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2019年9月 9日 (月)

公立学校教員への労働基準法適用問題について

金曜日のエントリに、元教職員ですさんからコメントがつき、ごく簡単なお返事をさせていただきましたが、この問題の法律規定上の複雑怪奇さはなかなか一言では説明しきれないので、少し前に書いたこの問題の解説文をアップしておきたいと思います。

 

(1) 公務員への労働基準法適用問題

(イ) 労働基準法制定時の枠組み

 労働基準法第112条は「この法律及びこの法律に基いて発する命令は、国、都道府県、市町村その他これに準ずべきものについても適用あるものとする」と明記しています。反対解釈される恐れがあるので念のために設けられた規定です。現在は別表第1に移されてしまいましたが、かつては第8条に適用事業の範囲という規定があり、そこには「教育、研究又は調査の事業」(第12号)、「病者又は虚弱者の治療、看護その他保健衛生の事業」(第13号)に加え、第16号として「前各号に該当しない官公署」まであったのです。公立学校や公立病院はもとより、都道府県庁や市町村役場まで、何の疑問もなく労働基準法の適用対象でした。制定時の寺本広作課長は、「蓋し働く者の基本的権利としての労働条件は官吏たると非官吏たるとに関係なく同一に保障さるべきものであって、官吏関係に特別な権力服従関係はこの法律で保障される権利の上に附加されるべきものとされたのである」と述べています。
 これを前提にわざわざ設けられたのが法第33条第3項です。災害等臨時の必要がある場合は36協定がなくても時間外・休日労働をさせることができるというだけでは足りないと考えられたからこそ、「公務のために臨時の必要がある場合」には「第八条第十六号の事業に従事する官吏公吏その他の公務員」に時間外・休日労働をさせることができることとしていたのです。また、労働基準法施行規則には次のような、公務員のみが対象となるような特別規定がわざわざ設けられていました。

第二十九条 使用者は、警察官吏、消防官吏、又は常備消防職員については、一日について十時間、一週間について六十時間まで労働させ、又は四週間を平均して一日の労働時間が十時間、一週間の労働時間が六十時間を超えない定をした場合には、法第三十二条の労働時間にかかわらず、その定によつて労働させることができる。
第三十三条 警察官吏、消防官吏、常備消防職員、監獄官吏及び矯正院教官については、法第三十四条第三項の規定は、これを適用しない。

 こうした規定を見てもし今の我々が違和感を感じるとすれば、それはその後の法改正によって違和感を感じるようにされてしまったからなのです。そして、公務員の任用は労働契約に非ずという、実定法上にその根拠を持たない概念法学の影響で、いつしか公務員には労働法が適用されないのが当たり前という間違った考え方が浸透してしまったからなのです。ちなみに労働法学者の中にも、労働基準法が地方公務員に原則適用されるという事実に直面して「公務員の任用関係は労働契約関係と異なるという議論も、これでは説得力を失いかねない」などとひっくり返った感想を漏らす向きもありますが、そもそも「働く者の基本的権利としての労働条件は官吏たると非官吏たるとに関係なく同一に保障さるべきもの」というのが労働基準法の出発点であったことをわきまえない議論と言うべきでしょう。

