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2019年12月

2019年12月31日 (火)

和田肇他編著『日韓比較労働法3 韓国労働法の展開』

488203 大みそかの日、和田肇・脇田滋・宋剛直・盧尙憲編著『日韓比較労働法3 韓国労働法の展開』(旬報社)をお送りいただきました。

http://www.junposha.com/book/b488203.html

 2010年4月から始まった日韓労働法フォーラムは、
日韓の労働法研究者がそれぞれ自国での労働法の発展に寄与するために刺激を与えあう貴重な機会です。
第1~6回までの記録は『日韓比較労働法1、2』として2014年に刊行。
2019年11月の新刊では、第7~12回のなかから韓国の報告に焦点を当て、
『日韓比較労働法3―韓国労働法の展開』としました。
大きな労働法改革が進められた韓国の立法経過や議論の内容、
最賃の引き上げや労働時間規制のあり方、労働者派遣法の改正は、日本にとっても示唆に富むものとなっています。

ということで、以下の通り、労働法の各分野にわたって取り上げられています。

はじめに
第1章 朴政権下の労働市場改革と労働法の課題
第2章 文政権下の労働法改革
第3章 雇用平等法の現状と課題
第4章 労働者派遣法の分析
第5章 労働時間規制の現状と課題
第6章 個別労働紛争の解決 

ぱく・くね政権からむん・じぇいん政権に至るこの数年間は、日本における韓国報道はほとんどすべて歴史問題にかかわる政治対立の話題に集中し、逆に労働問題をはじめとする社会問題に関する報道はよほどその気になって探さないとなかなか目に入ってこない状態になっているので、こういう形でまとまって読めるのはありがたいことです。

ただ、このフォーラムの主催者側のスタンスもあり、どうしてもぱく前大統領の政策に批判的で、むん現大統領の政策に同調的な傾向が強いですが、たとえば以前『季刊労働法』に載ったい・じょんさんの論文にあるように、ぱく政権下の労働法改革にはそれなりの現状認識と改革方針があるわけで、両方から照らし合わせて読む必要があるとは思います。

 

2019年12月30日 (月)

2020年、5つのキーワード@『先見労務管理』2020年1月10日号

Senken 大みそかの前日になって、『先見労務管理』2020年1月10日号 が届きました。毎年恒例の「5つのキーワード」も、私は2014年以来寄稿していて、今回で7年目になります。

今年のお題は「副業・兼業」です。

 ここ2年余りにわたって、政府は副業・兼業の推進に大変前のめりの姿勢を示し、労働社会保険制度やとりわけ労働時間通算制度の見直しを進めている。今回は、この動きがどうして始まったのか、制度の見直しの方向性はどうなのか、そしてそもそもこの問題をどう考えるべきなのか、といった諸点について、包括的に概観したい。 
1 働き方改革から厚労省の検討へ 
2 副業・兼業の実態 
3 労働時間法制の見直し 
4 労災保険制度の見直し
5 雇用保険制度の見直し 
6 EUの近年の動向

ちなみに、他のお題とその執筆者は以下の通りです。

キーワード② 過労死等防止対策 岩城穣

キーワード③ 賃金請求権の消滅時効 片山雅也

キーワード④ ハラスメント 金子雅臣

キーワード⑤ 被用者保険の適用拡大 平田未緒

これねえ、年末に刊行する雑誌に書こうとすると、執筆時期からしてなかなか審議会等での最終結論を盛り込むのが難しいのですね。私の文中にも、労災保険の見直しのところで、「本校執筆時点(12月10日)でほぼ複数就業先の業務上の負荷を総合評価して労災認定する方向でまとまりつつあるようである」となんとか書きましたが。

とりわけ賃金請求権の消滅時効なんて、先日ブログにも書いたとおり、ようやく当面3年という結論で決着したのはつい5日まえのクリスマス当日でしたし。でもさすが片山弁護士、最後の節で「ここからは私見に過ぎないが」と断りつつ、「まずは3年で落ち着くのではないかと考えている」と予想しています。

 

 

 

2019年12月27日 (金)

賃金請求権消滅時効3年の語られざる理由

恐らく本日の労政審労働条件分科会で、懸案になっていた賃金請求権の消滅時効をどうするかに一応の決着がつく見込みですが、今までの2年と、改正民法の5年の間を取って3年という数字に批判が集まっているようです。

一昨日の公益委員見解では、

https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000580253.pdf

しかしながら、 そもそも今回の 民法一部改正法 によ り 短期消滅時効が廃止されたことが 労基法上の消滅時効期間等の 在 り方を検討する契機であり、また、 退職後に未払賃金を請求する労働者の権利保護の必要性等も 総合的に 勘案 すると 、

・ 賃金請求権の消滅時効期間は 、 民法一部改正法 による使用人の給料を含めた短期消滅時効廃止後の契約上の債権 の消滅時効期間 とのバランスも踏まえ 、5年とする
・ 起算点は、現行の労基法の解釈 ・ 運用を踏襲 するため 、客観的起算点を維持し、これを労基法上明記する

こととすべきである。
ただし、賃金請求権について直ち に長期間の消滅時効期間を定めることは、 労使の 権利関係を不安定 化 するおそれがあり 、 紛争の 早期解決・ 未然防止という賃金請求権の消滅時効が果たす役割への影響等も 踏まえて慎重に検討する必要がある 。このため、当分の間、 現行の 労基法第 109 条に規定する記録の保存期間に合わせて3年間 の消滅時効期間 とすることで、企業の記録保存に係る負担を増加させることなく、未払賃金等に係る一定の労働者保護を図る べきである。そして、改正法施行後 、 労働者の権利保護の必要性 を踏まえつつ、 賃金請求権の消滅時効が果たす役割への影響等 を検証 し、 6の 検討規定も踏まえて必要な検討を行うべきである 。 

原則は5年だけど、記録保存期間に合わせて当面3年としていますが、そんなん関係ねえだろ、という声もあるようです。

でも、実はこの問題、本来的な賃金不払いというか、払わないときからそれが違反だとわかって払わなかった話が中心ではなく、その時には(管理監督者だからとか、固定残業制だからとか)なにがしか残業代を払わないことが正当だと使用者側が考える理由があって払っていなかったことが、(多くの場合、当の労働者が辞めた後で)昔に遡って不払いの残業代を払えと言ってくるというケースが大部分なわけです。

もちろん、超越論的鳥瞰的な観点からは、いかなる状況であったとしても正しく適用されるべき法令が正しいのであって、当事者どう思っていたかによって左右されるべきものではありませんが、とはいえとりわけこの手の事案に係る使用者側からすると、この手の過去に遡った残業代請求というのは、その時にはなんの文句も言わなかったくせに、後出しじゃんけんで不意打ちしてきやがって、と見えてしまうのもまた事実なんですね。現象学的な意味での「生きられたいま・ここの職場関係」の実感からすると、勝手に法律を変えられて過去に遡及されてしまったという風に見えてしまう。実はその落差が、この問題の最大のネックなんだと思うわけです。

で、2年と5年の間で適当に3年という数字を持ってきて、記録保存期間とか理屈を付けていると、とりわけ法律に詳しいクラスタからすると見える今回の問題も、そういう現象学的な観点を踏まえて見ると、また違った様相が見えてくるのではないでしょうか。

 

2019年12月26日 (木)

君和田伸仁『労働法実務 労働者側の実践知』

L24328 君和田伸仁『労働法実務 労働者側の実践知』 (有斐閣)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641243286

第一線で活躍中の弁護士が,その実務を支える技を網羅的に披露。受任の判断,解決手段の選択,各種書面の書き方,尋問のコツ,証拠集めの視点等々,労働者側弁護士として押さえるべきポイントがわかる。重要裁判例の紹介も充実。労働法実務初心者の必読書

いや、これはまさにタイトル通り「実践知」の本ですね。

とりわけ前半の解決手段の選択と実践的な対応のパートは、法廷でどういうやり方をするのがいいのかといった、あまり本には書かれていない、まさにOJTで学ぶようなことがてんこ盛りに書かれています。

 

私立学校の勘違い

淑徳中学校・高校の吹奏楽部顧問の男性教諭の過労自殺をめぐって、そもそも36協定を締結していないという記事がありましたが、

https://www.asahi.com/articles/ASMDM5QVVMDMULFA02T.html(吹奏楽顧問の自殺、「学校が労基法違反」と遺族らが訴え)

淑徳中学校・高校(東京)の吹奏楽部顧問だった男性教諭(当時32)が9月に自殺したことを受け、学校が労働基準法に違反していると、男性の遺族や同僚の教員が池袋労働基準監督署に申告した。残業に必要な労使協定(36協定)を学校が結ばず、残業代も払っていないとして改善命令などを求めている。・・・

これ、この学校だけじゃなく、多くの私立学校に共通していることだと思われますが、なまじ学校の大多数を占める公立学校が(原則的には労働基準法が適用されているにもかかわらず)地方公務員法と給特法によって労働時間規制が大部分外されてしまっているために、そういう法律はまったく適用されておらず、労働基準法が100%フルにそのまま適用されている私立学校の人々が、あたかも自分たちも公立学校と同じようなことをやっててもいいかの如き勘違いに陥っていることが多いのではないでしょうか。

会見した遺族代理人の川人博弁護士は、労災申請の前に労基署に申告した理由について「これほど大規模の職場で36協定がないというのは聞いたことがない。違法状態は放置できない。速やかに是正を求めるためだ」と説明した。・・・ 

いやまあ、民間企業であればまさにそうですが、恐らく大規模私立学校は勝手に脳内公立学校化してしまっていて、脳内給特法でやっているから脳内適法状態なんでしょうね。

れっきとした民間被用者であるにもかかわらず、まるで公務員であるかのように私立学校共済などをつくって、健康保険や厚生年金から外れているのを当たり前だと思ったり、そもそも法律上適用されている雇用保険に入りたがらなかったりと、脳内公立学校化の一帰結というべきかも知れません。

(参考)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2019/09/post-a7f5c7.html (公立学校教員への労働基準法適用問題について)

2019年12月25日 (水)

『日本労働研究雑誌』2020年1月号

714_01 『日本労働研究雑誌』2020年1月号は、なんと二つも特集があります。一つは今はやりの行動経済学、もう一つはこれもそれ以上に大流行のAIです。凄いね、流行の最先端二連発じゃない。

https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2020/01/index.html

特集1:行動経済学と労働研究
提言 労働研究における行動経済学の有効性 大竹文雄(大阪大学大学院教授)
解題 行動経済学と労働研究 特集委員会
論文 行動経済学が労働研究に与えうる影響 森知晴(立命館大学准教授)
行動経済学から読み解く長時間労働 黒川博文(兵庫県立大学講師)
行動科学の視点から見た行動経済学 亀田達也(東京大学大学院教授)

特集2:AIは働き方をどのように変えるのか
解題 AIは働き方をどのように変えるのか 編集委員会
講演 機械と協働する作法 原有希(日立製作所主任研究員)
ケアワークを担うAI 貞松成(global bridge HOLDINGS 代表取締役CEO)
座談会 AIは働き方をどのように変えるのか
池田心豪(JILPT主任研究員)(司会)
貞松成(global bridge HOLDINGS 代表取締役CEO)
中原淳(立教大学教授)
原有希(日立製作所主任研究員)
山本陽大(JILPT主任研究員)

この中ではやはり、最後のAIの座談会がとても刺激的で面白いですね。面白い論点がいっぱいあるので、これは是非中身を読んでください。

あと、書評欄にわたしの関心分野の本が取り上げられています。

書評 井川志郎 著『EU経済統合における労働法の課題─国際的経済活動の自由との相克とその調整』石田信平(専修大学法科大学院教授) 

 

 

『ビジネス・レーバー・トレンド』2020年1・2月号

202001_02 『ビジネス・レーバー・トレンド』2020年1・2月号の特集は、今年9月の労働政策フォーラム「労働時間・働き方の日独比較」です。

https://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2020/01_02/index.html

労働政策フォーラム 労働時間・働き方の日独比較
【問題提起】誤解の多い働き方改革――残業依存体質の解消が鍵
佐藤 博樹 中央大学大学院戦略経営研究科 教授
【特別報告】ドイツにおける労働&福祉政策実施の現状――「良き労働」プログラムとその実現
Franz Josef Duwell コンスタンツ大学 名誉教授
【研究報告】「働きすぎ」に関わる今日的課題――残業削減とともに考えるべきこと
高見 具広 JILPT副主任研究員
【パネル討論】日独の働き方の比較
パネリスト藤曲 亜樹子 日本ユニシス株式会社 組織開発部 部長 佐藤 雅訓 カゴメ株式会社 人事部長 須田 修弘 BASFジャパン株式会社 代表取締役副社長コーディネーター佐藤 博樹 中央大学大学院戦略経営研究科 教授
【総括討論】
パネリストFranz Josef Duwell コンスタンツ大学 名誉教授
Martin Pohl 駐日ドイツ連邦共和国大使館 厚生労働参事官
濱口 桂一郎 JILPT 研究所長
高見 具広 JILPT 副主任研究員
コーディネーター佐藤 博樹 中央大学大学院戦略経営研究科 教授 

というわけで、私は最後の総括討論で一回だけ喋っております。

ほかに、ちょっと興味深い記事としては、

<連載> 働く人のモチベーション向上につながる職場環境改善の取り組み(第2回) 調査部
健康社内通貨「ARUCO」で楽しく前向きに「真の健康」を目指す  ロート製薬株式会社

というのがあります。健康社内通貨ってのは、たとえば1日8,000歩と早歩き20分を達成すると10コインが貯まり、それを同社が運営するレストランの健康食(1食1000コイン)で使用できるとかです。

 

 

国際ブータン労組が労組労供事業へ

去る9月に、JAMが在日ブータン人の労働組合を結成したというニュースを本ブログで取り上げましたが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2019/09/post-9be88a.html

Butan_20191225091501 ・・・JAMといえば、かつての全金同盟と全国金属等の中小製造業の労働組合運動というイメージですが、ここにきてこういう外国人労働者など縁辺労働者の組織化に乗り出してきました。これ、ご存じの方もいるかもしれませんが、長く連合東京でオルガナイザーとして活躍してこられた古山修さんが、今年からJAMに移られて、個人加盟のゼネラルユニオンを結成し、組織化を進めておられます。
今回の在日ブータン人労働組合も、おそらくその一環なのでしょう。JAMの挑戦が今後どのように進んでいくか目が離せません。 

その古山さんの豪腕が早速動き出しているようです。労働組合による労働者供給事業という、あまり知られていないけれども、凄くいいところに目を付けたという感じです。

https://www.rengo-news-agency.com/%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E3%83%96%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%B3%E5%8A%B4%E7%B5%84%E3%82%92%E6%94%AF%E6%8F%B4-%EF%BD%8A%EF%BD%81%EF%BD%8D%E3%81%8C%E5%8A%B4%E5%83%8D%E8%80%85%E4%BE%9B%E7%B5%A6%E4%BA%8B%E6%A5%AD%E3%82%92%E6%BA%96%E5%82%99-%E6%82%AA%E8%B3%AA%E6%A5%AD%E8%80%85%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E5%BC%8A%E5%AE%B3%E9%98%B2%E6%AD%A2%E3%81%B8/

日本で働くブータン人留学生の就労環境を改善しようと、在日ブータン人による国内初の労組が結成されてから約4カ月。「日本で就職できる」などとだまし、多額の借金を背負わせて留学生を送り出す、同国のあっせん業者(ブローカー)への対策を求めている。同労組を支援するJAMは、外国人を悪質な業者から守る試みとして、労働者供給事業を準備している。・・・

労組労供事業については、私は結構むかしから興味を持ち、『新しい労働社会』でも取り上げていましたし、いくつか関係の論文を書いたりしてきましたが、JAMが外国人労働者のために取り組むというのは新鮮でした。

 

 

公立学校教師の労働時間法制@WEB労政時報

WEB労政時報に「公立学校教師の労働時間法制」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers/login.php

 去る12月4日、公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(=給特法)の一部を改正する法律案が成立し、同月11日に公布されました。本法改正については、マスコミ等でもホットな議論が展開されましたが、結局国会での修正もなく、原案通りに可決されました。しかし、そもそもこの給特法にはいろいろと曰(いわ)く因縁があります。今回は、公立学校教師の労働時間法制をめぐる法政策の歴史を概観しておきましょう。
 医師と並んで、その長時間労働が問題となってきたのが学校教師です。もっとも、「教師」という職種のみに着目した労働時間の特例は存在しません。制度上特別扱いがあるのは公務員たる教師のみで、現在は公立学校教員のみです。一貫して民間労働者であった私立学校教員はもとより、・・・・・ 

2019年12月23日 (月)

麻野進『イマドキ部下のトリセツ』

9784827212075 麻野進さんより『イマドキ部下のトリセツ』(ぱる出版)をお送りいただきました。

http://pal-pub.jp/?p=5372

 うっかり注意したら出社拒否、下手なフィードバックをしたらSNSで大炎上など、イマドキ部下でしくじらないための本。上手に仕事をさせるには「部下の変化を可視化する」KPI評価のしくみを導入する。やる気を出させるには「キャリア・コーチング(=面談力)」が有効。イマドキ部下を“踊らせる”には【仮想通貨インセンティブ】のしくみを導入するなど、人を動かす【人事のプロ】が教える、【部下を動かすしくみづくり】の教科書。あくまで基本はコミュニケーションをとることだが、それだけではなかなか動かせなくなった部下を、より確実に動かすための【しくみ】を解説。

イマドキ部下というから、最近のゆとり世代のことかと思ったら必ずしもさにあらず。

まえがき 若い世代が求める上司像が変わってきている!
第1章 イマドキのゆとり世代の特徴とトリセツ
第2章 ロスジェネ“あきらめ”世代のトリセツ
第3章 バブル世代“部下”のトリセツ
第4章 イマドキ部下を上手にあしらう人事評価マネジメント
第5章 イマドキ部下が自ら動き出すキャリア・コーチング
第6章 ストーリーでわかる「企業通貨インセンティブ導入法」 キャッシュレス世代のやる気がどんどん高まる「社内ポイント付与の仕組み」の作り方!

