとに更新され、XはAから給与。通勤手当を支給された。
 Xは、その就業状態が労働者派遣法等に違反しているとして、平成17年4月27日、Yに対して直接雇用を申し入れた。XはYから回答が得られないため、5月11日、U労働組合に加入し、団体交渉を通じて直接雇用を申し入れた。
 Xは5月26日、大阪労働局に対して本件工場における勤務実態について、A従業員がY従業員から直接指示・監督を受けるものであり、実際には業務請負でなく労働者派遣であり、職業安定法44条、労働者派遣法に違反する行為である旨申告した。Yは、6月1日大阪労働局による調査を受け、7月4日、改善計画書を提出し、同局からAとの業務委託契約は労働者派遣に該当すると認定され、同契約を解消して労働者派遣契約に切り替えるようにとの是正指導を受けた。Aは業務請負から撤退し、YはBと労働者派遣契約を締結して7月21日から受け入れ、PDP製造を続けることとした。Aの撤退に伴い、Xは他部門への移動を打診されたが拒否し、7月20日付でAを退職した
 X・UはYとの交渉においてXの直接雇用を要求し、Yは検討の結果、契約期間を平成17年8月1日から平成18年1月31日まで(同年3月末日を限度としての更新はあり得る)などとする直接雇用の申込みをしたものの、Xは雇用期間が限定されていたことを理由に拒否した。7月28日、UはXの雇用契約を期間の定めのない直接雇用とし、業務内容をXが従事していたPDP製造業務の封着工程とするよう申し入れたがYは拒否した。これを受けて、UはY側提示の雇用契約書において、雇用期間・業務内容などにつき異議をとどめる旨の記載をしたいとの申入れを行ったが、Yは契約書にこのような記載がなされるのであれば雇用契約を締結しないとしてこれも拒否した。XとUは、契約書に雇用期間について異議をとどめることに固執していては契約締結が困難であると考え、また、XがAを退職して収入のない状況であったこともあり、契約書とは別途に異議をとどめる旨の意思表示をした上で、Y側提示の雇用契約(契約期間は平成17年8 月から平成18年1 月31日まで〔契約更新はしないが、同年3月末日を限度としての更新はあり得る〕、業務内容はPDPパネル製造――リペア作業および準備作業などの諸業務、等)を締結することとし、Xは8月19日付で署名捺印し、8月22日より就労し(これが雇用契約3)、Y工場において、以前従事していたPDP製造業務の封着工程とは異なるリペア作業(不良PDPパネルを再生利用可能なものにする作業)に従事した。UはX・Y間の契約締結以後もXの雇用契約を期間の定めのない雇用契約とすることなどを求める交渉を申し入れていたが、Yは12月28日、平成18年1月31日の満了をもってXとの雇用契約が終了する旨通告した。X・Uはこれに抗議したが、YはXとの雇用関係は終了したとしてその就業を拒否している。
 Yの通告に先立って、Xは11月11日、Yに対し期間の定めのない雇用契約上の地位を有することの確認等を求めて本件訴訟を提起した。その根拠としては、黙示の雇用契約の成立(本件雇用契約1)、労働者派遣法に基づく雇用契約の成立(本件雇用契約2)、本件雇用契約3には期間の定めがないという3つを挙げている。また、リペア作業の命令が不法行為に該当するとして損害賠償を請求している。
 
Ⅱ 判旨
1 黙示の雇用契約の成否
(1) 労働者供給契約・供給労働契約の無効
「職業安定法4条6号は「労働者供給」を「供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることといい、労働者派遣法2条1号に規定する労働者派遣に該当するものを含まないものとする」と定義するから、労働者派遣法2条1号の「労働者派遣」の定義(自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする)に該当し、同法に適合する就業形態は、職業安定法4条6項の定義する労働者供給に該当せず、同法44条に抵触しないものと解される。