(ロ) 公務員法による修正

 そこで、公務員への労働基準法適用問題の経緯をざっと見ておきましょう。早くも占領期のうちに、公務員の集団的労使関係法制の改正のあおりを食らう形で労働基準法制まで全面的ないし部分的な適用除外とされてしまいました。1948年7月、マッカーサー書簡を受けて制定された政令第201号は公務員の団体交渉権及びスト権を否定しましたが、その中の「給与、服務等公務員の身分に関する事項に関して、従前国又は地方公共団体によってとられたすべての措置については、この政令で定められた制限の趣旨に矛盾し、又は違反しない限り、引きつづき効力を有するものとする」(第1条第2項)という規定により、労働基準法第2条の「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきもの」との規定が、マッカーサー書簡の趣旨に反するとして適用されないこととされました。
 これはまだ労使対等原則に関わる限りの適用除外でしたが、同年11月の改正国家公務員法により、労働組合法と労働関係調整法にとどまらず、労働基準法と船員法についてもこれらに基づいて発せられる命令も含めて、一般職に属する職員には適用しないとされました(原始附則第16条)。そして「一般職に属する職員に関しては、別に法律が制定実施されるまでの間、国家公務員法の精神にてい触せず、且つ、同法に基く法律又は人事院規則で定められた事項に矛盾しない範囲内において、労働基準法及び船員法並びにこれらに基づく命令の規定を準用する」(改正附則第3条第1項本文)とされ、準用される事項は人事院規則で定める(同条第2項)とされましたが、そのような人事院規則は未だに制定されていません。また、「労働基準監督機関の職権に関する規定は、一般職に属する職員の勤務条件に関しては、準用しない」(同条第1項但書)と、労働基準監督システムについては適用排除を明確にしました。この改正はどこまで正当性があったか疑わしいものです。否定された団体交渉権やスト権と全く関わらないような最低労働条件を設定する部分まで適用除外する根拠はなかったはずです。時の勢いとしか説明のしようがありません。
 これに対して、1950年12月に成立した地方公務員法では、かなり冷静になって規定の仕分けがされています。労働組合法と労働関係調整法は全面適用除外であるのに対し、労働基準法については原則として適用されることとされたのです。ただし、地方公務員の種類によって適用される範囲が異なります。地方公営企業職員と単純労務者は全面適用です。教育・研究・調査以外の現業職員については、労使対等決定の原則(第2条)及び就業規則の規定(第89-93条)を除きすべて適用されます。公立病院などは、労使関係法制上は地公労法が適用されず非現業扱いでしたが(現在は地方独立行政法人として地公労法が適用されるものもあります)、労働条件法制上は現業として労働基準法がほぼフルに適用され、労働基準監督機関の監督下におかれるということになります。近年、医師の長時間労働が問題となる中で、公立病院への臨検監督により違反が続々と指摘されているのはこのおかげです。
 ところがこれに対して、狭義の非現業職員(労働基準法旧第8条第16号の「前各号に該当しない官公署」)及び教育・研究・調査に従事する職員については、上の二つに加えて、労働基準監督機関の職権を人事委員会又はその委員(人事委員会のない地方公共団体では地方公共団体の長)が行うという規定(地方公務員法第58条第3項)が加わり、労働基準法の労災補償の審査に関する規定及び司法警察権限の規定が適用除外とされたのです。人事委員会がない場合には、自分で自分を監督するという、労働基準監督システムとしてはいかにも奇妙な制度です。このため、教師の長時間労働がこれほど世間の話題になりながらも、公立学校への臨検勧告が行われることはないのです。

第五十八条 労働組合法(昭和二十四年法律第百七十四号)及び労働関係調整法(昭和二十一年法律第二十五号)並びにこれらに基く命令の規定は、職員に関して適用しない。
2 労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第二条、第八十五条、第八十六条、第八十九条から第九十三条まで及び第百二条の規定並びに船員法・・・並びにこれらの規定に基く命令の規定は、職員に関して適用しない。但し、労働基準法第八十五条、第八十六条及び第百二条の規定並びに船員法・・・並びにこれらの規定に基く命令の規定は、地方公共団体の行う労働基準法第八条第一号から第十号まで及び第十三号から第十五号までに掲げる事業に従事する職員に関しては適用する。
3 労働基準法及び船員法の規定並びにこれらの規定に基く命令の規定中前項の規定により職員に関して適用されるものを適用する場合における職員の勤務条件に関する労働基準監督機関の職権は、地方公共団体の行う労働基準法第八条第一号から第十号まで及び第十三号から第十五号までに掲げる事業に従事する職員の場合を除き、人事委員会又はその委任を受けた人事委員会の委員(人事委員会を置かない地方公共団体においては、地方公共同体の長)が行うものとする。