ロスジェネ”あきらめ”世代や、バブル世代まで出てきます。いやあもはやイマドキでもなければ若くもないれっきとした中年世代ですが、そういうのも含めたイマドキの部下の取扱説明書というわけです。

 

 

勝田吉彰『「途上国」進出の処方箋』

41sdjw959bl_sx351_bo1204203200_ 経団連出版の讃井暢子さんより勝田吉彰『「途上国」進出の処方箋 ―医療、メンタルヘルス・感染症対策』 をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

https://www.keidanren-jigyoservice.or.jp/public/book/index.php?mode=show&seq=560&fl=1

 「最後のフロンティア」という言葉をしばしばメディアで目にします。それは、ミャンマー、カンボジア、ラオスといったアジア後発国を指していたり、アフリカの一部だったりしますが、共通するのは、かつては日本企業の進出がきわめて少なかったものの、経済成長が進み、将来は日本人ビジネスパーソンやその家族が多く住むようになるであろうことが期待される地域や国だという点です。発展が進むなかで、現地では何が起こるのでしょうか。そうした国々に人材を送り出す企業は何を支援すべきなのでしょうか。
 本書は、外務省医務官として長年、海外生活を送るなかで現地日本人社会と向き合い、人々の暮らしを目の当たりにしてきた著者が、外務省を退官後に、軍事政権を卒業したばかりで大きな変化を遂げているミャンマーを定点観測して得られた「途上国」の実情をまとめたものです。ミャンマーは、まさに経済が飛躍に向かい始めた段階であり、「変化率の大きさ」は知見の宝庫でもありました。
 あわせて、これまで企業進出がほとんどなかった国へ事業を展開していくにあたり、現地の人々や日本の派遣元企業とのつながり、行動の仕方にとどまらず、ストレス要因とその対処法など、海外進出企業が欲するさまざまなノウハウ、情報を、発展途上国の生活者を支えてきた経験をもとに紹介します。 

日本とあまり変わらない環境で生活できる先進国と違い、途上国、それもラストフロンティアな後発国に赴任するのはリスクがいっぱいなんだなあ、と感じさせます。

でもそういうところでも、ライドシェアが着々と進出していることが、p25のコラム「タクシーは交渉制からライドシェアへ」でわかります。

 

複数就業者の労災保険

本日の労政審労災保険部会で、副業・兼業に関わる法制度見直しの一環として、まず労災保険の見直しが合意されたようです。

https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/000579347.pdf

 まず複数就業者の給付額については、被災労働者の稼得能力や遺族の被扶養利益の喪失の填補を図る観点から、非災害発生事業場の賃金額も合算することとした上で、非災害発生事業場の事業主は労働基準法上の災害補償責任を負わず、また災害発生事業場の事業主も非災害発生事業場での賃金を基礎とした給付分まで労働基準法上の災害補償責任を負うわけではないとしています。またメリット制の算定基礎は災害発生事業場のみです。通勤災害についても複数就業先の賃金を合算します。

 複数就業者の認定の基礎となる負荷については、それぞれの就業先の負荷のみでは業務と疾病等との間に因果関係が認められないものの、複数就業先での業務上の負荷を総合して評価することにより疾病等との間に因果関係が認められる場合、新たに労災保険給付の対象とします。この場合、いずれの就業先も労働基準法上の災害補償責任を負いません。また特別加入者についても同様の扱いになります。

 労働時間規制や雇用保険に比べると、これらはわりと素直に受入れられやすい内容ではありますので、来年にはこの形で法改正が行われることになるでしょう。

 部会ではこのほか雇用類似の働き方に対する対応として特別加入制度の在り方についても議論がなされましたが、報告では「対象範囲や運用方法等について、適切かつ現代に合った制度運用となるよう見直しを行う必要がある」と当面先送りしたようです。昨日のエントリで日本俳優連合の要望を紹介しましたが、来年あたり西田敏行さんらが労政審に出席して意見を述べることになるのでしょうか。マスコミが押し寄せてきそうですね。

 

 

2019年12月22日 (日)

芸能実演家の労災保険特別加入

本ブログで以前、日本俳優連合について取り上げたことがありますが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/03/post-143d.html (日本俳優連合の団体協約)

え?労働組合じゃないけど団体交渉権があって、団体協約を締結している?
そりゃ何じゃと思う人がいるかも知れませんが、実は日本国の法律では事業協同組合にも団体交渉権、団体協約締結権が認められているのです。・・・ 

この日本俳優連盟はまさにその事業協同組合として団体協約を締結しているのですね。 

その日本俳優連合が、「フリーランスの芸能実演家に労災保険を!」と、労災保険の特別加入を求めています。

https://www.nippairen.com/jaunews/post-1929.html

・・・ところが私たち俳優は、撮影や舞台上などでケガをした場合、労災が適用されることは極めて難しく、 困っておられた方を多く存じています。俳優のほとんどは「フリーランス(=個人事業主)」に分類されて いるので、労災保険の適用が難しい場合が多いのが現状です。・・・

ご承知の通り、労災保険には一人親方や家内労働者などが加入できる特別加入という制度がありますが、俳優は対象になっていません。そこで、

・・・しかし今、341万人ものフリーランスの増加と、多様化する働き方に対応し、適用業種を拡張する方 向にあります。私たちが国の労災保険を手に入れるチャンスが、今なのです。
そのためには、まず厚生労働省の実態調査に業種全体で協力して、 特定作業従事者の範囲を拡大し、 芸能実演家にも加入の途を開くことの要望をしていきたい所存です。

いろんな動きがありますね。

 

hamachanブログ2019年ランキング発表

今年も年末が近づいてきたので、恒例のhamachanブログ今年のエントリPVランキングの発表を行います。

今年の1位は、「第3号被保険者問題の経緯」でした。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2019/05/post-237e1b.html (7,528PV)

なんだか『週刊ポスト』の記事がやたらにバズっているようですが、コメントを見ていると、この問題の長い経緯がほとんど理解されていないように見えるので、本来の私の守備範囲ではないのですが、ごく簡単にまとめておきたいと思います。・・・・ 

この問題の起源は、1959年の国民年金法制定時にさかのぼります。「国民皆年金」という掛け声で作られた国民年金は、厚生年金などの被用者年金加入者以外をみんな入れるはずでしたが、その例外として被用者年金加入者の妻と学生・生徒は任意加入としました。この後者の学生・生徒は、その後20歳で強制加入に変わったことは周知のとおりです。

被用者年金加入者の妻についてはいろいろの議論の末、1985年年金改正で、国民年金の強制被保険者としつつ、その保険料は夫の加入する被用者年金全体で賄うこととしました。これが今日に至る第3号被保険者です。それまでの任意加入では自ら保険料を払わなければならなかったのが、払わなくても受給資格を得られるのですから、これこそが「婦人の年金権の確立」の切り札とされたわけです。しかし逆に言うと、これは被用者の妻を被用者の妻であるというだけで優遇する差別的取扱いでもありました。この改正が、労働法政策においては男女雇用機会均等法が立法された1985年という年に行われたという事実に、皮肉なものを感じざるを得ません。

というわけで、特に何か目新しいことを主張しているわけでもなんでもなく、この問題に詳しい人にとっては常識に近いことをただ解説しただけのエントリだったのですが、そういうちょうどいいくらいの解説マテリアルがなかったせいか、なぜかこれが年間1位になるくらい読まれてしまったようです。

第2位は「悪質クレームを許さない by UAゼンセン」でした。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2019/07/post-251998.html (7,290PV)

こちらに至っては、UAゼンセンの作成した動画を張り付けただけですが、カスタマーハラスメントを大変わかりやすく映像化したものだったためか、年間2位になるくらい見られたようです。

第3位は、これはそもそも2019年のエントリではなく、2018年のエントリなんですが、今年中ずっとじわじわ読まれていたエントリですね。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2018/11/post-dd55.html (勝谷誠彦氏死去で島田紳助暴行事件を思い出すなど、5,555PV) 

勝谷誠彦氏が死去したというニュースを見て、・・・
吉本興業で勝谷氏担当のマネージャーだった女性が島田紳助に暴行された事件の評釈をしたことがあったのを思い出しました。
これは、東大の労働判例研究会で報告はしたんですが、まあネタがネタでもあり、『ジュリスト』には載せなかったものです。
せっかくなので、追悼の気持ちを込めてお蔵出ししておきます。 

ネタがネタとはいえ、判例評釈が年を超えてまで読まれ続けるというのも興味深いことでした。

第4位の「研究時間が3割の大学教授は専門業務型裁量労働制が適用できない件について」も、中身は専門業務型裁量労働制の通達を示しただけのものですが、文部科学省の調査で、大学教授が研究に割ける時間は3割強というニュースが流れたときだったので注目されたようです。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2019/06/post-cce81a.html (4,586PV)

ネット上では、いやいや俺は3割もないとかコメントがついているようですが、いやいやほんとに研究時間が労働時間の3割、というか半分未満であれば、労働基準法第38条の3によって大学教授諸氏に適用されている専門業務型裁量労働制は本来適用できないはずなんですが、そこんとこわかった上で言ってんのかな、と。 

第5位も、これは普通バズるようなネタではないはずなんですが、船員法の労働時間規制の話がなぜか読まれました。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2016/07/11472-bfad.html (1日14時間、週72時間の「上限」@船員法、3,827PV )

先日都内某所である方にお話ししたネタですが、どうもあんまり知られていなさそうなのでこちらでも書いておきます。といっても、六法全書を開ければ誰でも目に付く規定なんですが。・・・ 

第6位になってようやく、皮肉を効かせたブログ記事らしい記事が上がってきます。標的は例によって内田樹氏です。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2019/05/post-026389.html (イエスマンを作り出したのはあなた方ではないのか?、3,286PV)

例によって、内田樹氏の壮大なブーメラン的言説をからかうエントリです。中身に新しいことは一つもなく、すべて過去のエントリに尽くされていますが、内田氏が性懲りもなくこういうことを口走るので、・・・・

拙著『若者と労働』で詳しく解説したように、このジョブのこのスキルがあるという「売り」を何一つ持てないままで労働市場で自分を売り込まなければならないという状況こそが、そう、言葉の正しい意味での「即戦力」が交渉のための素材でありえない状況こそが、内田樹氏の言うところの「イエスマンシップ」をその代替物として提示しなければならない状況のもとになっているということが、どうしてこの(「思想家」とやら自称しているらしい)人にはわからないのだろうか。
そして、そういう言葉の正確な意味での「即戦力」、「専門的な知識や技能の教育を求め」ることなく、「大学では語学と一般教養をしっかり教えてください」とだけ求めてきたメンバーシップ型雇用システムこそが、そういう真の即戦力なき「イエスマンシップ」を測定不可能な職業能力の代替指標として提示せざるを得ない状況を作り出して来たというあまりにもわかりやすい因果関係を、この(信じられないことに「知性」を売り物にしているらしい)元大学教師はかけらも理解することができないらしいのだ。
いや、正確に言えば、理解する回路が初めから閉ざされているのだ。なぜなら、内田樹氏のような人々こそが、学生にいかなる「専門的な知識や技能の教育を求め」ることなく、「大学では語学と一般教養をしっかり教えてください」とだけ求めてきた企業の最大の共犯者たちなのだから。企業が学生に「イエスマンシップ」を求めるような状況のおかげで飯を食ってきた者たちこそ、内田樹氏自身ではないのかという最も初歩的な反省のかけらもないこの独善ぶり。・・・・

(追記)
なぜかホッテントリとなり、コメントがいくつかつていますが、例によってどっちが正しい間違っているとか、どっちの味方だ敵だというたぐいのコメントばかりで、一番肝心のこと、つまり内田樹という「知性」を売り物にしているらしい「思想家」と自称している人物の議論が、まるで矛盾撞着しており、壮大なブーメランになっているという点には皆さん関心がとんとなさそうなのが、はてぶの世界を象徴しているのでしょうね。
どっちの立場に立とうがそんなことは二の次三の次で、どっちでもありうる。断固として内田氏のような大学教授を大量に扶養しうるような「専門的なことは入社してから教えますから、大学では語学と一般教養をしっかり教えてください」というメンバーシップ型雇用システムを擁護する立場があってもいいし、それを断固として糾弾する立場があってもいい。
しかしながら、およそ知性を売り物にするのであれば、およそ思想家を自称するのであれば、議論の半分ではこっち側、残りの半分ではあっち側というような都合のいい議論をしてはいけない。自分がとった立場の理論的帰結を知らぬそぶりで平然と非難糾弾するのは、少なくとも知識人と自称するのであれば、最も許されない所業でしょう。
本エントリにしろ、過去のエントリにしろ、要するにそういう話に尽きるのです。毎度毎度、性懲りもなくブーメラン言説を繰り返しながら、それを平然と「知性」の表れと演じてしまえるその厚顔無恥さにあきれてるのです。それだけ。 

第7位は、いまも東大の一角で「東大闘争2.0」とやらをやっておられるらしい最年少(特任)准教授氏について、そのいきがって叫んでいる中身ではなく、彼の進路選択は意味のあるものであったと述べています。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2019/12/post-914135.html (大澤昇平『AI救国論』を読んで思ったこと、3,126PV)

その中でも、今回の件でいささか揶揄的な調子で語られた彼のこれまでの学歴にかかわる部分は、「救国」なぞという大風呂敷の話はともかく、若者たちの職業人生を考えたうえでの進路選択という観点からすると、極めて示唆的なものだと感じました。特任准教授に「登り詰めた」などという自意識過剰な表現はとりあえずスルーして読んでください。 ・・・・

