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2019年9月

2019年9月21日 (土)

アラン・シュピオ著『フィラデルフィアの精神』書評@『週刊読書人』9月20日号

Dokushojin 書評紙『週刊読書人』9月20日号に、アラン・シュピオ著『フィラデルフィアの精神』(嵩さやか監修、橋本一径訳)(勁草書房)の書評を寄稿しました。

タイトルは「ウルトラリベラル批判の書 ソーシャルの価値観の再対置を試みる」です。

本日、週刊読書人のホームページ上に公開されました。

https://dokushojin.com/article.html?i=5954

標題の「フィラデルフィア」とは、一九四四年五月一〇日の「国際労働機関の目的に関するフィラデルフィア宣言」のことだ。『六法全書』にも、国際労働機関憲章の附属書として掲載されており、戦後世界のマニフェストの一つとなった。正確に言えば、ソ連型共産主義と対立する自由主義圏において、社会民主主義的なケインジアン福祉国家路線の旗印として掲げられてきた文書である。従ってフィラデルフィアの精神には本質的な敵が二つある。一つは共産主義であり、今ひとつは本書で言うところのウルトラリベラリズムである。ちなみに、本紙読者には釈迦に説法だが、著者シュピオの属するフランスの用語法では、アメリカ語法のネオリベラリズムやリバタリアンも含めて自由市場主義が「リベラル」であり、社会的規制を訴える「ソシアル」と対義語をなす。そのリベラルの極端派がウルトラリベラルである。特殊アメリカ語法の「リベラル」はフランスでは「ソシアル」に相当するので、注意が必要である。
 本書は、端的に言ってしまえば、一九九〇年代以来のウルトラリベラルの制覇――「全体的市場」というユートピア/ディストピア――に対して、ソーシャルの価値観を再対置しようとするものであり、宣言にいう「労働は商品ではない」とか「一部の貧困は全体の繁栄にとって危険である」といった社会民主主義の根本原則が繰り返し説かれる。その点だけに注目すれば、この労働法学者によるウルトラリベラル批判の書は、日本でも類書が少ないわけではない。しかし、本書が類書にない鋭い指摘をしているのは、とりわけ一九九〇年代以降のEUにおいて、共産圏の崩壊とそれに続くEU拡大がウルトラリベラルな反革命を助長してきたという点であり、第1章の「共産主義と資本主義の蜜月」というタイトルに示されている。
 「ソーシャル」を共有していたはずの元共産主義者たちは、「フィラデルフィア精神にも、〈法権利〉の尊重にも、参加型民主主義という理想にも、ほとんど無頓着」で、ウルトラリベラルに苦もなく賛同した。なぜか?〈法権利〉(=droit、Recht)の尊重ではなく、経済「法則」の支配を讃える点で、両者は共通していたからだ。法の支配ではなく、法を用いた支配が、プロレタリア独裁に代った市場独裁の道具となる。この論理の拡大版は、中国という共産党一党独裁の資本主義国家の形で我々の目の前にもある。「新保守主義的な説教師たちの大半は極左の元活動家」というのもフランスだけの話ではない。
 一九九〇年に欧州委員会に提出された報告書『雇用を超えて』の著者として労働法サークルの中でひっそりと知られていたシュピオが、独創的な社会哲学者として日本の読者の前に姿を現したのは昨年『法的人間』の出版によってであった。本書の邦訳により、アクチュアルな社会思想家としての顔も示された。次は本書でも第4章で言及されている『数によるガバナンス』が、AIに揺れる今日にふさわしいかも知れない。 

51jzp1ysgxl__sx339_bo1204203200_そして何より、私の書評なんかよりも、この本自体を読んでください。

そして、このフィラデルフィア宣言の文言そのものを、改めてじっくりと読み直していただければ、と。

国際労働機関の目的に関するフィラデルフィア宣言
 
 国際労働機関の総会は、その第26 回会期としてフィラデルフィアに会合し、1944 年5 月10 日、国際労働機関の目的及び加盟国の政策の基調をなすべき原則に関するこの宣言をここに採択する。
 
1
 総会は、この機関の基礎となっている根本原則、特に次のことを再確認する。
(a)労働は、商品ではない。
(b)表現および結社の自由は、不断の進歩のために欠くことができない。
(c)一部の貧困は、全体の繁栄にとって危険である。
(d)欠乏に対する戦は、各国内における不屈の勇気をもって、継続的かつ協調的な国際的努力によって遂行される必要があり、そこでは労働者および使用者の代表者が、政府の代表者と同等の地位において、一般の福祉を増進するための自由な討議および民主的な決定に参加していなければならない。
 
2
 永続する平和は社会正義を基礎としてのみ確立できるという、国際労働機関憲章の宣言の真実性が、経験によって充分に証明されたと信じて、総会は、次のことを確認する。
(a)すべての人間は、人種、信条または性にかかわりなく、自由および尊厳ならびに経済的保障および機会均等の条件において、物質的福祉および精神的発展を追求する権利をもつ。
(b)このことを可能ならしめる状態の実現は、国家政策・国際政策の中心目的でなければならない。
(c)国家ならびに国際の政策および措置はすべて、特に経済的および財政的性質をもつものは、この見地から判断することとし、この根本目的の達成を促進するものであり、妨げないものであると認められる限りにおいてのみ、是認されることとしなければならない。
(d)この根本目的に照らして国際的な経済・財政政策および措置をすべて検討し、審議することは、国際労働機関の責任である。
(e)国際労働機関は、委託された任務を遂行するにあたり、関係のあるすべての経済的・財政的要素に考慮を払って、自らが適当と認める条項を、その決定および勧告の中に含めることができる。
 
3
 総会は、次のことを達成するためのプログラムを、世界の諸国間において促進することが、国際労働機関の厳粛な義務であると承認する。
(a)完全雇用及び生活水準の向上。
(b)自らの技能や知識を最大限に提供でき、一般の福祉に最大の貢献をすることができるという満足の得られる職業への、労働者の雇用。
(c)この目的を達成する手段として、すべての関係者に対する充分な保障の下に、訓練のための便宜、ならびに雇用と定住を目的とする移民を含む労働者の移動のための便宜を供与すること。
(d)すべての者に進歩の成果の公正な分配を保障し、また最低生活賃金による保護を必要とするすべての被用者にこの賃金を保障することを意図した、賃金・所得・労働時間その他の労働条件に関する政策。
(e)団体交渉権の実効的な承認、生産能率の不断の改善に関する経営と労働の協力、社会的・経済的措置の準備と適用における労働者と使用者の協力。
(f)社会保障措置を拡張して、必要のあるすべての者に対する基本収入と、包括的な医療給付を与えること。
(g)あらゆる職業における労働者の生命および健康の充分な保護。
(h)児童の福祉および母性の保護のための措置。
(i)充分な栄養、住居ならびにレクリエーションおよび文化施設の提供。
(j)教育および職業における機会均等の保障。
 
4
 この宣言に述べた目的の達成に必要な、世界の生産資源の一層完全かつ広範な利用は、生産と消費の増大、急激な経済変動の回避、世界の未開発地域の経済的・社会的発展の促進、一次的生産物の世界価格の一層大きな安定の確保、高い国際貿易量の維持のための措置を含めた、効果的な国際・国内行動によってこそ確実になることを確信し、総会は、国際労働機関が、この偉大な事業ならびにすべての人民の健康、教育および福祉の増進に対する責任の一部を委託される諸々の国際団体と、充分に協力することを誓約する。
 
5
 総会は、この宣言に述べた原則があらゆる場所の人民に充分に適用できるものであることを確認し、それをいかに適用するかは各人民の社会や経済の発達段階を充分に考慮して決定すべきであるとしても、まだ依存状態にある人民にも、すでに自治に達した人民にも、それを漸進的に適用することが文明世界全体の関心事であることを確認する。

 

 

 

 

 

 

 

2019年9月20日 (金)

