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2019年10月

2019年10月31日 (木)

待機時間は1割だけ労働時間@福岡地裁

福岡地裁の令和元年9月20日判決は、市営バスの運転手の折り返し点での待機時間の労働時間性について、なかなか興味深い判断をしています。細かい事案の中身はリンク先をじっくり見てください。

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/007/089007_hanrei.pdf

運転手は転回場所に到達後、遺留品の確認,車内の清掃等の業務を行い(この部分は労働時間と扱われている)、その後はバス車内又は車外において過ごし,その間,飲み物を飲み,携帯電話を操作し,又は喫煙をするなどする状況もみられますが、場合によってはバスの乗客から,行き先案内,両替,ICカードの積増し等の対応を求められ,これに応じることがあったようです。

判決は、基本的には待機時間は労働時間には当たらないと判断するのですが、

・・・本件請求期間中,待機時間一般について,その間乗務員が労働契約上の役務の提供を義務付けられており被告の指揮命令下に置かれていたものと評価することはできないから,本件請求期間中の待機時間(その間に実作業が生じた場合における当該作業に要した時間を除く。)が一般に労基法上の労働時間に当たるものとは認められないというべきである。・・・

ところがそのすぐ後に「うーーん、でもなあ」と悩ましげに心の中をさらけ出します。

・・・ところで,以上に述べるところからすると,待機時間は,原告らが主張するところとは異なり,概ね休憩時間と認めるべきものということができる。しかし,これら判示したところに照らしても,例えば,転回時間内に終了できない業務が発生したり,転回場所や始発場所におけるバスの移動等においても,なお労働時間と考えられる時間が全く存在しないとまでは見受けられず,他方において,遅れ報告書の提出が必ずしも普及していない現状に鑑みると,このような労働時間を存しないものとして割り切ることには躊躇を感ぜざるを得ない。

そして、

・・・また,路線バスにおける一つの系統の運転業務と次の系統の運転業務との間の時間の一部であるという待機時間の性質に鑑みると,その間が短い待機時間においては,仮にその間に実作業が生じなかったとしても,乗務員は,待機時間の開始後直ちに次の運転業務に備える必要があったということができるから,転回時間の存在を考慮しても,乗務員がその前後の労働から解放されていたとはいい難く,むしろ,乗務員は,なお被告の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるというべきである。

こういう相矛盾するようなことをだらだらと書いた挙げ句、なぜかこういう結論が飛び出します。

・・・そこで,以上に述べるような事情に加え,証拠(乙110)及び弁論の全趣旨から認められる各待機場所の性質及び待機時間の長さに鑑みて,待機時間の1割を労基法上の労働時間に当たるものと認めるのが相当である。

いや、だからなんで1割なんて数字が出てくるの?

大体は労働時間じゃないんだけれど、全部そうだと言い切れないので悩ましい、という気持ちはよく伝わってきますが、だから1割だけ労働時間という根拠が不明です。

 

 

2019年10月29日 (火)

社会保険の適用拡大の方向性@WEB労政時報

WEB労政時報に「社会保険の適用拡大の方向性」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers-taiken/article.php?entry_no=76966

本連載ではこれまで何回か被用者社会保険(厚生年金保険と健康保険)のパートタイム労働者等への適用拡大問題を取り上げてきました。2018年10月16日の「短時間労働者の社会保険からの排除と復帰」や、2019年5月14日の「被用者社会保険の適用拡大問題」などです。今回は、去る9月20日に取りまとめられた「働き方の多様化を踏まえた社会保険の対応に関する懇談会」の「取りまとめ」の内容を紹介し、ややあいまいな表現の裏に隠れた今後の方向性を探ってみたいと思います。
 同取りまとめは、まず基本的な考え方として、「男性が主に働き、女性は専業主婦という特定の世帯構成や、フルタイム労働者としての終身雇用といった特定の働き方を過度に前提としない制度へと転換していくべき」と、いわゆる標準世帯を基準にすべきでないという考え方を明確に打ち出し ・・・・・

 

2019年10月28日 (月)

カギ括弧付の「同一労働同一賃金」@『ジュリスト』11月号

L20190529311 『ジュリスト』11月号は、「「同一労働同一賃金」の今後」が特集です。え?カギ括弧が余分についているって?いやいや、左の表紙にあるように、この特集タイトルはそもそもカギ括弧付なんです。そして、そこには深い意味が込められているのですよ。

http://www.yuhikaku.co.jp/jurist/detail/020319

【特集】「同一労働同一賃金」の今後

◇「同一労働同一賃金」の位置づけと今後――特集にあたって●荒木尚志……14

◇[座談会]「同一労働同一賃金」と人事管理・雇用システムの今後●山川隆一●安藤至大●神吉知郁子●佐藤博樹……18

◇正規・非正規格差是正規制の法的位置付け――比較制度的視点を踏まえて●富永晃一……38

◇非正規雇用の待遇に関する裁判例とパート・有期法8条・9条の展望●小西康之……45

◇短時間・有期労働法における人事管理の課題と法的課題●土田道夫……51

普通、カギ括弧は「いわゆる」という意味で用いられることも多く、この特集でも基本的にはそうなんですが、むしろ「世の中ではそういう言い方をしているけれども、それは本当は正しくはないんだけれども、仕方がないからそういう言い方をしておくけれども」という腹の中からぶつぶつ言っている音が聞こえてきそうな、そういう「いわゆる」なんですね。少なくとも、同じ有斐閣から『同一労働同一賃金のすべて』というタイトルの本を出している水町勇一郎さんはこの特集には姿を現していません。

座談会の中では、安藤至大さんがこう語っています。同一労働同一賃金は本当にやるならまずいけれども、この法律はそうじゃないからいいんだ、という褒めているのか貶しているのか、みたいな。だからこそカギ括弧付なんですね。

・・・そもそも本来の意味での「同一労働同一賃金」というのは、日本企業で見られることが多い職能給はやってはいけないということを意味します。今やっている仕事に合わせて給料を払う必要があるからです。しかしそれでは日本的雇用を不可能にしてしまいます。未経験者の新規採用や長期雇用も出来ない。年功賃金も出来ないことになります。こういう一定の合理性のあるしくみを全部アウトにしてしまうのは、あまりにも乱暴な議論だと私は当初考えていました。・・・

・・・しかし、実際に成立した法律をよく検討すると、これは運用次第では悪くない内容だと私は考えるようになりました。・・・

 

 

 

2019年10月26日 (土)

UAゼンセン全タイヨー労組の街宣活動とパワハラ対策

UAゼンセンの全タイヨー労組が会社の不当労働行為に抗議して街宣活動をしているようです。『労働新聞』の記事から、

https://www.rodo.co.jp/news/81036/

 鹿児島県を中心にスーパーマーケットを展開する㈱タイヨー(鹿児島県鹿児島市)の企業別労働組合である全タイヨー労働組合(白石裕治中央執行委員長)と上部団体のUAゼンセン(松浦昭彦会長)は、経営陣に近い元部長が設立した労組と称する“組織”による脱退勧奨が支配介入に当たるとして、東京都労働委員会に救済申立てをしたことを明らかにした。平成29年に店長以上の役職者の賃金を一方的に不利益変更した頃から、労使関係が悪化していた。全タイヨー労組とUAゼンセンは、鹿児島で街宣活動も展開、連合鹿児島など約400人が応援に結集した。・・・

その街宣活動の様子は、この動画にかなり詳しく載っていますが、

https://uazensen.jp/taiyo/

 

04_shiraishi 実は、この記事を見て、タイヨーという会社名を見て、割と鮮明によみがえってきた記憶があります。それは、まさにこのUAゼンセン全タイヨー労組の白石裕治中央執行委員長が、JILPT主催の職場のいじめ・嫌がらせ・パワハラの労働政策フォーラムに出られて、そのタイヨーにおける取り組みを語られているんです。

https://www.jil.go.jp/event/ro_forum/20120531/houkoku/index.html https://www.jil.go.jp/event/ro_forum/20120531/houkoku/04_shiraishi.html

この中では、労使が共同してパワハラ対策に取り組んでいるという姿が語られていたんですが、

 ・・・会社側からも、「ハラスメント対策は労使共同で取り組まなければならない優先課題である」との理解を得ています。会社にとっても、パワハラの発生は、職場の生産性低下や被害者のメンタルヘルス不調を引き起こすといった様々なリスクがあり、生き残っていくためには取り組むべき最重要課題だと位置付けています。
2007年には社長が「タイヨーグッドカンパニー(よか企業)宣言」として、「タイヨーはすべての従業員が自信と誇りを持って働く企業であり続けます」との見解を打ち出しました。このトップダウンの具現化こそハラスメント対策の基本だと考えています。・・・

そういう会社だったはずが、どうしちゃったんでしょうか?

 

 

 

 

2019年10月25日 (金)

源氏物語はセクハラストーリー!?

712_11 『日本労働研究雑誌』11月号は、毎年恒例の「労働判例この1年の争点」と、特集は「ハラスメント」です。

https://www.jil.go.jp/institute/zassi/new/index.html

ハラスメントについては、

各国ハラスメント法制とわが国の現状  山﨑文夫(平成国際大学名誉教授)

パワー・ハラスメント防止のための法政策 小畑史子(京都大学大学院教授)

ハラスメント加害者の更生はいかにして可能か─加害者への臨床心理社会学的な実践をもとにして考える 中村正(立命館大学教授)

防止対策強化でセクハラは無くなるか─職場の権力構造とセクシュアル・ハラスメント 牟田和恵(大阪大学大学院教授) 

といった論文が並んでいますが、ここでは思いっきり現代の労働問題とはかけ離れているように見えるけれども、実は通底している問題を指摘している一節を。牟田さんのセクハラ論文の中に、こういう一節が出てくるんです。

・・・近代的労働形態の登場以前、大店の番頭や若主人から奉公人や女中に「手を出す」「手を付ける」などの話は珍しくもなかったし、さらに言えば、平安時代に書かれた『源氏物語』さえ、帝の息子であり朝廷で権勢を誇る光源氏が朝廷で働く女官を、相手が嫌がっていようが、次々と性的に籠絡していく物語で、セクハラストーリーの連続として読むことも出来る。・・・

いやいや、これを読んだあなたが今思ったことを牟田さんはちゃんと予想していて、これに付けられた注で、こう述べているんですね。

・・・筆者がこのことを指摘すると「日本の誇る古典文学をセクハラ物語と見るなんて、侮辱である」という激しい反発を受けることがある。しかしむしろ逆に筆者は、主人公ではない周縁的な東女人物である女性たちの、現在にも通じる、表面化しがたい葛藤や苦難を描いているという点で、素晴らしい作品であるとより高く評価できると考えていることを蛇足ながら付言しておきたい。・・・・

いや、この一節がいちばん印象に残ったもので。

 

 

 

『ビジネス・レーバー・トレンド』11月号

201911 『ビジネス・レーバー・トレンド』11月号は「無期転換ルールへの対応」が特集です。

https://www.jil.go.jp/kokunai/blt/index.html

JILPT調査 無期転換ルールに企業等とそこで働く労働者はどう対応しているのか ―「無期転換ルールへの対応状況等に関する調査」結果 調査部

事例取材 改正労働契約法を踏まえて有期契約労働者の処遇改善に取り組む企業

【事例1】法定より早い通算勤続3年超で無期転換申込権を付与する新制度を導入――ヤマト運輸株式会社

【事例2】採用から2年経過を目途にパートタイマー全員を無期契約へ移行――株式会社京都銀行

【事例3】契約社員とパート社員の雇用区分を無期労働契約に移行――株式会社ファンケル

インタビュー 無期雇用派遣を最も注力するサービスの一つに ――アデコ株式会社 川崎健一郎・代表取締役社長に聞く 

このうち、直用の無期転換とはちょっと違う派遣の無期転換についてのアデコの話が面白いです。労契法による無期転換、派遣法による無期転換のほかに、「ハケン2.5」という仕組みを設けたようで、それは、他の派遣会社から派遣されて2年6か月経った人を、始めから無期派遣として雇入れるというものだそうです。また、「キャリアシード」という付加価値型の無期派遣もあり、月給制をとっているとか。

あと、海外情報では、

ドイツ 金属産業労組とYouTuber組合の連携キャンペーン

が興味深い記事です。あのIGメタルとユーチューバーって、いかにも対極にありそうですが、連携してユーチューブと親会社のグーグルに対して「フェア・チューブ」というキャンペーンを始めたという話題。

ユーチューバーの労働者性という話にもつながりますが、むしろ今年6月に成立したEUのオンライン仲介サービスのビジネスユーザーのための公正性と透明性の促進に関する規則でいうところのビジネス・ユーザーとしての法的保護が直接的にはかかわる問題でしょうね。

日本の労働組合もこういう関心を持っているところがあるのでしょうか。

 