少なくとも、経済的なリソースがそれほど潤沢でない若者が、技術系のハイエンドの職業人生を目指すのであれば、高専→大学後期課程に編入→大学院というコースは極めて有効な選択肢であることは確かでしょう。
先日亡くなった眉村卓の用語でいえば、産業士官候補生としての進路選択には有効な選択肢でしょう。ビッグタレントを目指すのであれば、もう少し雑学も齧ったほうがよかったのでしょうが。 

第8位は、新しい1万円札に内定した渋沢栄一と労働法のかかわりについて述べた時間差のある2つのエントリの前編です。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2019/04/post-7677.html (渋沢栄一の工場法反対論、3,091PV)

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・・・夜業ハイカヌト云フコトハ、如何様人間トシテ鼠トハ性質ガ違ヒマスカラ、昼ハ働ライテ夜ハ寝ルノガ当リ前デアル、学問上カラ云フトサウデゴザイマセウガ、併シナガラ一方カラ云フト、成ルベク間断ナク機械ヲ使ツテ行ク方ガ得デアル、之ヲ間断ナク使フニハ夜業ト云フ事ガ経済的ニ適ツテヰル・・・唯一偏ノ道理ニ拠ツテ欧州ノ丸写シノヤウナモノヲ設ケラルルト云フコトハ絶対ニ反対ヲ申シ上ゲタイ 

ちなみに、後編の「渋沢栄一の工場法賛成論」は、わずか826PVで42位でした。いやこれは、両方読んでくれないと完結しないんですけど。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2019/04/post-9402.html (渋沢栄一の工場法賛成論、826PV)

第9位は、これはいかにも本ブログらしいエントリというべきか、松尾匡さんらの反緊縮マニフェストをめぐって、世の議論のありようを4象限に位置づけてみたものです。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2019/01/post-02b2.html (バカとアホが喧嘩するとワルが得する、2,961PV)

・・・結論から言うと、社会保障費に充てるために消費税を上げるという触れ込みで始まったはずの政策が、「増税しないと財政破綻」論のバカ軍団と「増税すると経済崩壊」論のアホ軍団の仁義なき戦いのさなかに放り込まれると、「社会保障なんか無駄遣いやからやめてまえ」論という一番あってはならないワル軍団お好みの結論に導かれてしまうからです。
あえて表にすればこういうことになります。

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おそらく松尾さんたちはこの表の左下の欄、つまり増税反対だけど再分配賛成というところに属しているのでしょう。ところが、その主張がもっぱら増税反対というところに集約され、もっぱら右上の「増税しないと財政破綻」論を仮想敵国として戦っていくと、現在の政治的配置状況の下では、それは右下の社会保障なんか無駄やからやめてまえ論との共闘になり、本来の政策だったはずの「増税して社会保障に」というのは冥王星の彼方に吹き飛ばされてしまいます。
そんなに増税が嫌なら、これくらい面倒見てやろうかという軽減税率の財源にそもそもの目標であったはずの社会保障費があてられるというのが今の姿ですが、この先、米中対決その他の影響で経済情勢波高しということになって「めでたく」(皮肉です)増税が回避されたら、結局得をしたのは社会保障を目の敵にするワル軍団でしたということになりかねません。正直、その可能性は結構高いように思います。そうでなくても、今ではそもそも何のために消費税を上げるという話になったのか、だれも覚えていないという状況ですから、その目論見は達せられたというべきかもしれません。
バカとアホが喧嘩するとワルが得するという教訓噺でした。 

第10位は今年のベストセラー小熊英二さんの本の紹介です。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2019/07/post-e5878d.html (小熊英二『日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学』、2,771PV)

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日本型雇用システムを下手に論じる人の陥りがちな落とし穴は、ややもするとある政治勢力や社会勢力に一方の在り方を重ね焼きして非難の対象とし、それに反する歴史的事実は無視するという傾向ですが、小熊さんは極めて丁寧に様々な勢力の動きをフォローしており、歴史叙述としては(当たり前と言えば当たり前ですが)安心できます。
逆に言うと、その叙述の大部分は、私にとっては既視感のあるところが大きいのですが、最後のところで、私の変に世に普及してしまった図式に対する異論が提示されています。・・・・
というわけで、小熊さんは2類型ではなく「企業のメンバーシップ」「職種のメンバーシップ」「制度化された自由労働市場」の3類型を唱えます。日本は「企業のメンバーシップ」が支配的な社会であり、ドイツは「職種のメンバーシップ」、アメリカは「制度化された自由労働市場」が支配的な社会だというのです。
実は、それには私はほぼ全面的に賛成です。ただ、話は日独米の3社会だけでは終わらないでしょう。他の労働社会もそれぞれに特殊性があり、それぞれに類型化していくと類型はどんどん増えてしまいます。
これは、本書でも引用されている拙論「横断的論考」で、イギリスやフランス、さらにはオランダやスウェーデン等も含めてあれこれ(ごく簡略に)考察したところですが、限られた紙幅の中で分かりやすく説明するという状況下であれば、最初の2類型がある意味一番間違いのない類型化なんじゃないかと考えているところです。
もちろん、私にも600ページを超える新書を書かせてくれる奇特な編集者がいれば、もう少し詳しく突っ込んでみてもいいんですけど。 

次点の第11位は、藤田孝典さんのつぶやきに対する批判ですが、これは決してトリビアな話ではなく、こういう基本的なことをないがしろにするような議論が蔓延する事こそが深刻な問題ではないかという危機感からのエントリです。藤田さんに伝わったかどうかはわかりませんが、本ブログの読者にはぜひじっくりと呼んでいただきたいと思います。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2019/06/post-9979b9.html (無知がものの役に立ったためしはない、2,467PV)

例の「年金返せ」デモについて、藤田孝典さんがこういうことをつぶやいていたようですが、
https://twitter.com/fujitatakanori/status/1141039413918437377
年金について勉強してから発言したり、行動するべきだ、という議論もあるみたい。しかし、そんなことは政治家、官僚、研究者、専門家の仕事。一般市民や大衆は、怒りを感じたらみんなで集まり、デモや示威行動で表現すればいい。何も行動しないよりはるかにマシ。
いやこれは全然駄目。
細かいところまで勉強せよとは言わない。しかし、公的年金とはそもそも如何なるものであるか、そして公的年金制度において「年金返せ」なるスローガンが如何なる、どちら向きのベクトルを持った台詞であるかという、基礎の基礎のそのまた基礎に当たるようなことを全く理解しないほどの不勉強な、方向性を全く間違えた「怒り」なるものを、それが無知な大衆の怒りであるという理由で賞賛するような議論は、良く言って愚かの極みであり、悪く言えば利敵行為以外の何物でもないでしょう。
保険料の拠出という形で個人の権利性を確保しつつ、公的社会保障制度全体で貧富間の再分配を図るという仕組みの根源を破壊する方向の論理だからです。
公的年金をつかまえて、あたかも私的な取引に基づく積立貯金であるかの如く「返せ」などという言語を発すること自体が、脳内主観では敵対していることになっているホリエモンと全く寸分違わない立場に自らをおいているという基礎の基礎すら理解できていないような人間は、やはり最小限のことを勉強してから発言したり行動すべきなのです。
同じ社会保障制度で例を取れば、健康保険で医者にかかって本人負担分の高さに逆上して、「健康保険料返せ」とわめき散らして、公的健康保険を破壊し、市場ベースの医療保険だけの、ムーア監督の「シッコ」の世界を求めるかの如き無知な「庶民の怒り」を、褒め称えるようなことを言ってはいけないのです。 

ちなみに、この「無知がものの役に立ったためしはない」というセリフがそもそも誰の言葉であったかを指摘する人が一人もいなかったのも、マルクス御大がいかに忘れ去られているかを象徴するようなことだったなあ、と。

2019年12月20日 (金)

ノーベル平和賞を受賞した労働組合運動家

これは恐らく圧倒的に多くの方々にはトリビアな話題だと取られるかも知れませんが、必ずしもそういうわけでもありません。

電機連合の機関誌『電機連合NAVI』の2019年Ⅳ号(72号)が届きました。特集は「広がる働き方改革」ですが、そちらは特にコメントしません。この号の後ろの方に、石原康則さんの「ノーベル賞を受賞した労働組合指導者 自主管理労組「連帯」のレフ・ワレサ委員長の滞日記」という記事があり、その冒頭にこう書かれていたのです。

労働組合指導者でノーベル賞を受賞したのは、この人のほかに私は知らない。その人は、ポーランドの自主管理労組「連帯」を結成したレフ・ワレサ氏である。・・・・

いや、ワレサ氏については、本ブログでも何回か取り上げたことがありますし、共産圏の崩壊につながる動きの出発点になったという意味において、現代史上非常に重要な人物であることは間違いないのですが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/07/post-e274.html (ヤルゼルスキ宅でお茶するワレサ)

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http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2014/05/post-365f.html (ワレサ 連帯の男)

 

しかし、「労働組合指導者でノーベル賞を受賞したのは」ワレサ氏が最初ではありません。1951年という時期に、フランスのレオン・ジュオーがノーベル平和賞を受賞しているのです。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AC%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B8%E3%83%A5%E3%82%AA%E3%83%BC (レオン・ジュオー)

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パリ近郊のパンタン出身。父はオーベルヴィリエの工場で働いていたが、ストライキのために給料の支給が停止され、ジュオーは学校を退学しなければならなかった。16歳の時から工場で働き始め、すぐに労働組合の中心的な存在になった。1900年に父が失明、退職に追いやった白燐弾の使用に抗議するストライキに加わった。
1906年、フランスのナショナルセンターであるフランス労働総同盟の地域代表に選出される。1909年に会計係になり、その後すぐに事務局長に就任して1947年まで務めた。労働組合長としての目標は初期の労働運動に近いもので、1日8時間労働、団結権、団体交渉権の確認、休日出勤の賃金の支払いといったものだった。人民戦線が活動する間にも、1936年にマティニョン協定の締結を果たすなど、労働環境の向上に多大な貢献をしてきた。
第二次世界大戦の開戦前には、戦争に反対する組織をいくつも立ち上げている。しかし戦争が始まると、ナチス・ドイツが勝利すればヨーロッパの民主主義が破壊されると信じ、フランスを支援した。そして戦争中はナチスのブーヘンヴァルト強制収容所に収監されている。
戦後はフランス労働総同盟を離れ、社会民主主義的な新しい組織を作った。そして1951年にノーベル平和賞を受賞している
国際的に見ると、彼の活動は後の国際労働機関や世界労働組合連盟の設立につながったと言える。
1954年に死去。亡骸はパリのペール・ラシェーズ墓地に葬られた。

ちなみに、拙著『日本の労働法政策』の39ページには、ILO創設に尽力した労働界の大立て者として、サミュエル・ゴンパーズと並んでレオン・ジュオーが登場しています。

 

 

 

労働組合員は労働者の6分の1

昨日労働組合基礎調査が発表され、労働組合組織率はまたも着実に下がって16.7%となりました。ちょうど労働者の6分の1ですね。

https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/roushi/kiso/19/dl/gaikyou.pdf

100人未満企業の組織率は遂に0.8%。100人に一人ですらなくなっています。

 

年金改正の決着は12月25日?

若干在労でうろうろした感もありますが、今次年金改正は12月25日夕方の社会保障審議会年金部会で決着するようです。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08500.html

なんといっても今次改正の目玉は短時間労働者への適用拡大で、既に報じられているように2022年10月から101人以上企業、2024年10月から51人以上企業に拡大するということになりそうです。

このもとになった検討会には、われらが(?)海老原嗣生さんも参加していて、先日の年金本にも役だったのではないかと思います。

 

2019年12月19日 (木)

フリーランス対策は官邸主導に?

本日の未来投資会議に出された資料「新たな成長戦略実行計画策定に関する中間報告(案)」を見ていくと、「2.人材 ~組織の中に閉じ込められ固定されている人の解放」 の「(1)フリーランスなど、雇用によらない働き方の政策」に、こういう記述があります。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/dai34/siryou1.pdf

2.人材 ~組織の中に閉じ込められ固定されている人の解放

(1)フリーランスなど、雇用によらない働き方の政策

技術の進展により、インターネットを通じて短期・単発の仕事を請け負い、個人 で働く新しい就業形態が増加しており、特に、高齢者の就業機会の拡大に貢献する ことが期待される。日本でも、40代以上のフリーランスが全体の7割弱を占めてい る。また、個人事業主・フリーランスと会社員の満足度を比較すると、個人事業 主・フリーランスの方が満足度が高い。特に「達成感/充実感」、「スキル/知識 /経験の向上」では差がついている。

多様な働き方の一つとして、希望する個人が個人事業主・フリーランスを選択で きる環境を整える必要がある。

一方、フリーランスと呼ばれる働き方は多様であり、労働政策上の保護や競争法 による規律等について様々な議論がバラバラに行われている。このため、内閣官房 において、関係省庁の協力の下、一元的に実態を把握・整理した上で、今後の政策 の方針を検討する 

この「組織の中に閉じ込められ固定されている人の解放」とかいうほとんど意識の高すぎる厨二病みたいなタイトルにはいささか頭を抱えたくなりますが、最後のパラグラフの記述には注目すべきでしょう。今厚生労働省では雇用類似の検討会で議論が進んでいますし、公正取引委員会も非常に積極的に優越的地位の利用に対する介入を図っていますが、たしかに「バラバラ」感があるのも確かで、内閣官房、つまり官邸主導で政策の方向を検討していくということには意味があるように思われます。ただその際、どこにどういう問題点があるのかを冷静に見ていくことが大事で、フリーランスと言えば「組織の中に閉じ込められ固定されている人の解放」だというような短絡的な発想では困るのですが。

 

2019年12月17日 (火)

五十嵐泰正『上野新論』

30062185_1 五十嵐泰正さんより『上野新論 変わりゆく街、受け継がれる気質』(せりか書房)をお送りいただきました。

https://ameblo.jp/sericashobo/entry-12552115619.html

外国人観光客で溢れる賑やかな繁華街や重要な文化施設に代表される上野は、昔の「北の玄関口」から「空の玄関口」になるとともに、グローバル化し、多文化化する国際的都市へと変貌せざるを得ない状況にある。本書は二十数年に亘って上野をフィールドに調査・研究してきた著者が、商店街の経営者たちとのインタビューを通して今までの「下町」イメージに代わる、新たな地域コミュニティを創出し、活性化するための具体的な施策を提案する。 

第4章のアメ横の話が面白かったです。

 

伊原亮司『合併の代償』

Imagesiql2rjp7 プリンス自動車工業、といってももはや知っている人は数少ないかもしれません。いや、つい先日、NHKの歴史秘話ヒストリアで、「走れ!たま 知られざる電気自動車の時代」が放映されたことで、へえ、そんな会社があったんだ、日産に合併されたのか・・・と思った方も多いかも知れません。

https://www2.nhk.or.jp/hensei/program/p.cgi?area=001&date=2019-11-27&ch=21&eid=12270&f=1201

70年前の日本に「電気自動車」が活躍した時代があった!車の名は「たま」。敗戦で飛行機製造を禁じられた元ヒコーキ屋らによる、日本と自動車、もう一つの歴史を描く。 

ここで描かれた立川飛行機を前身とする「たま自動車」が、中島飛行機を前身とする富士精密と合併してできたのが、皇太子の立太子礼の年にちなんで名付けられたプリンス自動車。

9784905261445_600 そのプリンス自動車が、日産自動車と合併することで、労働組合同士の凄惨な抗争劇が展開するというのが、このエントリで紹介する伊原亮司『合併の代償 日産全金プリンス労組の闘いの軌跡』(桜井書店)のテーマです。