EUの透明で予見可能な労働条件指令@『労基旬報』2019年9月25日号

『労基旬報』2019年9月25日号に「EUの透明で予見可能な労働条件指令」を寄稿しました。

http://www.jade.dti.ne.jp/~roki/hamaguchisensei.html

 本紙でも過去何回か制定途中で紹介してきたEUの透明で予見可能な労働条件指令が、去る2019年6月20日に正式に成立しました。正式名称は「欧州連合における透明で予見可能な労働条件に関する欧州議会と理事会の指令(2019/1152)」です。これまで本紙では、「EUの新たな労働法政策-多様な就業形態への対応」2017年6月25日号、「EUにおける新たな就業形態に対する政策の試み」2018年1月15日号で紹介し、さらに詳細は『季刊労働法』2018年春号(260号)掲載の「EUの透明で予見可能な労働条件指令案」で条文案を示しつつ解説しています。
 今回成立に至った指令は、基本的にこれらで紹介した指令案段階の文言とそれほど大きく変わっていませんが、いちばん大きな変化は指令案第2条に盛り込まれていた「労働者」、「使用者」、「雇用関係」の定義規定の削除です。これらは、類似のEU司法裁判所における判例に基づくもので、例えば「労働者」は「一定の時間において、報酬と引き替えに、他人のためにその指揮命令下で役務を遂行する自然人」と定義されていましたが、とりわけ各国労働大臣からなる理事会において批判が集中し、削除に追い込まれてしまいました。2018年6月14日付の理事会文書によると、審議の当初からEUレベルで労働者の定義規定を設けることに懸念が示され、旧書面通知指令と同様国レベルへの参照に止めるべきとの意見が出されたようです。議長国は「従属性」を追加し「役務」を「労働」に変えるという案を提示しましたが受容れられませんでした。
 一方欧州議会の方も労働者概念の拡大につながりかねない動きには警戒的でした。2018年10月26日付の同議会意見では、上記労働者の定義規定を第1条第2項に移した上で、「前者と後者の間に支配従属関係がある場合に」という要件を追加し、さらに「かかる基準を充足しない者は本指令の適用範囲にない」と規定するだけでも足らず、第1条第2a項として「本指令で定める基準を充足しない自営業者は本指令の適用範囲にない」と念を入れています。両立法体にとっては、自営業者が労働者とされてしまうリスクを削り取っておくことが重要だったのでしょう。
 結局、最終的に採択された指令では、第1条第2項の「全ての労働者」を定義する形で、「本指令は、司法裁判所の判例を考慮しつつ、各加盟国の法律、労働協約又は現行の慣習により定義された雇用契約又は雇用関係を有するEUの全ての労働者に適用される最低限の権利を規定する」という規定ぶりになっています。
 なお指令案では本文の労働者の定義規定の参照として法的拘束力のない前文第7項に、その基準を満たす限り家事労働者、オンデマンド労働者、間歇的労働者、バウチャーベースの労働者、プラットフォーム労働者、訓練生及び実習生が指令の適用範囲に含まれるという記述がありました。これらリストは前文第8項に残っていますが、そこには併せて「純粋な自営業者はこれら基準を充足しないので本指令の適用範囲にない」と追加されています。しかしこれに対しては反発も強く、結局自営業者の地位の濫用について、「偽装自営業は雇用関係の諸条件を充足しているにもかかわらず法的財務的義務を回避するために自営業と申告する場合に生ずる。かかる者は本指令の適用範囲である。雇用関係の存在判定は当事者による関係の記述ではなく労働の現実の遂行に係る事実によって判断されるべき」というやや説明的な文言が前文第8項に追加されました。いずれにせよ、EUにおいても労働者性の問題は政治的にセンシティブなものであることが窺われます。
 もう一つ理事会で修正された実体規定は適用除外です。指令案では1か月8時間以下の労働者を適用除外することができるとされていましたが、それでは狭すぎるという批判が出て、結局4連続週平均で1週間3時間以下の労働者の適用除外とされました。日本の感覚ではどちらも極めて僅少労働ですが、これも指令案が緩和された点です。
 指令案から労働者保護的な方向に規定が充実されたのはオンデマンド労働に関する規定です。指令案第9条(最低限の就業予見可能性)では、使用者は(a)事前に決定された参照時間または参照日の範囲内で労働が行われるか、(b)合理的な事前告知期間をおいて使用者が労働者に作業割当をする場合にのみ可能としていましたが、欧州議会の修正案に基づき、いくつかの規定が追加されました。指令第10条では、これら要件が満たされなかった場合には労働者が不利益を被ることなく作業割当を拒否する権利があること、また使用者が補償なく作業割当を取り消すことを認める場合でも、労働者と合意した作業割当を一定の合理的なデッドライン以後に取り消す使用者に対して補償金を支払うよう加盟国に求めています。さらに、オンデマンド労働への補完的措置が第11条として新設され、加盟国がオンデマンド契約又は類似の契約を認める場合でも、その利用と期間に制限を設けること、一定期間に就業した平均労働時間に基づき最低限の賃金支払い時間数の存在を推定すること、その他乱用を防ぐための同等の措置を求めています。
 全体としては、いわゆる雇用類似の働き方に係る労働立法の先駆け的な性格はやや後退しましたが、むしろ近年その濫用が大きな社会問題となっているオンデマンド労働やとりわけセロ時間労働といった極度に不安定な雇用形態に対する立法対応として評価されるべきものとなったように思われます。
 その観点からすると、本指令の日本へのインプリケーションはいわゆる雇用類似の働き方よりはむしろ、日雇派遣のような形で表れてきている極度に不安定な雇用形態についてより重要なのかもしれません。ここで日雇派遣に関する過去の経緯を振り返ってみましょう。今から10年以上も前の2000年代半ば、日雇派遣で働く人たちにテレビや新聞が着目し、ネットカフェに寝泊まりしている姿など彼らの窮状を集中的に報道したことが、社会に対し非常に大きな影響を与えました。グッドウィルやフルキャストといった日雇派遣会社の名前を思い出す方もいるでしょう。2007年12月の労政審中間報告では日雇派遣の一部規制強化が打ち出されました。そこでは、日雇派遣は契約期間が短く、仕事があるかどうかが前日までわからない、当日キャンセルがあるといったことや、給与からの不透明な天引きや移動時間中の賃金不払い、安全衛生措置や教育が講じられず労災が起きやすい、労働条件の明示がされていないといった問題点が指摘されていました。これらは上記オンデマンド労働と同じ性格の問題です。そこでこの時点で省令改正がされ、日雇でも派遣先責任者の選任義務や派遣先管理台帳の作成記帳義務を課し、派遣元事業主が定期的に日雇派遣労働者の就業場所を巡回し就業の状況を確認することを義務づける等しました。
 日雇派遣形態そのものの規制については、2008年7月の「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会報告書」で、危険度が高く、安全性が確保できない業務、雇用管理責任が担い得ない業務を禁止し、専門業務など短期の雇用であっても労働者に特段の不利益が生じないような業務のみ認める方向が打ち出され、同年9月の労政審建議では「日々又は30日以内の期間を定めて雇用する労働者について、原則、労働者派遣を行ってはならない」とした上で、「日雇派遣が常態であり、かつ、労働者の保護に問題ない業務等について、政令によりポジティブリスト化して認めることが適当」としました。これを受けて同年11月に労働者派遣法改正案が国会に提出されましたが、折からのリーマンショックで、多くの派遣労働者が派遣会社の寮を追い出されて住むところを失うという状況があらわになり、同年末から2009年始にかけていわゆる「年越し派遣村」が設立され、派遣制度に対する風当たりはさらに強くなりました。
 2009年の総選挙で民主党政権が誕生すると、あらためて労働者派遣法の審議が始められ、2010年4月により規制を強化した改正案が国会に提出されましたが、日雇派遣については自公政権時の法案と変わっていませんでした。しかし、政治状況から同法案が塩漬けになり、2012年3月に野党の自公両党と合意して登録型派遣の原則禁止の削除など修正可決した際、禁止の例外としてさらに「雇用の機会の確保が特に困難であると認められる労働者の雇用の継続等を図るために必要であると認められる場合その他の場合で政令で定める場合」を加え、具体的には60歳以上の高齢者、昼間学生、労働者自身かその配偶者が年収500万円以上の者を適用除外としました。この規定は2015年9月に労働者派遣法が全面的に改正されたときにも触れられず、現在も適用されています。
 一方この間、日雇派遣の原則禁止を見越して多くの業者は日雇派遣から日々紹介への業態転換を図り、現在では実質的に同様の業務が日々紹介として行われています。有料職業紹介事業には手数料規制など派遣事業にはない規制があるとはいえ、対象者に制限がないのでやりやすいことは確かでしょう。とりわけ、日雇で働くために年収500万円以上要件をクリアしているかどうかを証明させる面倒くささを考えれば業者が日々紹介に流れていったことはよく理解できます。しかし、形態が日雇派遣から日々紹介に変わっても、指摘されていた「契約期間が短く、仕事があるかどうかが前日までわからない、当日キャンセルがある」といった問題点に変わりはありません。これは、たまたま日雇派遣という形で現れた問題を、もっぱら労働者派遣という側面に注目して派遣法の法的手段を使って対応しようとしたことの結果と言えます。
 欧米のオンデマンド労働やゼロ時間契約を見てから、あらためて日本の日雇派遣や日々紹介を見てみると、就労時間以外の待機時間に当たる部分を、日本では派遣会社や紹介会社の「登録」という曖昧な状態におくことによって、同じような効果をもたらしていることがわかります。どちらも、情報通信技術の発達のおかげで、いつどこにいても携帯電話による呼び出しが可能になったことを利用した新たな就業形態であり、その歴史的位置はほぼ同じようなものではないかと思われます。経済のデジタル化に伴う新たな就業形態が話題となる今日、日雇派遣・日々紹介についても新たな視点からの議論が求められるのではないでしょうか。
 ごく最近、2019年6月6日の規制改革推進会議の第5次答申が「政府の方針として副業の推進が挙げられている現在、日雇派遣の形態で副業を行うことについて、現行規制を見直し、より広く認められてしかるべきである。労働者が本業の勤務時間外に、その専門的能力を生かして副業を行う場合、複数の派遣事業者に登録しておき、最も都合の良い場所や時間を選択できる日雇派遣は、労働者にとって極めて利便性が高い。また、企業にとっても、イベント等に関して急に生じた臨時的・一時的な雇用ニーズを満たすことができる」と述べ、「労働者がニーズに応じて、雇用型、派遣型、自営型の副業を柔軟に選べるよう、副業の場合の日雇派遣の規制を緩和すべきである」と求めました。これを受けて、政府は6月21日に閣議決定した規制改革実施計画で、「日雇派遣に関して、労働者保護に留意しつつ、雇用機会を広げるために、「副業として行う場合」の年収要件の見直しを検討し、速やかに結論を得る」と決め、これを受けて厚生労働省はさっそく、(他の事項と併せて)同月25日から労政審労働力需給制度部会で審議を開始しています。
 しかし、EUの透明で予見可能な労働条件指令を見た上で日雇派遣問題を振り返ってみると、規制改革推進会議が指摘するような問題にとどまらず、労働法的観点から検討すべき論点が多く残されているように思われます。

 

 

 

2019年9月17日 (火)

『季刊労働法』2019年秋号

483_o 『季刊労働法』266号(2019年秋号)が刊行されました。

https://www.roudou-kk.co.jp/books/quarterly/7137/

特集は今注目の「医師・教員の働き方改革 」。

働き方改革において,医師については,他職種と比較しても抜きんでた長時間労働の実態があり,医師の働き方改革に関する検討会で独立して議論が進められてきました。3月に上記検討会における報告書がまとめられ,2024年度から勤務医に適用される残業時間の上限規制の取り組みや,医師の負担軽減策が盛り込まれました。今号では医師,そして,同時期にやはり独立して議論されていた教員の「働き方改革」について考えます。

ということで、こういうラインナップになっています。

◎特集 医師・教員の働き方改革
医師の働き方改革と今後の労働時間規制 早稲田大学教授 島田 陽一
医師も人間らしく働ける社会に向けて,着実な取り組みを ~「医師の働き方改革」,労働組合の立場から~ 日本労働組合総連合会総合労働局長 村上 陽子
医師の立場からみた働き方改革 日本医師会副会長/日本医師会女性医師支援センター長 今村 聡
医師の働き方改革 ~医療を未来につなぐ取組~ 厚生労働省労働基準局労働条件政策課医療労働企画官/同医政局医療経営支援課医療勤務環境改善推進室長 安里 賀奈子
公立学校教員の労働時間規制に関する検討 金沢大学准教授 早津 裕貴
労働組合の立場から見た教員の働き方改革 みらいの教育プロジェクト呼びかけ人代表(元日教組組織労働局長) 藤川 伸治
学校における働き方改革の推進について 文部科学省初等中等教育局財務課課長補佐 鞠子 雄志

どちらも「せんせい」と呼ばれる仕事ですが、その聖職としてのイメージがその労働条件悪化を加速させてしまうという矛盾の中で苦しんでいるという意味では共通する面があるとともに、教員の場合、なまじ公立学校教員の公務員法上の妙な扱いが事態をこじらせているという特殊性もあり、なかなか複雑怪奇な世界ではあります。

私も議論の動向を追いかけつつ、小文をちょこちょこ書いていた分野ですが、今回の特集記事の中で面白かったのはやはり藤川伸治さんの論文です。私も少し調べたことがありますが、給特法ができるまでの経緯や、その後の文部省と日教組の交渉経緯、さらには学校5日制との関係など、複雑怪奇な歴史の一端が垣間見えます。

私の連載「労働法の立法学」は、今回は「集団的労働紛争解決システムの1世紀」を取り上げました。

 本連載の第37回*1で「個別労働紛争解決システムの法政策」を取り上げましたが、1990年代に個別労働紛争解決システムをめぐる議論が湧き上がるまでは、ただ「労働紛争」といえば集団的な労働紛争-労働争議-をイメージするのが常識でした。今日では、たとえば労働局への相談件数が毎年100万件を超えるなど個別労働紛争が圧倒的多数を占め、労働争議は300件台、しかもその多くは争議行為を伴わないもので、争議行為を伴う労働争議は年間50件台という、ほとんど絶滅危惧種のような状態です。しかしかつては、頻発する労働争議が国政の最重要課題であった時代もあったのです。今回は今や労働法政策の表舞台から消え去って久しい集団的労働紛争解決システムの歴史を振り返ってみたいと思います。

1 労働争議の禁圧時代
2 治安警察法第17条問題*2
3 労働争議調停法*1
4 労働争議調停法の運用
5 労働争議調停法改正の試み
6 戦時労使関係システムへの構想*1
7 戦時体制下の労働争議法制
8 敗戦直後の労働争議調停政策
9 1945年労働組合法*1
10 労働関係調整法*1
11 1948年公労法
12 1949年労使関係法改正
13 1952年労使関係法改正*2
14 スト規制法*1
15 公労法のその後
16 労働争議の減少とその個別紛争化

・・・・本連載の第37回「個別労働紛争解決システムの法政策」で見たように、1990年代後半には政府や労使団体から個別労働紛争解決システムの整備を求める意見が出され、2001年の個別労働紛争解決促進法により、都道府県労働局における斡旋の導入とともに、都道府県労働委員会も自治体の自治事務として個別労働紛争の斡旋ができるようになりました。その後、2004年には裁判所における個別労働紛争解決システムとして労働審判制も設けられました。これはまさに上述のような機能を果たす個別労働紛争解決システムを、「労働争議」の扮装を身にまとうことなく、正面から設けようという法政策でした。
 にもかかわらず、それ以来約20年にわたって、実質的個別労働紛争である合同労組事件や駆込み訴え事件の割合が増えているのは、個別労働紛争としての解決よりも労働争議としての解決の方になにがしかのメリットがあるからでしょう。とりわけ、当の労働委員会の個別紛争斡旋事件数が300件前後で推移していることを考えると、この点は重要です。おそらくそれは、合同労組やコミュニティユニオンが持つ個別労働者の利益擁護機能が、当事者には高く評価されていることの現れでしょう。
 しかしながら、その「機能」は、実際には「労働争議」と呼び得ないものを労働争議と呼ぶことによって達成されているものであり、法の本来の趣旨とはかけ離れた運用の上に成り立っていることもまた確かです。そして、実質的には個別労働紛争でしかないものばかりを「労働争議」として法の手続に載せ続けることによって、本来の集団的労使関係の存在感が我々の社会からますます失われていってしまうという効果もじわじわと働いているようにも思われます。この問題に答えることは容易ではありません。

 

 

 

2019年9月11日 (水)

雇用保険の積立金で最低賃金を引き上げ??