西川幸孝『物語コーポレーションものがたり』

9784532323011 西川幸孝『物語コーポレーションものがたり 若者が辞めない外食企業』(日本経済新聞出版社)をお送りいただきました。

https://www.nikkeibook.com/item-detail/32301

「焼肉きんぐ」「丸源ラーメン」「ゆず庵」などを全国展開する物語コーポレーションは14期 連続増収増益、既存店売上も9期 連続前年比プラスという驚異の成長を続けている。そのなかで注目されるのが業界平均を大きく下回る離職率に象徴されるユニークな人材育成、経営スタイルで、それを実践してきた実質創業者・小林佳雄は「カンブリア宮殿」にも登壇、今や講演・執筆依頼が殺到。また小林による就活生向けセミナー(会社説明会ではない)は大変な人気を博している。

小林経営の最大の特徴は、人間の本能に根ざした「Smile & Sexy」という概念を理念に掲げ、人の本性に直接働きかける具体的実践的な取り組みを行っていること。その結果、人が本来持つ潜在能力が発現していると考えられ、モチベーション向上やダイバーシティ実現の面でも進捗がみられるのだ。さらに社員の自主的な行動を尊重・奨励することで集団としての機能を高め、持続的な高業績をもたらしているといえる。

本書は、人事・労務、組織開発コンサルタントとして同社をウォッチしてきた著者が、「働き方改革」が問われるいま、制度的取り組みだけではなし得ないモチベーション、ダイバーシティ、組織形態、意思決定、マネジメントスタイルといった経営上の重要テーマをどのように考えるべきかについてのひとつのあり方を、同社の具体的取り組みを示し、業界注目の企業でありながらあまりマスコミ等に登場しない小林の哲学、ナマの言葉を織り込みながら解説するもの。

日本企業の全般的な機能低下が危惧されている一方で、そこで働く人間の非効率な長時間労働は依然として解消されず、しかもそれが能力向上や企業成果に結びついていない現状を改善するヒントを提供することを目指す。 

ということなんですが、ふむ、いささか肩に力が入りすぎている感が。というのも、第1章 進化した人間と適応集団は、ほとんどノア・ハラリの人類史みたいになっているし、第4章 ミーム駆動型経営でも、ドーキンスがやたらにでてきて、却ってなんの話だか・・・という感じになっているような。

2019年10月24日 (木)

『タニタの働き方革命』雑感

51ae66rlz0l 最近話題になっているタニタの「社員のフリーランス化」について、社長自ら編著の本が出ていることを知り、読んでみました。

https://www.nikkeibook.com/item-detail/32282

◎タニタの「日本活性化プロジェクト」とは?
希望社員を雇用から契約ベース(フリーランス)に転換、主体性を発揮できるようにしながら、本人の努力に報酬面でも報いる社内制度。
経営者感覚を持って、自らの仕事内容や働き方をデザインでき、働く人がやりがいを持って心身ともに健やかに働ける「健康経営」の新手法。 

昨今の雇用類似の働き方をめぐる諸情勢等に鑑みると、絶賛と罵倒の応酬になりそうなこのテーマなんですが、実のところ読んでみた感想は、「これって、メンバーシップ型雇用からの脱却という話をオーバーランしているだけなんじゃないか」というものでした。

というのも、本文中にもジョブ型雇用、メンバーシップ型雇用という言葉が出てくるのですが、フリーランス(非雇用)と立派な雇用であるジョブ型雇用がどうもいささか脳内でごっちゃになっている感がするのです。

・・・個人事業主になると、その直前まで社員として取り組んでいた基本的な業務以外に、他の部署から新たに仕事を頼まれるケースもあります。従って、業務内容は「基本業務」と「追加業務」に分け、「追加業務」を請け負う場合は、その分の報酬を「成果報酬」として上積みするすることとしました。

 また「基本業務」でも、想定以上の成果を上げれば、その分は成果報酬に反映させます。頑張りがきちんと報酬面でも報われるようにすることで、モチベーションアップにもつながるでしょう。

 従来のメンバーシップ型企業では、業務内容が曖昧であるがゆえに、「同じ給与なのに、次々に新たな業務が付け加えられる」といった事態が起こり、働く側も不公平感や不満を持ちやすい面がありました。それを、個人事業主への移行を機に業務内容を「基本業務」と「追加業務」とにしっかりと分け、一つ一つの仕事にきちんと「値付け」するという発想です。

 付け加えていえば、会社の中で「この仕事はいくら」という相場観が形成されていく効果にも期待しています。これまでは社員に「悪いけどちょっとこれもお願い」と気軽に頼んでいたことも、「仕事」として発注することになると、頼む側も金額を意識するようになるでしょう。・・・

いや、ある意味、気持ちは凄く良く伝わってくるのですが、それって要するにジョブ型雇用に徹底するぞといっているのと何が違うのだろうか、と。ジョブ型「雇用」とは、つまり人ではなく仕事に値札がついているということなのですから。

あるいは、これも現在の日本の状況下では言っていることはよくわかるのですが、

・・・個人事業主として独立するのですから、基本的に働く時間の制約もなくなるのは当然です。24時間をどう使うかは、すべて当人次第。法律上でも、業務委託契約においては、発注者である会社が、出退勤や勤務時間の管理を行うことは禁じられています。・・・

 自己裁量ですから、業務委託契約書に書かれている業務をきちんと遂行できるのであれば、週休3日、4日でもかまいません。極端なことを言えば、ある期間は週末も含めて集中的に働き、その後1か月のまとまった休みを取って旅行することも可能なのです。・・・

いやいや、業務委託契約で労働時間管理をしてはいけませんが、雇用契約で時間管理をしなければならないわけではありません。まさにそういう(雇用の枠内で)裁量的に働く人のために裁量労働制というしくみもあるし、やたらに狭くなってしまいましたが高度プロフェッショナル制度というのも出来ました。少なくとも理屈の上では、時間管理を外すが為に雇用契約から飛び出なければならないというわけではないのです。

現在の日本では、雇用契約である以上時間管理あるべしという発想が強く、裁量労働制やいわゆるホワイトカラーエグゼンプションなど雇用契約の範囲内での労働時間規制の緩和に反対する人が多いために、こういう風に却って個人請負いに追い散らす傾向もあるのは否定できないのですが、少なくとも理屈の上では、ジョブディスクリプションに書かれている職務をきちんと遂行できるのであれば、週休3日でも4日でもずっと休みでもかまわないという雇用契約は十分可能です。それを目の敵にする必要は全くないと私は思います。

あるいは、

・・・個人事業主になると、時間だけでなくどこで働くかも当然、自由になります。自宅やカフェでの作業の法が効率的であれば、毎日会社に来る必要もありません。子育てや介護のために、自宅をベースにした方が良い人には好都合でしょう。・・・

いやだから、テレワークとか、リモートワークとかいろいろとやっているんですけど。

それ以外にも、「個人事業主になると、これまで以上に社外の人と接する機会が増え、知識や人脈が広がる可能性が高い」とか、いやいや社員にそういう機会を与えてなかったのかよ、とか。

この本全体からは確かにある種の「善意」が感じられます。これまでのメンバーシップ型雇用にがんがらじめになっている社員に、もっと自由で裁量性のある働き方を認めてあげようという善意は感じられます。でも、それはフリーランスにしければ絶対出来ないような話ではないのです(社会保険等の制度的な面は別として)。

「メンバーシップ型雇用からの脱却という話をオーバーランしているだけなんじゃないか」という感想のよってきたる所以です。

 

2019年10月23日 (水)

マルチジョブホルダーへの雇用保険の適用問題@『労基旬報』2019年10月25日号

『労基旬報』2019年10月25日号に「マルチジョブホルダーへの雇用保険の適用問題」を寄稿しました。

 現在、労働政策審議会雇用保険部会で雇用保険制度の見直しについての議論が行われています。主な論点は基本手当の在り方、財政運営(保険料率、国庫負担)、雇用継続給付等もありますが、喫緊かつ最重要の課題はマルチジョブホルダーへの対応です。この「マルチジョブホルダー」という表現は雇用保険サイド特有のもので、労働時間規制の在り方や労災保険制度の見直しを行っている労働基準局サイドでは「副業・兼業」という普通の言い方をしています。
 この問題が政策アジェンダに載ってきたきっかけは周知の通り2017年3月の『働き方改革実行計画』で、「労働者の健康確保に留意しつつ、原則副業・兼業を認める方向で、副業・兼業の普及促進を図る」とされたことです。これを受けて厚生労働省は柔軟な働き方に関する検討会報告に基づいて、2018年1月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」と「改定モデル就業規則」を公表しました。同報告は「雇用保険の複数就業者の適用について検討すべき」と述べており、これを受けて同月、職業安定局に複数の事業所で雇用される者に対する雇用保険の適用に関する検討会(学識者4名、座長:岩村正彦)が設置され、具体的な法制度の議論が始まったのです。現在は、同時に2以上の雇用関係にある労働者については、当該2以上の雇用関係のうち、当該労働者が生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける1の雇用関係(週所定労働時間20時間以上)についてのみ被保険者となり、1の雇用関係が解除されたとしても、他の雇用関係が被保険者となりえる形で維持されていれば、雇用保険制度の保険事故である失業状態には当たらず、給付は行われませんが、これをどう考えるかが論点でした。この検討会の報告書は2018年12月にとりまとめられました。
 まず適用基準については、マルチジョブホルダーが雇用される事業所の週所定労働時間を合算して20時間以上となる場合に適用する合算方式と、現行の適用基準の週所定労働時間20時間そのものを下げる基準引下げ方式の2案を示しつつ、後者は現行の一般被保険者の基準も変える理由が付かないと否定的です。しかし合算方式にしても、対象労働者の他事業所での労働時間を継続的に把握することは現実的でなく、強制適用とすることは現時点では実行可能な選択肢になりません。そこで、本人からの申出を起点として適用することとせざるをえませんが、その場合自己都合離職も保険事故と捉えていることから逆選択が生ずる可能性が高いと指摘します。
 次に給付対象となる保険事故については、マルチジョブホルダーは複数の雇用のうちいずれか一つを離職し、残る雇用で賃金を得つつ、求職活動を行う、いわゆる部分失業の状態が多いと想定されることから、適用要件(週所定労働時間20時間)を満たさなくなり被保険者資格を喪失する段階で同時に保険事故の発生と考えるのが自然だとします。ちなみに現行制度でも、一般被保険者が週所定労働時間20時間を割ると被保険者資格を喪失し、「離職」とみなされ、離職票が交付されるので、それと同じことになるわけです。
 しかし給付方法については、マルチジョブホルダーは部分失業が多いと想定されるので、4週間の一度の失業認定を行って失業している日について支給する基本手当方式はなじまないとします。具体的には、失業認定日にハローワークに出頭を求めることは難しいですが、認定日の変更を柔軟に認めると失業認定の意味合いが没却されかねず、一般の基本手当受給者とのバランスを失しますし、内職減額がかかるケースが増えて基本手当支給額が小さくなってしまうという問題があります。そこで、高年齢求職者給付のような一時金方式が望ましいとします。
 賃金日額の算定についても、全ての雇用関係に基づく賃金を合算する賃金合算方式では、継続する雇用関係に基づく賃金が給付の算定基礎に加わるため離職全賃金に比べて離職後の賃金と給付の合計額が過大になる問題があるので、離職した雇用関係に基づく賃金のみで計算する賃金非合算方式をとるべきとします。ただこの場合、給付額が小さくなりすぎる可能性があり、給付方法で基本手当方式をとると内職減額で給付がほぼ行われない事態も想定されるので、この面からも一時金方式がよいということになります。
 一方、申出起点適用で、一時金方式ということになると、自己都合離職も給付対象としている現行制度下では逆選択やモラルハザードが起きる可能性が高まります。報告書は「自己都合離職について、強制適用の下で現行の基本手当と取扱いを変えるのは難しい」と述べますが、裏返していえば、申出起点適用の一時金方式であれば、「自己都合離職の場合は給付を制限するなど、一定の工夫が必要」とします。
 なおその他の給付については、教育訓練給付は対象にしますが、高年齢雇用継続給付は対象外で、育児休業給付と介護休業給付は対象にしますが部分休業は対象外と整理しています。
 もっともこのようにいろいろ論じたその後に、「そもそも、マルチジョブホルダーに対する雇用保険の適用の必要性が直ちに高いとは評価できない状況では、こうした制度の導入を提言するのは難しい」と、話をひっくり返すような否定的な結論を示し、むしろ雇用の安定化の必要性は高いマルチジョブホルダーに対しては「求職者支援制度を始めとする各種の施策を活用し、支援を行っていく」べきと述べています。そしてそれでもなお推進するというのであれば、「まずは、マルチジョブでの働き方になじみ、上記のような制度設計にも親和性が高く、かつ、財政影響を予測しやすい対象者層を抽出し、試行的に制度導入を図ることも考えられる」と述べ、現段階での全面導入には消極的な姿勢を示しているのです。
 こういう報告書を受けて、2019年9月から労働政策審議会雇用保険部会(公労使各5名、部会長:阿部正浩)で審議が始まり、冒頭述べたようにマルチジョブホルダーへの対応を始め、基本手当や財政運営、継続給付も含めて議論がされています。検討会報告書はあれこれ検討した挙げ句やや否定的というか消極的な姿勢のにじむものとなったわけですが、厚生労働省としては既に副業・兼業の促進という政策アジェンダが立てられ、労働時間規制や労災保険の見直しも並行して進められている以上、何らかの対応をせざるを得ないのでしょう。