改めて、著者の伊原さんより本書をお送りいただきました。ありがとうございます。

少数派として闘い・働いた人たちの跡形をとおして、日産という会社のもうひとつの相貌を描く、労働現場からみた日産側面史!
著者の言葉:組織の「物語」は、力を持つ者により一面的につくられてきた。わたしは、本書により「正しい物語」に書き換えた、というつもりはない。しかし、日産という日本有数の大企業を少数派から捉え直すことにより、微力ながらも、閉ざされた組織を社会に開かせるきっかけになり、企業をはじめとする組織を「社会の公器」たらしめる一助になればと思っている。 

1214l 当時のプリンス自動車の労働組合は総評に加盟する全国金属プリンス自工支部、対する日産の労働組合は、これは有名な塩路一郎が牛耳っていた時代ですね。塩路氏については本ブログで取り上げたこの本がこれまた大変面白いのですが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/11/post-4c1f.html (塩路一郎『日産自動車の盛衰 自動車労連会長の証言』緑風出版)

これはやはり、労使関係の研究者、労使関係に興味のある人にとっては必読でしょう。「あの」塩路一郎氏が、日産自動車に入って、宮家愈氏の下で益田哲夫氏率いる全自日産分会を倒す民主化運動の回想から、プリンス自動車との合併をめぐって、全金プリンス支部の大会に乗り込んで労組統合を進めたいきさつ、そして、多くの本であまりにも有名になった石原俊社長との「対立」の全経緯を語り尽くした本です。500ページ近い分厚さですが、小説よりも面白くて思わず一気に全部読んでしまいます。

同書でも一章を割いて描かれている日産とプリンスの合併に関わる経緯を、日産労組に行くことを潔しとせず、プリンス支部で少数派として戦い続けた男たちの目から描き出しています。

はじめに
第1章 日産とプリンスの合併:経緯と背景
第2章 合併にともなう問題:異なるナショナルセンター傘下の労働組合
第3章 暴力と差別
第4章 少数派組合の「反撃」:法廷闘争を中心に
第5章 少数派の中の少数派の取り組み:女性組合員の活動
第6章 働く場における「存在感」
第7章 労働戦線の再編成:「連合」の誕生と全金日産支部の再分裂
第8章 全面解決闘争と「和解」
第9章 市場原理に基づく「改革」と2つの労働組合の反応
第10章 「改革」の犠牲者の支援:組織のウチとソトをつなぐ
第11章 会社人間とも独立独歩とも異なるキャリア:「社会」に足場を持つ
終章 最後の組合員
補章 職場をつくる労働組合
おわりに:誰もが「少数派」になりうる時代に 

このストーリーの面白さは、その後塩路一郎が失脚し、やがて日産自体の経営が傾いていき、ルノーからゴーンがやってきて、という有為転変の中で、旧プリンスの人々の人生を改めて考えさせることです。

本書の終わりの方には、生前の塩路氏にインタビューしたときの発言も収録されています。

ちなみに、本書の「おわりに」は、通常の「である」調の後記的部分に続いて、「ですます」調で伊原さん自身が巻き込まれた合併話がやや詳しく語られています。伊原さんの勤め先の岐阜大学が名古屋大学と合併するので、ついては伊原さんの所属する地域科学部を廃止するという話に、学部を挙げて反対運動を展開し、遂に撤回させたという武勇伝ですが、その最後にこう述べています。

・・・大学を取り巻く環境が厳しいことはわかります。大学人は、「改革」を先行して行ってきた民間企業から学ぶべきでしょう。しかし、教員や理事・監事に民間経験者を入れる、流行の官吏制度を導入する、といった形式的なことではありません。もっと広い視野から、長期的視点を持って学ぶべきです。その点に関していえば、本書の日産とプリンスの事例は、合併や「改革」の<その後>を知ることができる格好のケースです。強引な合併や現場軽視の「改革」により組織が<腐っていく>経過と<よどんだ空気>が職場に定着する過程に関して、<見えざる人たち>が長期間支払わされる<見えざるコスト>について、そして少数派であっても自らが働く場を守り理念を実現することが可能なことを、誰よりも私自身が学ばせていただきました。・・・

(追記)

ちなみに、労働法クラスタには定年の男女差別に関わる例の日産事件の原告中本ミヨが、男女とも55歳定年だったプリンス自動車が日産に合併されて、男55歳、女50歳にされ、50歳で退職を命じられたことがそもそもの原因というストーリーも興味深いのではないでしょうか。

(再追記)

なお、本書にはhayachanこと早川行雄さんも顔を出しています。早川さんは合併後に日産に入社しており、入社以前は総評全金のことはまったく知らなかったそうですが、塩路時代の日産労組の実態にあきれて脱退し全金プリンスに移ったということです。そうすると仕事を干されて、

・・・当時、なんの仕事をしていたのか、ほとんど覚えていないそうである。・・・隔離部屋に入れられて、何もしていなかったからであろうか。「当時のことはまったく記憶にない」。職能資格は全金に入る前までは同期と同じように上がっていったが、入ってからはまったく上がらず、主事にとどめられた。

とのことで、あたら若い優秀な人材をそういう無駄遣いしているような会社がやがて行き詰まるのも当然だったのかも知れません。早川さん個人はその後労働運動家としてのキャリアを積んでいくわけですが。

 

 

 

2019年12月16日 (月)

管理職の労働法政策@『季刊労働法』2019年冬号

1911163_o 既に案内していた『季刊労働法』2019年冬号(267号)が刊行されました。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2019/12/post-aa216b.html

◎特集 ILO100周年・その役割と展望

未批准条約の効果―日本労働法に与えた影響 ILO駐日代表 田口晶子

使用者は何処に? ILO事務局本部上級法務官 野口好恵

個別的労働・雇用関係法の実現方法におけるILOの役割と展望 ILO国際労働基準局・労働法務官 戎居皆和

未批准条約の意義と可能性―中核的労働基準の111号条約を例に 弁護士 大村恵実

非典型雇用とILO 早稲田大学名誉教授、現IDHE-ENS-Paris-Saclay客員研究員 鈴木宏昌

◎第2特集 「雇用によらない働き方」の論点

個人就業者をめぐる議論に必要な視野と視座とは~「雇用類似の働き方に係る論点整理等に関する検討会中間整理」を読みつつ 労働法学研究者 毛塚勝利

業務委託契約を利用した事業組織と労働者性・使用者性―ベルコ事件を契機として 岡山大学准教授 土岐将仁

再考・フランチャイズ契約と労働法―フランチャイジーの雇用類似の働き方 日本大学教授 大山盛義

◎■論説■

民法(債権法)改正と労働法 同志社大学教授 土田道夫

労働契約法20条をめぐる裁判例の理論的到達点 労働政策研究・研修機構副主任研究員 山本陽大

◎■アジアの労働法と労働問題 第39回■

中国におけるプラットフォーム経済の発展と労働法の課題 中国西南政法大学准教授 戦東昇

◎■労働法の立法学 第56回■

管理職の労働法政策 労働政策研究・研修機構労働政策研究所長 濱口 桂一郎

◎■判例研究■

育児介護休業法に基づく短時間勤務措置を理由とする不利益取扱い ジャパンビジネスラボ事件(東京地判平30・9・11労判1195号28頁)専修大学教授 石田信平

間接差別法理の意義と可能性 国家公務員昇格等差別事件(東京地判平31・2・27)北海道教育大学教授 菅野淑子

◎■研究論文■

労働協約の法的規律に関する一考察(3・完)ドイツにおける社会的実力要件と交渉請求権の議論を契機として 京都女子大学准教授 植村新

新たな契約類型としての「ライフ・タイム契約(Life Time Contracts)」トレント大学(イタリア)法学部教授 ルカ・ノグラー訳・解説 井川志郎=岡本舞子=後藤究

◎■書評■

豊川義明著『労働における事実と法』基本権と法解釈の転回 評者 弁護士 宮里邦雄

◎■キャリア法学への誘い 第19回■

就職・採用とキャリア配慮 法政大学名誉教授 諏訪康雄

◎■重要労働判例解説■

修学費用貸付の返還請求と労基法16条 医療法人K会事件(広島高判平成29年9月6日労経速2342号3頁)社会保険労務士 北岡大介

就業規則の新設・変更と固定残業代合意の効力 阪急トラベルサポート(就業規則変更ほか)事件 (東京高判平成30年11月15日労判1194号13頁、原審:東京地裁平成30年3月22日労判1194号25頁)北海学園大学法学部教授・弁護士 淺野高宏

わたくしの「労働法の立法学」は「管理職の労働法政策」です。

1 日本型雇用システムにおける「管理職」
(1) 日本独特の「管理職」
(2) 「職種」としての管理職
(3) 社内身分としての管理職
(4) 機能と身分の間
2 労働組合法の「利益代表者」
(1) 1945年労働組合法
(2) 1949年労働組合法
3 労働基準法の「管理監督者」
(1) 労働基準法制定時の概念
(2) 管理監督者と深夜業
(3) 金融機関における管理職をめぐる労使紛争
(4) 1977年通達
(5) 1987年改正時の拡大
(6) 2008年適正化通達
(7) 2008年チェーン店通達
4 労働基準法女子保護規定に係る管理職
5 監督者訓練
6 経営管理者の有料職業紹介事業
7 管理職組合
8 女性活躍推進法

じつはこれ、冒頭で「厳密に言えば、現代日本の労働法制上に「管理職」という概念は存在しません。」と大見得を切っておきながら、最後のところでじつは必ずしもそうじゃないことが露呈するといういささか不格好なことになっています。

いや、もちろん、冒頭の台詞は、こういうことです。

 厳密に言えば、現代日本の労働法制上に「管理職」という概念は存在しません。あるのは労働組合法上の「利益代表者」と労働基準法上の「管理監督者」です。前者は労働組合に加入できない労働者をさす概念であり、後者は労働時間規定が適用除外される労働者をさす概念です。両者も必ずしも同じ概念ではないですが、それ以上に日本の労働社会で一般に用いられている「管理職」という概念とはかなりの乖離があります。というのも、日常言語でいう「管理職」は、利益代表者や管理監督者がそうであるような意味で何らかの機能を指し示す言葉というよりは、企業という一個の組織内部において、年功的昇進によって得られるべき地位ないし身分を指し示す言葉になっているからです。・・・・

で、本稿の大部分は、この労組法上の「利益代表者」と労基法上の「管理監督者」をめぐる終戦直後から今日に至るまでの法政策の歴史を振り返っているわけなので、その限りではこの台詞は正しいのですが、最後のあたりにいくつかおまけを付け加えた結果、もっと厳密に言えば現代日本の労働法制上に「管理職」という概念が存在することを白状しちゃっています。

・・・・ 2015年8月に成立した女性の職業生活における活躍の推進に関する法律は、300人超(2019年改正により100人超に拡大)の企業に対して事業主行動計画の策定・公表を義務づけていますが、その際分析すべき事項の一つとして「管理的地位にある労働者に占める女性労働者の割合」が含まれています(第8条第3項)。この「管理職」(女性の職業生活における活躍の推進に関する法律に基づく一般事業主行動計画等に関する省令第2条第1項第4号による略称)は、通達(平成27年10月28日雇児発第1028第5号)によって課長級以上の役職にある労働者と定義され、その「課長級」とは「事業所で通常「課長」と呼ばれている者であって、その組織が二係以上からなり、若しくは、その構成員が10 人以上(課長を含む。)のものの長」とされています。いずれにしても、労働基準法の「管理監督者」とはかなり異なる概念です。

 

 

 

2019年12月15日 (日)

ユダヤ教超正統派のベーシックインカム@ユヴァル・ノア・ハラリ『21Lessons』

9784309227887 ユヴァル・ノア・ハラリ『21Lessons』を読んでいると、第2章の雇用のところでちょっと面白い記述に出会いました、この章は例によって「あなたが大人になったときは仕事がないかもしれない」という雇用消滅論をめぐってのエッセイですが、そこから例によってベーシックインカムの話にいった挙句に、さすがイスラエルの学者らしく、ユダヤ教超正統派の話が出てきます。あの独特の姿の人々は、エルサレムでもアントワープでもよく見ましたが、こういう観点からの文章は初めて見ました。

・・・最低所得保障が本当に目標を達成するためには、スポーツから宗教まで、何かしらの有意義な営みで補わなければならない。ポスト・ワーク世界で満足した人生を送る実験が、これまで最も大きな成功を収めているのはイスラエルかもしれない。この国では、ユダヤ教超正統派の男性の約半分が一生働かない。彼らは聖典を読み、宗教的儀式を執り行うことに人生を捧げる。彼らと家族が飢えずに済むのは、一つには妻たちが働いているからで、一つには政府がかなりの補助金や無料のサービスを提供し、基本的な生活必需品に困らないようにするからだ。。つまり、最低所得保障という言葉が登場する前から、それが実践されていたわけだ。

これらのユダヤ教超正統派の男性は貧しく、職に就いていないものの、どの調査でもイスラエル社会の他のどんな区分の人よりも高い水準の生活満足度を報告する。これは彼らが属するコミュニティの絆の強さのおかげであるとともに、聖典を学び、儀式を執り行うことに彼らが深い意味を見出しているおかげでもある。・・・

非宗教的なイスラエル人はしばしば苦々しげに不平を言う。ユダヤ教超正統派は社会に十分貢献しておらず、他の人々が汗水たらして働いているのに、その脛を齧っている、と。非宗教的なイスラエル人はまた、ユダヤ教超正統派の暮らしは維持していかれない、特に、彼らの家庭には平均で7人子供がいるから、ともいう。遅かれ早かれ、国は職に就いていない人をそこまで大勢支えられなくなり、ユダヤ教超正統派も働きに出なくてはならなくなるだろう。とはいえ、それとは正反対のことが起こるかもしれない。ロボットとAIが人間を雇用市場から押しのけていくにつれ、ユダヤ教超正統派は過去の化石ではなく将来のモデルとみなされるようになる可能性があるのだ。誰もがユダヤ教超正統派になって、イェシバに行くというわけではない。だが、すべての人の人生で、意味とコミュニケーションの探求が、仕事の探求の影を薄くさせるかもしれないということだ。・・・・

日本でも流行っているAIだからBI論の方々は、まずはユダヤ教超正統派の生き方をじっくりと研究してみるといいのかもしれません。

 

ラスカルさんの澤路ら著への感想に若干のコメント

51livobds0l_sx337_bo1204203200_ ラスカルさんが恒例の「今年の10冊」で、朝日新聞の澤路記者らによる『ドキュメント「働き方改革」』(旬報社)を選んでこうコメントされているのですが、

http://traindusoir.hatenablog.jp/entry/2019/12/05/今年の10冊

正に同時代史だが、知らなかった事実を適当に解釈していた点が修正された、という意味で読んでおいて良かった。官邸と経団連のパイプは強く、(少なくとも表面的には)厚労省と連合は最後まで翻弄され続けたことが覗える。経団連の動きは、あまり見えない。登場していない人物がどう動いたのか等、物自体のように心に残る。 

私には若干異なる印象があります。今の安倍政権の前半期、2013年から2015年までであれば、まさにそういう感じだったでしょうが、2016年以後のまさに働き方改革に舵を切って以後は、経団連の方も(あるはずの、そしてそれまでは現に機能していた)強いパイプがあまり機能せず、厚労省や連合と同じように「翻弄され続けた」のではないでしょうか。いやむしろ、政治的配置からすると自民党政権の与党的立場にあるとみられていることから却って言いたいことも言えずに我慢していた風情すら感じられました。

(参考)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2019/05/post-972ff9.html