今朝の日経新聞に、「最低賃金1000円へ中小支援 省庁横断で検討会」という記事が出ていますが、

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49638740Q9A910C1EE8000/

政府は最低賃金を全国平均で時給1000円に引き上げる目標を実現するため、省庁横断の検討会を今秋に立ち上げる方針だ。最低賃金アップが重荷になる中小企業への支援策を立案しつつ年3%以上の引き上げを続けて早期達成を目指す。パート労働者らの厚生年金加入を増やす制度改革の議論とも連動させ、短時間労働など多様な働き方をする人たちの年金の増額にもつなげる。・・・

その先を読んでいくと、簡単に読み飛ばせない一節がありました。

・・・検討会では約5兆円ある雇用保険の積立金を使った中小企業支援策などが議論されそうだ。雇用保険には非正規労働者の処遇改善を促す助成金などがある。・・・

さらりと読むと、特に問題はなさそうですが、いや労働市場が売り手市場で失業者が少ないためにお金が余っているのは、労使折半で保険料を払っている失業等給付の方です。雇用保険法には、失業等給付の他に使用者側のみが負担する雇用保険2事業というのがあって、さまざまな企業への助成金の原資になっていますが、そちらが5兆円余っているわけではありません。

中小企業支援策という以上、使用者側のみ負担の雇用保険2事業から金を出す分には何の問題もないでしょうが、労使折半で失業したときのためのまさに保険料として支払った積立金をそちらに流用できるかというと、かなり脳みそを振り絞って汗をかかないと、まともな理屈は出てきそうにありませんが、たぶんこの記事を書いた日経の記者にはそういう発想はなかったのでしょうね。

無理無理理屈を考えると、最低賃金を無理に引き上げると特に中小企業の場合倒産して失業の恐れがあるので、そうならないための予防措置として失業等給付の財源から最低賃金を無理に引き上げて経営が苦しい中小企業にお金を出すんだ、と言うことになるのかも知れませんが、やはり労使折半の財源から(労働者本人ではなく)企業にお金を出す理屈は苦しいと思われます。

まあ、それこそ「省庁横断の検討会」なので、そういう雇用保険法の理屈は蹴散らして通るのかも知れませんが。

 

 

 

山口俊一『3時間でわかる同一労働同一賃金入門』

9784502319013_240 山口俊一『3時間でわかる同一労働同一賃金入門』(中央経済社)をお送りいただきました。

https://www.biz-book.jp/%EF%BC%93%E6%99%82%E9%96%93%E3%81%A7%E3%82%8F%E3%81%8B%E3%82%8B%E5%90%8C%E4%B8%80%E5%8A%B4%E5%83%8D%E5%90%8C%E4%B8%80%E8%B3%83%E9%87%91%E5%85%A5%E9%96%80/isbn/978-4-502-31901-3

働き方改革関連法の導入による「正規・非正規雇用労働者間の不合理な待遇差の禁止」に備え、厚労省のガイドラインの解説に加え、事例や判例、各社の対応状況を踏まえた対応方針を解説。

同一労働同一賃金については今までいろいろと書いてきましたし、今回の働き方改革の中の同一同一については、とりわけ倉重公太朗さんとの対談などでもやや辛口の批評をしてきたところですが、いっぽうで企業で人事労務を担当する立場からすると、そういう批評はいいから、どう対応したらいいのか教えてくれという声になるのでしょう。

そういう声に対応するのがたぶんこういう本なのだろうな、と。

法律の条文には「同一労働同一賃金」なんて言葉は出てこない、その本質は「非正規社員の差別的待遇禁止」なのだとか、あのガイドラインで大事なのは「注」の文章なんだよ、とか、ちゃんと物事の本質を突いた指摘をしながら、」じゃあ具体的にどうしたらいいのかについては、いかにも実務的な観点からのアドバイスを淡々と記述しています。

 

2019年9月 9日 (月)

渋沢栄一と工場法2題

再来年の大河ドラマの主人公が、新一万円札に内定している渋沢栄一だということなので、

https://www.nhk.or.jp/dramatopics-blog/2000/412103.html (2021年大河ドラマ「青天を衝け」)

“大河新時代”第2弾、4Kフル撮影による大河ドラマ第60作は「青天を衝(つ)け」。
その主人公は、新一万円札の顔としても注目される「渋沢栄一」です。
「日本資本主義の父」と称される渋沢栄一は、約500もの企業を育て、同時に約600の社会公共事業にも関わりました。
晩年は民間外交にも力を注ぎ、ノーベル平和賞の候補にも2度選ばれています。
幕末から明治へ。時代の大渦に翻弄され挫折を繰り返しながらも、青天を衝くかのように高い志を持って未来を切り開きました。
「緻密な計算」と「人への誠意」を武器に、近代日本のあるべき姿を追い続けた渋沢は、生涯青春の人でした。
2021年、若き心で挑戦を続けた男・渋沢栄一との出会いにご期待ください。 

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ということで、一万円札が話題になったときに本ブログで彼を取り上げたエントリ2題を再掲しておきましょう。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2019/04/post-7677.html (渋沢栄一の工場法反対論)

 なにやら、お札の顔が変わるという話があるようで、1万円札の福沢諭吉の次は大隈重信・・・とはならないで、渋沢栄一という名前が挙がっているようです。
渋沢栄一who?
概略はWikiを見ればわかりますが、そこに書かれていない労働法関連のエピソードを一つ。
拙著『日本の労働法政策』414ページにも一部引用してありますが、彼は明治29年(1896年)の第1回農商工高等会議の席で、「職工ノ取締及保護ニ関スル件」の諮問に対し、次のような反対意見を述べています。
・・・夜業ハイカヌト云フコトハ、如何様人間トシテ鼠トハ性質ガ違ヒマスカラ、昼ハ働ライテ夜ハ寝ルノガ当リ前デアル、学問上カラ云フトサウデゴザイマセウガ、併シナガラ一方カラ云フト、成ルベク間断ナク機械ヲ使ツテ行ク方ガ得デアル、之ヲ間断ナク使フニハ夜業ト云フ事ガ経済的ニ適ツテヰル・・・唯一偏ノ道理ニ拠ツテ欧州ノ丸写シノヤウナモノヲ設ケラルルト云フコトハ絶対ニ反対ヲ申シ上ゲタイ
いやあ、実に爽快なまでの経済合理性優先の労働者保護反対論をぶち上げています。人間は鼠じゃないといいながら、鼠みたいに使いたいという本音が優先しています。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2019/04/post-9402.html (渋沢栄一の工場法賛成論)

 昨日のエントリを見て、渋沢栄一ってのはとんでもねぇ野郎だと思ったあなた。いやいや話はそう単純じゃありません。
明治29年(1896年)の第1回農商工高等会議の席では、「唯一偏ノ道理ニ拠ツテ欧州ノ丸写シノヤウナモノヲ設ケラルルト云フコトハ絶対ニ反対ヲ申シ上ゲタイ」と、猛反発していた渋沢ですが、その後工場法による職工保護の必要性を認めるようになり、明治40年(1906年)の第1回社会政策学会には来賓として呼ばれてこういう挨拶をしているんです。
・・・それから工場法に付て一言申し上げますが、・・・私共は尚早論者を以て始終目せられたのであります。・・・
・・・そこで我々が其工場法に対して気遣ひましたのは、唯々単に衛生とか、教育とか云ふ海外の有様だけに比較して、其法を設けるのは、独り工場の事業を妨げるのみならず、職工其者に寧ろ迷惑を与へはせぬか、其辺は余程講究あれかしと云ふのが、最も私共の反対した点であつた。・・・
・・・併し其時分の紡績工場の有様と今日は大分様子が変つて来て居る、試に一例を言へば、其時分に夜業廃止と云ふことは、紡績業者は困る、どうしても夜業を廃されると云ふと、営業は出来ないとまで極論したものでありますが、今日は夜業と云ふものを廃めても差支へないと紡績業が言はうと思うので、世の中の進歩と云ふか、工業者の智慧が進んだのか、若は職工の有様が左様になつたのか、それは総ての因があるであらうと想像されます。又時間も其時分よりは必ず節約し得るやうに、語を換へて言へば、時を詰め得るやうになるだらうと思ひます。故に今日に於て工場法が尚ほ早いか、或は最早宜いかと云ふ問題におきましては、私はもう今日は尚ほ早いとは申さぬで宜からうと思ふのであります。・・・
・・・左様に長い歴史はありますが、今日が尚ほ早しとは申さぬのでありますけれども、願くは実際の模様を紡績業に就て、或は他の鉄工場、其他の業に就て、之を定めるには斯ることが実地に大なる衝突を生じはせぬかと云ふことだけは努めて御講究あれかしと申すのであります。学者の御論中には英吉利、独逸、亜米利加等の比較上の御講究が大層な討論と思召さるるが、それは言はば、同じ色の闘ひであつて、所謂他山の石でないから、其事の御講究に就て十分御注意あらむことを希望いたすのであります。
11年後の渋沢は、もう工場法には反対しないと言っています。ただ、最後のあたりで、社会政策学会の学者連中に対して「先進国の出羽の守ばかりやりやがって、日本の現実を知らねぇんじゃねぇか」(大意)といわんばかりの台詞を噴いている辺りは、「唯一偏ノ道理ニ拠ツテ欧州ノ丸写シノヤウナモノヲ設ケラルル」云々の気持ちは少しは残っているようではありますね。

 

公立学校教員への労働基準法適用問題について

金曜日のエントリに、元教職員ですさんからコメントがつき、ごく簡単なお返事をさせていただきましたが、この問題の法律規定上の複雑怪奇さはなかなか一言では説明しきれないので、少し前に書いたこの問題の解説文をアップしておきたいと思います。

 

(1) 公務員への労働基準法適用問題

(イ) 労働基準法制定時の枠組み

 労働基準法第112条は「この法律及びこの法律に基いて発する命令は、国、都道府県、市町村その他これに準ずべきものについても適用あるものとする」と明記しています。反対解釈される恐れがあるので念のために設けられた規定です。現在は別表第1に移されてしまいましたが、かつては第8条に適用事業の範囲という規定があり、そこには「教育、研究又は調査の事業」(第12号)、「病者又は虚弱者の治療、看護その他保健衛生の事業」(第13号)に加え、第16号として「前各号に該当しない官公署」まであったのです。公立学校や公立病院はもとより、都道府県庁や市町村役場まで、何の疑問もなく労働基準法の適用対象でした。制定時の寺本広作課長は、「蓋し働く者の基本的権利としての労働条件は官吏たると非官吏たるとに関係なく同一に保障さるべきものであって、官吏関係に特別な権力服従関係はこの法律で保障される権利の上に附加されるべきものとされたのである」と述べています。
 これを前提にわざわざ設けられたのが法第33条第3項です。災害等臨時の必要がある場合は36協定がなくても時間外・休日労働をさせることができるというだけでは足りないと考えられたからこそ、「公務のために臨時の必要がある場合」には「第八条第十六号の事業に従事する官吏公吏その他の公務員」に時間外・休日労働をさせることができることとしていたのです。また、労働基準法施行規則には次のような、公務員のみが対象となるような特別規定がわざわざ設けられていました。

