鶴光太郞編著『雇用システムの再構築に向けて』
鶴光太郞編著『雇用システムの再構築に向けて』(日本評論社)をお送りいただきました。ありがとうございます。
https://www.nippyo.co.jp/shop/book/8128.html
日本の雇用システムの根幹にある無限定正社員システム。その歴史、人事管理、賃金、労働時間はどうなっているか。打破する方策は?
さて、このタイトルを見て、なんだかどこかで見たようなタイトルだなあ、と思ったのですが、何のことはない、私の10年前の新書のサブタイトルでしたな。
さて、「再構築」されるべき「雇用システム」とは、いうまでもなく雇用契約の無限定性で特徴付けられる日本型雇用システムです。
RIETIのホームページに、鶴さんの紹介文が載っていますが、これが本書のメッセージを余すところなく伝えています。
https://www.rieti.go.jp/jp/publications/archives/070.html
大企業を中心に働き方改革の「うねり」は更に勢いを増しながら広がっている一方で、企業間で働き方改革の取り組みに差もでてきています。その背景の一つには、これまでの日本的といわれてきた雇用・人事システムに対しての捉え方、課題、必要な改革についての大局的な視点が欠けていることが挙げられます。こうした認識の下で、本書では、日本の雇用システム全体をどのように再構築するべきかを鳥瞰しつつ、雇用システムの歴史的側面、人事管理システム、賃金システム、労働時間システム、教育システムについて、分析・提言を行っています。
今までの鶴さん編著のシリーズと同様、RIETIの労働市場制度改革プロジェクトの成果ですが、その完結編に当たるということです。
中身は以下の通りですが、
はじめに 鶴 光太郎
第1章 日本の雇用システムの再構築---総論 鶴 光太郎
第2章 日本の雇用システムの歴史的変遷---内部労働市場の形成と拡大と縮小 林真幸・森本真世
第3章 「新時代の日本的経営」の何が新しかったのか?---人事方針(HR Policy)変化の分析--- 梅崎修・八代充史
第4章 転勤・異動・定年後雇用の実態 鶴 光太郎・久米功一 ・安井健悟 ・佐野晋平
第5章 ダイバーシティ経営と人事マネジメントの課題---人事制度改革と働き方の柔軟化 佐藤博樹
第6章 賃金プロファイルのフラット化と若年労働者の早期離職 村田啓子・堀雅博
第7章 雇用形態間の賃金格差 安井健悟 ・佐野晋平・久米功一・鶴 光太郎
第8章 日本型『同一労働同一賃金』改革とは何か?---その特徴と課題 水町勇一郎
第9章 労働者の健康向上に必要な政策・施策のあり方:労働経済学研究を踏まえた論考 黒田祥子・山本勲
第10章 労働時間法制改革の到達点と今後の課題 島田陽一
第11章 ”大学での専門分野と仕事との関連度”が職業的アウトカムに及ぼす効果---男女差に注目して--- 本田由紀
第12章 寺院・地蔵・神社の社会・経済的帰結---ソーシャル・キャピタルを通じた所得・幸福度・健康への影響 伊藤高弘・大竹文雄・窪田康平
鶴さんの総論を初めとして、おおむね必要な各分野にわたって的確な各論が配置されているのですが、正直最後の第12章はなんだかよくわかりませんでした。いや、中身はなかなか面白いのですが、それが「雇用システムの再構築」とどう結びつくのかがよくわからなかったということです。
ついでながら、このプロジェクト自体には私は全く関わってはおりませんが、一度話を聞きたいというご依頼があり、虎ノ門の大同生命ビルに行ってお話しをさせていただいたことはあります。
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日本型雇用って、リベラルの観点からは原理的に批判が可能ですが、ソーシャルの観点からは、「たまたま現在の状況」においては得策でないと思われるという程度の話にしかならないので、それは批判としては極めて弱く、日本の厚生労働政策が主にソーシャル的な観点で行われてきたことのツケが深刻化している、という風に感じますね。再構築が必要だ、と言いながら、政策として、実際に出てくるものが、大したことがないのは、それが原因ですね。
投稿: りべさよ | 2019年10月 7日 (月) 23時23分