 正直、私もいろんな局面でいささかの関わりもあった人々が続々と出てくるので、読みながらなにがしか心揺れるところもあったりするわけですが、やはりなんといっても、冒頭近くの、キャピトルホテル東急で、水町勇一郎さんが加藤勝信一億総活躍担当相にレクチャーするところが、「ああ、ここが水町さんとの分かれ目だったんだなあ」という思いを沸き立たせます。賃金制度が全然違っても、日本でも同一労働同一賃金が可能だという水町理論は、はっきり言って労働法学的にはいかがなものかと思いますが、少なくとも政治的メッセージとしては、求められるものであったんだなあ、と思います。空気を読まず、何を期待されているかもわきまえず、そういうことを言わない人間はお呼びではないわけです。
まあでも、その結果として、それをなんと呼ぶかは別として、既存の断片的且つ不整合な雇用形態に係る均等・均衡待遇法制が、かなり一貫した且つ促進的な性格を強めた形に大きく改良されることになったのは確かなので、少なくとも立法学的には重要な役割を果たしたことは間違いありません。皮肉ではなく、正直にそう思っています。
そういう意味では、本書全体にわたって、「政治って何だろう」「学者って何だろう」「政治という土俵で意味のある行動とは何だろう」という問いが繰り返し湧き上がってくるのも確かです。いろいろとは思いはありますが、でも、それに的確に答えるためには、まだまだ硝煙立ちこめる今ではなく、10年後、20年後、30年後から振り返ってみることが必要なのかも知れません。・・・・

「働かないおじさん」はなぜ量産される?@弁護士ドットコム

弁護士ドットコムに「「働かないおじさん」はなぜ量産される? 」というインタビュー記事が掲載されました。インタビュワは有馬知子さんです。

https://www.bengo4.com/c_5/n_10529/

企業にとって古くて新しい問題、それは「働かないおじさん」をどうするか、だ。
世間で人手不足や人材確保の難しさが叫ばれる中、味の素とLIXILグループ、ファミリーマートなど、大手企業が11月以降、相次いで早期退職を発表した。
こうした企業の多くは、収益悪化によってリストラを迫られているというより、早いうちに人件費の高い中高年社員という「重荷」を降ろしたいという思惑があるようだ。労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎研究所長に、「働かないおじさん」が生まれてしまう理由や、背景にある日本の雇用制度について聞いた。(ジャーナリスト・有馬知子) 

26184472_1_20191215101401 内容は先日の朝日新聞の記事でしゃべったことであり、5年前の拙著『日本の雇用と中高年』(ちくま新書)で書いたことですが、最後のところで若干アドバイスめいたことも言っています。

・・・・・中高年も同様に、条件がいいからと早期退職を利用し、キャリアの見通しもなく辞めてしまうのは考えものです。早期退職後、成功したキャリアを築いている人は大抵、辞める前からある程度、その後のレールが見えていることが多いのです。若手であれ中高年であれ、軽々しく転職や独立を勧める人の口車には乗らないことが肝要です。 

 

2019年12月14日 (土)

育児休業給付の問題

昨日の労政審雇用保険部会に報告素案が提示されました。

https://www.mhlw.go.jp/content/12602000/000576457.pdf

例の副業・兼業関係は、あんまりやりたくないけどやらざるを得ないのでとりあえず65歳以上だけ試行的にやりますね、というリラクタントがにじみ出るようなものになっています。

某紙に廃止という記事が出た高年齢雇用継続給付は、項目だけあって中身は白紙という、ここは意見がまとまっていませんと言わんばかりの姿です。まあ、1994年にできたときは努力義務になった65歳までの継続雇用を促進するためという名目だったのが、すでにほぼ完全義務化されて久しいのになお残存しておるのは、継続雇用を促進するためではなく、60歳定年後の低賃金を補填するためであり、つまり、労契法20条や新パート有期法8条で疑問が呈されている60歳前後の賃金格差を正当化するという役割だけになっているわけですが、そうはいっても現にそうなっているんだからなかなかやめられないというところなわけです。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201912/CK2019120702000149.html (高齢雇用給付金 段階廃止へ 60歳以上の賃金減穴埋め 25年度に半減)

 

一方、同じ年にできた育児休業給付の方は、毎年着実に増えて増えて、遂に求職者給付を追い抜くほどにまで達しつつあるようです。

Ikuji

もちろん育児休業時の賃金補填ということ自体は悪い話ではないので、制度をどうこうしようという言うことではないのですが、財政運営上の観点から報告素案は、「新たに「子を養育するために休業した 労働者の雇用と生活の安定を図る」給付として、失業等給付とは異なる給付体 系に明確に位置づけるべきである」としています。そして、さらに「その収支についても失業等給付とは区分し、失業等給付全体として 設定されている雇用保険料率の中に、育児休業給付に充てるべき独自の保険料 率を設けて、財政運営を行うべきである。育児休業給付に充てる保険料率の水 準は、現在の同給付の支出状況及び今後の見通しを踏まえ、当面、現行の雇用 保険料のうち4/1,000 相当とすべきである。一方で、育児休業給付の在り方に ついて、中長期的な観点で議論していくべきである」と述べています。

この中長期的観点になると思われますが、育児休業給付については保険料の納付と給付の受給とに雇用形態によるずれがあることをどう考えるかという問題があります。

2010年改正前の雇用保険法は適用において非正規労働者について1年以上の雇用見込み要件を課していましたが、現在は1か月以上で適用され、保険料を払うことになります。求職者給付の受給には反復継続して6か月ないし12か月の勤務が必要ですが、それは当然で、適用と給付に釣り合いが取れています。

ところが、育児休業給付は雇用保険法の中で完結しておらず、育児介護休業法により育児休業の取得要件が決まっており、いろいろ複雑ですが、将来子供が1歳半になるまで更新される見込みが必要です。不安定な雇用であればあるほど保険料は払っているけれども給付はもらえない可能性があるわけで、やや煽り気味に言えば、非正規も含めたみんなの保険料で正社員女性の育児休業の面倒を見ているという面があるわけです。

もともと、求職者給付のわきっちょに小さく作った制度のつもりだったのでしょうが、ここまで大きく育ってしまうと、この点をどう考えるかは結構重要な問題になってくるでしょう。

 

 

2019年12月13日 (金)

桜井英治『贈与の歴史学』

102139 一見、労働問題とは関係がなさそうな本に見えますが、なかなか興味深い一節があります。

http://www.chuko.co.jp/shinsho/2011/11/102139.html

贈与は人間の営む社会・文化で常に見られるものだが、とりわけ日本は先進諸国の中でも贈答儀礼をよく保存している社会として研究者から注目を集めてきた。その歴史は中世までさかのぼり、同時に、この時代の贈与慣行は世界的にも類を見ない極端に功利的な性質を帯びる。損得の釣り合いを重視し、一年中贈り物が飛び交う中世人の精神を探り、義理や虚礼、賄賂といった負のイメージを纏い続ける贈与の源泉を繙く。角川財団学芸賞受賞。 

日本中世史としても、モースの流れを汲む社会学としても、大変面白い本ですが、実は最後の「第4章 儀礼のコスモロジー」に、労働力価格の硬直性に関わるこういう記述があり、いろいろと考えさせられました。

・・・労働と贈与の関係に関連してもう一つ注目されるのが労働力価格の問題である。中世には、物の価格と労働力・サービス価格とではその決定メカニズムが根本的に異なっていたことが明らかになってきている。物の価格は基本的に需要・供給バランスによって決定されており、その点では現代とあまり変わらないのに対し、労働力・サービス価格は硬直的で需要・供給バランスの影響をほとんど受けなかったのである。・・・

・・・このような現象は短期的にも現れ、例えば建築職人の一日の労働時間は、昼夜の長さに規定されて夏に長く、冬に短くなるが、賃金は一年を通じて常に一定だった。同じ賃金を払っているのに、夏は冬よりも長時間職人を働かせることができたわけだから、中世には実質的な労働力価格は夏に下落したのである。従って雇い主にとっては、建築工事を行うなら夏が断然有利だったことにもなる。

私たち現代人の常識からすれば、建築工事が集中すれば労働力需要が増加するから、賃金も上昇してよさそうなものだが、中世にはそういうことは起こらなかった。労働力価格は需要・供給バランスの影響を受けなかったからである。ところが、建築資材の方は工事の集中に伴って、夏になると価格が上昇した。物の価格は労働力価格とは違って、需要・供給バランスの影響を受けたからである。・・・

・・・ではなぜ中世の賃金は需要・供給バランスの影響を受けなかったのだろうか。私は、中世における賃金支給がしばしば「酒直」「禄」といった贈与名目で行われていたことに注目している。つまり、中世段階では労働力が未だ完全な商品化を遂げておらず、それゆえに賃金も厳密な労働時間を考慮せず、一種の贈与(若しくは労働という贈与に対する返礼)として支払われるにとどまったのではないかということである。・・・

なるほど、と思うと同時に、いやいや「私たち現代人の常識」も、それほど完全に労働力が商品化されていないぞ、という気もします。

大の月も小の月も、28日の2月も、一定の月給制というのは、実は時間給レベルの労働力価格が上下しているってことですし。

そもそも、サービス残業を始めとする日本労働者の時間給意識の乏しさには、なにがしか「給与」の「贈与」的性格が影を投げかけているようにも思えます。

さらに、次の一節は、近代的な古代と前近代的な中世という世界史的なテーマに触れていますね。

・・・ただし、労働力の商品化という現象は未開から文明への過程でただ一度起こった跳躍というわけではなかった。なぜなら、中世人の知らなかった時間給を古代人は知っていたからである。少なくとも律令法では昼の長さに応じて、夏は「長功」、春と秋は「中功」、冬は「短功」というように、季節ごとに異なる賃金を支給するよう規定しており、古代にはーたとえそれが中国からの直輸入だったとしてもー中世とは違って時間給の発想があった。それが中世に入るとなぜ消えてしまったのか、そしていつどのように復活して現在に至るのか、そこに刻まれているのは決して単線的ではない、よりダイナミックな、そしてときに“繰り返される”歴史であろう。

中世イエ型社会の延長線上の我々は、もしかするとチャイナ式律令体制下の古代人よりも時間給意識が乏しいのかも知れません。

 

 

退職代行、法的にグレー@『日経新聞』

今朝の『日経新聞』2面に、「退職代行、法的にグレー 業者に交渉権なく トラブル増加 「団交」うたい労組に衣替えも」という渋谷江里子記者の「真相深層」記事が出ています。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53289420S9A211C1EA1000/

自分の代わりに退職の意思を伝える退職代行サービスを巡るトラブルが増えている。人手不足で職場での負担は重くなり転職したい人が増えている。料金は1回数万円と安くないが、需要をとらえ、代行業者は急増している。ただ法的にはグレーな存在で利用者が責任を問われるリスクもある。安易な利用は禁物だ。・・・・

 この記事の中に、わたくしのコメントも載っています。

・・・・労働組合は2人以上の労働者で構成するなど条件を充たせば組織できる。労組の衣をまとった代行業者は「本来、法律が想定した組合ではない」(労働政策研究・研修機構の浜口桂一郎所長)。

それでも形式上は団交を要求できる。浜口氏は企業の「団交拒否を(代行業者が)不当労働行為として訴えるなら労働委員会の審査が必要だが、退職代行だけでそうはならないだろう」とみる。業者の要求が退職だけなら、応じる企業が多いのが実態だからだ。・・・

 

 

 

EUとイギリスとリベラルとソーシャルと(再掲)

イギリスの総選挙で保守党が大勝し、労働党のコービンが批判されているようですが、ここに至るイギリス政治のねじれのそのまたねじれの構造について、コービンが党首になったときのエントリが依然として通用するように思われますので、再掲しておきます。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/09/post-0183.html (EUとイギリスとリベラルとソーシャルと)

96958a9e9381959fe3e09ae1808de3e0e2eイギリス労働党の党首に左派のコービン氏が選ばれたというニュースが話題になっています。いやもちろん、ヨーロッパで。

http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM12H3R_S5A910C1FF8000/?dg=1

同氏は反緊縮や格差是正を訴え、党員らの6割近い支持を得た。1990年代以来中道路線を取ってきた同党の大きな転換となる。キャメロン首相率いる保守党の市場経済を重んじる経済政策や欧州連合(EU)離脱の是非を巡る交渉にも影響は及びそうだ。

・・・労働党はこれまで親EU路線を党是としてきたが、コービン氏は「ギリシャ支援などを巡りEUに改革が必要なのは明らかだ」と独自の見解を見せる。最近では、EUの前身である欧州共同体(EC)を巡る1975年の英国民投票で加盟継続に反対票を投じたことを明らかにした。コービン氏のEUに対する懐疑的な姿勢が、労働党支持者のEU離脱への姿勢を強めるのではないかと懸念する向きも出ている。

イギリス政治とEUとの関係はなかなかに複雑ですが、リベラルとソーシャルという軸で見ると、大きくこのように描けると思います。

かつて、創設当時のEECは名前の通り市場統合のみを目指す経済共同体であり、その頃は保守党がEECに入りたがって、労働党はイギリス流の福祉国家に悪影響があるのではないかと疑って批判的でした。ソーシャルなイギリスとリベラルなヨーロッパという構図。

ところがサッチャー政権下で労働運動が徹底的に叩かれ、福祉が大幅に切り下げられるようになると、イギリスの左派はEC,EUを頼るようになります。逆に、保守党からすると、EC、EUがやたらにソーシャルな政策を押しつけてくるのが気にくわない。リベラルなイギリスとソーシャルなヨーロッパの時代。イギリス保守党の反EUは、これを受け継いでいる。今でもキャメロン首相は、EUの社会条項からの脱退を訴えていたりする。

ところが経済危機以降のEUは、むしろギリシャをはじめとする加盟国に緊縮を押しつけてくるリベラルの側面が強くなり、、欧州全体として反EU感情が高まってきている。今回の労働党の党首選もそれの現れで、リベラルなEUに対する左派の反発といえます。

複雑なのは、ソーシャルなヨーロッパに反発する保守党とリベラルなヨーロッパに反発する労働党の異なる反EU政策が国内政治的に同期化している点で、それぞれの党内の「そうはいっても」というリアリズムとのせめぎ合いが興味深いところです。

も一つ、EU離脱国民投票時のこのエントリも。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2016/06/post-e515.html (EUはリベラルかソーシャルか?)