第二十九条 使用者は、警察官吏、消防官吏、又は常備消防職員については、一日について十時間、一週間について六十時間まで労働させ、又は四週間を平均して一日の労働時間が十時間、一週間の労働時間が六十時間を超えない定をした場合には、法第三十二条の労働時間にかかわらず、その定によつて労働させることができる。
第三十三条 警察官吏、消防官吏、常備消防職員、監獄官吏及び矯正院教官については、法第三十四条第三項の規定は、これを適用しない。

 こうした規定を見てもし今の我々が違和感を感じるとすれば、それはその後の法改正によって違和感を感じるようにされてしまったからなのです。そして、公務員の任用は労働契約に非ずという、実定法上にその根拠を持たない概念法学の影響で、いつしか公務員には労働法が適用されないのが当たり前という間違った考え方が浸透してしまったからなのです。ちなみに労働法学者の中にも、労働基準法が地方公務員に原則適用されるという事実に直面して「公務員の任用関係は労働契約関係と異なるという議論も、これでは説得力を失いかねない」などとひっくり返った感想を漏らす向きもありますが、そもそも「働く者の基本的権利としての労働条件は官吏たると非官吏たるとに関係なく同一に保障さるべきもの」というのが労働基準法の出発点であったことをわきまえない議論と言うべきでしょう。

(ロ) 公務員法による修正

 そこで、公務員への労働基準法適用問題の経緯をざっと見ておきましょう。早くも占領期のうちに、公務員の集団的労使関係法制の改正のあおりを食らう形で労働基準法制まで全面的ないし部分的な適用除外とされてしまいました。1948年7月、マッカーサー書簡を受けて制定された政令第201号は公務員の団体交渉権及びスト権を否定しましたが、その中の「給与、服務等公務員の身分に関する事項に関して、従前国又は地方公共団体によってとられたすべての措置については、この政令で定められた制限の趣旨に矛盾し、又は違反しない限り、引きつづき効力を有するものとする」(第1条第2項)という規定により、労働基準法第2条の「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきもの」との規定が、マッカーサー書簡の趣旨に反するとして適用されないこととされました。
 これはまだ労使対等原則に関わる限りの適用除外でしたが、同年11月の改正国家公務員法により、労働組合法と労働関係調整法にとどまらず、労働基準法と船員法についてもこれらに基づいて発せられる命令も含めて、一般職に属する職員には適用しないとされました(原始附則第16条)。そして「一般職に属する職員に関しては、別に法律が制定実施されるまでの間、国家公務員法の精神にてい触せず、且つ、同法に基く法律又は人事院規則で定められた事項に矛盾しない範囲内において、労働基準法及び船員法並びにこれらに基づく命令の規定を準用する」(改正附則第3条第1項本文)とされ、準用される事項は人事院規則で定める(同条第2項)とされましたが、そのような人事院規則は未だに制定されていません。また、「労働基準監督機関の職権に関する規定は、一般職に属する職員の勤務条件に関しては、準用しない」(同条第1項但書)と、労働基準監督システムについては適用排除を明確にしました。この改正はどこまで正当性があったか疑わしいものです。否定された団体交渉権やスト権と全く関わらないような最低労働条件を設定する部分まで適用除外する根拠はなかったはずです。時の勢いとしか説明のしようがありません。
 これに対して、1950年12月に成立した地方公務員法では、かなり冷静になって規定の仕分けがされています。労働組合法と労働関係調整法は全面適用除外であるのに対し、労働基準法については原則として適用されることとされたのです。ただし、地方公務員の種類によって適用される範囲が異なります。地方公営企業職員と単純労務者は全面適用です。教育・研究・調査以外の現業職員については、労使対等決定の原則(第2条)及び就業規則の規定(第89-93条)を除きすべて適用されます。公立病院などは、労使関係法制上は地公労法が適用されず非現業扱いでしたが(現在は地方独立行政法人として地公労法が適用されるものもあります)、労働条件法制上は現業として労働基準法がほぼフルに適用され、労働基準監督機関の監督下におかれるということになります。近年、医師の長時間労働が問題となる中で、公立病院への臨検監督により違反が続々と指摘されているのはこのおかげです。
 ところがこれに対して、狭義の非現業職員(労働基準法旧第8条第16号の「前各号に該当しない官公署」)及び教育・研究・調査に従事する職員については、上の二つに加えて、労働基準監督機関の職権を人事委員会又はその委員(人事委員会のない地方公共団体では地方公共団体の長)が行うという規定(地方公務員法第58条第3項)が加わり、労働基準法の労災補償の審査に関する規定及び司法警察権限の規定が適用除外とされたのです。人事委員会がない場合には、自分で自分を監督するという、労働基準監督システムとしてはいかにも奇妙な制度です。このため、教師の長時間労働がこれほど世間の話題になりながらも、公立学校への臨検勧告が行われることはないのです。

第五十八条 労働組合法(昭和二十四年法律第百七十四号)及び労働関係調整法(昭和二十一年法律第二十五号)並びにこれらに基く命令の規定は、職員に関して適用しない。
2 労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第二条、第八十五条、第八十六条、第八十九条から第九十三条まで及び第百二条の規定並びに船員法・・・並びにこれらの規定に基く命令の規定は、職員に関して適用しない。但し、労働基準法第八十五条、第八十六条及び第百二条の規定並びに船員法・・・並びにこれらの規定に基く命令の規定は、地方公共団体の行う労働基準法第八条第一号から第十号まで及び第十三号から第十五号までに掲げる事業に従事する職員に関しては適用する。
3 労働基準法及び船員法の規定並びにこれらの規定に基く命令の規定中前項の規定により職員に関して適用されるものを適用する場合における職員の勤務条件に関する労働基準監督機関の職権は、地方公共団体の行う労働基準法第八条第一号から第十号まで及び第十三号から第十五号までに掲げる事業に従事する職員の場合を除き、人事委員会又はその委任を受けた人事委員会の委員(人事委員会を置かない地方公共団体においては、地方公共同体の長)が行うものとする。

 それ以来今日まで、官公署と公立学校については労働基準法が原則適用されるにもかかわらず労働基準監督システムの監督下にはないという状況が70年近くも続いてきています。しかし、にもかかわらず、労働基準法が原則適用されているという事実には何の変わりもありません。上で労働基準法施行規則旧第29条、第33条を引用しましたが、これらは1950年の地方公務員法成立後もずっと労基則上に存在し続けてきました。第29条が削除されたのは労働時間短縮という法政策の一環として1981年の省令により1983年度から行われたものであり、第33条の方は対象を増やしながらなお現在まで厳然と存在し続けています。

第三十三条 法第三十四条第三項の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一 警察官、消防吏員、常勤の消防団員、准救急隊員及び児童自立支援施設に勤務する職員で児童と起居をともにする者

 団結権すら禁止されている警察官や消防士にも、労働基準法はちゃんと適用されていることを示す規定です。

(ハ) 首尾一貫しない適用除外規定の追加

 さて、上述したように、1950年の地方公務員法では、地方公営企業及び単純労務職員以外の現業・非現業双方の職員について共通に労使対等決定の原則(第2条)及び就業規則の規定(第89-93条)が適用除外されました。これは、地方公務員の労働条件は対等の労使交渉で決めるべきものではなく使用者側たる地方公共団体が一方的に決めるべきものという思想(上記マッカーサー書簡の趣旨)から来ているのでしょう。しかしながら、このとき時間外・休日協定の規定(第36条)は適用除外されていません。時間外・休日労働の条件として過半数組合又は過半数代表者との書面協定を要求することは、地方公務員にも適用されるべき最低労働条件に関わることであって、適用してはならない労使対等原則に関わることではない、という整理がされたのでしょう。
 もっとも、官公署の公務員であればもともと第33条第3項で時間外・休日労働を行わせることができるので36協定の必要はないとも言えますが、それ以外の(第12号の公立学校も含め)現業職員については、時間外・休日労働の必要があれば労使協定を締結した上でやらせるべしという法制度であったわけです。この大原則に関する限り、今日においてもなんら変わっていません。
 ところが、1987年改正で多くの労使協定を要する制度が導入されたとき、これらは地方公務員法第58条の適用除外項目に追加されたのです。具体的には、3か月単位及び1週間単位の変形労働時間制、フレックスタイム制、専門業務型裁量労働制、そして事業場外労働の労使協定を要する部分、年次有給休暇の計画的付与に関する部分です。その理由は労働基準法の解説書では明らかではありませんが、おそらくこれらの導入に必要な労使協定が労使対等決定原則(第2条)に照らしてふさわしくないと判断されたからではないかと想像されます。
 というのは、1998年改正で1か月単位の変形制は労使協定又は就業規則で導入することとされましたが、このとき地方公務員法第58条に第4項を追加し、読み替え規定でわざわざ労使協定の部分を削って「就業規則その他これに準ずるもの」で導入する部分だけ残したのです。同じ改正で一斉休憩が許可制から労使協定方式に変わりましたが、同項で労使協定を「条例に特別の定めがある場合」に読み替えています。就業規則に準ずる条例等で一方的に決めるのは良いが、労使対等の交渉で協定を締結するのは許されないという発想がこの改正の背後にあることは間違いないでしょう。同じ発想は2008年改正で導入された割増賃金に代わる代償休日や時間単位の年休取得でも、労使協定を使わないように読み替えるという形で一貫しています。
 ところが、一見首尾一貫しているように見えるこれら複雑な制度設計は、肝心要の時間外・休日労働がこの間一貫して36協定を要求したままになっているという一点で、みごとに論理破綻してしまっています。この首尾一貫しない複雑怪奇な適用除外規定は、2018年の働き方改革推進法を経てさらに膨れあがり、現在はこうなっています。

第五十八条・・・
3 労働基準法第二条、第十四条第二項及び第三項、第二十四条第一項、第三十二条の三から第三十二条の五まで、第三十八条の二第二項及び第三項、第三十八条の三、第三十八条の四、第三十九条第六項から第八項まで、第四十一条の二、第七十五条から第九十三条まで並びに第百二条の規定、労働安全衛生法第六十六条の八の四及び第九十二条の規定、船員法・・・並びにこれらの規定に基づく命令の規定は、職員に関して適用しない。ただし、労働基準法第百二条の規定、労働安全衛生法第九十二条の規定、船員法・・・並びにこれらの規定に基づく命令の規定は、地方公共団体の行う労働基準法別表第一号から第十号まで及び第十三号から第十五号までに掲げる事業に従事する職員に、同法第七十五条から第八十八条まで及び船員法・・・は、地方公務員災害補償法(昭和四十二年法律第百二十百二十一号)第二条第一項に規定する者以外の職員に関しては適用する。
4 職員に関しては、労働基準法第三十二条の二第一項中「使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、又は」とあるのは「使用者は、」と、同法第三十四条第二項ただし書中「当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは」とあるのは「条例に特別の定めがある場合は」と、同法第三十七条第三項中「使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により」とあるのは「使用者が」と、同法第三十九条第四項中「当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めた場合において、第一号に掲げる労働者の範囲に属する労働者が有給休暇を時間を単位として請求したときは、前三項の規定による有給休暇の日数のうち第二号に掲げる日数については、これらの規定にかかわらず、当該協定で定めるところにより」とあるのは「前三項の規定にかかわらず、特に必要があると認められるときは、」とする。