 しかし、・・・Y・A間の契約の契約書上の法形式は業務委託契約とされ、PDP生産1台あたりの業務委託料が設定され、生産設備の貸借が規定されたものであるが、設備の借り受け状況、業務委託料の支払い状況等の実態は何ら明らかでなく、Aと臨時雇用契約書を作成してPDP製造業務封着工程に従事したXは、A正社員ではなくY従業員の指揮命令、指示を受けて、Y従業員と混在して共同して作業に従事するなどしていたものであり、Yにおいても上記契約が職業安定法施行規則4条1項所定の適法な派遣型請負業務足りうること若しくは労働者派遣法に適合する労働者派遣であることを何ら具体的に主張立証するものではないから、Y・A間の契約は、AがXを他人であるYの指揮命令を受けてYのために労働に従事させる労働者供給契約というべきであり、X・A間の契約は、上記目的達成のための契約と認めることができる。仮に、前者を労働者派遣契約、後者を派遣労働契約と見うるとしても、各契約がなされてXがPDP製造業務へ派遣された日である平成16年1月20日時点(平成15年改正前労働者派遣法下)においては、労働者派遣事業を、臨時的・一時的な労働力の迅速・的確な需給調整を図るための一般的なシステムとする一方、労働者に対する不当な支配や中間搾取等の危険が顕在化するおそれなどが認められる業務分野については労働者派遣事業を認めるべきではないとの労働者保護等の観点から、物の製造の業務への労働者派遣及び受入れは一律に禁止され(同法附則4項、同法4条3項)、その違反に対しては1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(同法附則6項)との派遣元事業者に対する刑事罰が課されるなどされていたものであって、各契約はそもそも同法に適合した労働者派遣足り得ないものである。そうすると、いずれにしろ、脱法的な労働者供給契約として、職業安定法44条及び中間搾取を禁じた労働基準法6条に違反し、強度の違法性を有し、公の秩序に反するものとして民法90条により無効というべきである。
 ところで、特定製造業務への派遣事業は平成16年3月1日施行の労働者派遣法改正により禁止が解除されたから、Xが同月20日から期間2か月として改めて締結又は更新されたX・A間の契約に基づきY・A間の契約に従い稼働したことが同法上可能な労働者派遣と評価しうるとしても、派遣可能期間は1年とされ(同法40条の2第2項、附則5項)、Xの派遣は解禁後1年を経過した平成17年3月1日を超えて同年7月20日まで継続されていたから、少なくとも、Aにおいて、同法35条の2第1・2項に違反し、Yにおいて、同法40条の2第1項に加えて、大阪労働局が認定したとおり同法24条の2(派遣元事業主以外の労働者派遣事業を行う事業主からの労働者派遣の受入れの禁止)、同法26条(労働者派遣契約の内容等)に違反したほか、そもそも労働者派遣契約ないし派遣労働契約の締結に当たって遵守が求められる多くの手続規定を遵守、履践していないことが明らかである。
 そうすると、平成16年3月20日以降も、Yは上記違法状態(幾多の労働者派遣法違反)下でXを就業させることを認識していた若しくは容易に認識しうるものであったこと、平成17年4月27日にXが就業状態が労働者派遣法等に違反していると認識して直接雇用を申し入れた後もXをして就業させたこと等を考慮すれば、Y・A間、X・A間の各契約は、契約当初の違法、無効を引き継ぎ、公の秩序に反するものとして民法90条により無効というべきである。
 したがって、Y・A間、X・A間の各契約は締結当初から無効である。」
(2) 黙示の雇用契約1の成立
「労働契約も他の私法上の契約と同様に当事者間の明示の合意によって締結されるばかりでなく、黙示の合意によっても成立しうるところ、労働契約の本質は使用者が労働者を指揮命令及び監督し、労働者が賃金の支払いを受けて労務を提供することにあるから、黙示の合意により労働契約が成立したかどうかは、当該労務供給形態の具体的実態により両者間に事実上の使用従属関係、労務提供関係、賃金支払関係があるかどうか、この関係から両者間に客観的に推認される黙示の意思の合致があるかどうかによって判断するのが相当である。
 前記認定・説示によれば、Y・A間の契約、X・A間の契約がいずれも無効であるところ、Xは。期間2か月、更新あり、賃金時給1350円の前提で本件工場でPDP製造封着工程の業務に労務を提供し、Yは、これを受けて、その従業員を通じてXに本件工場での同工程の作業につき直接指示をして指揮、命令、監督して上記労務の提供を受け、Xは、Y従業員と混在して共同して作業に従事し、その更衣室、休憩室はY従業員と同じであり、同工程における就業期間が1年半に及び、その間に他の場所での就業をAから指示されたこともなく、休日出勤についてもY従業員が直接指示することがあり、本件工場にA正社員が常駐していたものの、作業についての指示をしておらず、労働時間の管理等を行っていたか不明であり、Yは、Xを直接指揮監督していたものとしてその間に事実上の使用従属関係があったと認めるのが相当であり、また、XがAから給与等として受領する金員は、YがAに業務委託料として支払った金員からAの利益等を控除した額を基礎とするものであって、YがXが給与等の名目で受領する金員の額を実質的に決定する立場にあったといえるから、Yが、Xを直接指揮、命令監督して本件工場において作業せしめ、その採用、失職、就業条件の決定、賃金支払等を実質的に行い、Xがこれに対応して上記工程での労務提供をしていたということができる。
