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« マルチジョブホルダーへの雇用保険の適用問題@『労基旬報』2019年10月25日号 | トップページ | 西川幸孝『物語コーポレーションものがたり』 »

2019年10月24日 (木)

『タニタの働き方革命』雑感

51ae66rlz0l 最近話題になっているタニタの「社員のフリーランス化」について、社長自ら編著の本が出ていることを知り、読んでみました。

https://www.nikkeibook.com/item-detail/32282

◎タニタの「日本活性化プロジェクト」とは?
希望社員を雇用から契約ベース(フリーランス)に転換、主体性を発揮できるようにしながら、本人の努力に報酬面でも報いる社内制度。
経営者感覚を持って、自らの仕事内容や働き方をデザインでき、働く人がやりがいを持って心身ともに健やかに働ける「健康経営」の新手法。 

昨今の雇用類似の働き方をめぐる諸情勢等に鑑みると、絶賛と罵倒の応酬になりそうなこのテーマなんですが、実のところ読んでみた感想は、「これって、メンバーシップ型雇用からの脱却という話をオーバーランしているだけなんじゃないか」というものでした。

というのも、本文中にもジョブ型雇用、メンバーシップ型雇用という言葉が出てくるのですが、フリーランス(非雇用)と立派な雇用であるジョブ型雇用がどうもいささか脳内でごっちゃになっている感がするのです。

・・・個人事業主になると、その直前まで社員として取り組んでいた基本的な業務以外に、他の部署から新たに仕事を頼まれるケースもあります。従って、業務内容は「基本業務」と「追加業務」に分け、「追加業務」を請け負う場合は、その分の報酬を「成果報酬」として上積みするすることとしました。

 また「基本業務」でも、想定以上の成果を上げれば、その分は成果報酬に反映させます。頑張りがきちんと報酬面でも報われるようにすることで、モチベーションアップにもつながるでしょう。

 従来のメンバーシップ型企業では、業務内容が曖昧であるがゆえに、「同じ給与なのに、次々に新たな業務が付け加えられる」といった事態が起こり、働く側も不公平感や不満を持ちやすい面がありました。それを、個人事業主への移行を機に業務内容を「基本業務」と「追加業務」とにしっかりと分け、一つ一つの仕事にきちんと「値付け」するという発想です。

 付け加えていえば、会社の中で「この仕事はいくら」という相場観が形成されていく効果にも期待しています。これまでは社員に「悪いけどちょっとこれもお願い」と気軽に頼んでいたことも、「仕事」として発注することになると、頼む側も金額を意識するようになるでしょう。・・・

いや、ある意味、気持ちは凄く良く伝わってくるのですが、それって要するにジョブ型雇用に徹底するぞといっているのと何が違うのだろうか、と。ジョブ型「雇用」とは、つまり人ではなく仕事に値札がついているということなのですから。

あるいは、これも現在の日本の状況下では言っていることはよくわかるのですが、

・・・個人事業主として独立するのですから、基本的に働く時間の制約もなくなるのは当然です。24時間をどう使うかは、すべて当人次第。法律上でも、業務委託契約においては、発注者である会社が、出退勤や勤務時間の管理を行うことは禁じられています。・・・

 自己裁量ですから、業務委託契約書に書かれている業務をきちんと遂行できるのであれば、週休3日、4日でもかまいません。極端なことを言えば、ある期間は週末も含めて集中的に働き、その後1か月のまとまった休みを取って旅行することも可能なのです。・・・

いやいや、業務委託契約で労働時間管理をしてはいけませんが、雇用契約で時間管理をしなければならないわけではありません。まさにそういう(雇用の枠内で)裁量的に働く人のために裁量労働制というしくみもあるし、やたらに狭くなってしまいましたが高度プロフェッショナル制度というのも出来ました。少なくとも理屈の上では、時間管理を外すが為に雇用契約から飛び出なければならないというわけではないのです。

現在の日本では、雇用契約である以上時間管理あるべしという発想が強く、裁量労働制やいわゆるホワイトカラーエグゼンプションなど雇用契約の範囲内での労働時間規制の緩和に反対する人が多いために、こういう風に却って個人請負いに追い散らす傾向もあるのは否定できないのですが、少なくとも理屈の上では、ジョブディスクリプションに書かれている職務をきちんと遂行できるのであれば、週休3日でも4日でもずっと休みでもかまわないという雇用契約は十分可能です。それを目の敵にする必要は全くないと私は思います。

あるいは、

・・・個人事業主になると、時間だけでなくどこで働くかも当然、自由になります。自宅やカフェでの作業の法が効率的であれば、毎日会社に来る必要もありません。子育てや介護のために、自宅をベースにした方が良い人には好都合でしょう。・・・

いやだから、テレワークとか、リモートワークとかいろいろとやっているんですけど。

それ以外にも、「個人事業主になると、これまで以上に社外の人と接する機会が増え、知識や人脈が広がる可能性が高い」とか、いやいや社員にそういう機会を与えてなかったのかよ、とか。

この本全体からは確かにある種の「善意」が感じられます。これまでのメンバーシップ型雇用にがんがらじめになっている社員に、もっと自由で裁量性のある働き方を認めてあげようという善意は感じられます。でも、それはフリーランスにしければ絶対出来ないような話ではないのです(社会保険等の制度的な面は別として)。

「メンバーシップ型雇用からの脱却という話をオーバーランしているだけなんじゃないか」という感想のよってきたる所以です。

 

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