 

 

大学収容率

日本キャリアデザイン学会の機関誌『キャリアデザイン研究』15号というのが届き、ぱらぱらとみていくと、田沢実・梅崎修さんらによる「大学生における地元志向のタイプ分類-高校所在地、大学所在地、希望勤務地に着目して」という論文に、面白い表が載っていました。

各都道府県の大学収容率という表で、ある都道府県に設置されている大学の入学者数を、ある都道府県の高校を卒業した大学進学者数で割った割合です。堂々の1位は京都府で206.4%、続いて東京都の188.6%。この2都府が飛び抜けて他の道府県から学生を引っ張り込んでいますね。

3位はぐっと下がって宮城県の117.2%、続いて石川県の114.9%、福岡県の112.4%、大阪府の112.4%、愛知県の106.8%、神奈川県の106.8%、滋賀県の100.8%、岡山県の100.6%で、ここまでがかろうじて入超。以下は総て出超で、北海道の90.6%からだらだらと低下していって、最下位は和歌山県の39.4%です。

論文自体の関心とは離れて、この表自体がいろんな意味で面白いです。大阪とか愛知も結構外部から学生を吸い取っているように感じますが、あんまりたいしたことないとか、滋賀とか岡山が意外にも(失礼!)入超だったりとか。特に、広島が90.5%と出超なのに岡山がごく僅かとはいえ入超なのはどういう理由なのか、知りたいところです。

 

 

2019年10月22日 (火)

これはパワハラ?

昨日の労政審雇環分科会に、例のパワハラの指針案が提示されたということで、いろいろと批判もあるようですが、逆にではどこに線引きすればいいのかと聞かれれば、おそらく組織人であればだれもが頭を抱える面があるように思われます。

https://www.mhlw.go.jp/content/11909500/000559314.pdf

そのパワハラに該当すると考えられる例、該当しないと考えられる例というのを見てみましょう。結構長いリストです。

<暴行・傷害(身体的な攻撃)>

(該当すると考えられる例) ・ 殴打、足蹴りを行うこと。 ・ 怪我をしかねない物を投げつけること。

(該当しないと考えられる例) ・ 誤ってぶつかる、物をぶつけてしまう等により怪我をさせること。  

<脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)>

(該当すると考えられる例) ・ 人格を否定するような発言をすること。(例えば、相手の性的指向・ 性自認に関する侮辱的な発言をすることを含む。) ・ 業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り 返し行うこと。 ・ 他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行う こと。 ・ 相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相 手を含む複数の労働者宛てに送信すること。

(該当しないと考えられる例) ・ 遅刻や服装の乱れなど社会的ルールやマナーを欠いた言動・行動が 見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して強く注 意をすること。 ・ その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行っ た労働者に対して、強く注意をすること。

<隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)>

(該当すると考えられる例) ・ 自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、 別室に隔離したり、自宅研修させたりすること。 ・ 一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させるこ と。

(該当しないと考えられる例) ・ 新規に採用した労働者を育成するために短期間集中的に個室で研 修等の教育を実施すること。 ・ 処分を受けた労働者に対し、通常の業務に復帰させる前に、個室で 必要な研修を受けさせること。

<業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大 な要求)>

(該当すると考えられる例) ・ 長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関 係のない作業を命ずること。 ・ 新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレ ベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責す ること。 ・ 労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせ ること。

(該当しないと考えられる例) ・ 労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せ ること。 ・ 業務の繁忙期に、業務上の必要性から、当該業務の担当者に通常時 よりも一定程度多い業務の処理を任せること。

<業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じるこ とや仕事を与えないこと(過小な要求)>

(該当すると考えられる例) ・ 管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行 わせること。 ・ 気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えないこ と。

(該当しないと考えられる例) ・ 経営上の理由により、一時的に、能力に見合わない簡易な業務に就 かせること。 ・ 労働者の能力に応じて、業務内容や業務量を軽減すること。

<私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)>

(該当すると考えられる例) ・ 労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたり すること。 ・ 労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報に ついて、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること。

(該当しないと考えられる例) ・ 労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況等についてヒア リングを行うこと。 ・ 労働者の了解を得て、当該労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担 当者に伝達し、配慮を促すこと。

さっそく日本労働弁護団は批判する声明を出していますが、

http://roudou-bengodan.org/topics/8622/

個々の項目の是非適否については議論のあるところとして、「状況によってはパワハラに該当する可能性があるものを「該当しない例」とすることは、誤解・悪用を招きかねず、絶対に避けるべきである。「該当しない例」の記載は不要である」とまで言い切ってしまっていいのかは、少なくとも組織を管理するサイドからすると疑問を感じるところでしょう。セクハラのように、そもそも(ごく一部の特殊な企業を除けば)セクシュアルな発言や環境が事業運営に何ら必然的でないようなものであればともかく、パワハラの場合はその性質上業務上の不可欠な指揮命令と連続的でありうる領域であり、それゆえにその区別、線引きがもとめられているという状況があるわけです。

ただそれにも程度問題があり、事業体の本来業務にかかわるような「その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行っ た労働者に対して、強く注意をすること」と、必ずしもそうではなくある意味個人の自由にも関わりうるような「遅刻や服装の乱れなど社会的ルールやマナーを欠いた言動・行動が 見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して強く注 意をすること」とを単純に同列においていいのかという問題はありうるでしょう。

でも、弁護士事務所だって労働組合だって、「その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行っ た労働者に対して、強く注意を」したらパワハラだと訴えられたら、「ふざけんな、何言ってんだ!」という反応になりそうですけど。およそ人間を集めて何らかの事業を遂行する組織体においては目を背けて済ますわけにはいかない側面はあるように思います。

後ろの方には、「事業主が自らの雇用する労働者以外の者に対する言動に関し行うことが望 ましい取組」として、「他の事業主が雇用する労働者及び求職者」や「個人事業主、インターンシップを行っている者」などに対する言動についても必要な注意を払うよう配慮せよとか、「他の事業主の雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客 等からの著しい迷惑行為に関し行うことが望ましい取組」として「取引先等の他の事業主が雇用する労働者又は他の事業主からのパワーハラスメントや顧 客等からの著しい迷惑行為(暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等) により、その雇用する労働者が就業環境を害されることのないよう」にせよといった注目すべき項目もあります。後者はいわゆるカスタマーハラスメントですが、正直気休め程度の記述ではありますが、現時点では法律の射程外であることもあり、まず第一歩としてはこんなところなのかもしれません。

 

2019年10月21日 (月)

ジョブとメンバーシップと奴隷制再掲(稲葉振一郎『AI時代の労働の哲学』に触発されて)

9784065171806_w 毎月HRWatcherを連載しているWEB労政時報の髙橋さんより、「講談社選書メチエの『AI時代の労働の哲学』に、濱口先生の『日本の雇用と労働法』が参考文献として挙げられておりました」とのご連絡をいただき、早速読んでみました。稲葉振一郎さんのなかなかの意欲作です。

http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000324960

タイトルは今風に売れ線狙いで「AI時代の」と謳っていますが、中身はむしろ哲学と歴史から労働とは何かを深く沈潜して考えようとするもので、とりわけ第2章での議論が、古めかしいが故に現代の問題を考えるのにふさわしい枠組みになっています。

 2 労働と雇用
 雇用・請負・委任(1)
 雇用の二極
 資本主義と雇用
 雇用・請負・委任(2)
 リスクと労働
 資本家の労働
 労働と財産
 産業社会論(1)
 産業社会論(2)

で、そこに私の本も出てくるんですが、その文脈が「奴隷制と自由な契約」なんですね(p51)。

・・・かつての奴隷・奉公人はメンバーシップ型雇用の原型に当たるわけですが、奴隷にもさまざまなタイプがありました。家事労働や危険な肉体労働に酷使され、消耗品扱いをされる者もいれば、主人のビジネスのアシスタントとして重要な意思決定にコミットし、場合によっては解放奴隷として主人の仕事や家を継承する者もいる。そのような幅の広さは、現代のメンバーシップ雇用にも引き継がれている、といえるでしょう。

ジョブ型の幅広さは、ある意味でそれ以上です。高度専門職の雇用は、請負どころかむしろ委任にさえ近づく一方で、定型化された単純作業は取り替えがいくらでも可能な没個性的な商品、いわばコモディティとして取り扱うことができます。つまりここでもまた外部か可能で、やはり請負に近づきますが、かといって委任に近づくことは決して考えられません。あくまでそれを「使用」する権利は雇い主の方に保持されるからです。・・・・

いやいや、これくらいきちんと概念の広がりをわきまえて使ってくれる人ばかりならいいんですけどね。

というか、この一節を読みながら、そういえば似たような話をブログに書いたような記憶が出てきました。検索してみると、こんなのがあったんですね

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/09/post-53fc.html (ジョブとメンバーシップと奴隷制)

世の中には、ジョブ型雇用を奴隷制だと言って非難する「世に倦む日々」氏(以下「ヨニウム」氏)のような人もいれば、

https://twitter.com/yoniumuhibi/status/283122128201609216

本田由紀とか湯浅誠とか、その亜流の連中が、そもそも正規労働を日本型雇用だと言ってバッシングし、正規雇用を非正規雇用の待遇に合わせる濱口桂一郎的な悪平準化を唱導している時代だからね。左派が自ら労働基準法の権利を破壊している。雇用の改善は純経済的論理では決まらない。政治で決まる問題。

https://twitter.com/yoniumuhibi/status/290737267151077376

資本制の資本-賃労働という生産関係は、どうしても古代の奴隷制の型を引き摺っている。本田由紀らが理想視する「ジョブ型」だが。70年代後半の日本経済は、今と較べればずいぶん民主的で、個々人や小集団の創意工夫が発揮されるKaizenの世界だった。創意工夫が生かされるほど経済は発展する。

それとは正反対に、メンバーシップ型雇用を奴隷制だと言って罵倒する池田信夫氏(以下「イケノブ」氏)のような人もいます。

http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51870815.html(「正社員」という奴隷制)

非正社員を5年雇ったら正社員(無期雇用)にしなければならないという厚労省の規制は、大学の非常勤講師などに差別と混乱をもたらしているが、厚労省(の天下り)はこれを「ジョブ型正社員」と呼んで推奨している

・・・つまりフーコーが指摘したように、欧米の企業は規律=訓練で統合された擬似的な軍隊であるのに対して、日本の正社員はメンバーシップ=長期的関係という「見えない鎖」でつながれた擬似的な奴隷制なのだ。

もちろん、奴隷制とは奴隷にいかなる法的人格も認めず取引の客体でしかないシステムですから、ジョブ型雇用にしろメンバーシップ型雇用にしろ、奴隷制そのものでないのは明らかですが、とはいえ、それぞれが奴隷制という情緒的な非難語でもって形容されることには、法制史的に見て一定の理由がないわけではありません。

著書では専門的すぎてあまりきちんと論じていない基礎法学的な問題を、せっかくですから少し解説しておきましょう。

近代的雇用契約の源流は、ローマ法における労務賃貸借(ロカティオ・オペラルム)とゲルマン法における忠勤契約(トロイエディーンストフェアトラーク)にあるといわれています。

労務賃貸借とは、奴隷所有者がその奴隷を「使って下さい」と貸し出すように、自己労務所有者がそれを「使って下さい」と貸し出すという法的構成で、その意味では奴隷制と連続的な面があります。しかし、いうまでもなく最大の違いは、奴隷制においては奴隷主と奴隷は全く分離しているのに対し、労務賃貸借においては同一人物の中に存在しているという点です。つまり、労働者は労務賃貸人という立場においては労務賃借人と全く対等の法的人格であって、取引主体としては(奴隷主)と同様、自由人であるわけです。

この発想が近代民法の原点であるナポレオン法典に盛り込まれ、近代日本民法も基本的にはその流れにあることは、拙著でも述べたとおりです。

このように労務賃貸借としての雇用契約は、法的形式としては奴隷制の正反対ですが、その実態は奴隷のやることとあまりかわらないこともありうるわけですが、少なくとも近代労働法は、その集団的労使関係法制においては、取引主体としての主体性を集団的に確保することを目指してきました。「労働は商品ではない」という言葉は、アメリカにおける労働組合法制の歴史を学べばわかるように、特別な商品だと主張しているのであって、商品性そのものを否定するような含意はなかったのです。