 そうすると、無効である前記各契約にもかかわらず継続したX・Y間の上記実体関係を法的に根拠づけ得るのは、両者の使用従属関係、賃金支払関係、労務提供関係等の関係から客観的に推認されるX・Y間の労働契約のほかなく、両者の間には黙示の労働契約の成立が認められるというべきである。
 この点、Yは、Xが、Aに対して契約終了に伴う解雇予告手当等の支払を求めるなどAを使用者として認識しており、本件雇用契約3締結前にはYとの間に雇用契約がないことを前提に行動していたとして、黙示の労働契約の成立を否定する。しかし、上記Xの言動は、明示的には前記Y・A間の契約、X・A間の契約が存在する状況において、Yと対立しつつ直接の労働契約を要求して交渉中のものであり、同契約の成立を否定する直接の意思があったとはいえず、Aとの契約を解消して収入が途絶することが予想されていたXにおいて、あくまでYとの間の労働契約が明示的には成立していないことを前提として、形式的には雇用者であったAに種々の要求をしたり、形式的には雇用者ではなかったYに直接雇用の要求をしたことをもって、上記契約の成否が左右されると解することはできない。
 そして、上記労働契約の内容は、期間2か月、更新あり、賃金時給1350円等、X・A間の契約における労働条件と同様と認めるのが相当であるところ、Y従業員により上記契約成立後直ちにPDP製造封着工程業務への従事を指示され、Xがこれに応じたから、同業務が従事する業務として合意されたと解すべきである。
 したがって、X主張の期間の定めがないとの点は認められず、上記認定、説示した範囲での労働契約の成立を認めることができる。」
2 労働者派遣法に基づく雇用契約2の成否
「Y・A間の契約は労働者供給契約、X・A間の契約は同目的達成のための契約であって、労働者派遣法に適合した労働者派遣がなされていない無効のものであるから、同法40条の4の適用があることを前提にX・Yにおいて当然に同条に基づき直接雇用申込み義務が生じると解することは困難である。」
3 雇用契約3における期間の定めの有無、効力
「X・U、Yの交渉を経て、本件契約書の作成により本件雇用契約3が締結されたことによって、・・・賃金が時給1600円となるなど、前記(1)の黙示の労働契約の内容が変更されたというべきところ、・・・Xは、同代理人弁護士作成の内容証明郵便をもって有期とされる契約期間と従前従事していた封着工程ではない業務内容につきこれを不利益としてそれぞれ異議を留めた上で、本件契約書を作成したものであるから、同契約書通りの期間の定め、更新方法及び業務内容の合意が成立したとはいえず、他方、期間の定めのないこととする合意やPDP製造封着工程の業務に限ってこれを行うとの合意があったとも認められない。
 したがって、本件雇用契約3の締結後も、前記(1)の黙示の労働契約における契約期間及び業務内容がX・Y間の労働契約の内容となる」。
4 リペア作業に従事する義務の存否
「黙示の労働契約におけるXの従事する業務内容は本件工場内でのPDP製造業務封着工程であるところ、リペア作業への変更を命じられたのであるから、かかる業務命令は配
置転換命令に該当するといえる。
 Yは、リペア作業を行う真摯な必要もこれをX一人に行わせる必要も乏しかったにもかかわらず、Xの上記行為〔編注:Yが請負契約を装って労働者派遣をさせている旨の大阪労働局に対する申告〕に対する報復等の不当な動機・目的によりこれを命じたものと推認するのが相当である。
 したがって、前記業務命令は権利濫用として無効であり、Xはリペア作業に就労する義務はない。」
5 雇用契約の帰趨
(1) 解雇の有無及び効力
「両者間の雇用契約は、・・・合意以降期間2か月ごとに更新され、同年12月22日から同様に期間2か月として更新されていたから、Yが同月28日、平成18年1月31日の満了をもってXとの雇用契約が終了する旨通告し、その後その就業を拒否していることは、解雇の意思表示に当たる。
 ・・・〔解雇の意思表示の〕前提となるリペア作業への配置転換は無効であり、上記封着工程の業務作業が終了したなどの事情は見当たらないから、上記解雇の意思表示は解雇権の濫用に該当し無効というべきである。」
(2) 雇止めの成否