今日(もう昨日ですが)はイギリスのEU離脱国民投票で世界中大騒ぎでしたが、EU労働法政策などというタイトルを掲げている本ブログからすると、いろいろと感じるところがありました。

もともとEEC(欧州経済共同体)は名前の通り市場統合を目指すもので、ほとんどソーシャルな面のないリベラルなもの。

かつて労働組合がえらく強かった頃のイギリスは、保守党政権時代に勝手にECに加入したのはおかしいといって、1975年に労働党政権が国民投票をやり、離脱票が少なかったので残った経緯があります。ソーシャルなイギリスがリベラルなECを嫌がってた時代。ちなみに、いまのコービン労働党首はこのときの離脱派。

ところが、サッチャーが政権について、労働組合は徹底的にたたきつぶす、最低賃金から何から労働法護法は廃止する、福祉も住宅も教育も片っ端から叩く。ぼこぼこにぶん殴られた労働組合は泣きながらEUに駆け込んで、助けてくれと言い出す。「社会なんて存在しない」というサッチャーにとって、市場統合以上の余計なことにくちばしを入れたがるソーシャルなEUは邪魔者。いわゆる「ソーシャル・ヨーロッパ」の時代。

その後労働党政権になり、EUのソーシャルな労働法も持ち込まれる。これがイヤだという、反ソーシャル・ヨーロッパのリベラルUKという文脈も、一応細々とあって、日経新聞あたりに載る離脱派のEUの規制がどうのこうのというのはこの話。でもそれはメインじゃない。

むしろ21世紀になってから、EUは再び市場統合を旗印に自由市場主義を各国に強制する傾向が強まる。具体的には下記『社会政策』学会誌に書いた一節を参照のこと。

・・・ところが皮肉にも、これがEU全体の緊縮財政志向をもたらし、とりわけ南欧諸国における労働法、労使関係の空洞化をもたらしている。
 危機がもっぱら金融危機であった2009年頃までは、破綻した金融機関の救済や企業や労働者への支援、そして大量に排出された失業者へのセーフティネットなどのために多額の公的支出が行われ、それが加盟各国の財政赤字を拡大させた。ところが、その不況期には当然の財政赤字が、金融バブルの拡大と崩壊に重大な責任があるはずの格付け機関によって、公債の信用度の引下げという形で、あたかも悪いことであるかのように見なされるようになった。
 しかも、ここにヨーロッパ独自の特殊な事情が絡む。いうまでもなく、共通通貨ユーロの導入によって、「安定成長協定」という形で加盟国の財政赤字にたががはめられてしまっていることである。本来景気と反対の方向に動かなければならない財政規模が、景気と同じ方向に動くことによって、経済の回復を阻害する機能を果たしてしまうこのメカニズムは、自由市場経済ではなく協調的市場経済の代表格であるドイツの強い主張で導入され、結果的に市場原理主義の復活を制度面から援護射撃する皮肉な形になってしまっている。そしてドイツ主導で進められた財政規律強化のための財政協定が2013年1月に発効し、各国の財政赤字はGDPの0.5%を超えない旨を各国の憲法等で規定し、これを逸脱した場合には自動修正メカニズムが作動するようにしなければならず、これに従った法制を導入しない国にはGDPの0.1%の制裁金を課するという仕組みが導入された。
 このように事態がドイツ主導で進められる背景には、経済危機に対してドイツ経済が極めて強靱な回復力を示し、ドイツ式のやり方に他の諸国が文句を言いにくいことがある。しかしながら、ドイツの「成功」をもたらしたのは、危機からの脱却のために政労使がその利益を譲り合うコーポラティズムである。労働側は短時間労働スキーム(いわゆる緊急避難型ワークシェアリング)により雇用を維持するとともに、さまざまな既得権を放棄することで、ドイツ経済における労働コストの顕著な低下に貢献した。これにより、他の諸国と対照的に、ドイツの失業率はむしろ低下傾向を示した。
 このドイツ型コーポラティズムの「成果」がEUレベルでは緊縮財政を強要する権威主義的レジームを支え、ドイツにおける協調的市場経済の「成功」が結果的に他国におけるその基盤となるべき雇用と社会的包摂への資源配分を削り取っているというのが、現代ヨーロッパの最大の皮肉である。

 もっとも典型的なギリシャを見よう。債務不履行を回避するための借款と引き替えに強制されたのは、個別解雇や集団解雇の容易化だけでなく、労使関係システムの全面見直しであった。2010年の法律で有利原則を破棄し、下位レベル協約による労働条件引下げを可能にするとともに、賃金増額仲裁裁定の効力を奪い、2011年には従業員の5分の3が「団体」を形成すれば企業協約締結資格を与えることとした。これにはさすがにILOが懸念を表明するに至った。 ・・・

ギリシャのシリザとか、スペインのポデモスとか、南欧諸国の反EU運動は基本的にこれに対する対抗運動。リベラルなEUに対して各国のソーシャルな仕組みを守ろうというリアクション。そして、イギリスの反EUの気持ちの中にも結構これが大きい。イギリスはユーロ圏じゃないので直接関係ないのだが、労働党支持層の中でもEU残留に熱心になれないひとつの背景。

そして、どの国にもあるけれども特にイギリスに強い「ヨーロッパはドーバー海峡の向こう側、俺たちはヨーロッパじゃない」ナショナリズムがこれら錯綜するリベラルとソーシャルのぐちゃぐちゃとない交ぜになったのが今日(昨日)の結果なのでしょう。

(追記)

欧州労連のコメントを紹介しておきます。

https://www.etuc.org/press/brexit-vote-eu-must-take-action-improve-workers-lives

“This is a dark day for Europe, for the UK and for workers. It must be a wake-up call for the EU to offer a better deal for workers.

“There is deep disillusionment across Europe, not only in the UK. Austerity, cuts in public spending, unemployment, the failure of Government’s to meet people’s needs, the failure of the EU to act together are turning people against the EU. Workers want an EU that takes action to improve their lives.

“The EU needs to act decisively to ensure this is not the start of the break-up of the European Union, and does not damage jobs and workers’ rights.

“The European Union must start to benefit workers again, to create a fairer and more equal society, to invest in quality jobs, good public services and real opportunities for young people.

“The ETUC stands with the British TUC in saying that British workers should not pay the price for Brexit.

“The ETUC will continue and strengthen its fight for a fairer and more social Europe.”

今日は闇の日だ、欧州にとっても英国にとっても労働者にとっても。これはEUが労働者にもっと良い条件を提示せよという警鐘だ。

イギリスだけじゃなくヨーロッパじゅうに深い幻滅が広がっている。緊縮財政、公共支出の削減、失業、人々の必要に応えられない政府、これら全てがEUへの反発に転化している。労働者はEUが彼らの生活を改善するための行動を起こすことを求めている。

EUはこれが欧州連合の解体の出発点ではなく、雇用や労働者の権利を損なうことのないよう断固として行動する必要がある。

EUは再び労働者の利益のために、より公正で平等な社会を作りだし、質の高い仕事、良い公共サービス、若い者の真の機会に投資すべきだ。

ETUCはイギリスのTUCとともに英国労働者は英国離脱の代償を払うべきではないと主張する。

ETUCはより公正でよりソーシャルなヨーロッパへの闘いを続け強める。

(参考)

ちなみに、頭の中が80年代のサッチャー対ドロール時代のまま化石化してしまった人の「初歩的な事実誤認」の実例:

https://twitter.com/ikedanob/status/746734748702146560

初歩的な事実誤認が多い。そもそもEUが各国に「緊縮財政」を求める権限はない。ましてEUを「新自由主義」などという人はいない。その逆の過剰規制が問題だったのだ。

最近20年間のヨーロッパはまったくわかりません、と正直に言えばいいのに。

(おまけ)

なんだか労務屋さんの感想も、EUの規制がががが・・・・という話に集中してますね。

http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20160627#p1

報道などをみると英国人にとってはこうした規制を強要されることがかなり耐え難いことだったということのようです。・・・

保守党の一部ではそこを強調する議論が多かったのは確かですが、国民の選択の決め手としてはどうでしょうか。基本的には上で書いたように「メインじゃない」と思われます。

今回の結果は上の本文で書いたように、自由な統合市場という面で残留派である保守党の中に(大英帝国の残影を追う)ナショナリズムの側面が強く、他方EU規制を求め守るという面で残留派である労働党の中に(コービン党首を始めとする)そもそも市場主義的なEUへの懐疑派が根強いことなどが、二重三重に絡まり合った結果というべきでしょう。

なんにせよ、これを持ち出して

・・・そこでEU出羽出羽とEUがきわめて素晴らしいように語ることのヤバさというのが今回のbrexitの教訓かなあと、まあそんなことを考えたわけです。

というのは、いささか・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

2019年12月12日 (木)

鈴木孝嗣・長谷川崇『あなたの会社に「ドラマクイーン」はいませんか?』

Dramaqueen 鈴木孝嗣・長谷川崇『あなたの会社に「ドラマクイーン」はいませんか?-残念な管理職への対処法-』(労働新聞社)をお送りいただきました。

https://www.rodo.co.jp/book/9784897617916/

本書は、ドラマクイーン、ナルシスト、ブレイマーなど、異常な言動をとる「残念な管理職」(その行動の多くは、パワハラに該当する可能性があります)の特徴を概観し、部下としての対処法を解説します。共著者の一人である特定社会保険労務士の鈴木氏が「残念な管理職」の実態分析と対応策を整理し、産業医として数多くの会社の現場を見てきた精神科医(医学博士)の長谷川氏が、異常な言動をとる管理職について、精神医学的な視点から分析を行っています。 

ドラマクイーンという言葉は本書で始めて知りましたが、「ドラマのヒロインのように芝居がかった行動をとる人、物事に対してオーバーリアクションをとる人、些細な事柄をさも大事のように誇張して語る人」のことだそうです。

そういうのが自分の上司に来たりしたらたまりませんね。本書にはそういう実例がいっぱい載っていて、そういう人々に対してどのように対処したらいいのか懇切丁寧に解説しています。

試し読みできるところからいくつかの例を:

会社幹部によるビジネスミーティングの席上、製品販売の入金が1週間後ろ倒しになったことを、会社倒産の危機でもあるかのように大げさに騒ぎ立て、担当部長を「給与泥棒」呼ばわりし、「今すぐ客のところに行って、集金できるまで帰ってくるな!」などと声を荒げ、延々と叱責する。

会社の業績が(赤字ではないものの)目標を達成できないことが見えてきた段階で緊急会議を招集した経営幹部が、「君たち一人一人がきちんと責任を果たさないからこうなった。こんなことでこれからどうやっていくつもりだ!?」と、涙目で絶叫する。悲劇のヒーローは自分で、駄目な部下たちのせいで自分は責任をとらざるを得ない、ということをアピールするワンマンショーになっている。

・・・・

仕事をするために会社に来ているのに、興奮して絶叫し続ける上司の三文芝居を見続けるほどこちらは暇ではない。。「早く職場に戻って、あの仕事、この仕事、それに部下への指示もしなければならないのに・・・」と思うと、拷問のような時間を耐えて黙り込むことに限界が来て、反論の一つもしたくなるかも知れないが、これにはそれなりの対処法があるので、第2章を参照していただきたい。

 

 

2019年12月11日 (水)

副業・兼業の労災認定

昨日開かれた労政審労災保険部会で、副業・兼業の場合の労災認定について、賃金額だけではなく、負荷についても通算するという方向でほぼ合意されたようです。会議に出された資料はこれですが、

https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/000574648.pdf

論点1 見直しの方向について【79-1-1】
複数就業者について、それぞれの就業先の負荷のみでは業務と疾病等との間に因果関係が見られないものの、複数就業先での業務上の負荷を総合・合算して評価することにより疾病等との間に因果関係が認められる場合、新たに労災保険給付を行うことが適当。
論点2 認定方法について【79-1-2、80-2-1】
○ 複数就業先の業務上の負荷を総合・合算して評価して労災認定する場合についても、労働者への過重負荷について定めた現行の認定基準の枠組みにより対応することが適当。ただし、脳・心臓疾患、精神障害等の認定基準については、医学等の専門家の意見を聴いて、運用を開始すべき。
○ 現行、脳・心臓疾患や精神障害の労災認定に当たっては、複数就業先での過重負荷又は心理的負荷があったことの申立があった場合、労働基準監督署がそれぞれの就業先での労働時間や具体的出来事を調査している。このため、それぞれの就業先での業務上の負荷を総合・合算して労災認定する場合であっても、このプロセスは維持すべき。

で、これはあくまでも公法上の労災保険の認定基準の話であって、そのもとになっている使用者の労災補償責任ではないと、明確にそこを切り離しています。

論点3 労働基準法上の災害補償責任について【79-1-1】
○ それぞれの就業先の負荷のみでは業務と疾病等との間に因果関係が見られないことから、いずれの就業先も災害補償責任を負わないものと整理することが適当。
○ なお、一の就業先における業務上の負荷によって労災認定できる場合は、現行と同様、当該就業先における労働災害と整理することとし、当該就業先に災害補償責任があり、他の就業先には災害補償責任はないこととすべき。

ここが、使用者側が負荷の通算にネガティブであった理由なんですね。うちの会社だけなら安全配慮義務違反だといって裁判起こされるようなことはないのに、よその会社と合算して責任の半分はあるやろ、と言われたらたまらない、ということです。そこは別だと。国の管轄する労災保険制度で面倒見るだけだと。

 

 

 

2019年12月10日 (火)

中途採用率の公表義務化の出どころ

労務屋さんが、今労政審で審議されている法改正事項のうち、あまり注目されない方、というか、あまり深刻でない方、大して影響を与えそうでなさそうな方、というべきか、中途採用率の公表義務化について、そもそも論的にいろいろいじっておられます。

https://roumuya.hatenablog.com/entry/2019/12/10/133013 (中途採用率の公表義務化)

・・・そこでこの「中途採用率の公表義務化」がどれほどの有効性を持つかといえば、まあやって悪いたあ言わないもののたいした意味はないというところではないでしょうか。・・・
・・・となると転職・中途採用がしやすい環境づくりをすること自体は望ましいことだし必要なことだろうとも思います。企業間移動がやりやすい方が円滑な対応が可能になることはただそれが中途採用率の公表義務化かと言われればそうでもないんじゃないかと思うわけで(いやもちろんやって悪いというわけではないが)。

いやまあ、そうなんですが、ご承知の通り、これは今年6月の成長戦略実行計画に、例の70歳就業機会確保と並んで明記されちゃっているんで、やらないわけにはいかないわけです。

で、70歳の方は、これはもういずれそういう話になるとみんな分かっていた話ではありますが、中途採用率の公表ってのはいったいどこから湧いてきたんだろうか、と思って若干さかのぼっていくと、これも70歳就業と同様、官邸の人生100年時代構想会議から来た話のようです。

この人づくり革命基本構想の中に、第5章リカレント教育の最後のところに、こういう記述が出てくるんですね。

(企業における中途採用の拡大)

内閣府、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省 が連携して、中途採用に積極的な上場企業を集めた協議会を設置し、中途採 用を拡大する。 なお、「年齢にかかわりない多様な選考・採用機会拡大のための指針」を 活用し、中途採用の促進に向けた経済界の気運を醸成する

リカレント教育の文脈で中途採用というのもよくわからないところがありますが、どんな議論があったのだろうかと思ってみていくと、昨年3月の第6回会議がリカレント教育の話で、そこで日本総研の高橋進さんがこう言っていたんですね。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/jinsei100nen/dai6/gijiroku.pdf

○高橋氏 資料3をご覧いただきたいと思います。

大企業でも終身雇用はなくなっているのが現実であり、企業内教育にのみ人 材育成を期待するのは限界があります。教育機関、産業界、行政が連携してリ カレント教育の取組を進めることが必要だと思います。

雇用保険特会を活用して、教育訓練給付について、給付内容を拡充するとと もに、土日・夜間・通信課程など社会人が利用しやすい講座を充実すべきだと 思います。

リカレント教育の実践性を高めるためには、産業界の参加が不可欠です。インターンシップを取り入れるなど、企業参加型のプログラムの策定を行うべき だと思います。このため、産業界の全面的な協力が必要です。また、プログラ ムの開発と同時に、就職について大学における企業とのマッチング機能が不可 欠です。こうした取組を東京だけではなく全国に広げることが重要だと思いま す。

子育て女性だけでなく、企業の研究者、技術者についてのリカレント教育が 大きな課題だと思います。新卒社員を囲んで社内勉強会を開いたというような 笑えない話も聞きます。バイオ、化学、データサイエンス、情報処理などの分 野の学会と連携してプログラム開発を進めるべきです。

リカレント教育の提供体制を確保するため、企業出身の実務家教員の育成が 必要です。本人にとっても新しいキャリアにつながるものであり、教育経験の ない企業で働く実務家教員候補、彼らに対する教授方法の研修なども実施すべ きだと思います。

リカレント教育を受けた人たちが活躍するためには、需要側である企業の人 材採用の多元化が進むことが必要です。特に、大企業において中途採用が進ん でいません。例えば、中途採用に積極的な上場企業を集めた協議会を設置する など、総理のリーダーシップを含めて何らかの仕掛けを考えるべきではないか と思います。

最後に、20代、30代のうちからキャリアの節目節目でキャリアコンサルティ ングを企業内で実施することが必要だと思います。将来のキャリアパスを考え る習慣をつけるべきだと思います。また、転職の成功事例の見える化、副業・ 兼業の推進により、転職の環境整備を図るべきだと思います。  

なるほど、リカレント教育を受けた人の受け皿としての中途採用という発想だったんですね。でも、それってどれくらいの人々に共有されている認識なんでしょうか。

 

 

第107回労働政策フォーラム「職場のパワーハラスメント」

Jilpawahara

2019年12月 9日 (月)

