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2019年7月

2019年7月31日 (水)

公文教室の指導者の労組法上の労働者性

本日、東京都労働委員会が公文教室指導者の労働組合法上の労働者性を認める救済命令を出しました。コンビニエンスストア店長についても労働者性を認める命令を発していましたが、中央労働委員会にひっくり返されてしまいましたが、似たようなフランチャイズシステムをとる公文式についての今回の命令が今後どういう運命をたどるのか、目が離せません。

とりあえず、都労委のホームページから関係部分を引用しておきます。

http://www.toroui.metro.tokyo.jp/image/2019/meirei29-15_besshi.html (公文教育研究会事件命令書交付について)

(1) 教室指導者が労働組合法上の労働者に当たるか否かについて
労働組合法上の労働者に当たるか否かについては、契約の名称等の形式のみにとらわれることなく、その実態に即して客観的に判断する必要がある。
確かに、一般に、フランチャイズ契約には、いわゆるライセンス契約としての側面があることは否定し難く、また、フランチャイジーが会社とは別個の事業者とされていることからすると、フランチャイジーがフランチャイザーに対して労務を供給することがその契約上当然に予定されているとはいえない。
しかし、本件契約は、教室指導者本人の労務供給が前提となっているということができるし、実態としても、教室指導者は、本人労働力を供給して生徒の指導を行っているというべきである。また、会社と本件契約を締結するのは、教室指導者個人のみであり、本件契約を締結し、法人が本件契約に基づいて公文式教室を運営する例はない。これらの事情からすると、本件において、会社と教室指導者との関係を実質的にみた場合、教室指導者自身が会社の事業のために労務を供給していると評価できる可能性がある。
したがって、上記の点を踏まえつつ、教室指導者が労働組合法上の労働者に当たるか否かについては、労働組合法の趣旨及び性格に照らし、会社と教室指導者との間の関係において、労務供給関係と評価できる実態があるかという点も含めて検討し、ア)事業組織への組入れ、イ)契約内容の一方的・定型的決定、ウ)報酬の労務対価性、エ)業務の依頼に応ずべき関係、オ)広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束、カ)顕著な事業者性等の諸事情があるか否かを総合的に考慮して判断すべきである。
ア 事業組織への組入れについて
 (ア) 教室指導者の位置付けについて
    教室運営において、会費収入による利益及び教室運営の損失は、教室指導者に帰属するが、会社が一部の費用を負担しているため、教室指導者自身の負担は比較的軽減されている。会費は、教室指導者が毎月会社の決定した金額を生徒から徴収し、生徒数やその増減等を会社に報告している。
教室指導者は、その補助者としてスタッフを雇っても、教室指導者が自ら直接生徒の指導に当たることに変わりはない。
教室指導者は、会社の推奨する範囲内で、物品の販売を自らの判断で行ったり、会社の提案により自ら店舗の立地を選択したりするし、教室の開設日及び開設時間について若干の選択の余地もあるが、これらのことをもって、教室指導者が会社から独立した学習塾経営者であるとまではいえない。
そして、教室指導者は、指導方法、教材、月額会費の額といった、学習塾経営の成否を左右する基本的な要素について自ら選択することにより他の学習塾との差別化を図って生徒数や教科数を増やすことはできず、自己の才覚により収入を増やすという独立の事業者としての要素を欠いている。
以上を総合すれば、教室指導者が会社から独立した学習塾経営者であるということは困難である。
   (イ) 全国の公文式教室のうち、教育指導者の運営する基本教室が約98パーセントを占め、会社の国内事業における収入の大半は、教室指導者が会社に支払うロイヤルティによるものである。教室指導者は、会社による能力実証を経た人材であり、会社の教室設置方針に基づく全国一律の公文式教育の普及拡大等も担っており、会社は、教室指導者の資質の維持向上や健康管理等を図っている。さらに、会社が、基本教室や教室指導者を第三者に対して自己の組織の一部として扱っていること、教室事業者は、学習塾の業務については、公文式教室事業に専属的に従事していること等も考慮すれば、教室指導者は、会社に対して労務を供給する関係にあるというべきであり、実質的には、公文式教室事業を遂行するのに不可欠な労働力として、会社の事業組織に組み入れられて業務を行っているとみるべきである。
イ 契約内容の一方的・定型的決定について
  本件契約の締結、変更、更新及び履行の方法のいずれにおいても、会社がその内容を一方的、定型的に決定しているといえる。
ウ 報酬の労務対価性について
原則として、会社から教室指導者に対し、金員の支払が行われることはないが、教室指導者は、会社の定める方法に従って、自ら教室運営や生徒指導という業務を遂行することにより、会社が定めた額の会費等を得ているといえるし、教室指導者が得る報酬は、会費の額や控除されるロイヤルティの額など会社の決定に左右されるところが大きく、報酬の額は、実質的に会社が決めているということができる。したがって、形式的な金員の流れのみにより、教室指導者の報酬の労務対価性を否定することはできない。
教室指導においては、教室指導者が自ら直接指導に当たらなければならないとされており、実態としても、教室指導者が会社が定める方法に従って教室運営や生徒指導を行っていることなどを総合すると、教室指導者の報酬は、結局、労務の提供の対価又はこれに類する収入としての性格を有するものといえる。
エ 業務の依頼に応ずべき関係について
教室指導者は、無料体験学習や入会等の申込み、並びに教室運営及び生徒指導に係る指示など、会社からの業務の依頼に対して、基本的に応ずべき関係にある。
オ 広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束について
  教室指導者は、会社の定める方法に従って教室運営や生徒指導を行っており、実態として、教室指導者が教室の運営に当たり会社の指示に従わないことはほとんどないと認められる。
また、教室指導者は、生徒数の増減状況や教材使用数、生徒の到達進度及び教材学習枚数等を会社に定期的に報告している。
さらに、教室指導者は、定められた教室開設の日時及び教室の場所に拘束されて業務を行っているが、教室開設の日時については、各教室指導者は、会社が推奨する内容を大きく逸脱していない範囲で設定しているし、本件契約書で定める教室の場所も、教室の開設に先立ち、会社が自ら定める教室設置方針に基づき、事務局が教室指導者に提示した教室設置地域において選定され、会社の同意なく教室を移転することはできない。
したがって、教室指導者は、広い意味で会社の指揮監督下に置かれ、一定の時間的場所的拘束を受けて業務を遂行しているといえる。
カ 顕著な事業者性について
教室指導者は、実態として、会社が定める方法に従って教室運営や生徒指導を行っており、その業務の遂行に当たって大幅な裁量の余地が与えられているとはいえない。また、教室指導者の行う広報・宣伝等の活動については、実態として、会社が示す方法の範囲内で行われており、独自性を発揮する余地はほとんどない。
また、教室指導者は、教室の学習日にはその教室において直接生徒の指導に当たらなければならないことから、1教室当たりの教科数はおのずから一定の範囲内に収まると推測される。さらに、教室指導者は、会費及び冷暖房費以外の費用を徴収することは原則として認められていないし、公文式指導及び教室運営と関係のない物品の販売も禁止されている。このことからも、教室指導者自身の才覚や学習指導力により収入を増やすことは事実上困難であるといわざるを得ない。
教室指導者に独立した事業者の性格があることをうかがわせる事情が一部認められるものの、総合的に事情を考慮すれば、教室指導者がその実態において顕著な事業者性を備えているとはいえない。
 キ 結論
   本件における教室指導者は、ア)会社の業務遂行に不可欠な労働力として会社の事業組織に組み入れられており、イ)会社が本件契約の内容を一方的・定型的に決定しているということができ、ウ)教室指導者の得る報酬は、労務の提供に対する対価又はそれに類する収入としての性格を有しており、エ)実態上、会社からの業務の依頼に対してこれに応ずべき関係にあり、オ)広い意味で会社の指揮監督の下に業務を遂行していると解することができ、その業務の遂行については一定の時間的場所的拘束を受けているということができる一方、カ)顕著な事業者性を認めることはできない。
これらの事情を総合的に勘案すれば、本件における教室指導者は、会社との関係において労働組合法上の労働者に当たると解するのが相当である。 

