ラスカルさんの澤路ら著への感想に若干のコメント
ラスカルさんが恒例の「今年の10冊」で、朝日新聞の澤路記者らによる『ドキュメント「働き方改革」』(旬報社)を選んでこうコメントされているのですが、
http://traindusoir.hatenablog.jp/entry/2019/12/05/今年の10冊
正に同時代史だが、知らなかった事実を適当に解釈していた点が修正された、という意味で読んでおいて良かった。官邸と経団連のパイプは強く、(少なくとも表面的には)厚労省と連合は最後まで翻弄され続けたことが覗える。経団連の動きは、あまり見えない。登場していない人物がどう動いたのか等、物自体のように心に残る。
私には若干異なる印象があります。今の安倍政権の前半期、2013年から2015年までであれば、まさにそういう感じだったでしょうが、2016年以後のまさに働き方改革に舵を切って以後は、経団連の方も(あるはずの、そしてそれまでは現に機能していた)強いパイプがあまり機能せず、厚労省や連合と同じように「翻弄され続けた」のではないでしょうか。いやむしろ、政治的配置からすると自民党政権の与党的立場にあるとみられていることから却って言いたいことも言えずに我慢していた風情すら感じられました。
(参考)
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2019/05/post-972ff9.html
正直、私もいろんな局面でいささかの関わりもあった人々が続々と出てくるので、読みながらなにがしか心揺れるところもあったりするわけですが、やはりなんといっても、冒頭近くの、キャピトルホテル東急で、水町勇一郎さんが加藤勝信一億総活躍担当相にレクチャーするところが、「ああ、ここが水町さんとの分かれ目だったんだなあ」という思いを沸き立たせます。賃金制度が全然違っても、日本でも同一労働同一賃金が可能だという水町理論は、はっきり言って労働法学的にはいかがなものかと思いますが、少なくとも政治的メッセージとしては、求められるものであったんだなあ、と思います。空気を読まず、何を期待されているかもわきまえず、そういうことを言わない人間はお呼びではないわけです。
まあでも、その結果として、それをなんと呼ぶかは別として、既存の断片的且つ不整合な雇用形態に係る均等・均衡待遇法制が、かなり一貫した且つ促進的な性格を強めた形に大きく改良されることになったのは確かなので、少なくとも立法学的には重要な役割を果たしたことは間違いありません。皮肉ではなく、正直にそう思っています。
そういう意味では、本書全体にわたって、「政治って何だろう」「学者って何だろう」「政治という土俵で意味のある行動とは何だろう」という問いが繰り返し湧き上がってくるのも確かです。いろいろとは思いはありますが、でも、それに的確に答えるためには、まだまだ硝煙立ちこめる今ではなく、10年後、20年後、30年後から振り返ってみることが必要なのかも知れません。・・・・
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