佐藤博樹,藤村博之,八代充史『新しい人事労務管理 第6版』

L22144 佐藤博樹,藤村博之,八代充史『新しい人事労務管理 第6版』(有斐閣)をお送りいただきました。

http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641221444

ほぼ2年間隔がデフォルトになりつつある労働法に比べるとまだ改訂の間隔は大きいですが、それでもほぼ4年ごとの改訂というのは、この分野の変化の激しさを物語っているといえるでしょう・

日本企業の実態を踏まえて人事労務管理を解説する好評定番テキスト。労働法制の改正に加え,働き方改革等,多様な人材が活躍できる職場づくりへの対応など,雇用環境が大きく変化しつつある中,今後を展望するためにも必須となる基礎的な理解を得られる一冊。 

目次は次の通りで、第5版とそれほど変わっていませんが、第5章が「労働時間管理」から「労働時間と勤務場所の管理」になり、「勤務場所の柔軟化と多様化」という節が新設されているのは、時代を示していますね。

第1章 企業経営と人事労務管理──人事労務管理の機能と担い手
第2章 雇用管理──人と仕事の結びつき
第3章 職能資格制度と職務等級制度──人事制度と昇進管理
第4章 賃金管理──給与決定の仕組み
第5章 労働時間と勤務場所の管理──労働サービスの供給量と供給のタイミングの管理
第6章 能力開発──能力を高める意義と方法
第7章 非正規従業員と派遣労働者──コンティンジェント・ワーカーの活用
第8章 従業員の生活支援──企業の福利厚生制度
第9章 労使関係管理──労働者の利益をいかに守るか
第10章 人事労務管理の変遷と展望──歴史的・国際的な位置づけ
終 章 幸せな職業人生を送るために

コラムにも、44ページに「転勤と勤務地限定制度」というのが設けられています。

コラムといえば、79ページに「ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用」というのもあり、

・・・一般に、メンバーシップ型は評判が悪い。学会でもセミナーでもメディアでも、ゼミの学生の卒論でも、みなジョブ型がよいという。メンバーシップ型は常に『悪玉』である。・・・

と書かれていますが、いやあそうかな。

このコラム、それぞれのメリット、デメリットを挙げた上で、こう締めくくっています。

・・・ここから明らかなように、メンバーシップ型とジョブ型の違いは単に賃金を仕事で決めるかどうかという違いにとどまらず、人事権や、根源的には、その前提となる雇用保障の問題を内包している。しばしば職能給から職務給への転換が主張されるが、そのためには、まず人事制度を『メンバーシップ型』から『ジョブ型』に転換しなければならない。そして、それには外枠である『雇用』に関する考え方を変えなければならないのである。

も一つ、今日的なトピックを扱っているコラムが173ページの「部下育成とハラスメント」です。

・・・このハラスメント、特にパワハラが人材育成に悪い影響を与えている。部下育成のために上司が少し強い言葉で指導すると、その部下は『パワハラをされた』と感じ、社内のハラスメント委員会に訴え出る。上司としては、嫌がらせをしたつもりは全くないのに、部下からハラスメントだといわれ、、愕然とする。すると、『この程度のことでパワハラだと言われるのなら、指導するのは最小限に止めておこう』と考え、指導した方がいい局面でも指導に二の足を踏む。これは、部下にとって大きな損失になりかねない。・・・・

これも、さらに深く考えると、スキルをまったく持たずにまっさらの状態で入ってきた若者を、上司や先輩がびしびし鍛えて成長させるという、メンバーシップ型人事システムだからこそ起こる話なんですね。始めからその仕事ができる人間を採用するジョブ型社会では、そいつが仕事をできるように成長させる義務はないので、指揮命令に従わない奴や仕事ができない奴は契約違反にすぎないので、普通解雇するだけの話。成長させる義務もないのに余計なお節介をしていれば、それは嫌がらせ以外の何物でもない。そういうジョブ型社会の常識をそのままメンバーシップ型社会に持ってくると、いろいろと矛盾が生じるわけです。

 

 

2019年12月 7日 (土)

パワハラ罪はない、が、暴行罪、傷害罪はある

なんだか、同じことを繰り返し言っているような気がしますが、とはいえやはり言い続ける必要がありそうです。

https://news.nifty.com/article/domestic/society/12145-489198/ (楽天元社員 パワハラで労災)

「パワハラで労災」というから、暴言で精神障害かと思いきや、さにあらず。

ネット通販大手の楽天に勤務していた40代男性が、両手足のまひなどの後遺症を負ったのは上司による暴行のパワハラ行為が原因だとして、渋谷労働基準監督署が労災認定していたことが5日、分かった。認定は6月20日付。

だから、なんでもかんでもハラスメントと言えばいいと思うな!と何回言えば・・・。

刑法上のれっきとした犯罪である強制わいせつを、企業の措置義務の対象でしかないセクハラなどというなまぬるい馬鹿げた用語法がマスコミにはびこっているから、

刑法上のれっきとした犯罪である暴行、傷害を、企業の措置気味の対象でしかない(いや、まだ措置義務としても法が施行されていない)パワハラなどという、あたかもこの暴行障害犯を免罪するかのごとき馬鹿げた用語法に疑問を持たずに記事を書くのでしょう。

〇〇ハラといえばいかにもその行為を批判しているかのように思い込む薄っぺらい脳みその記者がこういう記事をはびこらせると、世間の感覚が狂っていく一方です。

いやもちろん、暴行傷害に当たらないパワハラであっても、場合によっては刑法上の犯罪である自殺教唆として書類送検されたりもしますが、それはやはり「異例」なのです。

https://www.sankei.com/affairs/news/191207/afr1912070006-n1.html (パワハラで自殺教唆疑い 兵庫県警、三菱電機30代社員を書類送検)

三菱電機の新入社員だった20代男性が今年8月に自殺したのは上司の暴言によるパワーハラスメントが原因だったなどとして、兵庫県警三田署が自殺教唆の疑いで、男性の教育担当だった30代の男性社員を書類送検していたことが7日、捜査関係者などへの取材で分かった。書類送検は11月14日付。職場でのパワハラが自殺教唆容疑で捜査されるのは異例とみられる。

まあ、もとをたどれば、刑法上のれっきとした犯罪である暴行、傷害、恐喝等々を、いかにも可愛げな子供の遊びめいた「いじめ」などという生ぬるい言葉で語り続けてきたことの延長線上なのかもしれません。

 

倉重公太郎編集代表『改訂版 企業労働法実務入門』

Kurage 本日、倉重公太郎の労働法実践塾でちょびっとだけお話をしましたが、その際、この本を直接お手渡しいただきました。

なんでも、先月職場あてに送ったのですが、分厚すぎるという謎の理由で返却されてきてしまったとのことです。

本書は、5年前にお送りいただいた『企業労働法実務入門』の改訂版で、企業で初めて人事労務を担当する人に、これだけはという知識をまとめた本です。

労働法ってなに?
人事部の役割と実務
採用に関する諸問題
就業規則と労働契約
賃金
労働時間
休憩・休日・休暇
人事
懲戒処分
ハラスメント
労災・安全衛生
メンタルヘルス
雇用契約の収量
非正規雇用管理
同一労働同一賃金
労基署対応
労働組合
人事関連の法律で知っておくべきもの
社会保険・労働保険の基礎知識
用語集 

労働法の解説部分もまことに丁寧に人事労務1年生に噛んで含めるように説明されていますが、特に今回増補された序章で、労働法とは何か、そして人事部の役割と実務が先輩が後輩に伝えるように書かれています。

また、最後の方の「労基署対応」の章も、ほかの労働法の本には出てこないような章ですね。

 

2019年12月 6日 (金)

第23回倉重公太朗の労働法実践塾

倉重公太朗さんのツイッターに案内が出ていました。

https://twitter.com/kurage4444/status/1194795909797707776

12月7日の労働法実践塾は【雇用改革のファンファーレ編】と【企業労働法実務入門編】豪華2本立てです。第1部は堅柔多様なメンバー①濱口桂一郎氏、②荻野勝彦氏、③田代英治氏、④森本千賀子氏、⑤豊田圭一氏とこれからの【働く】の変化について、トークセッションをします。 

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土田道夫編『企業法務と労働法』

9784785727505 土田道夫編・「企業法務と労働法」研究会著『企業法務と労働法』(商事法務)をお送りいただきました。ありがとうございます。

https://www.shojihomu.co.jp/publication?publicationId=9998367

企業の中で多岐にわたって生じる課題を労働法の観点から検討、解説
本書では、民法・会社法・倒産法・知的財産法・独占禁止法などの企業法と労働法が交錯する問題、さらには、コンプライアンス、ダイバーシティ、「働き方改革」などの先端的論点を取り上げ、ケーススタディを用いて法的な考え方を解説する。加えて、企業法務として紛争予防の観点からとるべき対策も示す。 

と言うことですが、実は本書、土田シューレの顔見世興行にもなっています。

なぜかリンク先の目次に執筆者名が書かれていないのですが、小畑史子さんと上田達子さんを除いて、全員同志社で土田門下で育った若手労働法研究者たちです。

第1部 理論編

企業法・企業法務と労働法 土田道夫

CSR(企業の社会的責任)・コンプライアンスと労働法 小畑史子

第2部 実務編

債権法改正と労働法 岡村優希

会社法と労働法1―事業取得型M&A(合併・会社分割・事業譲渡) 岡村優希

会社法と労働法2―株式取得型M&A土田道夫

会社法と労働法3―取締役の責任 天野晋介

倒産労働法 山本陽大

知的財産法と労働法1―営業秘密の管理・競業避止義務 河野尚子

知的財産法と労働法2―職務発明・職務著作 土田道夫

独占禁止法と労働法 河野尚子

グローバル人事―国際労働関係法1 土田道夫

グローバル人事―国際労働関係法2 土田道夫

コンプライアンス体制の構築と労働法 石田信平

企業の情報管理 坂井岳夫

女性の活躍―ダイバーシティ人事 上田達子

パワー・ハラスメントへの対応 上田達子

「働き方改革」と労働法務―労働契約法20条/パートタイム・有期雇用労働法) 篠原信貴

この中で一番若い岡村さんが、「債権法改正と労働法」のケース2で、食品宅配サービスのスマートフォンアプリによる配達パートナーが報酬を引下げられたという、(なんとも今日的な)事案を取り上げています。

設問1 X4は、Y2社に対して、手数料・その他費用を控除しない金額での報酬支払を請求できるか。

設問2 X4は、Y2社に対して、本件不利益変更前の水準での報酬支払を請求できるか。

設問3 仮に、本件不利益変更の際に、アプリにおいて、変更後の条件を表示させた上で、「承諾する」と「承諾しない」のボタンが表示され、前者を選択しないと新規の受注ができない扱いとされた場合において、X4が「承諾する」ボタンを選択したとき、設問2の場合とどのような差異が生じうるか。

いやあ、なかなか難しい問題を放り込んできます。岡村さんの回答は是非本書で。

 

『季刊労働法』2019年冬号

267_hp 『季刊労働法』2019年冬号(267号)の案内が既に労働開発研究会のサイトに載っていました。

https://www.roudou-kk.co.jp/books/quarterly/7312/

第1特集は「ILO100周年・その役割と展望」ということですが、JILPTからILOに転職した戎居さんも一本書いています。

●2019年で創設100周年を迎えたILO。日本の労働法制にも影響を与えてきたILOの節目を送るにあたり,ILOの今後の役割,課題を展望します。各論として,エンフォースメントと国際労働基準の関係,人権とILOといったテーマを論じます。 

◎特集 ILO100周年・その役割と展望

未批准条約の効果―日本労働法に与えた影響 ILO駐日代表 田口晶子

使用者は何処に? ILO事務局本部上級法務官 野口好恵

個別的労働・雇用関係法の実現方法におけるILOの役割と展望 ILO国際労働基準局・労働法務官 戎居皆和

未批准条約の意義と可能性―中核的労働基準の111号条約を例に 弁護士 大村恵実

非典型雇用とILO 早稲田大学名誉教授、現IDHE-ENS-Paris-Saclay客員研究員 鈴木宏昌

第2特集は「雇用によらない働き方」で、ちょうどいまウーバーイーツ・ユニオンが注目されている中で、時宜にあった特集です。

●このところコンビニ店主の労組法上の労働者性(中労委命令),業務委託契約の濫用などが争点となったベルコ事件,また「雇用類似の働き方に係る論点整理等に関する検討会」など,個別法,集団法を問わず「雇用類似の働き方」「労働者性」がビビッドな形で問題になるケースが増えています。第2特集では,こうした問題を取り上げます。 

◎第2特集 「雇用によらない働き方」の論点

個人就業者をめぐる議論に必要な視野と視座とは~「雇用類似の働き方に係る論点整理等に関する検討会中間整理」を読みつつ 労働法学研究者 毛塚勝利

業務委託契約を利用した事業組織と労働者性・使用者性―ベルコ事件を契機として 岡山大学准教授 土岐将仁

再考・フランチャイズ契約と労働法―フランチャイジーの雇用類似の働き方 日本大学教授 大山盛義

その他の記事は以下の通りですが、

◎■論説■

民法(債権法)改正と労働法 同志社大学教授 土田道夫

労働契約法20条をめぐる裁判例の理論的到達点 労働政策研究・研修機構副主任研究員 山本陽大

◎■アジアの労働法と労働問題 第39回■

中国におけるプラットフォーム経済の発展と労働法の課題 中国西南政法大学准教授 戦東昇

◎■労働法の立法学 第56回■

管理職の労働法政策 労働政策研究・研修機構労働政策研究所長 濱口 桂一郎

◎■判例研究■

育児介護休業法に基づく短時間勤務措置を理由とする不利益取扱い ジャパンビジネスラボ事件(東京地判平30・9・11労判1195号28頁)専修大学教授 石田信平

間接差別法理の意義と可能性 国家公務員昇格等差別事件(東京地判平31・2・27)北海道教育大学教授 菅野淑子

◎■研究論文■

労働協約の法的規律に関する一考察(3・完)ドイツにおける社会的実力要件と交渉請求権の議論を契機として 京都女子大学准教授 植村新

新たな契約類型としての「ライフ・タイム契約(Life Time Contracts)」トレント大学(イタリア)法学部教授 ルカ・ノグラー訳・解説 井川志郎=岡本舞子=後藤究

◎■書評■

豊川義明著『労働における事実と法』基本権と法解釈の転回 評者 弁護士 宮里邦雄

◎■キャリア法学への誘い 第19回■

就職・採用とキャリア配慮 法政大学名誉教授 諏訪康雄

◎■重要労働判例解説■

修学費用貸付の返還請求と労基法16条 医療法人K会事件(広島高判平成29年9月6日労経速2342号3頁)社会保険労務士 北岡大介

就業規則の新設・変更と固定残業代合意の効力 阪急トラベルサポート(就業規則変更ほか)事件 (東京高判平成30年11月15日労判1194号13頁、原審:東京地裁平成30年3月22日労判1194号25頁)北海学園大学法学部教授・弁護士 淺野高宏 

私の連載は管理職の労働法政策です。

判例評釈に例のジャパンビジネスラボがありますが、つい先日高裁でひっくり返ったのは、タイミングとしてうーむですね。

 

 

2019年12月 4日 (水)

『生活経済政策』12月号

Img_month_20191204164101 『生活経済政策』12月号が届きました。特集は「年金改革の課題」です。やはり、年金法改正の決着が間近に迫ってくると、こういう特集をしたくなるのでしょうか。

http://www.seikatsuken.or.jp/monthly/index.html

明日への視角
•あなたはヤングケアラー(子どもケアラー)を知っていますか/堀越栄子

連載 Brexit とソーシャル・デモクラシーの行方[3]
•デモクラシーの生き残り方—イギリス政治にみるレジリエン/今井貴子

特集 年金改革の課題
•2019年年金財政検証とその課題—特集の解題も兼ね/駒村康平
•雇用の変容に対応した年金制度とは—長く働き続けられるために/西村淳
•保険料拠出期間延長の論点/西沢和彦
•ライフコースの多様化と2019年財政検証の課題/丸山桂