 それ以来今日まで、官公署と公立学校については労働基準法が原則適用されるにもかかわらず労働基準監督システムの監督下にはないという状況が70年近くも続いてきています。しかし、にもかかわらず、労働基準法が原則適用されているという事実には何の変わりもありません。上で労働基準法施行規則旧第29条、第33条を引用しましたが、これらは1950年の地方公務員法成立後もずっと労基則上に存在し続けてきました。第29条が削除されたのは労働時間短縮という法政策の一環として1981年の省令により1983年度から行われたものであり、第33条の方は対象を増やしながらなお現在まで厳然と存在し続けています。

第三十三条 法第三十四条第三項の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一 警察官、消防吏員、常勤の消防団員、准救急隊員及び児童自立支援施設に勤務する職員で児童と起居をともにする者

 団結権すら禁止されている警察官や消防士にも、労働基準法はちゃんと適用されていることを示す規定です。

(ハ) 首尾一貫しない適用除外規定の追加

 さて、上述したように、1950年の地方公務員法では、地方公営企業及び単純労務職員以外の現業・非現業双方の職員について共通に労使対等決定の原則(第2条)及び就業規則の規定(第89-93条)が適用除外されました。これは、地方公務員の労働条件は対等の労使交渉で決めるべきものではなく使用者側たる地方公共団体が一方的に決めるべきものという思想(上記マッカーサー書簡の趣旨)から来ているのでしょう。しかしながら、このとき時間外・休日協定の規定(第36条)は適用除外されていません。時間外・休日労働の条件として過半数組合又は過半数代表者との書面協定を要求することは、地方公務員にも適用されるべき最低労働条件に関わることであって、適用してはならない労使対等原則に関わることではない、という整理がされたのでしょう。
 もっとも、官公署の公務員であればもともと第33条第3項で時間外・休日労働を行わせることができるので36協定の必要はないとも言えますが、それ以外の(第12号の公立学校も含め)現業職員については、時間外・休日労働の必要があれば労使協定を締結した上でやらせるべしという法制度であったわけです。この大原則に関する限り、今日においてもなんら変わっていません。
 ところが、1987年改正で多くの労使協定を要する制度が導入されたとき、これらは地方公務員法第58条の適用除外項目に追加されたのです。具体的には、3か月単位及び1週間単位の変形労働時間制、フレックスタイム制、専門業務型裁量労働制、そして事業場外労働の労使協定を要する部分、年次有給休暇の計画的付与に関する部分です。その理由は労働基準法の解説書では明らかではありませんが、おそらくこれらの導入に必要な労使協定が労使対等決定原則(第2条)に照らしてふさわしくないと判断されたからではないかと想像されます。
 というのは、1998年改正で1か月単位の変形制は労使協定又は就業規則で導入することとされましたが、このとき地方公務員法第58条に第4項を追加し、読み替え規定でわざわざ労使協定の部分を削って「就業規則その他これに準ずるもの」で導入する部分だけ残したのです。同じ改正で一斉休憩が許可制から労使協定方式に変わりましたが、同項で労使協定を「条例に特別の定めがある場合」に読み替えています。就業規則に準ずる条例等で一方的に決めるのは良いが、労使対等の交渉で協定を締結するのは許されないという発想がこの改正の背後にあることは間違いないでしょう。同じ発想は2008年改正で導入された割増賃金に代わる代償休日や時間単位の年休取得でも、労使協定を使わないように読み替えるという形で一貫しています。
 ところが、一見首尾一貫しているように見えるこれら複雑な制度設計は、肝心要の時間外・休日労働がこの間一貫して36協定を要求したままになっているという一点で、みごとに論理破綻してしまっています。この首尾一貫しない複雑怪奇な適用除外規定は、2018年の働き方改革推進法を経てさらに膨れあがり、現在はこうなっています。