「仮に解雇の意思表示でなく、雇止めの意思表示としても、上記契約は、期間2か月、かつ更新できるものであり、平成16年1月以来多数回にわたって更新されていた上、Xの従事していた封着工程は現在も継続されており明らかに臨時的業務でなく、その雇用関係はある程度の継続が期待されていたところ、上記の通り、雇止めの意思表示は、解雇の場合には解雇権の濫用に相当するものであり、更新拒絶の濫用として許されないというべきである。」
6 不法行為の成否
「YがXにリペア作業への従事を命じた業務命令並びに解雇又は雇止めの意思表示は不法行為を構成」する。
 
Ⅲ 評釈
 本判決においてもっとも反響を呼んだのは黙示の雇用契約の成立を認めた点であるので、本評釈でもその点を中心に論じたい。ところが、本判決においては、業務委託契約の法形式をとりながらYがXを指揮命令していたことに基づいてこれを労働者供給契約と考え、これが無効であることを論理的前提として事実上の使用従属関係から黙示の雇用契約の成立を導き出すという理路を辿っているので、まずは労働者供給契約をめぐる論点から検討していく。
1 労働者供給契約の無効論について
(1) 業務委託(請負)と労働者派遣(労働者供給)の概念
 本判決では明確に析出されていないが、議論の第一段階としてまず、法形式として業務委託(請負)としている契約のうちいかなるものが労働者供給ないし労働者派遣と見なされるべきかという議論が必要である。これがいわゆる「偽装請負」問題の中核であって、本件が社会的な注目を浴びた所以でもある。
 本判決では、この議論が後述の労働者供給と労働者派遣の概念区分の議論と一体として論じられているため、却って問題の本質がわかりにくくなっている。ある契約が偽装請負であるか適法な請負であるかは一つの論点であり、偽装請負である契約が労働者供給であるか労働者派遣であるかは別の問題である。前者に関するかぎり、本判決と原審の事実認定はほとんど同じであると考えられるので、原審の判決を引こう。「Xは、Aの従業員から指示を受けていたわけではなく、松下電器からYに出向している従業員から指示(指揮命令)を受けていたことが認められる。これによると、Xに対する指揮命令は、Yが行っていたと認めることができる(その意味では、Xを含むA従業員の当時の就労形態は、いわゆる偽装請負の疑いが極めて強い。)。・・・上述した関係の実質は、むしろ、AとYが、Aを派遣元、Yを派遣先とする派遣契約を締結し、同契約に基づき、Aとの間で雇用契約を締結していたXが、Yに派遣されていた状態というべきである。」
 この点については、事実の概要に見たように、大阪労働局が本件業務委託契約は労働者派遣に該当するという認定を行い、これに基づいてYは業務委託契約を解消して労働者派遣契約に切り替えているので、既に決着がついているともいえるが、実務的にはいくつかの問題があり、指摘しておきたい。
 この認定の根拠は、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準を定める告示」(昭和61年労働大臣告示37号)である。ここでは、「請負の形式による契約により行う業務に自己の雇用する労働者を従事させることを業として行う事業主」であっても、労務管理面については、①労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理、②労働時間等に関する指示その他の管理、③企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理、を自ら行う者でなければ、「労働者派遣事業を行う事業主」とされる。これらの具体的内容については業務取扱要領において敷衍されているが、これを前提とする限り、本件業務委託契約が労働者派遣と見なされるのは当然であろう。
 ところが一方で、労働安全衛生法の世界では請負関係に着目したいくつかの規制がされている。すなわち、元方事業者は請負人やその労働者が安全衛生法令に違反しないよう「必要な指導」「必要な指示」を行わなければならず、請負人やその労働者はその指示に従わなければならない(29条)。また建設業や造船業では以前から作業間の連絡調整などが義務づけられていたが(30条)、2005年改正によりその他の製造業においても「元方事業主は、その労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われることによって生ずる労働災害を防止するため、作業間の連絡及び調整を行うことに関する措置その他必要な措置を講じなければならな」くなった(30条の2)。もちろん、法の建前上、労働安全衛生法が請負に要求する「指示」と労働者派遣法が請負に禁止する「指示」は別ものである。