ユダヤ教超正統派のベーシックインカム@ユヴァル・ノア・ハラリ『21Lessons』
ユヴァル・ノア・ハラリ『21Lessons』を読んでいると、第2章の雇用のところでちょっと面白い記述に出会いました、この章は例によって「あなたが大人になったときは仕事がないかもしれない」という雇用消滅論をめぐってのエッセイですが、そこから例によってベーシックインカムの話にいった挙句に、さすがイスラエルの学者らしく、ユダヤ教超正統派の話が出てきます。あの独特の姿の人々は、エルサレムでもアントワープでもよく見ましたが、こういう観点からの文章は初めて見ました。
・・・最低所得保障が本当に目標を達成するためには、スポーツから宗教まで、何かしらの有意義な営みで補わなければならない。ポスト・ワーク世界で満足した人生を送る実験が、これまで最も大きな成功を収めているのはイスラエルかもしれない。この国では、ユダヤ教超正統派の男性の約半分が一生働かない。彼らは聖典を読み、宗教的儀式を執り行うことに人生を捧げる。彼らと家族が飢えずに済むのは、一つには妻たちが働いているからで、一つには政府がかなりの補助金や無料のサービスを提供し、基本的な生活必需品に困らないようにするからだ。。つまり、最低所得保障という言葉が登場する前から、それが実践されていたわけだ。
これらのユダヤ教超正統派の男性は貧しく、職に就いていないものの、どの調査でもイスラエル社会の他のどんな区分の人よりも高い水準の生活満足度を報告する。これは彼らが属するコミュニティの絆の強さのおかげであるとともに、聖典を学び、儀式を執り行うことに彼らが深い意味を見出しているおかげでもある。・・・
非宗教的なイスラエル人はしばしば苦々しげに不平を言う。ユダヤ教超正統派は社会に十分貢献しておらず、他の人々が汗水たらして働いているのに、その脛を齧っている、と。非宗教的なイスラエル人はまた、ユダヤ教超正統派の暮らしは維持していかれない、特に、彼らの家庭には平均で7人子供がいるから、ともいう。遅かれ早かれ、国は職に就いていない人をそこまで大勢支えられなくなり、ユダヤ教超正統派も働きに出なくてはならなくなるだろう。とはいえ、それとは正反対のことが起こるかもしれない。ロボットとAIが人間を雇用市場から押しのけていくにつれ、ユダヤ教超正統派は過去の化石ではなく将来のモデルとみなされるようになる可能性があるのだ。誰もがユダヤ教超正統派になって、イェシバに行くというわけではない。だが、すべての人の人生で、意味とコミュニケーションの探求が、仕事の探求の影を薄くさせるかもしれないということだ。・・・・
日本でも流行っているAIだからBI論の方々は、まずはユダヤ教超正統派の生き方をじっくりと研究してみるといいのかもしれません。
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