書評
•ジャスティン・ゲスト著/吉田徹・西山隆行・石神圭子・河村真実訳『新たなマイノリティの誕生―声を奪われた白人労働者たち』/武田宏子
•山口慎太郎著『「家族の幸せ」の経済学―データ分析でわかった結婚、出産、子育ての真実』/柳煌碩

私の関心事項からすると、西村さんの論文と、丸山さんの論文が的に嵌まってきます。

 

 

角田とよ子『認知症介護と仕事の両立ハンドブック』

9784818519053_400 例によって、経団連出版の讃井暢子さんより角田とよ子『認知症介護と仕事の両立ハンドブック』(経団連出版)をお送りいただきました。

http://www.keidanren-jigyoservice.or.jp/public/book/index.php?mode=show&seq=557&fl=

介護は突然やってくるといわれます。「親が認知症と診断された。さぁ、どうしよう」という事態に直面したときに大切なのは、「仕事は続ける」と決意することです。「辞める」という選択肢がなければ、あとは、どのように両立するか、その方法の問題です。本書では、認知症とはどのようなものかを理解したうえで、プロジェクトとして介護に取り組むことを勧めています。仕事と介護をどのように両立させたらいいか、その方法を具体的に紹介するとともに、公的支援の仕組み、認知症予防、認知症患者の言動に対する受け答えの具体策などを詳述しています。

113218_xl 本書の「はしがき」は、有吉佐和子の『恍惚の人』から始まっています。1972年に刊行されたこの小説は、その時のベストセラーですが、当時中学2年生だった私にとっても、痴呆状態になった当時の祖母(父の母)を嫁(私の母)が世話をする姿をそのまま小説に映し出しているようで、大変印象深かった思い出があります。

それから半世紀近く過ぎ、専業主婦の嫁が介護するのが当たり前の社会から、仕事を持つ息子や娘が親の面倒を見なければならない社会に世の中は大きく変わり、認知症介護と仕事の両立というテーマの本が出るようになりました。

1 認知症の基礎知識
  〇認知症とは 〇早期発見・早期対応のポイント 〇病院の選び方、本人への受信の進め方 
2 介護をプロジェクトにする
  〇介護で仕事をやめてはいけない 〇認知症介護を5W2Hでイメージする 〇仕事と介護を両立させるには
3 実践 認知症介護
  〇認知症介護のヒント 〇認知症進行度の目安 〇高齢者施設と病院 
4 公的支援の仕組みと介護休業法
  〇認知症の人と家族を守る 〇障碍者支援制度 〇介護休業法の概要
5 認知症予防、症状改善Q&A
  〇認知症を予防したい 〇認知症かもしれないと思ったとき 〇MCI(軽度認知障害)とは  

 

 

2019年12月 3日 (火)

『HRmics』34号

Hrmics_20191203104601 海老原さんちのニッチモの『HRmics』34号が届きました。今号の特集は「年金は破綻する論のウソ」。海老原さん、最近年金づいていますな。


http://www.nitchmo.biz/hrmics_34/_SWF_Window.html


中身は、先日出た『年金不安の正体』の今次年金改正に向けたアップデート版といえましょうか。基本的に、権丈節が鳴り響いております。



1章 年金をめぐる「故意のから騒ぎ」


§1.年金財政は、むしろ好転している
§2.老後2,000万円の自助が必要なのは35年前からの常識


2章 社会の変化を受け止めるためのIF


§1.厚生年金の適用拡大の目的は「取り立て強化」にあらず
§2.真の所得代替率は、過去・現在・将来、ほぼ変わらない
§3.長く生きるなら、長く働き、長く納めると言うリバランス


3章 多事争論 年金制度は、何が問題なのですか?


§1.MMTとBIが年金を救う
§2.概ね良い方向だが、基礎年金の悪化に対処すべき
§3.低年金者の所得代替率低下をどうするか
§4.「年金は世につれ人につれ」が正しい



この目次を見て。「あれ?3章はだいぶ方向がちげえよ」と思ったあなた。ピンポン、ここは権丈節とは反対の考えの方々にインタビューした部分なんですね。このタイトルを見て、それぞれ誰が喋っているか当ててみませんか。「MMTとBIが年金を救う」などとうそぶいているのは、さて誰でしょう。


さて、今号での私の連載は、とりあえずの最終回で、これまでの12冊を振り返ってその位置づけを試みています。これまでの12冊は以下の通りですが、さて、本ブログの読者はこのうちどれくらいお読みになっているでしょうか。


 


Hama

2019年12月 2日 (月)

組合員は勝ち組@『月刊連合』12月号

Covernew_20191202140601 『月刊連合』12月号がとどきました。今号の特集は「連合2020春季生活闘争中央討論集会」ですが、そのあとの連合結成30周年記念シンポジウム「私たちが未来を変える ~安心社会に向けて~」が面白いです。

https://www.jtuc-rengo.or.jp/shuppan/teiki/gekkanrengo/backnumber/new.html

特に、首藤若菜さんの講演が、連合の本質的弱点を突いていて、ここをどう考えるかが重要だと思わせます。

・・・こうして過去と現在を見ていくと、一つの重要な変化を指摘することができる。ろうどうくみあいはしょくばではいまだにさまざまな規制力を持っていて、賃金・労働条件改善を実現しているが、社会全般への波及力は弱まっている。そして全体の所得水準が下がり、雇用形態が多様化する中で、中間層を形成していた労働組合員は、いつのまにか「勝ち組」とみなされる社会の「上位層」となっている。少数派となった組合員の労働条件は守られていくかも知れないが、格差や長時間労働の是正は本当に進むのかと思わざるを得ない。・・・

 

2019年12月 1日 (日)

野川忍編著『労働法制の改革と展望』予告

野川忍編著『労働法制の改革と展望』(日本評論社)の予告がアップされたようです。

https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784535524224

第1章 労働法制の展開――現状と動向 野川 忍
第2章 労働時間規制の手法――長時間労働規制と労働時間法制のあり方 長谷川 聡
第3章 年次有給休暇制度における付与義務構成の再評価――労基法上の義務としての休暇制度 奥田香子
第4章 裁量労働制の意義と課題――時間計算の仕組みと適用除外制度のあいだ 石田信平
第5章 派遣労働法制と均衡処遇の課題 國武英生
第6章 パートタイム・有期雇用労働法の制定と同一労働同一賃金理念 川田知子
第7章 企業変動に対応する労働法制の可能性 中井智子
第8章 労働安全衛生法の新たな機能 小畑史子
第9章 正社員の法的位置――合意型正社員の可能性 野川 忍
第10章 多様な労働者・就労者像の実態と法的位置づけ 岡田俊宏
第11章 労働市場活性化への法政策 大木正俊
第12章 マイノリティのための労働法制へ向けて――立法政策のための基礎理論的考察―― 有田謙司
第13章 日本の外国人労働者法政策――失われた30年 濱口桂一郎
第14章 労働法の規律のあり方について――隣接企業法との交錯テーマに即して 土田道夫
第15章 労働者代表制の構築に向けて 皆川宏之
第16章 使用者側からみたハラスメント法制の現状と課題に関する一考察 町田悠生子
第17章 「働き方改革」の到達点とこれからの労働法の可能性 水町勇一郎 

ということで、私も1章書かせていただいておりますが、タイトルから興味をそそられるような章もいくつかありますね。

 

 

藤本昌代/山内麻理/野田文香『欧州の教育・雇用制度と若者のキャリア形成』

487564 藤本昌代/山内麻理/野田文香『欧州の教育・雇用制度と若者のキャリア形成 国境を越えた人材流動化と国際化への指針』(白桃書房)を、著者の一人である山内麻里さんよりお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.hakutou.co.jp/book/b487564.html

日本の国際競争力の強化等の課題にあたり、大学教育のあり方や、また新卒一括採用などの人事制度が批判の対象となることが多く、根拠として米国に言及されることが多いが、本書の著者たちは、政府主導型の教育・雇用制度を持つことの多い欧州の方が比較するのに妥当と言う。

本書は経済学・政治学・社会学のバックグラウンドを持つ編著者が、それを活かして行った調査・分析の集大成である。2部からなり、第I部「教育訓練システムと雇用システムとの連動」は欧州各国の教育制度、労働市場への入職のしくみの整理、欧州の教育制度の標準化への制度変革などについてまとめている。第II部「各国の労働制度,教育制度および高度専門職の働き方」は、欧州および米国の労働制度について概観し、ドイツ、フランスの教育制度を詳述する。そして高度専門職の転職、定着の傾向の違いが発生する制度的要因を分析し、フランス、スイスにおける専門的職業従事者の働き方、キャリアについてまとめている。

佐藤教授には「欧州の高等教育と雇用制度の関係を包括的に分析する本書は、日本における大学から企業への移行や、リカレント教育における大学の貢献などに関して有益な視点を提供しよう」 との推薦の辞をいただいており、社会的にも大きな注目を集めるこの分野の研究において、本書が欠くことのできない書籍となるのは間違いない 

教育訓練システムと雇用システムの関連性を、ヨーロッパの特にドイツとフランスの状況を詳しく分析しながら論じていく本で、拙著でいえば『若者と労働』、海老原嗣生さんの本でいえば『お祈りメール来た。日本死ね』で論じたテーマを、徹底的に深堀りした本と言えます。

目次は以下の通りですが、

序章  欧州の教育・雇用制度と若者のキャリア形成
第I部 教育訓練システムと雇用システムとの連動
第1章 各国の教育訓練システムの特徴
第2章 各国の雇用システムと教育訓練システムとの補完性
第3章 欧州の高等教育改革─ボローニャ・プロセスが目指す調和と標準化
第II部 各国の労働制度、教育制度および高度専門職の働き方
第4章 欧州の労働と社会保障に関する制度と専門職の研究経緯
第5章 ドイツの教育訓練システムとキャリア形成
第6章 フランスの高等教育と学位・免状・資格制度
第7章 高等教育修了者の就職における学歴インフレと文理格差
第8章 フランスの管理職・専門職の長時間労働とノブレスオブリージュの瓦解
第9章 科学技術立国スイスの研究支援人材─リサーチ・アドミニストレーターの実態と動向
第10章 仏ジャーナリストの専門職化と専門教育の変容
終章  今後の高等教育修了者の働き方の展望 

フランスにせよ、ドイツにせよ、伝統的な高等教育システムが、21世紀初頭以来のEUのいわゆるボローニャ・プロセスによって、大きくその姿を変えつつあることがよくわかります。

ところで、ひとつ前のエントリで最年少准教授氏の本を読んだことが影響しているわけではないんですが、ドイツのいわゆる専門大学は、原語ではFachhochschuleであり、直訳すれば高等専門学校なんですね。もちろんファッハホッホシューレは中期高等教育卒業後に入るので専門大学と訳さないと誤解を招くからそうしているんでしょうが、日本の高専も実体的には大部分が大学3年時に編入して大学院にも進学していることからすれば、予科付きの専門大学みたいなものかもしれません。

 

 

大澤昇平『AI救国論』を読んで思ったこと

610828_l 例の最年少(特任)准教授氏は、さらに支離滅裂なことをつぶやいて火に油を注いでいるようですが、とはいえ人のことをいくつかのつぶやきだけで判断するのもいかがなものかという気もして、せっかくなので氏の『AI救国論』(新潮新書)をざっと読んでみました。正直、やたらにいきり気味のその文章はあまり読みやすいものではありませんが、彼自身の経験をもとに何かを論じようとしているその論の部分よりもむしろその経験そのものの部分は、なかなか興味深い体験談であり、かつ(彼が論を向けようとしている方向とは必ずしも一致しないかもしれませんが)いろんな意味で示唆するところがかなりあります。

その中でも、今回の件でいささか揶揄的な調子で語られた彼のこれまでの学歴にかかわる部分は、「救国」なぞという大風呂敷の話はともかく、若者たちの職業人生を考えたうえでの進路選択という観点からすると、極めて示唆的なものだと感じました。特任准教授に「登り詰めた」などという自意識過剰な表現はとりあえずスルーして読んでください。 

・・・このような事情があったので、特別な家庭に生まれたわけでもない私がいかにして今のポストに登り詰めたかというと、時間的・金銭的なリソースの欠乏を、テクノロジーによってカバーするという徹底的な省エネの術を、人生の早い段階で見つけたことが大きいように思う。・・・中学に上がっても、成績は常にトップレベルでったが、進学校には進まず、高等専門学校、いわゆる高専に入学した。・・・・

・・・私が経験した高等専門学校というのは極めて特殊な環境で、「大学受験のジレンマ」を解決する一つのソリューションになると考えてる。・・・

・・・高専に入り大学に編入するというのは、キャリアパス設計の上でいわばファストパスに相当する。なぜならセンター試験のための受験勉強をする必要がなく、早い段階でテクノロジストとしての必要なスキルを身につけることが可能になるからである。・・・

この部分を読んで、今から8年以上も前にあるつぶやきを見て書いたエントリを思いだしました。ここで書かれていることは、今回の准教授氏の言っていることそのものです。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/02/post-3393.html (高等専門学校についての興味深いつぶやき)

ある方のつぶやきに、高等専門学校についての興味深い指摘がありましたので、引用しておきます。「教育の職業的意義」とか論ずるなら、ここに書かれたことを表裏ともに踏まえておく必要があるのでしょう。

>中学時代、こんな下らん受験勉強で将来が決められるなんて冗談じゃない!と高専に行った。結果、受験勉強など7年間で一週間とせず大学院まで行けてしまった。こんなラクな脇道があるのにガチでセンター挑むとか考えられんわww

>5年間で大学相当の知識と、豊富な実習・実験で専門高校ばりの現場力も兼ね備えられるから、高専という教育システムは良いものだ。文科系の高専も作ればいいと思うよ。有力な専門学校を改組したりして。

>ただし高専は退学がめっちゃ多いんだよなぁ。大学なら留年なんてよくある話だけど、高専生は義務教育の中学生の感覚を引きずっているとこがあって、留年するとすぐ辞めちゃう。

>うちのクラスも44人入って、5年ストレートで出た人30人いなかったわ。3年や4年で留学生や高校(主に工業高校)からの編入生を補充するから、卒業人数だけ見ればさほど落ちてるように見えないけど実はごっぞり落ちてる。

>高専は工学に対する興味、やる気が無くなると終わる。私は受験勉強はめっちゃ嫌いだけど、専門の授業や実験は有意義に感じられたからさほど苦痛じゃなかった。逆に工学が嫌い・苦痛な人には高専は地獄だ。就職が良いからなんて動機でホイホイ入るとあっさり沈む

(つづき)

この方のつぶやきの続き。日本の教育制度への提言編。

>現状の高専は中学校の上位20%の生徒しか入れない上に、ほぼ工学系しかない。敷居が高すぎる上に品揃えが悪い。もっと拡充すべき。

>現実はそうなんよね~(´・ω・`) 工学系はこのくらいの定員でいいとしても、医療とか会計とかあったら選択肢が増えていいよねと思う。

>高専・専攻科という教育システムが優れているから、他の分野でも使うべきとおも。それにその方法で女子増えても、医療系と工学系高専はキャンパス別だろうとw

>純粋に教育システムとして、6334制より6352制の方が優れているのは事実。高専専攻科は貴重な成功例なのだから、文科省は自信を持って高専のシステムを他の分野にも拡大すればいいと思うよ。

少なくとも、経済的なリソースがそれほど潤沢でない若者が、技術系のハイエンドの職業人生を目指すのであれば、高専→大学後期課程に編入→大学院というコースは極めて有効な選択肢であることは確かでしょう。

先日亡くなった眉村卓の用語でいえば、産業士官候補生としての進路選択には有効な選択肢でしょう。ビッグタレントを目指すのであれば、もう少し雑学も齧ったほうがよかったのでしょうが。

 

 

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