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2019年8月23日 (金)

大学教授の労働時間概念

K10012042101_1908201905_1908202005_01_06 NHKニュースウェブに、「“勤務ではない研究” 大学教員の働き方を考える」という大変興味深い記事が載っています。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190820/k10012042101000.html

 「土日に職場に出てきても『自主的な研さん』であれば、休日出勤には該当しない。大学も教員もそういう意識でした。好きでやっているのですから」
休日出勤の賃金が払われない”勤務ではない研究”を続けてきたある大学教員のことばです。
しかし、いま、こうした働き方は違法だとして労働基準監督署から是正勧告を受ける大学が相次いでいます。どんな働き方をしていて、何が問題になっているのか、取材を進めると複雑な実態が見えてきました。

例の島根大学の是正勧告に関わって、よく取材して書かれた記事です。

・・・働き方改革を推進する機運が高まる中、大学の教員の働き方にも透明性が求められています。

「自主的な研さん」と言いながらもそれが長時間労働につながり、健康被害につながることはあってはなりません。

しかし、その一方で、教員の中には、多様な働き方を求めるニーズがあることも事実ですし、世界の研究者としのぎを削るなかで、働く意欲が失われるような事態は避けなくてはなりません。

「自己研さん」か「労働」かといった二者択一なのか、そうではなく、より多くの関係者が納得感の得られる働き方が存在するのか。

今回の取材を通じていま、真剣に模索すべき時期に来ているのではないかと感じました。

で、たまたま図書館に届いた『青山経済論集』という青山学院大学の紀要に、白井邦彦さんが「働き方改革関連法と私立大学教員の「労働時間の状況の把握」に関する一試論」という文章が載っているのを見つけました。

白井さんはかなり幅広く労働法の文献を読まれた上で(参考文献にはジンツハイマーまで出てきます)、大学教員に今回の働き方改革関連法で義務づけられた「労働時間の状況の把握」をそのまま適用するのは無理があると主張しています。

これは、自分のやり方に合わないから駄目というような短絡的な議論ではなく、ジンツハイマーまで遡って従属労働論を吟味した上での議論です。詳細は同論文を読んでいただくべきですが、白井さんの主張は、

・・・大学教員の「研究・授業準備・研究上の知見に基づく社会貢献活動」は基本的には「使用者(大学経営者)の指揮命令によってなされるもの」でも、「使用者から義務づけられ又その行為をすることを余儀なくされているもの」ではないだろう。・・・よって、そもそも大学教員のそれらの業務の遂行時間は、「厚生労働省が規定する労働時間概念」に適合しないものと思われる。

・・・さらに「従属労働論」からしても私立大学教員の「研究、授業準備、研究上の知見に基づく社会貢献活動」はそれら業務の性質上、「従属労働」とはいえないし、そもそも本質的に「従属労働」たりえないものといえよう。・・・

この議論は実は大変重要な論点をいくつも潜ませていると思いますが、まずなによりも、そういう「従属労働」たりえない働き方というのは大学教授だけの特権ではないでしょう、という議論(必ずしも反論ではなく)が提起されるように思われます。それこそ公私のさまざまな研究機関の研究者は全く同じでしょうし、さらにいえば、いま問題となっている医師の労働時間の中の「研鑽」時間とも関わってきます。

そういう広がりへの目線はあまりないのですが、いずれにしても問題の当事者でありうる大学教員の立場からの問題提起としては、しっかりと受け止める必要はありそうです。

 

 

 

 

 

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