構内下請を受け入れている元方企業は、業務遂行方法や秩序維持に関わることであっても安全衛生に関わる限り法が求める適切な指示をしなければならず、安全衛生事項でない限り一切指示をしてはならない。両者は観念的には区別しうるはずである。とはいえ、現実の作業現場において両者を明確に区別して指示と不指示を使い分けることは相当程度に困難を伴うと予想できる。特に製造業のように危険有害業務が多い職場にあっては、請負人の労働者の行為のかなりの部分が直接間接に安全衛生に関わりうるからである。この意味において、上記区分基準の「指示」の有無に関わる部分について過度に厳密に解釈することは問題がある。従来から存在するいわゆる協力会社の社外工については、個々に指示があったからといって直ちに偽装請負と考えるべきではない。
 これに対し、本件では個々の指示が安全衛生法上必要なものか否かを論じうるような水準を超え、Aの従業員は全くあるいはほとんど指示をしておらず、もっぱらあるいはほとんどYの従業員の指示のもとに作業していることが認定されているので、契約形式通り業務委託ないし請負と判断することは困難であろう。
 なお、本判決は業務委託の形式をとった労働者供給契約であると判断しており、この場合の法的根拠は職業安定法施行規則4条となるが、「たとえその契約の形式が請負契約であっても」「作業に従事する労働者を、指揮監督するもの」でない限り「労働者供給の事業を行う者とする」と規定しており、基本的には同じ枠組みである。
 以上を前提として、労働者供給と労働者派遣の概念区分の議論に入ることができる。
(2) 現行法における「労働者供給」と「労働者派遣」の概念
 職業安定法における「労働者供給」の定義と、労働者派遣法における「労働者派遣」の定義は、判旨1(1)の冒頭部分にあるとおりであるが、この定義をもって直ちにそれに続く議論を展開することは実はできない。なぜならば、職業安定法が原則禁止しているのは「労働者供給」という行為ではなく「労働者供給事業」という事業形態であり、労働者派遣法が規制をしているのは「労働者派遣」という行為ではなく「労働者派遣事業」という事業形態だからである。職業安定法上「労働者供給事業」の定義規定はないが、労働者派遣法上は「労働者派遣」の定義規定とは別に「労働者派遣事業」の定義規定がある。「労働者派遣事業」とは「労働者派遣を業として行うこと」をいう(2条3号)のであるから、業として行うのではない労働者派遣は労働者派遣法上原則として規制されていないことになる。
 もっとも、さらに厳密にいうと、労働者派遣法上「派遣元事業主」や「派遣先」を対象とする規定は労働者派遣事業のみに関わるものであるが、「労働者派遣をする事業主」や「労働者派遣の役務の提供を受ける者」を対象とする規定は業として行うのではない労働者派遣にも適用される。労働者派遣法上、この二つの概念は明確に区別されており、混同することは許されない。
 職業安定法上、「労働者供給事業」ではない「労働者供給」を明示的に対象とした規定は存在しないが、44条で原則として禁止され、45条で労働組合のみに認められているのは「労働者供給事業」であって「労働者供給」ではない。これを前提として、出向は「労働者供給」に該当するが「労働者供給事業」には該当しないので規制の対象とはならないという行政解釈がされており、一般に受け入れられている。
 以上を前提とすると、職業安定法4条6号と労働者派遣法2条1号の規定によって相互補完的に定義されているのは「労働者供給」と「労働者派遣」であって、「労働者供給事業」と「労働者派遣事業」ではない。経緯的には従来の「労働者供給」概念の中から「労働者派遣」概念を取り出し、それ以外の部分を改めて「労働者供給」と定義したという形なので、その限りでは「労働者派遣」でなければ「労働者供給」に当たるといえるが、ここでいう「労働者派遣」「労働者供給」はあくまでも価値中立的な行為概念であり、それ自体に合法違法を論ずる余地はない。「違法な労働者派遣」という概念はあり得ない。あり得るのは「違法な労働者派遣事業」だけである。そして、「労働者派遣事業」は「労働者派遣」の部分集合であるから、「違法な労働者派遣事業」も「労働者派遣」であることに変わりはない。
 本判決は、「労働者派遣法に適合する労働者派遣であることを何ら具体的に主張立証するものでない」ゆえに「労働者供給契約というべき」と論じているが、ここには概念の混乱がある。労働者派遣法による労働者派遣事業の規制に適合しない労働者派遣事業であっても、それが「労働者派遣」の上述の2条1号の定義に該当すれば当然「労働者派遣」なのであり、したがって両概念の補完性からして「労働者供給」ではあり得ない。「労働者供給事業」は「労働者供給」の部分集合であるから、「違法な労働者派遣事業」が「労働者供給事業」になることはあり得ない。