第五十八条・・・
3 労働基準法第二条、第十四条第二項及び第三項、第二十四条第一項、第三十二条の三から第三十二条の五まで、第三十八条の二第二項及び第三項、第三十八条の三、第三十八条の四、第三十九条第六項から第八項まで、第四十一条の二、第七十五条から第九十三条まで並びに第百二条の規定、労働安全衛生法第六十六条の八の四及び第九十二条の規定、船員法・・・並びにこれらの規定に基づく命令の規定は、職員に関して適用しない。ただし、労働基準法第百二条の規定、労働安全衛生法第九十二条の規定、船員法・・・並びにこれらの規定に基づく命令の規定は、地方公共団体の行う労働基準法別表第一号から第十号まで及び第十三号から第十五号までに掲げる事業に従事する職員に、同法第七十五条から第八十八条まで及び船員法・・・は、地方公務員災害補償法(昭和四十二年法律第百二十百二十一号)第二条第一項に規定する者以外の職員に関しては適用する。
4 職員に関しては、労働基準法第三十二条の二第一項中「使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、又は」とあるのは「使用者は、」と、同法第三十四条第二項ただし書中「当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは」とあるのは「条例に特別の定めがある場合は」と、同法第三十七条第三項中「使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により」とあるのは「使用者が」と、同法第三十九条第四項中「当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めた場合において、第一号に掲げる労働者の範囲に属する労働者が有給休暇を時間を単位として請求したときは、前三項の規定による有給休暇の日数のうち第二号に掲げる日数については、これらの規定にかかわらず、当該協定で定めるところにより」とあるのは「前三項の規定にかかわらず、特に必要があると認められるときは、」とする。

(2) 公立学校教員への労働基準法適用問題

(イ) 給特法までの経緯

 さて、旧第8条第16号の官公署については、そもそも民間企業で官公署の事業を行っているというものはありえませんが(とはいえ近年民間委託が増加して、必ずしもそう言えなくなってきましたが)、第12号に関しては当初から私立学校という労働基準法フル適用の事業が全く同じ業態の教育事業として存在し続けてきました。さらに、なぜか非現業の国家公務員として労働基準法が全面適用除外とされていた国立学校が、2004年から非公務員型独立行政法人となり、労働基準法フル適用に移行したこともあり、その間に挟まれた公立学校教員だけが労働基準法の適用に制限があることの矛盾がより強く感じられるようになりました。
 近年、教師の働き方改革が社会的に大きな問題となり、2017年7月に文部科学省の中央教育審議会に「学校における働き方改革特別部会」が設けられ、約1年半にわたる審議の末、去る2019年1月25日に「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について」を答申するとともに、文部科学省は「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」を公表しましたが、そこには上述の地方公務員法と労働基準法の適用関係をめぐる複雑な関係が影を落としており、なかなか解きほぐせない状況です。
 ここから給特法の立法経緯に入っていきます。一般公務員より若干高い給与を払う代わりに超過勤務手当を支給しないというのは、1948年の公務員給与制度改革以来の発想です。しかし労働基準法第37条はフルに適用されるのですから、1949年の文部事務次官通達「教員の勤務時間について」(昭和24年2月5日発学第46号)は、「勤務の態様が区々で学校外で勤務する場合等は学校の長が監督することは実際上困難であるので原則として超過勤務は命じないこと」、「ある1日において実働8時間以上勤務する必要がある場合にはその勤務を命ずることはできるがその勤務は原則として1週48時間の勤務に含まれるものとして勤務する如く命ずるものとすること」と述べていました。この「如く」は全く意味不明です。一方別の文部事務次官通達「教員の超過勤務について」(昭和24年3月19日発学第168号)は、「例外としてその日に割り振られた正規の勤務時間を超えて左記の勤務を行う必要がある場合には、これを超過勤務として命じ、・・・超過勤務手当を支給して差し支えありません」とも述べていました。
 しかし、実態としては時間外労働が多く行われており、法的には公立学校の教員には労働基準法の労働時間規定がフルに適用されていたため、1960年代後半に超過勤務手当の支給を求めるいわゆる「超勤訴訟」が全国一斉に提起され、下級審で時間外手当の支給を認める判決が続出し、1972年の最高裁判決がそれを確認しました。これより先、人事院は1964年に「現行制度のもとに立つかぎり、正規の時間外勤務に対しては、これに応ずる超過勤務手当を支給する措置が講ぜられるべきは当然であるが、他方、この問題は、教員の勤務時間についての現行制度が適当であるかどうかの根本にもつながる事柄でもある」と指摘しました。これを受けて文部省は1968年に教育公務員特例法改正案を国会に提出しましたが、野党の反対で廃案となりました。