(2) 公立学校教員への労働基準法適用問題

(イ) 給特法までの経緯

 さて、旧第8条第16号の官公署については、そもそも民間企業で官公署の事業を行っているというものはありえませんが(とはいえ近年民間委託が増加して、必ずしもそう言えなくなってきましたが)、第12号に関しては当初から私立学校という労働基準法フル適用の事業が全く同じ業態の教育事業として存在し続けてきました。さらに、なぜか非現業の国家公務員として労働基準法が全面適用除外とされていた国立学校が、2004年から非公務員型独立行政法人となり、労働基準法フル適用に移行したこともあり、その間に挟まれた公立学校教員だけが労働基準法の適用に制限があることの矛盾がより強く感じられるようになりました。
 近年、教師の働き方改革が社会的に大きな問題となり、2017年7月に文部科学省の中央教育審議会に「学校における働き方改革特別部会」が設けられ、約1年半にわたる審議の末、去る2019年1月25日に「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について」を答申するとともに、文部科学省は「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」を公表しましたが、そこには上述の地方公務員法と労働基準法の適用関係をめぐる複雑な関係が影を落としており、なかなか解きほぐせない状況です。
 ここから給特法の立法経緯に入っていきます。一般公務員より若干高い給与を払う代わりに超過勤務手当を支給しないというのは、1948年の公務員給与制度改革以来の発想です。しかし労働基準法第37条はフルに適用されるのですから、1949年の文部事務次官通達「教員の勤務時間について」(昭和24年2月5日発学第46号)は、「勤務の態様が区々で学校外で勤務する場合等は学校の長が監督することは実際上困難であるので原則として超過勤務は命じないこと」、「ある1日において実働8時間以上勤務する必要がある場合にはその勤務を命ずることはできるがその勤務は原則として1週48時間の勤務に含まれるものとして勤務する如く命ずるものとすること」と述べていました。この「如く」は全く意味不明です。一方別の文部事務次官通達「教員の超過勤務について」(昭和24年3月19日発学第168号)は、「例外としてその日に割り振られた正規の勤務時間を超えて左記の勤務を行う必要がある場合には、これを超過勤務として命じ、・・・超過勤務手当を支給して差し支えありません」とも述べていました。
 しかし、実態としては時間外労働が多く行われており、法的には公立学校の教員には労働基準法の労働時間規定がフルに適用されていたため、1960年代後半に超過勤務手当の支給を求めるいわゆる「超勤訴訟」が全国一斉に提起され、下級審で時間外手当の支給を認める判決が続出し、1972年の最高裁判決がそれを確認しました。これより先、人事院は1964年に「現行制度のもとに立つかぎり、正規の時間外勤務に対しては、これに応ずる超過勤務手当を支給する措置が講ぜられるべきは当然であるが、他方、この問題は、教員の勤務時間についての現行制度が適当であるかどうかの根本にもつながる事柄でもある」と指摘しました。これを受けて文部省は1968年に教育公務員特例法改正案を国会に提出しましたが、野党の反対で廃案となりました。

(ロ) 給特法の制定

 1971年になると人事院が、「とりわけ超過勤務手当制度は教員にはなじまない」との考え方に基づき、「義務教育諸学校の教諭等に対する教職調整額の支給等に関する法律の制定についての意見の申出」を行いました。これを受けて文部省は再度法案を国会に提出することになりますが。その際、当時の労働省の中央労働基準審議会に報告し、1971年2月13日に同審議会から次のような建議が出されています。

1 労働基準法が他の法律によって安易にその適用が除外されるようなことは適当でないので、そのような場合においては、労働大臣は、本審議会の意向を聞くよう努められたい。
2 文部大臣が人事院と協議して超過勤務を命じうる場合を定めるときは、命じうる職務の内容及びその限度について関係労働者の意向が反映されるよう適切な措置がとられるよう努められたい。

 この建議はあくまでも労働大臣に宛てたもので、文部大臣宛ではないのですが、これを受けてその二日後、両省の局長間で次のような覚書が結ばれていたようです。

     覚書
昭和46年2月15日
文部省初等中等教育局長
労働省労働基準局長
「国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(案)」について
 第65国会に提案される「国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(案)」に関し、文部省と労働省は下記の通り諒解し、文部省はその趣旨の実現に努めるものとする。
     記
1.文部省は、教育職員の勤務ができるだけ、正規の勤務時間内に行われるよう配慮すること。
2.文部大臣が人事院と協議して時間外勤務を命じうる場合を定めるときは、命じうる職務については、やむを得ないものに限ること。
 なお、この場合において、関係教育職員の意向を反映すること等により勤務の実情について十分配慮すること。

 こうして1971年5月に成立したのが、国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(いわゆる「給特法」。後に国立学校が除外)です。これにより給与月額の4%の教職調整額が支給されるとともに、労働基準法第37条が(法文上で)適用除外されました。条文上は大変ややこしく、給特法第10条で上記地方公務員法第58条の読み替え規定を読み替えるという複雑なことをやっています。

第十条 公立の義務教育諸学校等の教育職員については、地方公務員法(昭和二十五年法律第二百六十一号)第五十八条第三項本文中「第二条、第二十四条第一項」とあるのは「第三十三条第三項中「第十六号」とあるのは「第十二号」と、「労働させることができる」とあるのは「労働させることができる。この場合において、公務員の健康及び福祉を害しないように考慮しなければならない」と読み替えて同項の規定を適用するものとし、同法第二条、第二十四条第一項、第三十七条」と、「第五十三条第一項」とあるのは「第五十三条第一項、第六十七条第二項」と、「規定は」とあるのは「規定(船員法第七十三条の規定に基く命令の規定中同法第六十七条第二項に係るものを含む。)は」と読み替えて同項の規定を適用するものとする。

 これにより、当時の地方公務員法第58条第3項がこう読み替えられます。

3 労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第三十三条第三項中「第十六号」とあるのは「第十二号」と、「労働させることができる」とあるのは「労働させることができる。この場合において、公務員の健康及び福祉を害しないように考慮しなければならない」と読み替えて同項の規定を適用するものとし、同法第二条、第二十四条第一項、第三十七条、第七十五条から第九十三条まで及び第百二条の規定並びに船員法・・・並びにこれらの規定に基く命令の規定は、職員に関して適用しない。但し、・・・。

 これにより、公務員たる公立学校教員についても、上記第33条第3項の「公務のための臨時の必要がある場合」に36協定なしに時間外・休日労働可能という規定が官公署並みに適用されることとなりました。念のため、これで読み替えられた労働基準法第33条第3項を見ておきましょう。

3 公務のために臨時の必要がある場合においては、第一項の規定にかかわらず、第八条第十二号の事業に従事する官吏、公吏その他の公務員については、前条若しくは第四十条の労働時間を延長し、又は第三十五条の休日に労働させることができる。この場合において、公務員の健康及び福祉を害しないように考慮しなければならない。

 そして、「正規の勤務時間をこえて勤務させる場合は、文部大臣が人事院と協議して定める場合に限るものとする。この場合においては、教育職員の健康と福祉を害することとならないよう勤務の実情について充分な配慮がされなければならない」という条文が設けられ、その「場合」は政令でいわゆる超勤4項目とされました。具体的には①生徒の実習、②学校行事、③職員会議、④非常災害、児童生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合等です。
 同時に、上記読み替え規定によって、第37条の時間外・休日労働の割増賃金規定が適用除外され、超勤訴訟で違法と確定していた取扱いがめでたく合法化されました。

(ハ) 教師の長時間労働対策

 ところが、公立学校教師の長時間労働は近年悪化の一途をたどっています。その大部分はクラス担任や部活動担当に伴うもので、超勤4項目に含まれない「自発的勤務」とされ、裁判例(札幌高裁平19.9.27)もそれを容認しています。しかし、実態としてはそれなしには学校運営が成り立たない状況にもかかわらず、引き受けた教師の自発的活動ゆえ公務ではないので公務災害補償の対象にもならないという理不尽なことになってしまいます。
 さらに、一般の働き方改革の一環として、労働安全衛生法上に労働時間の適正把握義務(第66条の8の3)が規定され、これは地方公務員にもフルに適用されます。ただし、官公署と公立学校は例によって身内ないし本人が監督するという仕組みです。とはいえ、働き方改革が国政の重要課題となる中、監督署に臨検される恐れがないから労働時間の把握もしませんというわけにはいきません。遂に文部科学省も教員の働き方改革に踏み出さざるを得なくなったわけです。
 ただ、なまじ給特法で時間外・休日労働が第36条や第37条の違反にならないような仕組みにしてしまったために、それをどうするかが悩ましい問題となります。素直に考えれば、「給特法を見直した上で、36協定の締結や超勤4項目以外の「自発的勤務」も含む労働時間の上限設定、全ての校内勤務に対する時間外勤務手当などの支払」を原則とするところから始めるべきことになりますが、答申はそれを是としません。あくまでも給特法の基本的枠組みを前提として、「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」でもって在校時間等の縮減に取組むというスタンスです。
 この「ガイドライン」は、超勤4項目以外の自発的勤務を行う時間も含めて、在校時間プラス児童生徒の引率等校外勤務時間(在校時間等)の上限の目安を示すもので、1か月45時間、1年360時間、特例で年720時間、その場合1か月100時間未満など、基本的に2018年改正労働基準法に沿っています。ただし、在校時間自体が法的概念ではなく、ガイドラインも法的拘束力はありません。教育委員会はそれぞれガイドラインを参考にして方針を策定し、業務の役割分担や適正化、必要な環境整備に取り組むこととされています。
 では労働時間規制については何もしないのかというと、やや唐突に1年単位の変形労働時間制の導入が打ち出されています。学校には夏休みなど児童生徒の長期休業期間がある一方、学期末・学年末には成績処理や指導要録記入で忙しく、また学校行事や部活動の試合の時期も長時間勤務になりがちなので、年間を通した業務のあり方に着目して検討しようというわけです。その発想自体は「ありうる」とは思われますが、残念ながら現行地方公務員法は1年単位の変形制を適用除外しています。答申は「当時において地方公務員の業務においてあらかじめ繁閑が生じるものが想定されなかったことにより適用されなかった取扱いが、現在も引き続いているもの」と説明していますが、そうでないことは上述したとおりです。
 答申は「地方公務員のうち教師については、地方公共団体の条例やそれに基づく規則等に基づき、1年単位の変形労働時間制を適用することができるよう法制度上措置すべきである」と述べており、またまた複雑な読み替え規定を設ける算段のようです。

 

東京都社会保険労務士会人事労務管理研修

明日9月10日、東京都社会保険労務士会人事労務管理研修(専門編)の最終回として労使関係論についてお話しします。

https://www.tokyosr.jp/wp-content/uploads/2019/06/3867e90d66321c031723fa9c8732d7bf.pdf

このスケジュールを見ると、1回目の基調講演が守島基博さんで、その後丹野清人さんが外国人労働者問題について2回、JILPTの山崎憲さんが働き方で2回、JILPTの内藤忍さんがハラスメントで1回、そして最後に私が労使関係論で1回という計6回の構成で、まさに今日のアクチュアルな問題意識で構成されていますね。その中で、私の集団的労使関係の歴史を振り返るような話がどれくらい関心を惹くのかよくわかりませんが。

 

 

 

2019年9月 6日 (金)