(3) 労働者派遣法における業務限定の意義
 もちろん、職業安定法に違反する労働者供給事業でないとしても、労働者派遣法に違反する労働者派遣事業はすべて「強度の違法性を有し、公の秩序に反するもの」として無効であるという立論もあり得ないわけではない。しかしながら、現行労働者派遣法に規定する違反に対する罰則や行政措置からして、そこまでの結論を導くことは困難であろう。むしろ事業性の有無を問わず、「公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的」の「労働者派遣」(58条)こそが公序に反するものとして無効とするにふさわしい。労働者派遣法上のいかなる違反を契約の無効とすべきかは個別条項ごとに判断されるべきであるが、本判決においてはY・A間の契約を、当時の労働者派遣法上の業務限定(製造業への派遣・受入れの禁止)の規定に違反する脱法的な労働者供給契約であるなどとし、業務限定(製造業への派遣・受入の禁止)を公序に反するものとして無効としているので、労働者派遣法における業務限定の意義について検討する。
 同法における業務限定は、おおむね1985年法におけるポジティブリストシステム、1999年改正におけるネガティブリストシステム(製造業の特例)、2003年改正による製造業の追加という3段階を経ている。本件は第2段階から第3段階にかけて起こっている。
 第1段階のポジティブリストシステムとは、正確にはネガティブリストシステムとポジティブリストシステムの組み合わせであった。「その業務の実施の適正を確保するためには業として行う労働者派遣により派遣労働者に従事させることができるようにすることが適当でないと認められる業務」(いわゆるネガティブリスト業務)である港湾運送業務、建設業務等の派遣は、業務の性格に基づく禁止であるからより公序違反の性格が強いのに対し、業務の性格上は労働者派遣が不適当とはいえないその他の業務のうち「労働力の需要及び供給の迅速かつ的確な結合を図るためには、労働者派遣により派遣労働者に従事させることができるようにする必要がある」業務(いわゆるポジティブリスト業務)は、労働市場政策における政策的配慮に基づき指定されるものであって、ネガティブリスト業務ではないがポジティブリストには含まれない業務の派遣は公序違反とはいいがたい。
 さらに細かくいえば、当時のポジティブリスト業務の判断基準として「その業務を迅速かつ的確に遂行するために専門的な知識、技術又は経験を必要とする業務」「その業務に従事する労働者について、就業形態、雇用形態等の特殊性により、特別の雇用管理を行う必要があると認められる業務」が挙げられていたが、実際には前者に該当する業務として「ファイリング」が指定されており、これは事実上一般事務として利用されていた。この背景には、労働者派遣法の運用上の配慮として規定されている「労働者の職業生活の全期間にわたるその能力の有効な発揮及びその雇用の安定に資すると認められる雇用慣行」(25条)への配慮が、実際には男性正規労働者の常用代替のおそれには敏感であっても、一般事務に従事する女性正規労働者の常用代替には鈍感であったことが考えられる。いずれにせよ、ポジティブリストとはこのような「政策的配慮」に基づくものであって、公序違反という性格のものではない。
 1999年改正でこのポジティブリスト方式が廃止され、法本則上は港湾運送、建設等のネガティブリスト業務のみが禁止されることとなった。ただし、附則4項で物の製造の業務については「当分の間」労働者派遣事業が禁止された。これは、附則におかれていたことからも判るように、法本則上禁止すべき理由を明確に規定することができないものを「当分の間」の措置として暫定的に対処したものであり、旧ポジティブリストのような「政策的配慮」とすらも言いがたい。立法過程から見れば、労働組合の主たる組織基盤である製造業の常用代替により敏感であったことの痕跡であるが、公序違反を構成するようなものとはいえない。現実に、その4年後には「当分の間」の禁止が解除されて製造業への労働者派遣事業が可能となっている。その際、派遣可能期間が当初は1年、3年後に3年とされた。
 本判決は、この点について、当時の派遣可能期間(1年)に違反するなど「そもそも労働者派遣契約ないし派遣労働契約の締結に当たって遵守が求められる多くの手続規定を遵守、履践していない」ことから、「契約当初の違法、無効を引き継ぎ、公の秩序に反する」と論じているが、説得力に欠ける。