(ロ) 給特法の制定

 1971年になると人事院が、「とりわけ超過勤務手当制度は教員にはなじまない」との考え方に基づき、「義務教育諸学校の教諭等に対する教職調整額の支給等に関する法律の制定についての意見の申出」を行いました。これを受けて文部省は再度法案を国会に提出することになりますが。その際、当時の労働省の中央労働基準審議会に報告し、1971年2月13日に同審議会から次のような建議が出されています。

1 労働基準法が他の法律によって安易にその適用が除外されるようなことは適当でないので、そのような場合においては、労働大臣は、本審議会の意向を聞くよう努められたい。
2 文部大臣が人事院と協議して超過勤務を命じうる場合を定めるときは、命じうる職務の内容及びその限度について関係労働者の意向が反映されるよう適切な措置がとられるよう努められたい。

 この建議はあくまでも労働大臣に宛てたもので、文部大臣宛ではないのですが、これを受けてその二日後、両省の局長間で次のような覚書が結ばれていたようです。

     覚書
昭和46年2月15日
文部省初等中等教育局長
労働省労働基準局長
「国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(案)」について
 第65国会に提案される「国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(案)」に関し、文部省と労働省は下記の通り諒解し、文部省はその趣旨の実現に努めるものとする。
     記
1.文部省は、教育職員の勤務ができるだけ、正規の勤務時間内に行われるよう配慮すること。
2.文部大臣が人事院と協議して時間外勤務を命じうる場合を定めるときは、命じうる職務については、やむを得ないものに限ること。
 なお、この場合において、関係教育職員の意向を反映すること等により勤務の実情について十分配慮すること。

 こうして1971年5月に成立したのが、国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(いわゆる「給特法」。後に国立学校が除外)です。これにより給与月額の4%の教職調整額が支給されるとともに、労働基準法第37条が(法文上で)適用除外されました。条文上は大変ややこしく、給特法第10条で上記地方公務員法第58条の読み替え規定を読み替えるという複雑なことをやっています。

第十条 公立の義務教育諸学校等の教育職員については、地方公務員法(昭和二十五年法律第二百六十一号)第五十八条第三項本文中「第二条、第二十四条第一項」とあるのは「第三十三条第三項中「第十六号」とあるのは「第十二号」と、「労働させることができる」とあるのは「労働させることができる。この場合において、公務員の健康及び福祉を害しないように考慮しなければならない」と読み替えて同項の規定を適用するものとし、同法第二条、第二十四条第一項、第三十七条」と、「第五十三条第一項」とあるのは「第五十三条第一項、第六十七条第二項」と、「規定は」とあるのは「規定(船員法第七十三条の規定に基く命令の規定中同法第六十七条第二項に係るものを含む。)は」と読み替えて同項の規定を適用するものとする。

 これにより、当時の地方公務員法第58条第3項がこう読み替えられます。

3 労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第三十三条第三項中「第十六号」とあるのは「第十二号」と、「労働させることができる」とあるのは「労働させることができる。この場合において、公務員の健康及び福祉を害しないように考慮しなければならない」と読み替えて同項の規定を適用するものとし、同法第二条、第二十四条第一項、第三十七条、第七十五条から第九十三条まで及び第百二条の規定並びに船員法・・・並びにこれらの規定に基く命令の規定は、職員に関して適用しない。但し、・・・。

 これにより、公務員たる公立学校教員についても、上記第33条第3項の「公務のための臨時の必要がある場合」に36協定なしに時間外・休日労働可能という規定が官公署並みに適用されることとなりました。念のため、これで読み替えられた労働基準法第33条第3項を見ておきましょう。