労務賃貸借を賃金奴隷制と非難していた人々が作り出した体制が、アジア的専制国家の総体的奴隷制に近いものになったことも、示唆的です。

一方、ゲルマンの忠勤契約は日本の中世、近世の奉公契約とよく似ていて、オットー・ブルンナー言うところの「大いなる家」のメンバーとして血縁はなくても家長に忠節を尽くす奉公人の世界です。家長の命じることは、どんな時でも(時間無限定)、どんなことでも(職務無限定)やる義務がありますが、その代わり「大いなる家」の一員として守られる。

その意味ではこれもやはり、取引の客体でしかないローマ的奴隷制とは正反対であって、人間扱いしているわけですが、労務賃貸借において最も重要であるところの取引主体としての主体性が、身分法的な形で制約されている。妻や子が家長の指揮監督下にある不完全な自由人であるのと同様に、不完全な自由人であるわけです。

ドイツでも近代民法はローマ法の発想が中核として作られましたが、ゲルマン的法思想が繰り返し主張されたことも周知の通りです。ただ、ナチス時代に指導者原理という名の下に過度に変形されたゲルマン的雇用関係が強制されたこともあり、戦後ドイツでは契約原理が強調されるのが一般的なようです。

日本の場合、近世以来の「奉公」の理念もありますが、むしろ戦時中の国家総動員体制と終戦直後のマルクス主義的労働運動の影響下で、「家長」よりもむしろ「家それ自体」の対等なメンバーシップを強調する雇用システムが大企業中心に発達しました。その意味では、中小零細企業の「家長ワンマン」型とはある意味で似ていながらかなり違うものでもあります。

以上を頭に置いた上で、上記ヨニウム氏とイケノブ氏の情緒的非難を見ると、それぞれにそう言いたくなる側面があるのは確かですが、そこだけ捕まえてひたすらに主張するとなるとバランスを欠いたものとなるということが理解されるでしょう。

ただ、ローマ法、西洋法制史、日本法制史といった基礎法学の教養をすべての人に要求するのもいかがなものかという気もしますし、こうして説明できる機会を与えてくれたという意味では、一定の意味も認められないわけではありません。

ただ、ヨニウム氏にせよ、イケノブ氏にせよ、いささか不思議なのは、理屈の上では主敵であるはずのそれぞれジョブ型そのものやメンバシップ型そのものではなく、その間の「ほどほどのメンバーシップとほどほどのジョブ」(@本田由紀氏)からなる「ジョブ型正社員」に異常なまでの憎悪と敵愾心をみなぎらせているらしいことです。

そのメカニズムをあえて憶測すればこういうことでしょうか。

ヨニウム氏にとっては、(イケノブ氏が奴隷と見なす)メンバーシップ型こそが理想。

イケノブ氏にとっては、(ヨニウム氏が奴隷と見なす)ジョブ型こそが理想。

つまり、どちらも相手にとっての奴隷像こそが自分の理想像。

その理想の奴隷像を不完全化するような中途半端な「ジョブ型正社員」こそが、そのどちらにとっても最大の敵。

本田由紀さんや私が、一方からはジョブ型を理想化していると糾弾され、もう一方からはメンバーシップ型を美化していると糾弾されるのは、もちろん人の議論の理路を理解できない糾弾者のおつむの程度の指標でもありますが、それとともに理解することを受け付けようとしないイデオロギー的な認知的不協和のしからしむるところなのでもありましょう。

あらぬ流れ弾が飛んでこないように(いや、既に飛んできていますが)せいぜい気をつけましょうね。

結論としては、まことに表層的な情緒論を振り回すヨニウム氏やイケノブ氏と違い、稲葉振一郎さんがローマ法、西洋法制史、日本法制史といった基礎法学の教養をきちんと踏まえて議論を展開しているところが立派である、ということになりましょうか。

 

給特法改正案による公立学校教員専用の1年単位の変形労働時間制の条文復元

10月18日にいわゆる給特法、正式には「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」の一部改正案が国会に提出されました。

http://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/detail/__icsFiles/afieldfile/2019/10/18/1421396_03.pdf

指針の策定の条文はそのまま読めばわかるのですが、

(教育職員の業務量の適切な管理等に関する指針の策定等)
第七条 文部科学大臣は、教育職員の健康及び福祉の確保を図ることにより学校教育の水準の維持向上に資するため、教育職員が正規の勤務時間及びそれ以外の時間において行う業務の量の適切な管理その他教育職員の服務を監督する教育委員会が教育職員の健康及び福祉の確保を図るために講ずべき措置に関する指針(次項において単に「指針」という。)を定めるものとする。
2 文部科学大臣は、指針を定め、又はこれを変更したときは、遅滞なく、これを公表しなければならない。

その前の公立学校教員専用の1年単位の変形労働時間制を設ける部分は、これはもう法制執務の専門家でないと解読できないような代物なので、

第五条中「、」とあるのは「」の下に「第三十二条の四第一項中「当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めたときは」とあるのは「次に掲げる事項について条例に特別の定めがある場合は」と、「その協定」とあるのは「その条例」と、「当該協定」とあるのは「当該条例」と、同項第五号中「厚生労働省令」とあるのは「文部科学省令」と、同条第二項中「前項の協定で同項第四号の区分をし」とあるのは「前項第四号の区分並びに」と、「を定めたときは」とあるのは「について条例に特別の定めがある場合は」と、「当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の同意を得て、厚生労働省令」とあるのは「文部科学省令」と、同条第三項中「厚生労働大臣は、労働政策審議会」とあるのは「文部科学大臣は、審議会等(国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)第八条に規定する機関をいう。)で政令で定めるもの」と、「厚生労働省令」とあるのは「文部科学省令」と、「協定」とあるのは「条例」と、同法」を加え、「同項」を「同法第三十二条の四第一項から第三項まで及び第三十三条第三項」に改め、「、」と、「」の下に「から」を加え、「第三十二条の五まで、」を「、第三十二条の三の二、第三十二条の四の二、第三十二条の五、」に改める。

これを少しずつ読み解いていきましょう。

まずもって、この給特法改正案でもって改正された給特法の規定はこうなります。

(教育職員に関する読替え)
第五条 教育職員については、地方公務員法第五十八条第三項本文中「第二条、」とあるのは「第三十二条の四第一項中「当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めたときは」とあるのは「次に掲げる事項について条例に特別の定めがある場合は」と、「その協定」とあるのは「その条例」と、「当該協定」とあるのは「当該条例」と、同項第五号中「厚生労働省令」とあるのは「文部科学省令」と、同条第二項中「前項の協定で同項第四号の区分をし」とあるのは「前項第四号の区分並びに」と、「を定めたときは」とあるのは「について条例に特別の定めがある場合は」と、「当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の同意を得て、厚生労働省令」とあるのは「文部科学省令」と、同条第三項中「厚生労働大臣は、労働政策審議会」とあるのは「文部科学大臣は、審議会等(国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)第八条に規定する機関をいう。)で政令で定めるもの」と、「厚生労働省令」とあるのは「文部科学省令」と、「協定」とあるのは「条例」と、同法第三十三条第三項中「官公署の事業(別表第一に掲げる事業を除く。)」とあるのは「別表第一第十二号に掲げる事業」と、「労働させることができる」とあるのは「労働させることができる。この場合において、公務員の健康及び福祉を害しないように考慮しなければならない」と読み替えて同法第三十二条の四第一項から第三項まで及び第三十三条第三項の規定を適用するものとし、同法第二条、」と、「から第三十二条の五まで」とあるのは「、第三十二条の三の二、第三十二条の四の二、第三十二条の五、第三十七条」と、「第五十三条第一項」とあるのは「第五十三条第一項、第六十六条(船員法第八十八条の二の二第四項及び第五項並びに第八十八条の三第四項において準用する場合を含む。)」と、「規定は」とあるのは「規定(船員法第七十三条の規定に基づく命令の規定中同法第六十六条に係るものを含む。)は」と、同条第四項中「同法第三十七条第三項中「使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により」とあるのは「使用者が」と、同法」とあるのは「同法」と読み替えて同条第三項及び第四項の規定を適用するものとする。

いやいやこれまた素人さんには全然読めない条文ですね。

これは給特法で地方公務員法を読み替えている条文なので、これで読み替えられた地方公務員法の条文はこうなります。

(他の法律の適用除外等)
第五十八条 ・・・
3 労働基準法第三十二条の四第一項中「当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めたときは」とあるのは「次に掲げる事項について条例に特別の定めがある場合は」と、「その協定」とあるのは「その条例」と、「当該協定」とあるのは「当該条例」と、同項第五号中「厚生労働省令」とあるのは「文部科学省令」と、同条第二項中「前項の協定で同項第四号の区分をし」とあるのは「前項第四号の区分並びに」と、「を定めたときは」とあるのは「について条例に特別の定めがある場合は」と、「当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の同意を得て、厚生労働省令」とあるのは「文部科学省令」と、同条第三項中「厚生労働大臣は、労働政策審議会」とあるのは「文部科学大臣は、審議会等(国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)第八条に規定する機関をいう。)で政令で定めるもの」と、「厚生労働省令」とあるのは「文部科学省令」と、「協定」とあるのは「条例」と、同法第三十三条第三項中「官公署の事業(別表第一に掲げる事業を除く。)」とあるのは「別表第一第十二号に掲げる事業」と、「労働させることができる」とあるのは「労働させることができる。この場合において、公務員の健康及び福祉を害しないように考慮しなければならない」と読み替えて同法第三十二条の四第一項から第三項まで及び第三十三条第三項の規定を適用するものとし、同法第二条、第十四条第二項及び第三項、第二十四条第一項、第三十二条の三、第三十二条の三の二、第三十二条の四の二、第三十二条の五、第三十七条、第三十八条の二第二項及び第三項、第三十八条の三、第三十八条の四、第三十九条第六項から第八項まで、第四十一条の二、第七十五条から第九十三条まで並びに第百二条の規定、労働安全衛生法第六十六条の八の四及び第九十二条の規定、船員法(昭和二十二年法律第百号)第六条中労働基準法第二条に関する部分、第三十条、第三十七条中勤務条件に関する部分、第五十三条第一項、第六十六条(船員法第八十八条の二の二第四項及び第五項並びに第八十八条の三第四項において準用する場合を含む。)、第八十九条から第百条まで、第百二条及び第百八条中勤務条件に関する部分の規定並びに船員災害防止活動の促進に関する法律第六十二条の規定並びにこれらの規定に基づく命令の規定(船員法第七十三条の規定に基づく命令の規定中同法第六十六条に係るものを含む。)は、職員に関して適用しない。ただし、労働基準法第百二条の規定、労働安全衛生法第九十二条の規定、船員法第三十七条及び第百八条中勤務条件に関する部分の規定並びに船員災害防止活動の促進に関する法律第六十二条の規定並びにこれらの規定に基づく命令の規定は、地方公共団体の行う労働基準法別表第一第一号から第十号まで及び第十三号から第十五号までに掲げる事業に従事する職員に、同法第七十五条から第八十八条まで及び船員法第八十九条から第九十六条までの規定は、地方公務員災害補償法(昭和四十二年法律第百二十一号)第二条第一項に規定する者以外の職員に関しては適用する。
4 職員に関しては、労働基準法第三十二条の二第一項中「使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、又は」とあるのは「使用者は、」と、同法第三十四条第二項ただし書中「当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは」とあるのは「条例に特別の定めがある場合は」と、同法第三十九条第四項中「当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めた場合において、第一号に掲げる労働者の範囲に属する労働者が有給休暇を時間を単位として請求したときは、前三項の規定による有給休暇の日数のうち第二号に掲げる日数については、これらの規定にかかわらず、当該協定で定めるところにより」とあるのは「前三項の規定にかかわらず、特に必要があると認められるときは、」とする。

うぎゃあ、これまた労働基準法を地方公務員法で読み替えている規定なんですね。でも、ようやくここまで来ました。これであと一段階進むと、ようやくめざす何段階ものカギカギ条文でぐちゃぐちゃに読み替えられた労働基準法の条文が姿を現すのです。それは地方公務員法自体が結構読替をやっているので相当膨大なので、ここでは今回の給特法の改正に係る1年単位の変形労働時間制のところだけ読み替え後の条文を挙げておきますね。