(4) 労働者供給事業自体の「強度の違法性」
 とはいえ、仮に本件契約を労働者供給と考えたとしても、そのことが直ちにその無効を帰結するわけではない。「強度の違法性」というが、そもそも職業安定法上禁止されていた労働者供給事業の中から労働者派遣事業が括り出されたのであり(正確にいえば、労働者供給事業が属する労働者供給の中から労働者派遣が括り出され、そのうち労働者供給事業に該当していたものが労働者派遣事業となった)、労働者供給事業それ自体の中に公の秩序に反して契約を無効にしなければならないほどの「強度の違法性」が普遍的にあるのであれば、その一部であれ合法化することは本来できないはずである。
 そもそも経緯的に見ても、労働者供給事業の禁止はGHQによる日本社会の民主化の一環として命じられたもので、港湾荷役や建設業に多く見られるいわゆる労働ボスの絶滅が目的であった。そのため、占領下にあっても戦前労務供給事業として許可を受けていた派出婦供給事業は有料職業紹介事業ということにして認め、占領終結後には上記職業安定法施行規則4条を改正して、多くの製造業における協力会社の社外工を労働者供給事業とは見なさないこととしたのである。現実の政策は、概念的には労働者供給事業に該当しうるものであっても実質的に違法性がないと判断されれば、このようないささか場当たり的な手段によって認めてきたのであり、さらには労働者派遣法によって立法的に解決を図ってきたのであって、たまたま労働者派遣法の立法技術上労働者派遣事業に当たらず労働者供給事業に該当するものであっても、直ちに強度の違法性があると言えるわけではない。
 なお労働基準法6条についていえば、ここで禁止されている「中間搾取」に該当するのは典型的には職業紹介、労働者募集、(雇用関係を伴わない)労働者供給であって、雇用関係を伴う労働者供給や労働者派遣は概念上これに当たらない。もちろん前者であっても許可制の下に認められている。AとX間の雇用関係を素直に認めれば中間搾取にならないものを、わざわざその存在を否定して中間搾取であるとするのはあまりにも技巧的な論理である。
 いずれにせよ、労働者供給事業であれ労働者派遣事業であれ、ある部分が無効とすべき「強度の違法性」を有していることは否定できないが、一般的に(労働者派遣事業が抜き取られた)労働者供給事業であるが故に直ちに強度の違法性を有し無効となるという論理は成り立ち得ないと考えられる。
2 黙示の雇用契約論について
 本判決の核心は、1の労働者供給契約の無効論に基づき、「無効である前記各契約にもかかわらず継続したX・Y間の上記実体関係を法的に根拠づけ得るのは、両者の使用従属関係、賃金支払関係、労務提供関係等の関係から客観的に推認されるX・Y間の労働契約のほかな」いとした点にある。
(1) 黙示の雇用契約が成立する可能性
 本判決が黙示の雇用契約の成立の前提として労働者供給契約の無効を必要としたのは、X・A間とX・Y間に同時に雇用契約が存在することはあり得ないと考えたからであろう。しかしながら、上記「労働者派遣」の定義からして、「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させ」るものでありつつ、「当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするもの」はありうる。この自己の雇用する労働者を他人に雇用させるものは労働者供給(の一種)であって、ここでは二重雇用契約の存在が当然の前提とされている(2003年改正により、この一部(紹介予定派遣)が労働者供給から労働者派遣に位置づけられた。)。このように二重雇用契約自体は法的に十分可能であり、問題は本件において派遣先との黙示の雇用契約が認められるか否かである。
 ここで重要な点は、本判決が黙示の雇用契約成立の判断指標とする「事実上の使用従属関係、労務提供関係、賃金支払関係があるかどうか」は、労働者派遣においては雇用関係のない労働者と派遣先の間に本来存在するものであるから、それをもって判断指標とすることができないということである。黙示の雇用契約が成立するためには、黙示であっても「当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約」することに相当する行為が必要となる。労働者派遣法上「労働者派遣の役務の提供を受けようとする者」が「労働者派遣契約の締結に際し、当該労働者派遣契約に基づく労働者派遣に係る派遣労働者を特定することを目的とする行為」(26条7項)は禁止の努力義務であるが、派遣元・派遣先が講ずべき措置に関する指針では禁止されている。その趣旨は事前面接を行えば派遣先と派遣労働者の間に雇用関係が成立すると判断される蓋然性が高くなり、労働者供給に該当するおそれが高いからであると説明されている。これは単なる事業規制上の禁止事項ではなく、「労働者派遣」の定義に関わる問題である。禁止に違反したが故に労働者供給事業になるという論理ではなく、定義上労働者供給になる危険性が高いが故に禁止しているのであり、その場合の法律関係は二重雇用契約となろう。
