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2019年7月15日 (月)

日雇派遣問題への新たな視角

大内伸哉さんがブログ「アモリスタ・ウモリスタ」で「日雇派遣規制の見直し」について論じています。

http://lavoroeamore.cocolog-nifty.com/amoristaumorista/2019/07/post-570a80.html

 ・・・・いったん作ったものでも,おかしいものであれば,迅速に廃棄することが必要です。「直接雇用のみなし」にはいろいろな考え方の違いがあり意見が分かれるのはわかりますが,「日雇派遣」は論理的におかしい規制というべきなので,この時期の見直しは遅すぎたほどです。

現行日雇派遣法制が矛盾に満ちており、見直すべきであるという点については全く同感であり、今までもその旨のことは何回か書いてきています。

https://www.jpc-net.jp/paper/zokunihonjinji/20160315zokunihonjinji.pdf (日雇派遣規制の矛盾(『生産性新聞』2016年3月15日号))

ただ、一方世界的な新たな就業形態の進展とそれに対する法的対応の状況を踏まえて考えると、日雇派遣問題を日本の派遣法規制という枠内だけで考えること自体があまりにも狭隘に過ぎるという感もあります。もちろん、日雇派遣を目の敵にする人々が、ややもすると派遣という働き方を目の敵にする古びた発想でもって論ずる傾向があったために、日雇派遣規制も派遣規制のまことにできの悪い出来損ないみたいな形になってしまってしまっているわけですが、そこに現れていた問題とは、実は近年世界共通に表れてきつつあるオンコールワーク、オンデマンドワークといった問題であったように思われるのです。

この件については、一昨年にWEB労政時報に小文を書いていますので、この問題をまじめに考えようという方のためにお蔵出しをしておきたいと思います。

https://www.rosei.jp/readers-taiken/article.php?entry_no=75705 (日雇派遣の歴史的位置)

 今から10年前の時期に、日本の労働市場法政策において注目され話題となった就業形態に「日雇派遣」があります。それまでの構造改革への熱狂が一段落し、格差問題が大きな問題になっていった時期に、派遣労働者の中でもとりわけ日雇派遣で働く人たちにテレビや新聞が着目し、ネットカフェに寝泊まりしている姿など彼らの窮状を集中的に報道したことが、社会に対し非常に大きな影響を与えました。グッドウィルやフルキャストといった日雇派遣会社の名前を思い出す方もいるでしょう。
 
 最初は規制緩和の方向で始められた労政審の審議も風向きが変わり、2007年12月の中間報告では日雇派遣の一部規制強化が打ち出されました。そこでは、日雇派遣は契約期間が短く、仕事があるかどうかが前日までわからない、当日キャンセルがあるといったことや、給与からの不透明な天引きや移動時間中の賃金不払い、安全衛生措置や教育が講じられず労災が起きやすい、労働条件の明示がされていないといった問題点が指摘されていました。そこでこの時点で省令改正がされ、日雇でも派遣先責任者の選任義務や派遣先管理台帳の作成記帳義務を課し、派遣元事業主が定期的に日雇派遣労働者の就業場所を巡回し就業の状況を確認することを義務づける等しました。
 
 日雇派遣形態そのものの規制については、2008年7月の「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会報告書」で、危険度が高く、安全性が確保できない業務、雇用管理責任が担い得ない業務を禁止し、専門業務など短期の雇用であっても労働者に特段の不利益が生じないような業務のみ認める方向が打ち出され、同年9月の労政審建議では「日々又は30日以内の期間を定めて雇用する労働者について、原則、労働者派遣を行ってはならない」とした上で、「日雇派遣が常態であり、かつ、労働者の保護に問題ない業務等について、政令によりポジティブリスト化して認めることが適当」としました。これを受けて同年11月に労働者派遣法改正案が国会に提出されましたが、折からのリーマンショックで、多くの派遣労働者が派遣会社の寮を追い出されて住むところを失うという状況があらわになり、同年末から2009年始にかけていわゆる「年越し派遣村」が設立され、派遣制度に対する風当たりはさらに強くなりました。
 2009年の総選挙で民主党政権が誕生すると、あらためて労働者派遣法の審議が始められ、2010年4月により規制を強化した改正案が国会に提出されましたが、日雇派遣については自公政権時の法案と変わっていませんでした。しかし、政治状況から同法案が塩漬けになり、2012年3月に野党の自公両党と合意して登録型派遣の原則禁止の削除など修正可決した際、禁止の例外としてさらに「雇用の機会の確保が特に困難であると認められる労働者の雇用の継続等を図るために必要であると認められる場合その他の場合で政令で定める場合」を加え、具体的には60歳以上の高齢者、昼間学生、労働者自身かその配偶者が年収500万円以上の者を適用除外としました。この規定は2015年9月に労働者派遣法が全面的に改正されたときにも触れられず、現在も適用されています。
 一方この間、日雇派遣の原則禁止を見越して多くの業者は日雇派遣から日々紹介への業態転換を図り、現在では実質的に同様の業務が日々紹介として行われています。有料職業紹介事業には手数料規制など派遣事業にはない規制があるとはいえ、対象者に制限がないのでやりやすいことは確かでしょう。とりわけ、日雇で働くために年収500万円以上要件をクリアしているかどうかを証明させる面倒くささを考えれば業者が日々紹介に流れていったことはよく理解できます。しかし、形態が日雇派遣から日々紹介に変わっても、指摘されていた「契約期間が短く、仕事があるかどうかが前日までわからない、当日キャンセルがある」といった問題点に変わりはありません。これは、たまたま日雇派遣という形で現れた問題を、もっぱら労働者派遣という側面に注目して派遣法の法的手段を使って対応しようとしたことの結果と言えます。
 
 実をいえば、こういった問題点は近年、イギリスを始めとして世界的に拡大しているオンコール労働、とりわけ「ゼロ時間契約」と呼ばれる新たな就業形態の問題点を、やや先取り的に現していたものということができます。これは、あらかじめ労働時間を定めることなく、呼び出しがあれば行って働くという契約ですが、一定時間の就労を保障するわけではなく、呼び出しがなければいつまでも待ち続けなければならず、まさにその不安定さが問題となりました。特にイギリスの労働組合TUCはゼロ時間契約の廃止を訴え、野党労働党の公約にも盛り込まれました。
 欧米のゼロ時間契約を見てから、あらためて日本の日雇派遣や日々紹介を見てみると、就労時間以外の待機時間に当たる部分を、日本では派遣会社や紹介会社の「登録」という曖昧な状態におくことによって、同じような効果をもたらしていることがわかります。どちらも、情報通信技術の発達のおかげで、いつどこにいても携帯電話による呼び出しが可能になったことを利用した新たな就業形態であり、その歴史的位置はほぼ同じようなものではないかと思われます。経済のデジタル化に伴う新たな就業形態が話題となる今日、日雇派遣・日々紹介についても新たな視点からの議論が求められるのではないでしょうか。

そして、実はこの問題が近年EUでも大きな議論となり、今年5月には新たな指令「透明で予見可能な労働条件指令」として成立に至っているのです。

この指令については、指令案の段階で『季刊労働法』2018年春号(260号)で「EUの透明で予見可能な労働条件指令案」としてかなり詳しく紹介していますが、改めてきちんと(日本へのインプリケーションにも含めて)論じなおす必要があるのかもしれません。

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