第三十二条の四 使用者は、次に掲げる事項について条例に特別の定めがある場合は、第三十二条の規定にかかわらず、その条例で第二号の対象期間として定められた期間を平均し一週間当たりの労働時間が四十時間を超えない範囲内において、当該条例(次項の規定による定めをした場合においては、その定めを含む。)で定めるところにより、特定された週において同条第一項の労働時間又は特定された日において同条第二項の労働時間を超えて、労働させることができる。
一 この条の規定による労働時間により労働させることができることとされる労働者の範囲
二 対象期間(その期間を平均し一週間当たりの労働時間が四十時間を超えない範囲内において労働させる期間をいい、一箇月を超え一年以内の期間に限るものとする。以下この条及び次条において同じ。)
三 特定期間(対象期間中の特に業務が繁忙な期間をいう。第三項において同じ。)
四 対象期間における労働日及び当該労働日ごとの労働時間(対象期間を一箇月以上の期間ごとに区分することとした場合においては、当該区分による各期間のうち当該対象期間の初日の属する期間(以下この条において「最初の期間」という。)における労働日及び当該労働日ごとの労働時間並びに当該最初の期間を除く各期間における労働日数及び総労働時間)
五 その他文部科学省令で定める事項
2 使用者は、前項第四号の区分並びに当該区分による各期間のうち最初の期間を除く各期間における労働日数及び総労働時間について条例に特別の定めがある場合は、当該各期間の初日の少なくとも三十日前に、文部科学省令で定めるところにより、当該労働日数を超えない範囲内において当該各期間における労働日及び当該総労働時間を超えない範囲内において当該各期間における労働日ごとの労働時間を定めなければならない。
3 文部科学大臣は、審議会等(国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)第八条に規定する機関をいう。)で政令で定めるものの意見を聴いて、文部科学省令で、対象期間における労働日数の限度並びに一日及び一週間の労働時間の限度並びに対象期間(第一項の条例で特定期間として定められた期間を除く。)及び同項の協定で特定期間として定められた期間における連続して労働させる日数の限度を定めることができる。
4 第三十二条の二第二項の規定は、第一項の協定について準用する。

はい、見事に過半数組合又は過半数代表者との協定が姿を消し、条例で1年単位の変形労働時間制がやれるという条文が姿を現しました。

あれ?1項読み替え忘れているんじゃないかと思ったあなた。なぜ第4項だけ「協定」が残っているんだ、これも「条例」に読み替えないといけないんじゃないかと思ったあなた。まだまだ考えが浅いです。

労働基準法第32条の2第2項とはこういう規定なんです。

2 使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、前項の協定を行政官庁に届け出なければならない。

上記のとおり、今回の教員専用変形労働時間制は、厚生労働省の権限を総て文部科学省に読み替えているのですが、条例は届け出なくてもいいよ、という趣旨で、わざとここだけ協定のままにしているんですね。なかなかディープな世界です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2019年10月18日 (金)

周燕飛『子どものいる世帯の生活状況および保護者の就業に関する調査2018(第5回子育て世帯全国調査)』

Chou JILPTの調査シリーズとして、周燕飛さんの『子どものいる世帯の生活状況および保護者の就業に関する調査2018(第5回子育て世帯全国調査)』が出ました。

https://www.jil.go.jp/institute/research/2019/192.html

記者発表資料も公表されているので、そちらの方がわかりやすいと思います。

https://www.jil.go.jp/press/documents/20191017.pdf

主な事実発見は:

■母子世帯の貧困率は5割超え、13%が「ディープ・プア」世帯

可処分所得が厚生労働省公表の貧困線を下回っている世帯の割合は、母子世帯では51.4%、父子世帯では22.9%、ふたり親世帯では5.9%となっている。可処分所得が貧困線の50%を満たない「ディープ・プア(Deep Poor)」世帯の割合は、母子世帯が13.3%、父子世帯が8.6%、ふたり親世帯が0.5%である

■子どもが小さい家庭よりも、子どもが大きい家庭の母子世帯は困窮している

母子世帯の場合、子どもの年齢が高い世帯ほど、経済的困窮度が高い。暮らし向きが「大変苦しい」と回答した母子世帯の割合は、末子が「0~5歳」層では21.4%、「6~11歳」層では23.0%、「12~14歳」層では27.9%、「15~17歳」層では29.4%となっており、末子の年齢上昇とともに、経済的困窮を感じている世帯の割合が上昇傾向にある。

■父親の就業時間が60時間超えの場合、母親のフルタイム就業率が顕著に低下

ふたり親世帯の場合、夫の週あたり就業時間が60時間を超えると、妻のフルタイム(FT)就業率が顕著に低下する。夫の週あたり就業時間が60時間以下であれば、妻のFT就業率がおおむね4割前後で推移しているのに対して、60時間を超えると、妻のFT就業率が3割に急落している

■離別父親の44%は子どもとの交流が「全くない」

過去の1年間、非同居父親と子どもとの面会や会話等交流の頻度は、「年に数回以上」の割合は、母子世帯の離別父親が37.3%、ふたり親世帯の単身赴任父親が93.8%である。離別父親の44.2%は子どもとの交流が「全くない」状態であり、そのうち離婚5年以上の離別父親の半数以上(51.6%)が子どもと交流なしの状態である。

■母子世帯では娘よりも息子は学業不振が深刻

小中高校生の第1子が学校での学業成績が「(まあまあ)良好」(4点以上)である割合は、母子世帯33.0%、父子世帯36.7%、ふたり親世帯46.0%である。ふたり親世帯の場合、4点以上の良い学業成績を挙げている子どもの割合は、小学生も中高生も、男子(息子)も女子(娘)も同じく4~5割程度となっている。一方、母子世帯の場合、娘は息子より学業成績が明らかに良い。その差は小学生の段階では5ポイントほどであるが、中高生の段階になると18ポイントまでに広がっている。

■「金銭的支援」の拡充を望むふたり親世帯が増加し、全体の8割弱に

育児と就業を両立する上で、拡充してほしい公的支援についてたずねると、「児童手当の増額」、「乳幼児医療費助成期間の延長」、「職業訓練を受ける際の金銭的援助」、「年少扶養控除の復活」といった「金銭的援助」の拡充を望む保護者がもっとも多く、そのいずれかを選択した保護者の割合は、母子世帯79.2%、父子世帯76.9%、ふたり親世帯78.6%となっている。ふたり親世帯は「金銭的支援」を選ぶ割合が、前回調査より5ポイントも上昇し、母子世帯と並ぶ8割前後の水準となっている。

さて、周さんは既にご案内している11月5日の労働政策フォーラム(女性のキャリア形成を考える─就業形態・継続就業をめぐる課題と展望─)で、「子育て女性の就業状況─子育て世帯全国調査結果から─」という報告をする予定です。

つまり、この資料シリーズはそのための学習指定文献(笑)になりますので、ご参加されようと思う方々は是非ダウンロードして目を通しておくとよろしいかと思います。

https://www.jil.go.jp/event/ro_forum/20191105/index.html

 

Women

 

秋元樹『労働ソーシャルワーク』

480479 秋元樹『労働ソーシャルワーク』(旬報社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.junposha.com/book/b480479.html

日本のソーシャルワークとその研究の悲劇は近年「労働」をいずこかへ置き忘れてきたことであり、日本の「労働」、労働組合とその研究の悲劇は「ソーシャルワーク」の目を全く持たずにきたことだろう。
その「ツケ」は日本の労働者が負うことになった。

本書は1970年代末から2000年のはじめにかけて日本のソーシャルワークおよび労働の研究・実践コミュニティに
アメリカの現場から送り続けられたメッセージの記録である。

かつては「社会政策」という一つ屋根の下のいたはずの労働と福祉が、いつの間にか疎遠になり、別々の道を歩み続けてきて、ようやく近年になって両者のつながりが重視され始めていますが、本書の著者である秋元さんは1970年代からアメリカに照準を合わせて、この問題を問い続けてきたのですね。

序章 労働者福祉論のススメ
第1章 「労働ソーシャルワーク」とは何か
第2章 失業
第3章 「働く貧乏人」
第4章 「生活できる賃金を」
第5章-Ⅰ 仕事か命か/労災・職業病
第5章-Ⅱ “NPO” COSH(労働安全衛生会議)の組織と活動
第6章-Ⅰ 職場における差別・人権
第6章-Ⅱ セクシュアル・ハラスメント
第7章 「先進国」における児童労働
第8章 障害を持つ労働者の雇用と労働組合
第9章-I 高齢労働者と国家政策
第9章-Ⅱ アメリカの労働組合は中高年組合員のために何をしているか
第10章 労働者の抱える問題と労働相談
第11章-I 資本は勝手に動いてよいわけではない
第11章-Ⅱ 労働問題紛争の国境を越えた新たな解決モデル/NAALC(北米労働協力協定)
第12章-I あるソーシャル・ユニオン―LOCAL1199
第12章-Ⅱ 労働組合とソーシャルワーク
補章 ごく普通の働く労働者の抱える悩み・問題―500人インタビュー調査(日本) 

最後の12章の「労働組合とソーシャルワーク」の冒頭にこういう言葉があります。なかなかじわりときます。

労働組合とソーシャルワークはときには極めて類似しているように見える。ときには極めて異なっているように見える。

両者は人間、特に社会の下層の人々にかかわり、その問題解決、地位向上に努める。少なくとも歴史的にはそうであった。そして、後には双方とも、「中流」、より所得の高い階層にまでその翼を伸ばす。両者はしばしば同じ「言葉」すら用いる-尊厳、社会的正義、公正、平等・差別、人権、福祉の増進、大義、社会変革。であるが故に、両者は今日までその歴史の中にあってしばしば同じゴールに向かって協働してきた。社会立法の制定はその典型である。しかし、両者はときには厳しく対立、敵対してきた。1910年代らか20年代の厚生資本主義における経験はその典型例である。ソーシャルワーカーは会社側スパイとしてすら働いた。・・・・

 

 

2019年10月17日 (木)

『ウォッチング労働法 第4版』

L24310 『ウォッチング労働法 第4版』(有斐閣)をお送りいただきました。第3版が2009年ですから、労働法の本にしては珍しく10年ぶりの改訂ということになります。

http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641243101?top_bookshelfspine

さてこの本、土田、豊川、和田という大御所の編著ですが、今回は多くの若手研究者が執筆陣に加わっています。

土田 道夫 (同志社大学教授),豊川 義明 (弁護士・関西学院大学教授),和田 肇 (名古屋大学名誉教授)/編著
天野 晋介 (首都大学東京准教授),石田 信平 (専修大学教授),金井 幸子 (愛知大学准教授),坂井 岳夫 (同志社大学准教授),篠原 信貴 (駒澤大学教授),本庄 淳志 (静岡大学准教授),山川 和義 (広島大学教授),山本 陽大 (労働政策研究・研修機構研究員)

こういう面々がどういうトピックを取り上げているかは、本屋でめくってみてください。

ちなみに、山本陽大さんが書いている31番目の項目「労働組合」は、設例の冒頭の記述に思わず吹き出してしまいました。

Y研究所は、雇用・労働問題について調査・研究を行う民間シンクタンクであり、Z労働組合はY研究所の企業内労働組合である。・・・

ふむ、雇用・労働問題を調査研究している「民間の」シンクタンクって、一体どこにあるんでしょうか・・・・?