 そこで、本件において仮に就労開始前にXがYの事前面接を受け、YがXの「利用」を決定していたというような事実関係があれば、二重雇用契約が成立したと判断される可能性が高くなると考えられる。しかしながら、本判決においてはそのような事実は認定されておらず、二重雇用契約の成立を認めるのは困難と思われる。
(2) 黙示の雇用契約を認めた過去の裁判例について
 ここで、本件と類似の事案において黙示の雇用契約を認めた過去の裁判例を見ておく。
①新甲南鋼材工業事件(神戸地判昭47.8.1労判161号30頁)
②近畿放送事件(京都地判昭51.5.10労判252号16頁)
③青森放送事件(青森地判昭53.2.14労判292号24頁)
④サガテレビ事件(佐賀地判昭55.9.5 労判352号62頁)(控訴審(福岡高判昭58.6.7労判410号29頁)で逆転)
⑤センエイ事件(佐賀地武雄支決平9.3.28 労判719号38頁)
⑥安田病院事件(大阪高判平10.2.18 労判744号63頁)(最判平10.9.8 労判745号7頁)
⑦ナブテスコ(ナブコ西神工場)事件(神戸地明石支判平17.7.22)
 これらのうち、初期の裁判例には供給先への労務提供の事実から直ちに黙示の雇用契約締結の意思の合致を認め、供給先を「使用者」と認定したものも見られる(①、②、③)が、その後はさらに黙示の雇用契約締結の意思の合致を認めるに足る事情を要求する裁判例が多い。④では職業安定法第44条違反に着目して判断しており、本判決と共通するが、この点が控訴審で逆転しており、現在有効な裁判例とはいいがたい。
 労働者派遣法が制定され、「労働者派遣」が実定法上の概念となった後は、「使用者と労働者の間に事実上の使用従属関係が存在していたとしても、このことから直ちに両者の間に雇用契約関係が成立していると解すべきものでな」いとして、「相当強度の指揮命令関係」を認定しつつも「黙示の労働契約が成立していたということは未だできない」と判断したテレビ東京事件(東京地判平元.11.28労判552号39頁)がリーディングケースとなり、黙示の雇用契約の成立を認めたものは少ない。その中で例外的に認めた事案のうち、最高裁の判例である⑥はやや特殊で、患者と付添婦の間の雇傭契約という契約形式を認めた地裁の判断を、高裁が病院との間の黙示の雇用契約を認めて取り消したものであるが、労働基準法の適用されない家事使用人の雇傭契約であったことが影響しているように思われる。一方、⑤⑦はいずれも指揮命令を受けて労務に従事するという事実から直ちに黙示の雇用契約の成立を導いており、本判決と同様問題があると思われる。
3 その他の諸問題について
 以上、本判決の主たる論点について労働者派遣法の法構造に基づいて批判してきた。本判決がこのような無理な論理構成をとらざるを得なかったのは、現行法上労働者派遣法に基づく雇用契約2の成立を認めたり、雇用契約3における期間の定めを否定することができず、これらに基づいて解雇や雇止めの無効を導くことが不可能と考えたからであろう。雇用契約2,3についてXの主張を認めるためには、派遣期間経過後の派遣先常用雇用見なしや有期雇用契約の無期転換といった実定法上の根拠が必要となる。日本にはかかる法制はなく、立法論的課題といわざるを得ない。原審は素直にそれを認めた上で、リペア作業を命じた点についてのみ不法行為の成立を認めた。しかしながら、これは本件の全体構造からするといかにも局部的な問題に過ぎず、隔靴掻痒の感を与えるであろう。
 一つの解決の方向として、Xが労働者派遣法違反を訴えたことを実質的な理由として最終的に雇止めに至る雇用関係上の行為をとったことを全体として不法行為ととらえ、損害賠償を認める可能性があるのではないか。公益通報者保護法においては、公益通報した直用労働者の解雇を無効とするとともに、派遣労働者が公益通報したことを理由とする派遣契約の解除を無効としており(4条)、やや位相は異なるとはいえ、本件に応用することも考えられる。  

 

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