黒岩容子『EU性差別禁止法理の展開』
黒岩容子さんより『EU性差別禁止法理の展開 形式的平等から実質的平等へ、さらに次のステージへ 』(日本評論社)をお送りいただきました。ありがとうございます。
https://www.nippyo.co.jp/shop/book/8124.html
1970年代半ば以降、様々な新法理を生成し展開させてきたEU性差別禁止法を検討し、現代社会での差別に対抗しうる法理を探る。
EU労働法の中でも、男女平等法制は割と多くの方々が研究対象として取り上げてきた領域ですが、それにしてもそれだけで一冊の研究書をまとめ上げるのは大きな仕事です。
ちなみに拙著『EUの労働法政策』では、第4章の労働人権法政策に約90ページを充てていますが、その中には性別以外の差別禁止法性の解説も含まれているので、詳しさの程度は全然違います。
第1部 形式的平等アプローチの展開
第1章 EU性差別禁止立法の歴史
第2章 形式的平等アプローチの展開とその限界第2部 実質的平等アプローチの導入および展開
第3章 間接性差別禁止法理の生成および展開
――性差別として禁止する類型(性差別概念)の拡大1
第4章 妊娠・出産に関する性差別禁止法理の生成および展開
――性差別として禁止する類型(性差別概念)の拡大2
第5章 ハラスメントに関する性差別禁止法理の生成
――性差別として禁止する類型(性差別概念)の拡大3
第6章 ポジティブ・アクションに関する法理の生成および展開
――一方の性に対する優遇による性平等の積極的な実現とその限界第3部 近年の立法・判例動向と理論研究の進展
――次のステージへの課題と挑戦
第7章 近年の立法・判例動向をめぐって
第8章 次のステージへの挑戦:理論研究の進展
21世紀に入ってからのEU司法裁判所の判決の動向についてもかなり批判的な分析が加えられており、この分野に関心のある方々にとっては必読書でしょう。
そのうえで、ややトリビアなことですが、いささか気になったのは、黒岩さんが割と繰り返し、リスボン条約によって基本権憲章に法的拘束力が付与された、これは大したことなんだ、と述べていることで、それはいささかミスリーディングなのではないか、と。
もちろん黒岩さんもちゃんと、それが制約付きだということは断っているんですが(p203)、ただ日本語で「法的拘束力」というと、あたかも裁判所が法的根拠として正面から堂々と使えるものであるかのように思われてしまいかねないので、そこは(気持ちはわかるものの)ちょっと言いすぎだと思います。
« 呉学殊『企業組織再編の実像』 | トップページ | AOTSシンポジウム「イギリス・フランスの労働契約と紛争解決制度」 »
« 呉学殊『企業組織再編の実像』 | トップページ | AOTSシンポジウム「イギリス・フランスの労働契約と紛争解決制度」 »
コメント