も一つ、やはり山本さんが執筆している34番目の項目「労働協約の変更と終了」の設例の冒頭は、

Y社は、東京都N区に甲事業所を構える学術書の出版社である。Y社甲事業所には、従業員の80%が加入するX労働組合と、従業員の5%が加入しているZ労働組合がある。・・・・

ふむ、「学術書の出版社」ねえ。「ここ数年で売り上げが激減し、年間数千万円の営業赤字を出し続け、累積赤字も増加し続けた」。いやいや、なんでもありません。

 

 

2019年10月13日 (日)

日本労働法学会第136回大会@立命館大学

さて、昨日予定されていた諸学会は超大型台風で中止延期を余儀なくされたようですが、来週の土日に予定されている日本労働法学会第136回大会は、(多分)予定通り立命館大学衣笠キャンパスで開催される予定です。

https://www.rougaku.jp/contents-taikai/136taikai.html

<1日目・土曜日>
受付開始 11:15〜
個別報告 12:00〜13:00
第一会場 *明学館MG202(2階)
テーマ「ドイツ法における管理職労働者に関する解雇規制」
報告者:稲谷 信行(京都大学)
司 会:村中 孝史(京都大学)
第二会場 *明学館MG301(3階)
テーマ「家事使用人の労働条件保護はどのようになされるべきか
――台湾における家事労働者への労働法適用をめぐる議論の検討をとおして」
報告者:根岸 忠(高知県立大学)
司 会:浜村 彰(法政大学)

第三会場 *明学館MG401(4階)
テーマ「イギリス最低賃金法の研究――全国一律額方式の実現とその後」
報告者:藤井 直子(大妻女子大学)
司 会:浅倉 むつ子(早稲田大学名誉教授)

ワークショップ 第1部13:20~15:20 第1部15:40~17:40
第一会場 *明学館MG202(2階)
テーマ「労働法学は労働法の歴史から何を学ぶか?」
司 会:石田 眞(早稲田大学名誉教授)
報告者:濱口 桂一郎(労働政策研究・研修機構),石井 保雄(独協大学)

テーマ「割増賃金をめぐる最近の法律問題――最近の最高裁判決を素材に」
司 会:浜村 彰(法政大学)
報告者:渡辺 輝人(弁護士)
コメンテーター:小鍛冶 広道(弁護士)
第二会場 *明学館MG301(3階)
テーマ「労働契約法20条に関する最高裁二判決の検討」
司 会:細川 良(青山学院大学)
報告者:沼田 雅之(法政大学),井川 志郎(山口大学)
テーマ「顧客等によるハラスメントと法的課題」
司 会:古川 景一(弁護士), 川口 美貴(関西大学)
報告者:松井 健(UAゼンセン政策労働条件局長), 大塚 達生(弁護士)
第三会場 *明学館MG401(4階)
テーマ「ギグエコノミー下の就労者に対する法的保護について」
司 会:水口 洋介(弁護士)
報告者:菅 俊治(弁護士),川上 資人(弁護士)
コメンテーター:本久洋一(國學院大學)
テーマ「働き方の多様化と労働法・経済法の役割」
司 会:荒木 尚志(東京大学)
報告者:桑村 裕美子(東北大学),多田 敏明(弁護士)
第四会場 *明学館MG402(4階)(13:20~15:20)
テーマ「解雇規制の在り方を考える
――解雇無効ルールと金銭解決ルールの比較――」
司 会:土田 道夫(同志社大学)
報告者:大内 伸哉(神戸大学)
コメンテーター:小西 康之(明治大学),徳住 堅治(弁護士), 山口 浩一郎(上智大学名誉教授)
懇親会 18:00~20:00

(以上、敬称略)
<2日目・日曜日>
受付開始 8:45〜
大シンポジウム報告 9:30~12:00
統一テーマ:「労働契約における規範形成のあり方と展望」
報告:
1.野田進(九州大学名誉教授)
「本シンポジウムの趣旨」
2. 大澤 彩(法政大学)
「契約内容規制と契約当事者間の交渉力不均衡――民法・消費者法と労働法――」
3. 皆川 宏之(千葉大学)
「ドイツ法における普通取引約款規制と労働契約」
4. 龔 敏(久留米大学)
「イギリスにおける労働契約の内容規制」
開催校挨拶・総会(学会奨励賞審査結果報告) 12:00~12:20
休憩・昼食 12:20~13:00
総会(学会奨励賞審査結果報告以外の議題) 13:00~13:30
特別講演 13:35~14:25
毛塚勝利会員「戦後労働法学の批判と継承——日本労働法学の自画像をどう描くか」
大シンポジウム報告・討論 14:30~18:30
報告:
5. 本庄 淳志(静岡大学)
「労契法7条による契約上の規範形成と制約のあり方」
6. 高橋 賢司(立正大学)
「労働契約上の合意と一方的決定に対する制約法理」

415835 初日のワークショップはいろいろと面白そうなテーマがあって、私も自分が報告者でなければほかの会場にを聞きに行きたいようなのもあるんですが、一応、第1会場の第1部で、「労働法学は労働法の歴史から何を学ぶか?」というなんだかやたらにでかいテーマで報告しなければいけないので、もしそういうテーマに関心があるような奇特な方がおられれば、聞きにきていただければ幸いです。

427925 報告者のうち、私は昨年『日本の労働法政策』を、石井さんは『わが国労働法学の史的展開』を上梓し、そして司会の石田さんは自ら1章執筆されている『戦後労働立法史』が古稀記念論集として刊行されていまして、これらの本を読まれた方々にとっては、その歴史観の絡み合いが見どころかもしれません。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2018/12/post-df2d.html (石井保雄『わが国労働法学の史的展開』 )

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2018/12/post-c238.html(島田陽一・菊池馨実・竹内(奥野)寿編著『戦後労働立法史』)

 

霞が関のワークライフバランス

超大型台風が刻一刻と迫る中で、永田町と霞が関の間でこういう一幕があったようですが、

https://www.sankei.com/politics/news/191012/plt1910120002-n1.html (森裕子議員、質問通告遅れる? 省庁深夜残業か 本人は否定)

事実関係はこの記事以上のことはわかりませんが、一般論として言えば、いままで彼らにもワークライフバランスがあるなどと考えられもしなかったさまざまな職業の人々が、実は自分たちも守るべき生活というものがあるのだ、滅私奉公が当たり前ではないのだと声を上げ始めたということ自体は、世の中が少しずつでも良い方向に向かい始めたしるしとして評価してしかるべきだと思います。少なくとも、「保育所落ちた、日本死ね」を評価する側の人であるならば。

 

 

2019年10月10日 (木)

第106回労働政策フォーラム「女性のキャリア形成を考える」

来る11月5日、TKPガーデンシティPREMIUM神保町で第106回労働政策フォーラム「女性のキャリア形成を考える-就業形態・継続就業をめぐる課題と展望─」を開催します。基調講演は、このたび労働関係図書優秀賞を受賞された脇坂明さん、研究報告は最近『貧困専業主婦』を刊行した(今朝の朝日新聞にもでかでかと載っていましたね)周燕飛さんです。

事例報告は3社、というか2社1団体を予定しているんですが、現時点では三州製菓さんと他2社を予定となっています。

パネルディスカッションは不肖私がコーディネータをやりますが、さてどういう方向に転がっていきますか。

Women

2019年10月 9日 (水)

経営法曹会議編『続 解雇・退職の判例と実務』

08271809_5d64f34c73b7f 本日、経営法曹会議の創立50周年記念パーティがあり、そこで経営法曹会議編『続 解雇・退職の判例と実務』(第一法規)をいただきました。

https://www.daiichihoki.co.jp/store/products/detail/103694.html

解雇、雇止めなど、弁護士の関心が高い実務上の重要論点を収録。テーマごとに、近年の実務動向や重要判例を解説する。経営法曹会議の全国の会員が執筆を担当。

内容は以下の通りですが、冒頭のまえがきを大阪の松下守男さんが書かれていて、これがなかなか壮大な構図を掲げています。

・・・それは、半世紀以上にわたって使ってきた日本独特の雇用システム(20世紀型雇用システム)が新たなものに変わっていくための試行錯誤の日々であったということができます。

この20年のうちに、なじみの雇用システムが、いまだその姿は見えてこないものの、ヴァージョン・アップしようとしているのではないでしょうか。現在の「働き方改革」も大きくはこのような流れの中に位置づけて考えるのが適当であると思われます。・・・

 

解雇権濫用法理……………………………………勝井 良光

採用内定・試用期間………………………………西脇 明典

有期労働契約における雇止め……………………杉原 知佳

退職の意思表示……………………………………三上 安雄

退職勧奨,希望退職………………………………小鍛冶 広道

定年,定年後再雇用………………………………岡崎 教行

無断欠勤・行方不明………………………………木村 恵子

問題社員への対応…………………………………山田 洋嗣

能力不足・勤務成績不良…………………………平越 格

メンタルヘルス不調………………………………増田 陳彦

労働能力低下,アスペルガー症候群,障害……爲近 幸恵

休職…………………………………………………川端 小織

労災,打切補償……………………………………山中 健児

懲戒処分の手続の相当性…………………………永原 豪

私行上の非行と懲戒処分…………………………今津 幸子

セクハラ,パワハラ,マタハラ…………………竹林 竜太郎

企業組織変動………………………………………田中 勇気

労働契約承継………………………………………高仲 幸雄

グループ企業間の出向・転籍……………………野口 大

整理解雇……………………………………………冨岡 俊介

 

 

2019年10月 8日 (火)

小田勇樹『国家公務員の中途採用』

71zrirsqful 小田勇樹さんより『国家公務員の中途採用 日英韓の人的資源管理システム』(慶應義塾大学出版会)をお送りいただきました。

http://www.keio-up.co.jp/np/isbn/9784766426328/

 独自に収集した海外の職歴データを基に、キャリアパスの実態や組織業績への影響を分析。民間任用者の有効活用策を国際比較から探り、「働き方改革」時代の公務員の人材登用に示唆を与える。

内部育成か、中途採用か――。

日本を含め、各国で導入が進んでいる民間出身者の中途採用。
では、彼らはどのような仕事を、どのポストで行っているのだろうか。組織の業績を高めているのだろうか。
職務基準による採用・育成の問題点を指摘し、「成功する民間登用」へのカギを探る。

先日本ブログで紹介した小熊英二さんの『日本社会のしくみ』は概ね現段階の日本型雇用システム論のもっとも良い概説書になっていますが、その中で(本人もいうように)他の論者があまり言及しない公的部門の人事管理をかなり詳しく取り上げ、その影響を論じている点が一つの特色でした。

その公的部門の人事管理に焦点を絞って、キャリアシステムとポジションシステムというモデルを使って分析しているのが本書です。キャリアシステムとは、キャリア早期に採用した職員を内部育成し、上級職の職位を内部昇進者で閉鎖的に充足する公務員制度であり、ポジションシステムとは、組織に空位が生じると組織内外での公募を通じて任用を行い、上級職の職位に対して外部からの中途採用もあり得る公務員制度です。

というとわかるように、これは雇用システム論でいうメンバーシップ型とジョブ型に対応した概念ですね。

本書はこの枠組みを用いて、建前上はポジションシステムである韓国とイギリスの実態を調べ、韓国が現実には開放型職位のほとんどを政府内出身者を充て手織り、キャリアシステムと変わらない運用実態であることを示します。

我々のような労働問題に関心を持つ立場からすると、近年日本でも拡大しつつあるとされる国家公務員の中途採用を含む働き方改革をめぐって論じられている第9章が興味深い部分です。

第9章 日本の国家公務員制度の変化と働き方改革の動向
 1 日本の国家公務員制度に対する分析視角
 2 中途採用経路の増加
 (1) 人事院規則1-24に基づく中途採用
 (2) 任期付職員法に基づく中途採用
 (3) 任期付研究員法による採用
 (4) 経験者採用試験
 (5) 官民人事交流
 (6) イギリスにおける中途採用との比較
 3 昇進管理の変化
 4 給与システムの変化
 5 職務区分のあり方
 6 近年の公務員制度改革の影響
 7 日本型雇用と働き方改革
 8 働き方改革の方向性
 9 霞が関における働き方改革
 10 働き方改革と最大動員システムの行く末

このうち、とりわけ「9 霞が関における働き方改革」は、ここだけでも是非立ち読みする値打ちがあります。

近年の公務員制度に関する諸改革は、外観上さまざまな試みがなされているようにも捉えられるが、その基盤には日本型雇用システムの働き方が根幹の大前提として存在しており、枝葉の部分に手が加えられてきた。・・・・

・・・また、取組み事項の中の「機動的人員配置による業務負荷集中の回避」は注目に値する。柔軟な人員配置による生産性の向上は、職務の定めがない日本型雇用システムの特色を活かしたもんである。余裕のある職員を負担の大きな業務の応援に充てることで、組織全体の業務負担の平準化がなされており、最大動員システムの特徴が存分に発揮されている。日本型雇用システムを脱却する働き方改革の一環でありながら、日本型雇用システムを基盤とした取組みであるといえる。本取組みの成果は短期的視点から見れば大変評価すべきものである。ただし、長期的視点から見た場合、このような形で執務形態の日本型雇用システムへの最適化が強化され、最大動員による生産性が極限まで高められると、システムからの脱却がさらに困難となることは間違いない。・・・・

・・・日本型雇用システムの延長線上の改革という特徴がより顕著に表れている事例としては、総務省行政管理局によるオフィス改革が挙げられる。・・・・本事例はフリーアドレスの実現により、職場のフロアー全体を大部屋化しており、究極の大部屋主義ともいえる環境を構築している。・・・・大部屋主義化による業務の効率化は、日本型雇用システムの「あいまいな職務区分」をベースとした最大動員システムの進化形である。

このパラドックスはなかなかしんどいものがありますね。

 

 

 

 

 

2019年10月 7日 (月)

鶴光太郞編著『雇用システムの再構築に向けて』

08128 鶴光太郞編著『雇用システムの再構築に向けて』(日本評論社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

https://www.nippyo.co.jp/shop/book/8128.html

日本の雇用システムの根幹にある無限定正社員システム。その歴史、人事管理、賃金、労働時間はどうなっているか。打破する方策は?

