二極化の神話 またはおっさんずジョブの衰退とねえちゃんずジョブの興隆
ソーシャル・ヨーロッパにゲルマン・ベンダー氏が「The myth of job polarisation may fuel populism」(二極化の神話がポピュリズムを掻き立てる)という短い文を寄稿しているんですが、これが大変面白い。
https://www.socialeurope.eu/the-myth-of-job-polarisation-may-fuel-populism
21世紀になってから流行し、ほとんど常識化している労働市場の二極化、ってのは実は現実の姿では無くて神話に過ぎないという話と、それがアカデミズムだけじゃなくて一般社会に大きな影響を及ぼしたために、ポピュリズムがはやってしまった、という批判なんですが、まずその二極化が神話だという話。
何が「神話」だと言っているかというと、低技能労働者と高技能労働者が増えて中間層が減っていくという認識が間違っていると言うんです。
その間違いは、経済学者がそそっかしくも賃金を技能の指標にするからであると。
確かに低賃金が増えて、中賃金が減っているけれども、それは彼らの技能水準を反映していない。
Professions with relatively low skill demands but relatively high wages—such as factory and warehouse workers, postal staff and truck drivers—have diminished. Meanwhile, others with the same or slightly higher skill demands but lower wages—nursing assistants, personal-care workers, cooks and kindergarten teachers—have increased.
減っている中賃金労働者は工場労働者やトラックドライバーみたいなおっさんずジョブで、増えている低賃金労働者は看護、介護、調理、保育といったねえちゃんずジョブなんだが、実のところ、前者の技能水準は高めの賃金に比べてそんなに高くないのに対し、後者の技能水準は低めの賃金に比べるとかなり高いんだと。
つまりベンダー氏の言いたいことは、労働市場は賃金で見ると二極化しているけれども、技能水準で見れば決して二極化なんかしていない。
Put simply: wages are a problematic way to measure skills, since they clearly reflect the discrimination toward women prevalent in most, if not all, labour markets across the world.
技能水準の高いねえちゃんずジョブが低い賃金に甘んじているのは女性差別の残存のためではないか。それを間違えて二極化だの、中間層の空洞化だのというものだから、勘違いしたおっさんたちが右翼ポピュリズムに走るんだ、と、まあやや単純化すると、そういう議論を展開しています。
The very notion of job polarisation can bolster an outdated view in which ‘female jobs’ are lower in status (and wage) than their male equivalents in terms of skills. Since the polarisation theory is gender-blind and only takes wages into account, the replacement of industry and transport jobs by occupations in health and childcare is understood as a hollowing out of the middle class and a reduction of medium-skilled jobs. This may fuel the populist and anti-feminist attitudes held by many men with lower education levels, who constitute a large share of the radical right’s voters, and who might feel threatened by a perceived loss of status and privilege.
これはいうまでもなく、賃金がジョブで決まる欧米社会を前提に、そのジョブごとの賃金が性的偏見で歪んでいるんだという話なので、そもそも賃金がジョブなんぞで決まらない日本ではそのまま当てはまらない議論ではあるんですが、賃金の二極化が技能水準の二極化ではなく、技能水準と乖離した賃金の在り方の問題だという点では共通しているのかも知れません。
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