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2019年8月17日 (土)

「労働争議」ではない集団的労働紛争

8月8日付の「労働争議は特別天然記念物?」のコメント欄でもAlberichさんが紹介していますが、東北自動車道上り線佐野サービスエリアの売店やレストランが運営会社従業員の出社拒否で営業を停止しているようです。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2019/08/post-e6385a.html#comments

https://news.livedoor.com/article/detail/16931924/

71901_1399_0e05c368_0ab94ddb  お盆真っ最中に大騒動だ! 帰省中のマイカーで混雑する東北自動車道。その上り線にある「佐野サービスエリア(SA)」(栃木県佐野市)のレストランなどが14日、運営会社の従業員たちによる“ストライキ”で営業休止となった。現場には「社長の経営方針にはついていけません」「解雇された部長と支配人の復職と、経営陣の退陣を求めます」との貼り紙が残されていた。佐野ラーメンを提供する人気SAで、この時期は一年でも特に人が訪れる書き入れ時のはず。いったい何が起きたというのか――。

この記事、タイトルは「お盆に!東北自動車道・佐野SAスト内情 運営会社社長の悪評」なんですが、記事中の「ストライキ」に引用符がつけられているように、厳密な意味での労働組合法及び労働関係調整法上の労働争議に当たるかどうかは疑問があります。というのも、この貼り紙には「ケイセイフーズ従業員一同」の名で、「従業員と取引先のみなさんの総意です」とあります。

・・・従業員らで片付け作業に入り、14日未明にSAを閉鎖。従業員らは「おなかが痛いので休む」という名目で14日の出勤を取りやめた。参加人数は40~50人。当面の目標は「部長の不当解雇撤回」だという。・・・

従業員による集団的行動であることは間違いないのですが、労働組合を結成しているわけではないし、「おなかが痛いので休む」のでは、争議団ですらない。

中身は立派な、というか昔はよく見られた集団的労働紛争そのものなのですが、それが労働争議という形をとらない、取りにくい、という点に今日の日本社会の姿が凝縮されているのかもしれませんね。

Natuzora そういえば、朝の連続テレビ小説「なつぞら」でも、モデルの奥山玲子さんは東映動画労働組合で活躍していますが、テレビでは「労働組合じゃない、個人の総意」になっていました。現実には集団的性質の労働問題は山のようにあるのに、それを受け止める集団的労使関係システムが完全に動きがとれなくなり、個別労働関係の集合としてしか現れてこなくなっている現代に、かつての労働運動華やかなりし時代を描こうとすると、こういうずれが生じてしまうのでしょうか。

(追記)

普通のマスコミが報道してくれないので、スポーツ紙情報に頼らざるを得ず、どこまでが正しい情報なのかよくわからないのですが、上記記事では労働組合を結成して労働争議を行っているのではなさそうだという前提で書いたのですが、別ソースによると、ちゃんと労働組合を結成しているようでもあります。

https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/201908160001131.html

 運営会社の従業員のストライキにより、14日未明から営業がストップしていた、東北道・佐野サービスエリア(SA=栃木県佐野市)上り線のフードコートと売店が、スト発生から2日後の16日、営業を一部再開し、名物「佐野ラーメン」の提供が始まった。
ただ、店頭に立った人員は代替要員だといい、ストを起こした従業員たちは「我々の味ではない」と反発した。経営陣との直接対話も実現せず、団体交渉の可能性も探るなど、事態は長期化の様相を呈している。

 ・・・また、岸社長がストを起こした従業員と連絡が取れないと語ったことを伝え聞くと、首をかしげ「経営陣にはコンタクトを取っていますが、交渉は出来ていない」と断言。打開の糸口が見えないこと、7月に労働組合を結成したことを踏まえ(1)通常の職場環境の回復(2)ストの発端となった親会社の資金繰りの悪化について、今後の給与の支払いと商品の安定した仕入れに問題はないかを再確認するため、団体交渉を行う方向で弁護士と協議を始めた。また一部の労働団体にも相談を始めたという。

こちらの記事によれば、7月に労働組合を結成しているようです。ただ、団体交渉は要求せずに、いきなりストライキ?/おなかが痛いので休む?に出たようで、正確なところは不明確です。

いずれにしても、マスコミも含めて、集団的労使関係法制について常識が払底してしまっている現代を象徴する事態であることは確かなようではあります。

 

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コメント

>いずれにしても、マスコミも含めて、集団的労使関係法制について常識が払底してしまっている現代を象徴する事態であることは確かなようではあります。

以下のような記事がありました。
https://news.livedoor.com/article/detail/17132332/
 慶應商学部卒で学習塾に就職した男性の悲哀

現在この男性は学習塾に正社員として勤めていますが、「給与支払明細書」控除欄の「健康保険料」「厚生年金」「雇用保険料」が、すべて「0円」だったそうです。
勤務先には社会保険の加入義務があると指摘すると、本人は
   最初に、『社会保険は自分で払ってください』と言われたんです。
   これは問題なんですか? 違法なんですか?
ときょとんとした様子だったそうです。
この著者の
   政府はこの世代を対象に、30万人の正社員登用を目指すとしている。
   正社員化は大切な課題だが、一方で、より深刻な問題は、この男性が
   さんざん経験してきたように、雇用形態に関係なく、何年働いても
   ワーキングプア状態から抜け出せず、さらには多くの職場で違法行為
   がまかり通っていることだ。

   政府がもし、現在の就労環境を本気で何とかしたいと考えるなら、
   働き手が労働関連法について学ぶ機会をつくることだ。労働組合の
   つくり方から、団結権、団体交渉権の意味までみっちりと教えるといい。
   これらはタブーでもなんでもない。憲法以下、さまざまな法律で保障
   されていることだ。まあ、業界・経済団体は反対するだろうけど。
という記述が印象に残っています。

佐野SAの騒動(?)は、現社長の退陣、従業員の復帰という事で(めでたく)解決したようです。
https://bunshun.jp/articles/-/14366
https://bunshun.jp/articles/-/14367

このような形で終結したのも、解雇されても少なからぬ私財(1500万円)を提供して従業員のために尽力した総務部長氏がいたからだと思います。問題のある職場のほとんどは総務部長氏のような人がいないので、泣き寝入りになる場合が多いと思います。上の記事の著者の記述ではありませんが、総務部長氏のような人がいなくても、解決できるような仕組みが必要だと思います。

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