131039145988913400963_20191007114901 さて、このタイトルを見て、なんだかどこかで見たようなタイトルだなあ、と思ったのですが、何のことはない、私の10年前の新書のサブタイトルでしたな。

さて、「再構築」されるべき「雇用システム」とは、いうまでもなく雇用契約の無限定性で特徴付けられる日本型雇用システムです。

RIETIのホームページに、鶴さんの紹介文が載っていますが、これが本書のメッセージを余すところなく伝えています。

https://www.rieti.go.jp/jp/publications/archives/070.html

大企業を中心に働き方改革の「うねり」は更に勢いを増しながら広がっている一方で、企業間で働き方改革の取り組みに差もでてきています。その背景の一つには、これまでの日本的といわれてきた雇用・人事システムに対しての捉え方、課題、必要な改革についての大局的な視点が欠けていることが挙げられます。こうした認識の下で、本書では、日本の雇用システム全体をどのように再構築するべきかを鳥瞰しつつ、雇用システムの歴史的側面、人事管理システム、賃金システム、労働時間システム、教育システムについて、分析・提言を行っています。

今までの鶴さん編著のシリーズと同様、RIETIの労働市場制度改革プロジェクトの成果ですが、その完結編に当たるということです。

中身は以下の通りですが、

はじめに  鶴 光太郎

第1章 日本の雇用システムの再構築---総論  鶴 光太郎

第2章 日本の雇用システムの歴史的変遷---内部労働市場の形成と拡大と縮小   林真幸・森本真世

第3章 「新時代の日本的経営」の何が新しかったのか?---人事方針(HR Policy)変化の分析---  梅崎修・八代充史

第4章 転勤・異動・定年後雇用の実態  鶴 光太郎・久米功一 ・安井健悟 ・佐野晋平

第5章 ダイバーシティ経営と人事マネジメントの課題---人事制度改革と働き方の柔軟化  佐藤博樹

第6章 賃金プロファイルのフラット化と若年労働者の早期離職  村田啓子・堀雅博

第7章 雇用形態間の賃金格差 安井健悟 ・佐野晋平・久米功一・鶴 光太郎

第8章 日本型『同一労働同一賃金』改革とは何か?---その特徴と課題  水町勇一郎

第9章 労働者の健康向上に必要な政策・施策のあり方:労働経済学研究を踏まえた論考  黒田祥子・山本勲

第10章 労働時間法制改革の到達点と今後の課題  島田陽一

第11章 ”大学での専門分野と仕事との関連度”が職業的アウトカムに及ぼす効果---男女差に注目して---  本田由紀

第12章 寺院・地蔵・神社の社会・経済的帰結---ソーシャル・キャピタルを通じた所得・幸福度・健康への影響 伊藤高弘・大竹文雄・窪田康平

鶴さんの総論を初めとして、おおむね必要な各分野にわたって的確な各論が配置されているのですが、正直最後の第12章はなんだかよくわかりませんでした。いや、中身はなかなか面白いのですが、それが「雇用システムの再構築」とどう結びつくのかがよくわからなかったということです。

ついでながら、このプロジェクト自体には私は全く関わってはおりませんが、一度話を聞きたいというご依頼があり、虎ノ門の大同生命ビルに行ってお話しをさせていただいたことはあります。

 

 

 

2019年10月 3日 (木)

水町勇一郎『詳解 労働法』

457194 とてつもなく分厚いのが送られてきました。水町勇一郎さんの超絶テキスト『詳解 労働法』(東大出版会)です。

http://www.utp.or.jp/book/b457194.html

働き方のルールを定めた労働法制のすべてが分かる概説書.歴史的な経緯・成り立ちや理論的な考え方・筋道に根差して労働法の全体像を分かりやすく解き明かし,実務の世界で起こるさまざまな問題も解決に導く.「働き方改革」がはじまる時代に不可欠な知識を網羅した,働く人すべてに必携の決定版.

どれくらい分厚いかというと、物理的には拙著『日本の労働法政策』とほぼ同じくらいなんですが、

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ページ数が、拙著が1074ページに対して、水町本は1429ページと、4割くらい多い。

いやいやそんなことよりも、中身も凄い。

目次は下にコピペしておきますが、これは世間の普通の労働法テキストとそれほど変わりません。

でもね、冒頭の第1章労働法の歴史の、第1節労働法生成の前史の最初のところが、こういう文章で始まるんですぜ。

・・・労働を統一した概念で捉えこれに国家が社会的な保護を与えるという近代的な意味での「労働法」は、産業革命後の資本主義経済の発展の中で生まれる。しかし、それ以前の社会においても、働くことに対して国家が規制を課すことがなかったわけではない。古代ローマにおける雇傭契約が奴隷の賃貸借に由来することと同様に、日本の古代から近世にかけての労働法は、人身売買または長期の人身拘束に対する規律を中心とするものであった。また、その下で、主人ト使用人(従者)との間の身分的または契約的な関係が形成され、法的な権利や義務が観念されることもあった。・・・・

そして、歴史叙述は「律令制下の労働関係」から始まり、そこで真っ先に参照されているのが、瀧川政次郎の『日本労働法制史研究』なんですな。これ、拙著の労働契約法政策の冒頭の所で参照している文献ですが、水町さん、そこまで目配りしてんだ、と。

そういうやや趣味的なトリビアは別としても、たとえば第10章非正規労働者の、パート、有期、派遣と来て、最後の第6節に「個人業務請負業者等をめぐる法的対応」という2ページばかりの節に、労働者性をめぐる諸問題を詰め込むだけでなく、JILPTの先日の雇用類似の働き方の者の数の推計値まで注で引用しているくらい、目配りが効いています。

第1編 総 論
第1章 労働法の歴史
 労働法生成の前史/戦前の労働関係と労働法/戦後の労働法制の確立と展開
第2章 「労働者」
 総説――「労働者」概念の意義と種類/労働基準法上の「労働者」/労働組合法上の「労働者」/労働契約(法)上の「労働者」
第3章 「使用者」
 総説――「使用者」概念の意義と種類/労働契約上の使用者/労働基準法上の使用者/労働組合法上の使用者――概要
第4章 強行法規
 労働関係を規律する法源(総論)/憲法,条約と労働法/労働法規の規制枠組
第5章 労働協約
 労働協約の意義と法的性質/労働協約の効力発生要件/労働協約の効力/労働協約の拡張適用(一般的拘束力)/労働協約の終了
第6章 就業規則
 就業規則の意義/就業規則の手続き――労基法上の作成・変更手続/就業規則の効力
第7章 労働契約
 労働契約の意義/労働契約の基本原則/労働契約の成立要件/労働契約の解釈枠組み/労働契約上の権利義務

第2編 個別的労働関係法
第8章 労働者の人権保障
 労働者の人権保障の経緯と背景/労働憲章/人格権の保護/内部告発の保護
第9章 雇用差別の禁止
 雇用差別禁止法制の状況/均等待遇原則(労基法3条)/男女賃金差別の禁止(労基法4条)/賃金以外の男女差別の禁止(男女平均取扱法理と男女雇用機会均等法など)/女性活躍推進法
第10章 非正規労働者
 日本における非正規労働者の状況/正規・非正規労働者間の待遇格差に関する学説・裁判例の展開/パートタイム労働者をめぐる立法――パートタイム・有期雇用労働法など/期間の定めのある労働契約をめぐる立法/労働者派遣をめぐる立法――職業安定法44条,労働者派遣法など/個人業務請負業者等をめぐる法的対応
第11章 労働関係の成立
 採用の自由/労働契約の成立と労働条件の明示/労働契約の締結過程――採用内定・採用内々定/試用期間
第12章 教育訓練
 教育訓練の概要と背景/教育訓練を命じる権利/教育訓練を受ける権利
第13章 昇進・昇格・降格
 人事考課(査定)/昇進・昇格・昇級/降格
第14章 配転・出向・転籍
 配転/出向・転籍
第15章 休職
 意義/法的規則
第16章 企業組織の変動
 合併/事業譲渡/会社分割/会社の解散
第17章 懲戒
 服務規律と「企業秩序」論/懲戒の意義と根拠/懲戒権の法的規制の枠組み/懲戒の種類/懲戒の事由
第18章 賃金
 賃金の形態と法制度/賃金請求権/賃金の法規制
第19章 労働時間
 労働時間規制の意義と展開/労働時間制度の基本的枠組み/労働時間制度の特則――労働時間の柔軟化
第20章 年次有給休暇
 年次有給休暇制度の意義と展開/年次有給休暇の権利の構造/年休権の発生/年休の時期の特定/年休の使途/年休取得に対する不利益取扱いと年休取得の妨害/年休権の消滅
第21章 労働安全衛生
 労働安全衛生法制の経緯と展開/労働安全衛生法の基本枠組み・性格/安全衛生管理体制/危険・健康障害の防止措置/機械・有害物等に関する規制/労働者の就業にあたっての措置/健康の保持増進のための措置/規制の実施方法
第22章 労働災害の補償
 労災補償制度の経緯と展開/労災保険制度――労災保険法による給付/労働災害と損害賠償――労災民訴/労災上積み補償制度
第23章 年少者の保護
 年少者保護の経緯/労働契約の締結に関する規制/賃金・労働時間に関する規制/安全衛生に関する規制/帰郷旅費
第24章 女性の保護(母性保護)
 女性保護政策の経緯と目的/危険有害業務・坑内業務の就業制限/産前産後の保護/育児時間/生理日の休暇
第25章 育児・介護等の支援
 育児介護休業法の意義と展開/育児を行う労働者の支援/介護を行う労働者の支援/育児・介護支援措置を理由とする不利益取扱いの禁止/育児・介護に関するハラスメントの防止措置義務/育児・介護支援措置に関する紛争解決制度/次世代育成支援――次世代育成支援対策推進法
第26章 外国人雇用
 外国人労働者の受入れ政策/外国人労働者への労働法等の適用
第27章 障害者雇用
 障害者雇用政策の経緯と展開/障害者雇用促進法の目的と枠組み/障害者雇用の促進/障害者差別の禁止
第28章 知的財産・知的情報の保護
 職務発明等と労働者の権利/労働者の秘密保持義務と競業避止義務
第29章 労働関係の終了
 解雇/辞職と合意解約/当事者の消滅/労働契約終了後の権利義務
第30章 高齢者・若者雇用
 高齢者雇用/若者雇用

第3編 集団的労働関係法
第31章 労働組合
 労働組合法制の経緯と枠組み/労働組合の類型と実態/労働組合の意義と要件/組合自治と法的規制/組合への加入・脱退・組織強制/労働組合の統制権/労働組合の組織の変動
第32章 団体交渉
 団体交渉の意義と機能/団体交渉の主体――「当事者」と「担当者」/団体交渉義務/団体交渉拒否の救済
第33章 団体行動
 団体行動の法的保護の枠組み/団体行動の正当性/正当性のない団体行動と法的責任/争議行為と賃金/使用者の争議対抗行為
第34章 不当労働行為
 不当労働行為制度の沿革と目的/不当労働行為の成立要件/不当労働行為の救済

第4編 労働市場法
第35章 雇用仲介事業規制
 雇用仲介事業規制の趣旨と経緯/職業紹介事業の規制/労働者の募集の規制/労働者供給事業の規制
第36章 雇用保険制度
 制度の背景と展開/制度の基本的枠組み/失業等給付/雇用保険二事業
第37章 職業能力開発・求職者支援
 背景と経緯/職業能力開発――職業能力開発促進法/求職者支援制度――求職者支援法
第38章 特定分野の雇用促進政策
 高年齢者の雇用促進――高年齢者雇用安定法/障害者の雇用促進――障害者雇用促進法/特定地域の雇用開発促進――地域雇用開発促進法/生活困窮者の自立支援――生活困窮者自立支援法/若者の雇用促進――若者雇用促進法

第5編 国際的労働関係法
第39章 適用法規と裁判管轄
 適用法規の決定/国際裁判管轄
第40章 国際労働基準
 国連条約/ILO条約

第6編 労働紛争解決法
第41章 行政による紛争解決
 企業内での紛争解決の意義と限界/行政による紛争解決制度の概要と経緯/都道府県労働局長による個別労働紛争の解決促進/労働委員会による紛争解決
第42章 裁判所による紛争解決
 裁判所による紛争解決制度の概要と経緯/労働審判/民事通常訴訟/保全訴訟/少額訴訟/民事調停

 

 

 

 

2019年10月 2日 (水)

有償ボランティアの労働者性@WEB労政時報

WEB労政時報に「有償ボランティアの労働者性」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers-taiken/article.php?entry_no=76800

