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2019年9月21日 (土)

アラン・シュピオ著『フィラデルフィアの精神』書評@『週刊読書人』9月20日号

Dokushojin 書評紙『週刊読書人』9月20日号に、アラン・シュピオ著『フィラデルフィアの精神』(嵩さやか監修、橋本一径訳)(勁草書房)の書評を寄稿しました。

タイトルは「ウルトラリベラル批判の書 ソーシャルの価値観の再対置を試みる」です。

本日、週刊読書人のホームページ上に公開されました。

https://dokushojin.com/article.html?i=5954

標題の「フィラデルフィア」とは、一九四四年五月一〇日の「国際労働機関の目的に関するフィラデルフィア宣言」のことだ。『六法全書』にも、国際労働機関憲章の附属書として掲載されており、戦後世界のマニフェストの一つとなった。正確に言えば、ソ連型共産主義と対立する自由主義圏において、社会民主主義的なケインジアン福祉国家路線の旗印として掲げられてきた文書である。従ってフィラデルフィアの精神には本質的な敵が二つある。一つは共産主義であり、今ひとつは本書で言うところのウルトラリベラリズムである。ちなみに、本紙読者には釈迦に説法だが、著者シュピオの属するフランスの用語法では、アメリカ語法のネオリベラリズムやリバタリアンも含めて自由市場主義が「リベラル」であり、社会的規制を訴える「ソシアル」と対義語をなす。そのリベラルの極端派がウルトラリベラルである。特殊アメリカ語法の「リベラル」はフランスでは「ソシアル」に相当するので、注意が必要である。
 本書は、端的に言ってしまえば、一九九〇年代以来のウルトラリベラルの制覇――「全体的市場」というユートピア/ディストピア――に対して、ソーシャルの価値観を再対置しようとするものであり、宣言にいう「労働は商品ではない」とか「一部の貧困は全体の繁栄にとって危険である」といった社会民主主義の根本原則が繰り返し説かれる。その点だけに注目すれば、この労働法学者によるウルトラリベラル批判の書は、日本でも類書が少ないわけではない。しかし、本書が類書にない鋭い指摘をしているのは、とりわけ一九九〇年代以降のEUにおいて、共産圏の崩壊とそれに続くEU拡大がウルトラリベラルな反革命を助長してきたという点であり、第1章の「共産主義と資本主義の蜜月」というタイトルに示されている。
 「ソーシャル」を共有していたはずの元共産主義者たちは、「フィラデルフィア精神にも、〈法権利〉の尊重にも、参加型民主主義という理想にも、ほとんど無頓着」で、ウルトラリベラルに苦もなく賛同した。なぜか?〈法権利〉(=droit、Recht)の尊重ではなく、経済「法則」の支配を讃える点で、両者は共通していたからだ。法の支配ではなく、法を用いた支配が、プロレタリア独裁に代った市場独裁の道具となる。この論理の拡大版は、中国という共産党一党独裁の資本主義国家の形で我々の目の前にもある。「新保守主義的な説教師たちの大半は極左の元活動家」というのもフランスだけの話ではない。
 一九九〇年に欧州委員会に提出された報告書『雇用を超えて』の著者として労働法サークルの中でひっそりと知られていたシュピオが、独創的な社会哲学者として日本の読者の前に姿を現したのは昨年『法的人間』の出版によってであった。本書の邦訳により、アクチュアルな社会思想家としての顔も示された。次は本書でも第4章で言及されている『数によるガバナンス』が、AIに揺れる今日にふさわしいかも知れない。 

51jzp1ysgxl__sx339_bo1204203200_そして何より、私の書評なんかよりも、この本自体を読んでください。

そして、このフィラデルフィア宣言の文言そのものを、改めてじっくりと読み直していただければ、と。

国際労働機関の目的に関するフィラデルフィア宣言
 
 国際労働機関の総会は、その第26 回会期としてフィラデルフィアに会合し、1944 年5 月10 日、国際労働機関の目的及び加盟国の政策の基調をなすべき原則に関するこの宣言をここに採択する。
 