3 公務のために臨時の必要がある場合においては、第一項の規定にかかわらず、第八条第十二号の事業に従事する官吏、公吏その他の公務員については、前条若しくは第四十条の労働時間を延長し、又は第三十五条の休日に労働させることができる。この場合において、公務員の健康及び福祉を害しないように考慮しなければならない。

 そして、「正規の勤務時間をこえて勤務させる場合は、文部大臣が人事院と協議して定める場合に限るものとする。この場合においては、教育職員の健康と福祉を害することとならないよう勤務の実情について充分な配慮がされなければならない」という条文が設けられ、その「場合」は政令でいわゆる超勤4項目とされました。具体的には①生徒の実習、②学校行事、③職員会議、④非常災害、児童生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合等です。
 同時に、上記読み替え規定によって、第37条の時間外・休日労働の割増賃金規定が適用除外され、超勤訴訟で違法と確定していた取扱いがめでたく合法化されました。

(ハ) 教師の長時間労働対策

 ところが、公立学校教師の長時間労働は近年悪化の一途をたどっています。その大部分はクラス担任や部活動担当に伴うもので、超勤4項目に含まれない「自発的勤務」とされ、裁判例(札幌高裁平19.9.27)もそれを容認しています。しかし、実態としてはそれなしには学校運営が成り立たない状況にもかかわらず、引き受けた教師の自発的活動ゆえ公務ではないので公務災害補償の対象にもならないという理不尽なことになってしまいます。
 さらに、一般の働き方改革の一環として、労働安全衛生法上に労働時間の適正把握義務(第66条の8の3)が規定され、これは地方公務員にもフルに適用されます。ただし、官公署と公立学校は例によって身内ないし本人が監督するという仕組みです。とはいえ、働き方改革が国政の重要課題となる中、監督署に臨検される恐れがないから労働時間の把握もしませんというわけにはいきません。遂に文部科学省も教員の働き方改革に踏み出さざるを得なくなったわけです。
 ただ、なまじ給特法で時間外・休日労働が第36条や第37条の違反にならないような仕組みにしてしまったために、それをどうするかが悩ましい問題となります。素直に考えれば、「給特法を見直した上で、36協定の締結や超勤4項目以外の「自発的勤務」も含む労働時間の上限設定、全ての校内勤務に対する時間外勤務手当などの支払」を原則とするところから始めるべきことになりますが、答申はそれを是としません。あくまでも給特法の基本的枠組みを前提として、「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」でもって在校時間等の縮減に取組むというスタンスです。
 この「ガイドライン」は、超勤4項目以外の自発的勤務を行う時間も含めて、在校時間プラス児童生徒の引率等校外勤務時間(在校時間等)の上限の目安を示すもので、1か月45時間、1年360時間、特例で年720時間、その場合1か月100時間未満など、基本的に2018年改正労働基準法に沿っています。ただし、在校時間自体が法的概念ではなく、ガイドラインも法的拘束力はありません。教育委員会はそれぞれガイドラインを参考にして方針を策定し、業務の役割分担や適正化、必要な環境整備に取り組むこととされています。
 では労働時間規制については何もしないのかというと、やや唐突に1年単位の変形労働時間制の導入が打ち出されています。学校には夏休みなど児童生徒の長期休業期間がある一方、学期末・学年末には成績処理や指導要録記入で忙しく、また学校行事や部活動の試合の時期も長時間勤務になりがちなので、年間を通した業務のあり方に着目して検討しようというわけです。その発想自体は「ありうる」とは思われますが、残念ながら現行地方公務員法は1年単位の変形制を適用除外しています。答申は「当時において地方公務員の業務においてあらかじめ繁閑が生じるものが想定されなかったことにより適用されなかった取扱いが、現在も引き続いているもの」と説明していますが、そうでないことは上述したとおりです。
 答申は「地方公務員のうち教師については、地方公共団体の条例やそれに基づく規則等に基づき、1年単位の変形労働時間制を適用することができるよう法制度上措置すべきである」と述べており、またまた複雑な読み替え規定を設ける算段のようです。

 

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コメント

わざわざ再アップして頂きありがとうございます!
素人ながら理解できるよう努めて読み込んでいきたく思います。

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