  去る9月27日に労政審雇用対策基本問題部会が開催され、いよいよ70歳までの就業機会確保対策の議論が始まりました。これは既に6月21日に閣議決定された成長戦略実行計画にかなり詳しいところまで明記されている政策ですが、そこに示されている70歳までの雇用就業メニューには、これまでの高齢者雇用就業政策の枠をはみ出すものも含まれています。
(a)定年廃止
(b)70歳までの定年延長
(c)継続雇用制度導入(現行65歳までの制度と同様、子会社・関連会社での継続雇用を含む)
(d)他の企業(子会社・関連会社以外の企業)への再就職の実現
(e)個人とのフリーランス契約への資金提供
(f)個人の起業支援
(g)個人の社会貢献活動参加への資金提供
 (a)から(c)まではこれまでの高年齢者雇用確保措置(高年齢者雇用安定法9条)、(d)は再就職援助措置(同法15条)で、ここまでは雇用労働です。(e)は近年話題の雇用類似の働き方で、(f)はより独立性の高い自営業でしょうが、いずれも市場交換原理に基づく非雇用労働です。ここまでは就業機会の確保という言葉が当てはまります。
ところがこのリストには、その先の(g)に「社会貢献活動」という言葉が出てくるのです。いわゆるボランティアです。ボランティアまでが就業機会の確保に含まれるというのは、いささか違和感のある言葉遣いです。・・・・・

 

小野寺忠昭・小畑精武・平山昇『時代へのカウンターと陽気な夢』

N190930_2 一昨日、JILPT主催の労働政策フォーラム「労働時間・働き方の日独比較」が開催され、私も総括討論のパネリストとしてちょびっと登場したのですが、

https://www.jil.go.jp/event/ro_forum/20190930/index.html

その様子はアドバンスニュースで報じられていますが、

https://www.advance-news.co.jp/news/2019/09/post-2907.html

・・・パネルディカッションでは、佐藤教授をコーディネーターに、日独両国で注目されている「モバイル勤務」で意見交換。濱口桂一郎同機構研究所長が「日本では仕事と生活の境界が曖昧になり、長時間労働の歯止めが掛からなくなる可能性がある」と指摘。これに対して、デュベル氏は「健康管理上から労働時間の限度を決める必要はある」と述べたが、この日の主要テーマだった「日独比較」は時間切れに終わった。

Isbn9784784513659 実はこの場で、情況出版の服部さんから本を頂きました。それが小野寺忠昭・小畑精武・平山昇『時代へのカウンターと陽気な夢 労働運動の昨日、今日、明日 』(社会評論社)なんですが、

http://www.shahyo.com/mokuroku/gendai_shahyo/labor/ISBN978-4-7845-1365-9.php

23人の執筆陣が自らの運動体験を省みて、明日に向かって<陽気な夢>の弾丸を撃つ!自主生産と地域ユニオンによるコミュニティ型労働組合の形成へ。

正直、かつては若かった老人たちが昔の活躍ぶりを語り合っている感があって、副題に引っかけていうと、「昨日」の話が「今日」や「明日」につながっていないような感がありました。

いや、服部さんが言うように、「僕のような労働運動史好きからすると、これほど貴重な本は最近だと珍し」いのかもしれませんし、「かつての総評運動についてその担い手たちがどうかんがえているのか・・・是非ご見解をお聞かせ願いたい」という要望にもお応えしたいのですが、でも正直そこで語られる運動の周辺的過ぎて、あまりコメントが浮かんでこないんです。たとえば、東京総行動が重要な役割を担ってきたという文章がありますが、正直労働関係者の中でもほとんど知られていないのではないかと思います。

というだけでは何なので、本書の中のコラムで、ブログ・シジフォスの水谷研次さんが「減部に負けない『労働情報』」という小文を書かれていて、之がなかなか面白かったです。

 

 

 

AOTSシンポジウム「イギリス・フランスの労働契約と紛争解決制度」

海外産業人材育成協会(AOTS)が国際シンポジウムを開催するということなので、こちらでも紹介しておきます。

https://www.aots.jp/news/notice/2019-09-11/

イギリス・フランスの労働契約と紛争解決制度-日本との比較-

日本の雇用流動性は諸外国と比べ低いと指摘されており、それが企業の生産性や、非正規社員の正規雇用への転換に影響を及ぼしているともいわれています。雇用の流動性を高めるため正規雇用社員の雇用保護規制を諸外国並みに緩めるべきという意見と、日本の雇用慣行ではそれはなじまないという意見があり、議論になっています。
本シンポジウムでは、高い雇用の流動性が維持され、雇用・解雇法制が整備されている先進諸外国(イギリス・フランス)における労働契約の特徴と労働契約を変更・終了する場合の制度、及び解雇時の紛争解決方法を紹介します。イギリス・フランス・日本のそれぞれの労働慣行と労働法制の違いとその背景にある考え方を確認し、日本にこれらの国の制度を導入するべきか、導入する場合の問題点などを検討します。
皆様のご参加を心からお待ち申し上げます。

基調講演はイギリスとフランスの労働法教授、解説はイギリスが小宮文人さん、フランスが細川良さん、そしてモデレータが石田眞さんとのことです。

Aots

 

2019年10月 1日 (火)

黒岩容子『EU性差別禁止法理の展開』

08124 黒岩容子さんより『EU性差別禁止法理の展開 形式的平等から実質的平等へ、さらに次のステージへ 』(日本評論社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

https://www.nippyo.co.jp/shop/book/8124.html

1970年代半ば以降、様々な新法理を生成し展開させてきたEU性差別禁止法を検討し、現代社会での差別に対抗しうる法理を探る。 

EU労働法の中でも、男女平等法制は割と多くの方々が研究対象として取り上げてきた領域ですが、それにしてもそれだけで一冊の研究書をまとめ上げるのは大きな仕事です。

ちなみに拙著『EUの労働法政策』では、第4章の労働人権法政策に約90ページを充てていますが、その中には性別以外の差別禁止法性の解説も含まれているので、詳しさの程度は全然違います。

第1部 形式的平等アプローチの展開
 第1章 EU性差別禁止立法の歴史
 第2章 形式的平等アプローチの展開とその限界
第2部 実質的平等アプローチの導入および展開
 第3章 間接性差別禁止法理の生成および展開
     ――性差別として禁止する類型(性差別概念)の拡大1
 第4章 妊娠・出産に関する性差別禁止法理の生成および展開
     ――性差別として禁止する類型(性差別概念)の拡大2
 第5章 ハラスメントに関する性差別禁止法理の生成
     ――性差別として禁止する類型(性差別概念)の拡大3
 第6章 ポジティブ・アクションに関する法理の生成および展開
     ――一方の性に対する優遇による性平等の積極的な実現とその限界
第3部 近年の立法・判例動向と理論研究の進展
    ――次のステージへの課題と挑戦
 第7章 近年の立法・判例動向をめぐって
 第8章 次のステージへの挑戦:理論研究の進展

21世紀に入ってからのEU司法裁判所の判決の動向についてもかなり批判的な分析が加えられており、この分野に関心のある方々にとっては必読書でしょう。

そのうえで、ややトリビアなことですが、いささか気になったのは、黒岩さんが割と繰り返し、リスボン条約によって基本権憲章に法的拘束力が付与された、これは大したことなんだ、と述べていることで、それはいささかミスリーディングなのではないか、と。

もちろん黒岩さんもちゃんと、それが制約付きだということは断っているんですが(p203)、ただ日本語で「法的拘束力」というと、あたかも裁判所が法的根拠として正面から堂々と使えるものであるかのように思われてしまいかねないので、そこは(気持ちはわかるものの)ちょっと言いすぎだと思います。

 

呉学殊『企業組織再編の実像』

Restructuring JILPTの研究員呉学殊さんの『企業組織再編の実像 労使関係の最前線』がようやく刊行されました。

https://www.jil.go.jp/publication/sosho/restructuring/index.html

企業の労使からの生の声に基づき再編の実像を明らかにした事例調査・研究の決定版!本論の7事例と補論の5事例から企業組織再編の望ましいあり方を示す。

1か月ほど前に本ブログでも紹介した呉さん自身による「リサーチ・アイ」というエッセイが、本書の内容を適切に紹介しているので、再度リンクしておきます。

https://www.jil.go.jp/researcheye/bn/033_190903.html

・・・今回、企業組織再編7事例の中で、分割が6事例、合併1事例(分割と併行)、譲渡1事例であった。正直、再編の実像は調査をしてみないとわからないとの思いである。事例ごとに再編の環境やプロセス、また、労使関係においてそれぞれ特徴があった。例えば、再編の主要背景・形態についてみてみると、次のように6つのタイプに分けられる。

第1に、分割部門の業績悪化により、分割会社がそれを抱えることが難しく、他社同事業部門との合併を通じて、分割部門の維持・発展を図るタイプである(「分割部門業績悪化・他社同業部門との統合再編」)。一番典型的にはG事例である。2003年、電機大手2社が半導体部門を分割して新設会社に統合したのである。また、2010年、同新設会社の他社半導体子会社との合併も同じ背景といえる。

第2に、分割部門がより成長していくために、他社との統合を通じて規模の経済性を高める分割・統合である(「分割部門専業化・他社同業部門との統合再編」)。典型的なのはD事例である。世界の強豪と伍していくためには、2つの会社が火力発電部門を持ち続けるよりは、それを分割して新設会社に統合したほうがよいと判断した結果である。C事例のA事業、C事業の分割もこのタイプに当たるが、いずれも政府関連機関からの支援を得て、更なる成長を目指すために分割したのである。

第3に、分割部門の収益性が高いが、選択と集中の経営戦略を進めていくために、同部門の分割益を活用するために行う分割である(「分割益活用・選択事業集中戦略再編」)。F事例とC事例のB事業がこれに当たる。分割売却益は、前者の場合、経営の負担となってきた有利子負債の返済とともに集中事業への更なる投資に有効に活用された。

第4に、分割部門と他の異種部門子会社との統合を通じて、統合のシナジー効果を図るための分割である(「分割部門と異種部門子会社との統合シナジー効果再編」)。A事例がこれに当たる。A事例では、営業部門を分割して、エンジニアリングや保守サービスの子会社との統合により、顧客へのソリューション・サービスを効果・効率的に行うために再編が行われた。

第5に、分割部門と同種部門子会社との統合を通じて、統合のシナジー効果を図るための分割である(「分割部門と同種部門子会社との統合シナジー効果再編」)。E事例がこれに当たる。E事例では、4つの製造部門(工場)を分割し製造専門子会社に統合させて、高い品質・高い生産性を実現しようしたのである。

第6に、不採算部門を切り離して同業他社に譲渡するタイプ(「不採算部門切り離し同業他社への譲渡再編」)であるが、これにはB事例が当たる。半導体後工程を担当するJI社は、経営が厳しくいくつかの工場を閉鎖する等の対策を講じても改善せず、S工場を同業他社のB社に譲渡した。

こうした企業組織再編は、企業グループ内での再編とグループ外のものに分かれる。再編元も先も特定の企業グループ(親会社が子会社株の100%保有)に属しているのは、A事例、B事例とE事例である。再編先の資本金50%以上を持ち、再編元が再編先企業の主導権を持ち、当該企業の連結会計対象としているのはD事例である。分割会社が、分割当初、分割統合会社株の50%以上を保有していたが、その持ち分が低下して連結会計対象外となっているのがG事例である。その他の事例は、再編当初より再編先企業の株を50%未満保有するかまったく保有しない形であり、企業グループ外の再編に当たる。

各事例に特徴があるのは再編の背景・形態だけではなく、労使関係もしかりである。具体的な内容は研究双書をご覧頂きたい。

で、そのときにも触れたのですが、最近はせっかく労使関係について調査しても、「協力先から公にしないでほしいとの要請があり」報告書に載せられないというケースが増えているようです。ただでさえ先細り傾向の労使関係研究なのに、いちばんおいしいところが世に出せない状況というのはなかなか辛いものがありますね。

さて、中身は是非本書自体をじっくりとお読みいただくこととして、ここでは呉さんの肉声が垣間見えている「あとがき・感謝の言葉」から、日本社会への叱咤の言葉を。

・・・私が韓国から日本に留学したのが1991年。この職場(労働政策研究・研修機構、旧日本労働研究機構)に就職したのが1997年である。その間、日本社会は大きく変わってきたが、どちらかといえば悪い方向にである。企業の国際競争力もそう言える。来日の前は「ジャパンアズナンバーワン」と言われるほど、日本企業の競争力が世界的に最高であった。しかし、今はそうはいえない状況である。なぜそうなのだろうか。その1つは対応力の弱さ・遅さではないかと思われる。過去の成功体験にとらわれて、前向きの発想をしその達成に向けた戦略を打ち立てることを怠ったまま、競争力にマイナスに働く事態が進み、早めの対応ができなくなったのではないか。企業組織再編でもそういう側面があったと見られる。

特定の事業や企業全体が競争力が失われるまでに手を打たない。手を打つときには、競争力を取り戻すことが難しい。そのために後ろ向きな企業組織再編が多かったのではないかと思われる。企業も労働者も多くの痛みを受けてしまう結果へとつながるのである。・・・

 

 

 

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