公立学校教員の働き方改革の特効薬

これは私も前からそう思っているんですが。

上越教育大学の西川純さんのブログから。

http://manabiai.g.hatena.ne.jp/jun24kawa/20190905/1567642087

公立学校の働き方改革の抜本策は、独立行政法人に移行することです。そうなれは給特法からはずれ、労働基準監督署が査察に入るようになります。独立行政法人になった国立大学の附属学校は、査察が入った途端に働き方改革が進みました。ようはお金の問題にすればいいのです。

ま、無理でしょうね。でも、崩壊したらすぐにそうするでしょう。

http://manabiai.g.hatena.ne.jp/jun24kawa/20190905/1567673441

地方公務員法の第58条の5に労働基準法に関する職権は人事委員会が行うものとしています。だから公立学校に労働基準監督署の監査が入らないのです。でも、労働時間に関する労働基準法は公立学校にも適用されています。だから、人事委員会が労働基準監督署と同様に、法に従った指導をすればブラック勤務はあり得ません。しかし、それをできるだけのマンパワーも、意思もありません。

つまり地方公務員法の第58条の5を削除すれば、独立法人にならずとも働き方改革はできます。

http://manabiai.g.hatena.ne.jp/jun24kawa/20190905/1567684577

今の状態を改善で解決するか、改革で解決するかは大きな違いです。そして、崩壊する前は、行政は改善で解決しようとします。しかたがありません。行政は今の多くのユーザーに応えなければなりません。解決できなくても、今のニーズに応えなければなりません。

給特法で言えば、上乗せ分を現行4%から数%上げるというのが改善。給特法を廃止するのが改革。地方公務員法の第58条の5に関して言えば、人事委員会の機能強化は改善。地方公務員法の第58条の5を廃止するのが改革。

でもね、改善は解決には繋がりません。だって、現状の規定を有名無実にしている論理が改善するだけのことですから。

本来の官公署ではなく、民間でも私立病院や私立学校があり、そこには労働基準監督官が臨検監督するという状況で共通する公立病院と公立学校で何が違うのか?

公立病院には労働基準監督官が臨検監督して(病院の論理ではなく一般社会の論理で)違反があれば摘発するのに対して、公立学校はそうなっていないという点なのですね。

 

 

 

 

『季刊労働法』266号(2019年秋号)

266_hp 『季刊労働法』266号(2019年秋号)がもうすぐ刊行されるようです。

https://www.roudou-kk.co.jp/books/quarterly/7137/

特集は今注目の「医師・教員の働き方改革 」。

 働き方改革において,医師については,他職種と比較しても抜きんでた長時間労働の実態があり,医師の働き方改革に関する検討会で独立して議論が進められてきました。3月に上記検討会における報告書がまとめられ,2024年度から勤務医に適用される残業時間の上限規制の取り組みや,医師の負担軽減策が盛り込まれました。今号では医師,そして,同時期にやはり独立して議論されていた教員の「働き方改革」について考えます。

ということで、こういうラインナップになっています。

◎特集 医師・教員の働き方改革
医師の働き方改革と今後の労働時間規制 早稲田大学教授 島田 陽一
医師も人間らしく働ける社会に向けて,着実な取り組みを ~「医師の働き方改革」,労働組合の立場から~ 日本労働組合総連合会総合労働局長 村上 陽子
医師の立場からみた働き方改革 日本医師会副会長/日本医師会女性医師支援センター長 今村 聡
医師の働き方改革 ~医療を未来につなぐ取組~ 厚生労働省労働基準局労働条件政策課医療労働企画官/同医政局医療経営支援課医療勤務環境改善推進室長 安里 賀奈子
公立学校教員の労働時間規制に関する検討 金沢大学准教授 早津 裕貴
労働組合の立場から見た教員の働き方改革 みらいの教育プロジェクト呼びかけ人代表(元日教組組織労働局長) 藤川 伸治
学校における働き方改革の推進について 文部科学省初等中等教育局財務課課長補佐 鞠子 雄志

どちらも「せんせい」と呼ばれる仕事ですが、その聖職としてのイメージがその労働条件悪化を加速させてしまうという矛盾の中で苦しんでいるという意味では共通する面があるとともに、教員の場合、なまじ公立学校教員の公務員法上の妙な扱いが事態をこじらせているという特殊性もあり、なかなか複雑怪奇な世界ではあります。

それ以外の記事は以下の通りですが、

◎■法令解説■ 
同一労働同一賃金の実現に向けた法改正の内容 ~雇用形態に関わらない公正な待遇の確保について~ 厚生労働省雇用環境・均等局有期・短時間労働課

◎■論説■
年休の時季決定における使用者の関わり ―「不作為を基本とする義務」からの脱却 九州大学名誉教授 野田 進
有期労働契約の更新限度条項に関する一考察 ―労契法19条2号に関する相補的審査及び「無期転換権発生回避行為否認の法理」の展開可能性 南山大学教授 緒方 桂子

◎■アジアの労働法と労働問題 第38回■
インド・モディ政権下の労働法改革 大阪女学院大学教授 香川 孝三

◎■労働法の立法学 第55回■
集団的労働紛争解決システムの1世紀 労働政策研究・研修機構労働政策研究所長 濱口 桂一郎

◎■判例研究■
地方公共団体によるチェック・オフ廃止通告の支配介入該当性 国・中労委(大阪市〔チェック・オフ〕)事件(平成30年8月30日東京高等裁判所,平30(行コ)111号,労働委員会救済命令取消請求控訴,控訴棄却〔上告・上告受理申立〕,労働判例1187号5頁)労働政策研究・研修機構副主任研究員 山本 陽大
自社年金を減額する措置の有効性 法政大学年金減額事件・東京高裁平成30年6月19日判決 D- 1 Law.com判例体系判例ID:28263198 東京農業大学講師 山田 哲

◎■研究論文■
労働協約の法的規律に関する一考察(2)ドイツにおける社会的実力要件と交渉請求権の議論を契機として 京都女子大学准教授 植村 新
民法(債権法)改正と労働法 ―労働契約に対する定型約款規制の適用に関する覚書― 関西外国語大学助教 岡村 優希

◎■キャリア法学への誘い 第18回■
職業生活設計をめぐる自助・共助・公助 法政大学名誉教授 諏訪 康雄

◎■重要労働判例解説■
退職手当を返納した元職員に対する求償 大分県(住民訴訟)事件(福岡高判平成30年9月28日(差戻控訴審)判例集未掲載)全国市長会 戸谷 雅治
アルバイト職員と正職員との労働条件の相違の不合理性 大阪医科薬科大学事件(大阪高判平成31年2月15日労働判例1199号5頁)國學院大學教授 本久 洋一

私の連載は、今回は集団的労使紛争解決システムの歴史です。

 

 

 

2019年9月 4日 (水)

呉学殊さんの近刊著の紹介(JILPTリサーチ・アイ)

Oh_h JILPTのホームページのリサーチ・アイで、労使関係部門の呉学殊さんが今月下旬に刊行予定の『企業組織再編の実像─労使関係の最前線』を自ら紹介しています。

https://www.jil.go.jp/researcheye/bn/033_190903.html

今月下旬に上記のタイトルで研究双書を刊行する。1991年に韓国から日本へ留学、また、1997年にJILPTに就職して今日に至るまで多様なテーマについての調査・研究を進めてきた。いずれも大変意義深いと思うが、今回の研究双書は特にそうだと思っている。・・・・

いままでの人脈を総動員して22事例を確保し、調査することができた。分割、合併、譲渡等の企業組織再編のプロセスについては、実は当事者が調査に協力したくない事柄でもあるが、快くご協力頂いた皆さんにはこの場を借りて心より感謝申し上げる。・・・・

ところが、この本に載っているのはそのすべてではありません。

・・・話を伺った22事例全部について調査内容を取りまとめたかったが、こちらのマンパワーや時間的制約、また、協力先の事情などにより、最終的に7事例の実像について執筆した。それ以外にもう1つの事例も執筆したものの、協力先から公にしないでほしいとの要請があり、今回、研究双書に一緒に載せることができなかった。実は、その事例は他の労使にとって最も参考になる良い内容だったので大変残念である。・・・

実は、この手の話は、とりわけ労使関係の研究者からよく聞きます。一昨年労働関係図書優秀賞を受賞した首藤若菜さんの『グローバル化のなかの労使関係  自動車産業の国際的再編への戦略 』(ミネルヴァ書房)も、本人によると、いちばん面白くて世の中に知らせたかった事例が、関係者の同意が得られず載せられなかったということで、ただでさえ先細り傾向の労使関係研究なのに、いちばんおいしいところが世に出せない状況というのはなかなか辛いものがありますね。

さて、いうまでもなく、詳しくは今月末刊行の本を読んでいただくべきものですが、呉さん本人がまとめたその要点は次のようなことです。

今回、企業組織再編7事例の中で、分割が6事例、合併1事例(分割と併行)、譲渡1事例であった。正直、再編の実像は調査をしてみないとわからないとの思いである。事例ごとに再編の環境やプロセス、また、労使関係においてそれぞれ特徴があった。例えば、再編の主要背景・形態についてみてみると、次のように7つのタイプに分けられる。

第1に、分割部門の業績悪化により、分割会社がそれを抱えることが難しく、他社同事業部門との合併を通じて、分割部門の維持・発展を図るタイプである(「分割部門業績悪化・他社同業部門との統合再編」)。一番典型的にはG事例である。2003年、電機大手2社が半導体部門を分割して新設会社に統合したのである。また、2010年、同新設会社の他社半導体子会社との合併も同じ背景といえる。

第2に、分割部門がより成長していくために、他社との統合を通じて規模の経済性を高める分割・統合である(「分割部門専業化・他社同業部門との統合再編」)。典型的なのはD事例である。世界の強豪と伍していくためには、2つの会社が火力発電部門を持ち続けるよりは、それを分割して新設会社に統合したほうがよいと判断した結果である。C事例のA事業、C事業の分割もこのタイプに当たるが、いずれも政府関連機関からの支援を得て、更なる成長を目指すために分割したのである。

第3に、分割部門の収益性が高いが、選択と集中の経営戦略を進めていくために、同部門の分割益を活用するために行う分割である(「分割益活用・選択事業集中戦略再編」)。F事例とC事例のB事業がこれに当たる。分割売却益は、前者の場合、経営の負担となってきた有利子負債の返済とともに集中事業への更なる投資に有効に活用された。

第4に、分割部門と他の異種部門子会社との統合を通じて、統合のシナジー効果を図るための分割である(「分割部門と異種部門子会社との統合シナジー効果再編」)。A事例がこれに当たる。A事例では、営業部門を分割して、エンジニアリングや保守サービスの子会社との統合により、顧客へのソリューション・サービスを効果・効率的に行うために再編が行われた。

第5に、分割部門と同種部門子会社との統合を通じて、統合のシナジー効果を図るための分割である(「分割部門と同種部門子会社との統合シナジー効果再編」)。E事例がこれに当たる。E事例では、4つの製造部門(工場)を分割し製造専門子会社に統合させて、高い品質・高い生産性を実現しようしたのである。

第6に、不採算部門を切り離して同業他社に譲渡するタイプ(「不採算部門切り離し同業他社への譲渡再編」)であるが、これにはB事例が当たる。半導体後工程を担当するJI社は、経営が厳しくいくつかの工場を閉鎖する等の対策を講じても改善せず、S工場を同業他社のB社に譲渡した。

こうした企業組織再編は、企業グループ内での再編とグループ外のものに分かれる。再編元も先も特定の企業グループ(親会社が子会社株の100%保有)に属しているのは、A事例、B事例とE事例である。再編先の資本金50%以上を持ち、再編元が再編先企業の主導権を持ち、当該企業の連携会計対象としているのはD事例である。分割会社が、分割当初、分割統合会社株の50%以上を保有していたが、その持ち分が低下して連結会計対象外となっているのがG事例である。その他の事例は、再編当初より再編先企業の株を50%未満保有するかまったく保有しない形であり、企業グループ外の再編に当たる。

