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2019年10月23日 (水)

マルチジョブホルダーへの雇用保険の適用問題@『労基旬報』2019年10月25日号

『労基旬報』2019年10月25日号に「マルチジョブホルダーへの雇用保険の適用問題」を寄稿しました。

 現在、労働政策審議会雇用保険部会で雇用保険制度の見直しについての議論が行われています。主な論点は基本手当の在り方、財政運営(保険料率、国庫負担)、雇用継続給付等もありますが、喫緊かつ最重要の課題はマルチジョブホルダーへの対応です。この「マルチジョブホルダー」という表現は雇用保険サイド特有のもので、労働時間規制の在り方や労災保険制度の見直しを行っている労働基準局サイドでは「副業・兼業」という普通の言い方をしています。
 この問題が政策アジェンダに載ってきたきっかけは周知の通り2017年3月の『働き方改革実行計画』で、「労働者の健康確保に留意しつつ、原則副業・兼業を認める方向で、副業・兼業の普及促進を図る」とされたことです。これを受けて厚生労働省は柔軟な働き方に関する検討会報告に基づいて、2018年1月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」と「改定モデル就業規則」を公表しました。同報告は「雇用保険の複数就業者の適用について検討すべき」と述べており、これを受けて同月、職業安定局に複数の事業所で雇用される者に対する雇用保険の適用に関する検討会(学識者4名、座長:岩村正彦)が設置され、具体的な法制度の議論が始まったのです。現在は、同時に2以上の雇用関係にある労働者については、当該2以上の雇用関係のうち、当該労働者が生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける1の雇用関係(週所定労働時間20時間以上)についてのみ被保険者となり、1の雇用関係が解除されたとしても、他の雇用関係が被保険者となりえる形で維持されていれば、雇用保険制度の保険事故である失業状態には当たらず、給付は行われませんが、これをどう考えるかが論点でした。この検討会の報告書は2018年12月にとりまとめられました。
 まず適用基準については、マルチジョブホルダーが雇用される事業所の週所定労働時間を合算して20時間以上となる場合に適用する合算方式と、現行の適用基準の週所定労働時間20時間そのものを下げる基準引下げ方式の2案を示しつつ、後者は現行の一般被保険者の基準も変える理由が付かないと否定的です。しかし合算方式にしても、対象労働者の他事業所での労働時間を継続的に把握することは現実的でなく、強制適用とすることは現時点では実行可能な選択肢になりません。そこで、本人からの申出を起点として適用することとせざるをえませんが、その場合自己都合離職も保険事故と捉えていることから逆選択が生ずる可能性が高いと指摘します。
 次に給付対象となる保険事故については、マルチジョブホルダーは複数の雇用のうちいずれか一つを離職し、残る雇用で賃金を得つつ、求職活動を行う、いわゆる部分失業の状態が多いと想定されることから、適用要件(週所定労働時間20時間)を満たさなくなり被保険者資格を喪失する段階で同時に保険事故の発生と考えるのが自然だとします。ちなみに現行制度でも、一般被保険者が週所定労働時間20時間を割ると被保険者資格を喪失し、「離職」とみなされ、離職票が交付されるので、それと同じことになるわけです。
 しかし給付方法については、マルチジョブホルダーは部分失業が多いと想定されるので、4週間の一度の失業認定を行って失業している日について支給する基本手当方式はなじまないとします。具体的には、失業認定日にハローワークに出頭を求めることは難しいですが、認定日の変更を柔軟に認めると失業認定の意味合いが没却されかねず、一般の基本手当受給者とのバランスを失しますし、内職減額がかかるケースが増えて基本手当支給額が小さくなってしまうという問題があります。そこで、高年齢求職者給付のような一時金方式が望ましいとします。
 賃金日額の算定についても、全ての雇用関係に基づく賃金を合算する賃金合算方式では、継続する雇用関係に基づく賃金が給付の算定基礎に加わるため離職全賃金に比べて離職後の賃金と給付の合計額が過大になる問題があるので、離職した雇用関係に基づく賃金のみで計算する賃金非合算方式をとるべきとします。ただこの場合、給付額が小さくなりすぎる可能性があり、給付方法で基本手当方式をとると内職減額で給付がほぼ行われない事態も想定されるので、この面からも一時金方式がよいということになります。
 一方、申出起点適用で、一時金方式ということになると、自己都合離職も給付対象としている現行制度下では逆選択やモラルハザードが起きる可能性が高まります。報告書は「自己都合離職について、強制適用の下で現行の基本手当と取扱いを変えるのは難しい」と述べますが、裏返していえば、申出起点適用の一時金方式であれば、「自己都合離職の場合は給付を制限するなど、一定の工夫が必要」とします。
 なおその他の給付については、教育訓練給付は対象にしますが、高年齢雇用継続給付は対象外で、育児休業給付と介護休業給付は対象にしますが部分休業は対象外と整理しています。
 もっともこのようにいろいろ論じたその後に、「そもそも、マルチジョブホルダーに対する雇用保険の適用の必要性が直ちに高いとは評価できない状況では、こうした制度の導入を提言するのは難しい」と、話をひっくり返すような否定的な結論を示し、むしろ雇用の安定化の必要性は高いマルチジョブホルダーに対しては「求職者支援制度を始めとする各種の施策を活用し、支援を行っていく」べきと述べています。そしてそれでもなお推進するというのであれば、「まずは、マルチジョブでの働き方になじみ、上記のような制度設計にも親和性が高く、かつ、財政影響を予測しやすい対象者層を抽出し、試行的に制度導入を図ることも考えられる」と述べ、現段階での全面導入には消極的な姿勢を示しているのです。
 こういう報告書を受けて、2019年9月から労働政策審議会雇用保険部会(公労使各5名、部会長:阿部正浩)で審議が始まり、冒頭述べたようにマルチジョブホルダーへの対応を始め、基本手当や財政運営、継続給付も含めて議論がされています。検討会報告書はあれこれ検討した挙げ句やや否定的というか消極的な姿勢のにじむものとなったわけですが、厚生労働省としては既に副業・兼業の促進という政策アジェンダが立てられ、労働時間規制や労災保険の見直しも並行して進められている以上、何らかの対応をせざるを得ないのでしょう。

 

 

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