1
 総会は、この機関の基礎となっている根本原則、特に次のことを再確認する。
(a)労働は、商品ではない。
(b)表現および結社の自由は、不断の進歩のために欠くことができない。
(c)一部の貧困は、全体の繁栄にとって危険である。
(d)欠乏に対する戦は、各国内における不屈の勇気をもって、継続的かつ協調的な国際的努力によって遂行される必要があり、そこでは労働者および使用者の代表者が、政府の代表者と同等の地位において、一般の福祉を増進するための自由な討議および民主的な決定に参加していなければならない。
 
2
 永続する平和は社会正義を基礎としてのみ確立できるという、国際労働機関憲章の宣言の真実性が、経験によって充分に証明されたと信じて、総会は、次のことを確認する。
(a)すべての人間は、人種、信条または性にかかわりなく、自由および尊厳ならびに経済的保障および機会均等の条件において、物質的福祉および精神的発展を追求する権利をもつ。
(b)このことを可能ならしめる状態の実現は、国家政策・国際政策の中心目的でなければならない。
(c)国家ならびに国際の政策および措置はすべて、特に経済的および財政的性質をもつものは、この見地から判断することとし、この根本目的の達成を促進するものであり、妨げないものであると認められる限りにおいてのみ、是認されることとしなければならない。
(d)この根本目的に照らして国際的な経済・財政政策および措置をすべて検討し、審議することは、国際労働機関の責任である。
(e)国際労働機関は、委託された任務を遂行するにあたり、関係のあるすべての経済的・財政的要素に考慮を払って、自らが適当と認める条項を、その決定および勧告の中に含めることができる。
 
3
 総会は、次のことを達成するためのプログラムを、世界の諸国間において促進することが、国際労働機関の厳粛な義務であると承認する。
(a)完全雇用及び生活水準の向上。
(b)自らの技能や知識を最大限に提供でき、一般の福祉に最大の貢献をすることができるという満足の得られる職業への、労働者の雇用。
(c)この目的を達成する手段として、すべての関係者に対する充分な保障の下に、訓練のための便宜、ならびに雇用と定住を目的とする移民を含む労働者の移動のための便宜を供与すること。
(d)すべての者に進歩の成果の公正な分配を保障し、また最低生活賃金による保護を必要とするすべての被用者にこの賃金を保障することを意図した、賃金・所得・労働時間その他の労働条件に関する政策。
(e)団体交渉権の実効的な承認、生産能率の不断の改善に関する経営と労働の協力、社会的・経済的措置の準備と適用における労働者と使用者の協力。
(f)社会保障措置を拡張して、必要のあるすべての者に対する基本収入と、包括的な医療給付を与えること。
(g)あらゆる職業における労働者の生命および健康の充分な保護。
(h)児童の福祉および母性の保護のための措置。
(i)充分な栄養、住居ならびにレクリエーションおよび文化施設の提供。
(j)教育および職業における機会均等の保障。
 
4
 この宣言に述べた目的の達成に必要な、世界の生産資源の一層完全かつ広範な利用は、生産と消費の増大、急激な経済変動の回避、世界の未開発地域の経済的・社会的発展の促進、一次的生産物の世界価格の一層大きな安定の確保、高い国際貿易量の維持のための措置を含めた、効果的な国際・国内行動によってこそ確実になることを確信し、総会は、国際労働機関が、この偉大な事業ならびにすべての人民の健康、教育および福祉の増進に対する責任の一部を委託される諸々の国際団体と、充分に協力することを誓約する。
 
5
 総会は、この宣言に述べた原則があらゆる場所の人民に充分に適用できるものであることを確認し、それをいかに適用するかは各人民の社会や経済の発達段階を充分に考慮して決定すべきであるとしても、まだ依存状態にある人民にも、すでに自治に達した人民にも、それを漸進的に適用することが文明世界全体の関心事であることを確認する。

 

 

 

 

 

 

 

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