各事例に特徴があるのは再編の背景・形態だけではなく、労使関係もしかりである。具体的な内容は研究双書をご覧頂きたい。

 

 

 

 

2019年9月 3日 (火)

副業・兼業の場合の労働時間管理@WEB労政時報

WEB労政時報に「副業・兼業の場合の労働時間管理」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers-taiken/article.php?entry_no=76654

 去る8月8日、厚生労働省の「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会」が報告書を公表しました。この問題を含む副業・兼業に関わる労働法改正問題については、本連載の今年1月15日(No.124)の「副業・兼業に関わる諸制度の見直し」でも解説しました。しかしこの時は、その直前に雇用保険関係の報告書が出たばかりであったため、その説明が中心で、また労災保険関係についても若干解説しましたが、一番重要な労働時間法制についてはほとんど内容に触れることはありませんでした。
 しかしその後熱心に議論が交わされ、ようやく報告書にたどり着いたわけです。とはいえ、この報告書を見ると、実はほとんどの論点で両論併記的な書き方になっており、この報告書で一定の方向性が示されたとは言い難いところもあります。
 
 さて、副業・兼業をめぐる問題が労働法政策の課題に飛び込んできたのは2017年3月の働き方改革実行計画であり、・・・・

2019年9月 2日 (月)

JILPT『病気の治療と仕事の両立に関するヒアリング調査』

Jil_20190902113301 JILPTの資料シリーズNo.218『病気の治療と仕事の両立に関するヒアリング調査』がアップされました。

https://www.jil.go.jp/institute/siryo/2019/218.html

https://www.jil.go.jp/institute/siryo/2019/documents/218.pdf

ここでいう「病気」とは、がん、脳血管疾患、心疾患、糖尿病、肝炎、難病といったものです。

2年前の働き方改革実行計画で盛り込まれ、昨年の労働施策総合推進法で国の施策として1号立てて「疾病、負傷その他の理由により治療を受ける者の職業の安定を図るため、雇用の継続、離職を余儀なくされる労働者の円滑な再就職の促進その他の治療の状況に応じた就業を促進するために必要な施策を充実すること」が規定されるに至った現在ですが、具体的な政策はまだそれほど充実していません。

この報告書は、生々しいインタビュー記録が沢山盛り込まれているので、じっくりと読まれるに値します。

(企業ヒアリング調査)
産業保健スタッフ体制では、産業医は、通常の相談受付のほか、要管理者・過重労働者や復帰者の面談なども実施している。一方、保健師等(保健師、看護師等)を雇用している企業もある。保健師等の役割としては、事業所内に常駐していることから、勤務中に体調不良を訴えた者の看護や怪我をした者の手当てのほか、社員への健康指導、健康相談に加え、健康診断での有所見者のフォローアップや産業医の健康指導のための基礎資料作り(長時間労働者のリストアップ等)も行っている。
健康診断で、人間ドックやがん検診などのオプション検査の受診勧奨をしている企業もある(早期発見に役立つがん検診の強化)。健康診断で異常所見が出た場合の対処(フォローアップ)としては、いずれの企業も、要精密検査・要受診の対象者に対して受診勧奨を行っている。健保組合の連携(コラボヘルス)により、重傷化を防ぐための予防措置も強化している企業もある。
休職から復職するのに際して、本人の復帰意思と主治医の就業可能とする診断書に依拠している。これらを踏まえ、産業医面談や復職検討委員会(産業医や人事部門と職場(上司)等)を通じて復職可否が判断される。復帰時には、産業医の指導の下、残業不可・出張不可などの就業上の配慮をする場合がある。
企業の疾患罹患者の特徴として、罹患者数ではメンタルヘルスが多くを占めている。休職者は職場復帰する者が多いとのイメージである。身体疾患では、がんや脳血管疾患などで休職に至る場合もあるが、短期の手術入院で治療する場合も多く、年休等(有給休暇)の範囲内、あるいは欠勤期間中に治療自体は終わり、休職に至る前に職場復帰ができている、とする企業も多い。ただし、脳卒中、心疾患の場合、後遺症が残るほどの重篤な症状の場合、リハビリテーションが必要になるため、休職期間満了寸前まで休業する者も見られる。心疾患、肝炎、糖尿病、難病については、大半が年休を活用して、通院治療を受ける場合が多く、休職に至るケースはまれ、としている。なお、休職に至る者は重症化しているケースであり、半年~1年等の長期の休業期間を要し、休職期間満了に至るケースもみられる。
病気の治療と仕事の両立での効果的な施策として、① 長期の休職期間などの会社を休める制度、通院しやすい休暇制度(時間単位年休やフレックスタイム制度等の柔軟な労働時間制度)、② 早期発見のためのがん検診等の強化や、健康診断での有所見者に対するフォローアップ、③ 予防重視の健康指導対策を打つための健保組合の健康情報データの分析、④ 医療知識を有した人材(保健師等の専門職)の配置(常勤)――などがあげられた。

(患者ヒアリング調査)
疾患治療の特徴として、疾患発症時は、外科手術や投薬治療等で入院を要するケースが多いが、早期発見の場合、がんや難病等のいずれの疾患も短期入院で治療が終わっている。ただし、がんで進行度が高い場合等で、長期(1年程度)の入院を要するケースもある。退院後は、定期検査(経過観察)が続く(とくに脳血管疾患や心疾患、糖尿病、難病では投薬治療が継続)。
会社側の復帰後の対応としては、配属先は原職復帰とするケースが多い。ただし、配属部署が原職復帰でも、会社側の配慮として、業務内容を変更するケースはある(業務負荷軽減のため、営業職→内勤)。配置・業務の変更以外での具体的な配慮内容としては、残業禁止や出張禁止等を設ける場合が多い。とくに、副作用や後遺症がある場合に企業の配慮がなされている。
就業継続ができた理由としては、身体疾患の治療の場合、入院治療時に一定期間の療養(入院)と、退院後の通院治療が必要となることから、長期の休職期間と通院の保障がなされることなどがあげられている。また、会社側の配慮があった者については、業務・働き方の見直しを評価している者も多い。なお、疾患罹患により退職した理由としては、休職期間満了か、依願退職による退職が多い。とくに非正社員では、休職制度の適用がないことや、契約期間満了などによる退職が目立つ。
疾患に罹患し退職した後の求職活動では、疾患罹患を伝えたことが不採用の原因とする者もいるが、身体疾患罹患者の年齢層が高いこと(40代後半層)による難しさを感じている者もいる。採用された雇用形態では非正社員が多い。非正社員での採用で困難を感じる者は比較的少ない。採用された理由は、人手不足の結果とする者が多い。
患者が求める両立支援策としては、① 転職しやすい制度の構築(疾患罹患者向けの求人の増加(派遣含む)、疾患について面接等で上手く伝える仕組み等)、② 公的支援(高額療養費制度や医療費助成、リハビリ施設の充実等)、③ 会社側の両立支援(長期の休職制度(休めること)、傷病休暇の法定化や通院目的の年休取得促進に関わる指針、短時間勤務、テレワーク等)――などがあげられた。 

 

 

メンバーシップ型社会ゆえの「ハイカツ」という奇現象

Haikatu だいぶ前の日経スタイルに「就活内定後は「ハイカツ」 希望の配属目指しアピール」という記事が載っています。

https://style.nikkei.com/article/DGXMZO48135940S9A800C1KNTP01

来春新卒採用の選考解禁から2カ月。内定をもらってひと安心かと思いきや、「今からが本番」と不安に駆られる学生がいる。今度は希望する配属先に入るためのハイカツ=配属活動が始まるという。いったい何をするのだろう?・・・

就活を終えた学生の間で関心が高まっているのが、入社後に行きたい部署への配属をどうやって実現させるかというハイカツだ。インターン情報サイト「キャリアバイト」を運営するアイタンクジャパン(東京・新宿)の藤原義人社長は「内定者インターンや他社での長期インターンを通じてハイカツをする学生が増えている」と指摘する。・・・

そもそもハイカツが必要になるのは、学生の希望と配属先のミスマッチが原因だ。「先輩たちが入社後に苦しむ様子を見たので何かしなければと思った」と女子学生(22)は話す。・・・

Chuko 拙著『若者と労働』等で詳しく説明したとおり、そもそも日本社会におけるシューカツ(「就職活動」)とは、いかなる意味でも「職」(job)に就くための活動ではなく、会社という人間集団のメンバーになること(「入社」)のための活動なので、「入社」に成功したこと自体はいかなる意味でも実際に従事する職務を特定することはありません。これまでは会社側も学生側もそれを前提に、「命じたことは何でもやってもらうよ」「命じられたことは何でもやります」でやってきたわけですが、それを、そういう内部労働市場型配置制度ではミスマッチが生じてしまうからと、「入社」型採用という大枠はなんら変えないまま、「入社」後に従事する「職務」を特定するための別の活動を行うという、それこそジョブ型社会の人々から見れば全く意味不明の段階が入りこんできているのが、この奇現象ということになるのでしょうか。

・・・欧米では職種を限定して採用する「ジョブ型」が一般的。「ハイカツは新卒一括採用をする日本特有の現象だ」と佐藤さんはいう。一括採用では就活時に学生が希望についての本音を話せない現状があり、内定後のハイカツにつながる。若い世代ではジョブ型採用を支持する声も聞かれる。ハイカツが盛んになれば、企業は採用を含め人材マネジメントを見直すことが求められるかもしれない。

 

 

2019年9月 1日 (日)

35年前のエッセイ

パソコンの奥の奥から、なぜか今から35年前(1984年)にひっそりと書いたエッセイみたいなものが出てきました。まだ就職してそれほど経たない頃の若気が匂ってくるような文章ですが、そしてその用語法には今では違和感が結構ありますが、それにしても大きな枠組みとしては考えていることは35年たってもあんまり変わっていないな、という感想もこれあり、正直恥ずかしい若書きの代物ですが、人様のお目に触れるところにアップしてみようと思います。

いうまでもなく、まだバブルが崩壊し、日本経済が凋落していくなんてことが誰も想像していなかった頃の、まさにジャパン・アズ・ナンバーワンを信じていたころの、その成功のメカニズムをやや斜に構えて、かつその将来をやや悲観的めいた視座で綴ってみた作文ですが、現在の時点から読み返してみると、いろいろな意味で感慨深いものがありますな。

「仕切られた平等」の崩壊

1984/3/29

 現在進行しつつあるのは、老壮青男女の「仕切られた平等」システムの崩壊である。「青少年はただ勉強していればいい。他はするな。」「成人女性はただ家事をしていればいい。他はするな。」「成人男性はただ仕事をしていればいい。他はするな。」という社会的棲み分けが現代社会の基本的な構造をなしているが、この構造はそれぞれの内部における強い平等主義--それも競争意識に満ちた平等主義に彩られている。平等主義と競争意識は建前・本音構造をなし、閉じられた不自由性と相まって、ものすごい緊張をその中に発生することになる。
 「仕切られた平等」システムの中核をなすのは、成人男性における「社員の平等」である。これは次の3つからなる。第1は平等な出発点としての新卒一括採用システムであり、第2は平等な過程としての年功序列システムであり、第3は平等な結末としての一律定年システムである。これらはいずれも能力による差別の否定という建前の上に成り立っている。企業ができるだけ中途採用を避け、新卒一括採用をしたがるのは、それが新入者間に格差なしという建前にもっとも合致するからである。中途採用の場合、どうしても資格・経験等による能力判断を強いられる。その点、新卒ならどうせ皆未経験な未熟者なのだから、同じスタートラインに乗せても問題はない。しかし、この平等主義の建前の裏では、その平等なスタートラインに乗るための競争、本音のレベルであるが故に正当化されえず、それゆえいっそう緊張度の高い競争が渦巻くことになる。この矛盾の象徴が、個性を殺すことによって目立とうとするリクルートスタイルであるといえよう。
 こうしていったん会社にもぐり込むと、皆等しく「社員」である。元来「社員」とは財産法上の概念であって、会社の出資者を指すのだが、それがいつの間にか、雇用労働者を指すことになっていたというのも面白い現象である。「社員」という言葉で彼らを表現することによって、共同体の成員であるかのような意識が発達する。この「皆同じ社員」たちを、いつまでも皆同じ社員にしておくための労務管理システムが年功序列システムであるが、これもまた建前としての平等主義による同期一斉昇進システムと本音としての足の引っ張り合い競争の中で、「同期間で微妙に差を付けながら、逆転人事はしない」という同期間競争年功序列システムという表現型をとっている。
 賃金制度の面からいうと、彼らは皆三角家族の世帯主あるいはそうなるべき者として年功型生活給賃金体系のもとにある。労働力としての限界生産性ではなく、家族を扶養して生活していける賃金というのがその決定原則であり、これは「能力に応じて働き、必要に応じて受け取る」という共産主義原理の具体化とみることもできよう。このため若年者において生産性以下の賃金しか支払われない分を中高年者において生産性以上のプレミアムとして分配することになり、労働市場の需要供給関係を著しく歪めることになる。企業それ自体は市場の海に浮かんでいるため全体として労務費の採算がとれていなければならず、生産性と分配の差が一定限度を超える者は排出する必要が発生するが、これもまた一律定年システムとして平等主義的に解決される。
 このように、成人男性に与えられた生き方は、入るときから出るときまで、一律平等に「社員」という身分のもとで会社に忠誠を誓いながら隠れた競争を行い、三角家族世帯主たることを前提とした年功序列型分配システムのもとで建前としての平等を享受するというものであった。

 この「社員の平等」と対をなすのが成人女性における「主婦の平等」である。「主婦」というのは戦前の山の手族の間で発生した概念で、「家政」を取りしきり、女中や下男を使用する主体としての「主」なる「婦」という意味だったのだが、戦後システムにおいては核家族(三角家族)の妻を指すようになった。つまり誰でも結婚さえすれば「主婦」になれるわけで、上野千鶴子流にいえば「主婦の粗製濫造時代」であり、著しい意味のインフレをきたしているわけだが、これはちょうど成人男性が誰でも雇われれば「社員」になれるのと対応している。しかも「社員」以上に「主婦」は相互に対等であり、社会全体にわたってもっとも無階層的均質化に到達したのは戦後システムにおける主婦たちであったといってもいいであろう。核家族というのは、すべての成人女性が等しく主婦であり得るための制度である。それは姑と嫁という同一世帯内における主婦相互間の緊張を伴った階層化を排除するとともに、家族構成を相互に同型的にすることによって(三角家族)、異なる世帯の主婦の間における格差を極小化した。
 「主婦の平等」はさらに3つに分けられる。第1は「結婚の前の平等」であり、「女の平等」と呼べるものである。第2は「家事の前の平等」であり、「妻の平等」と呼べるものである。第3は「育児の前の平等」であり、「母の平等」と呼べるものである。
 第1の「結婚の前の平等」を支えるものとして恋愛結婚イデオロギーがある。これは結婚の正当性は当事者男女間の恋愛感情の存在によってのみ根拠づけられるとするものであって、所有財産や稼得能力に基づく結婚を「不純」として非正統化することによって、女性をその社会的属性から切り離された「女として平等」な地位に置く。多くの少女向け読み物が、男性獲得競争において取り柄のない平凡な娘が取り柄のある少女たちに勝利するというテーマを好んで描いてきたのは、このことを示している。これが目立たないことによって選ばれるというリクルートスタイルの思想と相似形をなしているのは興味深い。
 結婚して妻になると、彼女らは「家事の前に平等」である。戦後システムの最大の特徴は、かつて主婦から女中に至る階層構造をなしていた「家政」が、ただ「主婦」のみによって担われる「家事」に移行したことであり、これは女中という大量の女子労働力が消滅したことによって示される。家事の非市場化は、「家事は主婦がすべてこれを行い、しかも主婦のみがこれを行う」という新しいパラダイムの成立を告げるものであった。この背景として、電化等の技術革新によって、一家の家事量が一人の労働力で賄え、しかも一人の労働力は必要である程度にまで収縮したことがある。その意味では、やがて技術革新の一層の進展により「妻無用論」(梅棹忠夫)が出てくることが予想されたわけだが、少なくともそれまでは、主婦というのは結婚したその日から相互に対等であり、しかも家族にとって唯一無二必要不可欠なものとして社会的に評価される存在として、学校教師に似たところがあった。
 出産によって妻は母に昇進する。母は「育児の前に平等」である。子守や乳母といった育児労働者はほとんど姿を消し、育児に最大限の考慮を払わない母は道徳的非難の対象となる。母の価値は育児への投下労働量で決まるため、戦後生まれの子供は空前絶後の過保護下で育つことになった。
 核家族化によって主婦はかなり徹底した相互平等性を獲得したが、これはもちろん競争の不存在を意味するものではない。ただ彼女らにあっては競争の認識・評価主体と実行主体が分離しており、夫の出世や子供の成績のいいことが競争の対象となる。そのことが建前としての「妻の平等」のもとでの本音としての自らの妻としての優位性、建前としての「母の平等」のもとでの本音としての自らの母としての優位性を求める感情を満足させてくれることになる。
 いずれにしても、戦後システムにおける「主婦の平等」は非常に広い範囲にわたって平等性を実現したという点で空前絶後のものであろう。そして、これと先述の成人男性における「社員の平等」とが相まって、世界でももっとも世帯間平等度の高い社会となったわけである。このシステムがもっとも完成に近づいたのは、世帯主外労働力率が最低になった1970年代中頃とみられる。これは世帯主間所得格差を埋めるべき必要が最少になったことを意味している。このことは戦後パラダイムにおいては幸福の絶頂と評価すべきことであった。

 戦後型「仕切られた平等」システムが崩壊し、能力主義的多就業世帯システムに移行すると、雇用機会の配分が偏る危険性が高い。つまり、今まではすべての世帯に一つづつ世帯主用就業機会を配分した後、世帯間所得格差縮小のため低所得層ほどより多くの雇用が配分されたわけであるが、老壮青男女すべてが就業することが前提となると、かつては世帯主間だけにあった良好雇用機会獲得競争がすべての人々の間に広がることになり、世帯主であるなしに関わらずその能力順に良好な雇用機会が配分されるため、ある世帯は成員が皆良好な雇用機会を得ているのに、他の世帯は誰も良好な雇用機会、いや劣悪な雇用機会すら得られないという状況が発生しやすくなる。「結婚の前の平等」が薄れるため、階層内インブリーディングの傾向が強まることもこの事態を促進すると考えられる。つまり、良好な雇用機会を獲得しやすい者同士が結婚するため、追い出され効果によって獲得しにくい者同士が結婚せざるを得ず、結果的に良好な雇用機会から疎外された世帯が多数発生することが予想されるのである。マイクロエレクトロニクスを始めとする情報化によって社会全体として必要労働量が著しく減少することを考慮に入れると、社会の少なからぬ部分が雇用機会がほとんど配分されない完全失業世帯となる危険性もある。
 もちろん時代の雰囲気が「必要」「生活」「平等」といった社会主義的なものから、「能力」「機会」「自由」といった資本主義的なものに変わっているであろうから、それが直ちに正義に反するものとして断罪されることはないにしても、世帯間雇用機会配分の不均等は低所得層における反社会的意識傾向を強めることになろう。いうならば、かつての産業化の時期にも似た階級分化が進むわけである。 

 

JAMによる在日ブータン人の労働組合結成

Butan 昨日、在日ブータン人らによって労働組合が結成されたという報道がありましたが、

https://this.kiji.is/540499875876668513?c=39546741839462401

産業別労働組合「JAM」と在日ブータン人労働者らが31日、松山市内で記者会見し、在日ブータン人を対象とした労組を設立すると発表した。来日して経済的に困窮し、過酷な労働を強いられるブータン人を支援する目的。9月1日付で設立し、東京、愛媛、福岡の3都県で働く20代の男女11人が組合員となる。
 執行委員長に就任するジャガナト・コイララさん(28)=愛媛県在住=は会見で「問題を抱え、声を上げられない留学生や労働者がいる」と語った。
 コイララさんらによると、日本語学校に通いながら学費のために過酷な労働環境にいる留学生が多く、自殺者も出ている。 

JAMといえば、かつての全金同盟と全国金属等の中小製造業の労働組合運動というイメージですが、ここにきてこういう外国人労働者など縁辺労働者の組織化に乗り出してきました。これ、ご存じの方もいるかもしれませんが、長く連合東京でオルガナイザーとして活躍してこられた古山修さんが、今年からJAMに移られて、個人加盟のゼネラルユニオンを結成し、組織化を進めておられます。

今回の在日ブータン人労働組合も、おそらくその一環なのでしょう。JAMの挑戦が今後どのように進んでいくか目が離せません。

(参考)

Huruyama ちなみに、もう13年も前になりますが、JILPTの資料シリーズ『中小企業における労使関係と労働条件決定システムの実態―ヒアリング調査報告―』で、当時連合東京の組織局長だった古山修さんへのインタビューをもとに、前浦穂高さんが組合結成への取り組み状況をまとめています(第10章、83ページから)。当時から、ゼンセンの二宮誠さん、札幌地域労組の鈴木一さんと並んで、日本三大オルグと呼ばれていました。

https://www.jil.go.jp/institute/siryo/2006/documents/06-016.pdf

 連合ユニオン東京では、労働相談を通じて、組合結成のきっかけを作り、それを同じ産業内の未組織企業に広げていく組織戦略をとっている。しかも組合の結成は、産別を中心に行いながらも、どこの産業にも属さないような企業を連合ユニオン東京が担当するなど、非常にバランスを取った取組みを行っている。

ところで、なぜ連合ユニオン東京による活動がこれほど実績を上げられるのであろうか。その要因として、3 点指摘したい。

第一に、労働相談を通じて行われていることが考えられる。労働者個人の相談に耳を傾けることで、労働者が抱える悩みや問題を知ることができるだけでなく、労働者個人からの信頼を得ることもできる。そしてそれらの悩みや問題を解決するためには、組合の結成が必要であると説明されれば、労働者としても組合結成を決断しやすくなる。

第二に、組合結成のプロセスである。連合ユニオン東京では、初は相談者 1 人であっても、仲間を集めて準備会を結成している。組合結成のプロセスでは、組合結成の作業は準備会を中心に展開するから、当事者としては心強いことは間違いない。またその作業は秘密裏に進められていくため、途中で企業側に介入されるリスクは低い。

第三に、専門スタッフの存在である。連合ユニオン東京では、ベテランスタッフ(古山氏)を中心に組合結成に取り組んでいる。そのスタッフの経験を組合結成の取組みに組み込むことにより、成果につながることはもちろんのこと、当事者たちも安心して活動できることは 言うまでもない。

今後は、連合ユニオン東京が実施している取組みを、都内各地域の実情などを踏まえた上で、どのように展開していくのが良いかを検討していく必要がある。すでに指摘したため詳しくは繰り返さないが、連合ユニオン東京のスタッフだけでは限界があること、都内の各拠点では組合結成の活動が十分機能していない現状を克服すれば、組合結成の動きをより活発なものにすることができるはずである。

そのような取組みの積み重ねが、組合数や組合員数の低下の歯止めになるように思われる。

 

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