さわやか福祉財団『いわゆる有償ボランティアのボランティア性』

Charged_volunteer さわやか福祉財団の提言『いわゆる有償ボランティアのボランティア性』をいただきましたので、こちらでも宣伝しておきます。

さわやか福祉財団といえば、元検事の堀田力氏が中心になっているボランティア活動推進団体ですが、そこがいわゆる有償ボランティアのボランティア性について非常に突っ込んだ議論を展開している冊子です。

https://www.sawayakazaidan.or.jp/news/2019/data/charged_volunteer.pdf

「はじめに」に曰く、

・・・本来ボランティア活動は法律の根拠など不要で、人の当然の行為として自由にやれるものですし、これに謝礼金を払うのも当然の行為として自由にやれることであって、法的根拠など要りません。
ただ問題は、有償ボランティア活動と労働や請負・受託などの仕事とをどう区別するか、また、「有償」である謝礼金と労働や請負・受託に対する賃金・報酬との区別は何かで、その区別が実態としてあいまいなために、迷うケースもでてくることです。
本書では、区別しなければならないケースに当たった場合の考え方を示して迷わないようにしてもらうとともに、ここまでなら間違いなくボランティアと言える状況を示して、せっかくの住民の貴重な助け合い(ボランティア)活動を絶対に抑制しないで対応していただくことを願って編集しています。
ご活用ください。

本冊子のうち、労働クラスタが特に目を通しておく必要があるのが、第2章の「有償ボランティアをめぐる法律問題」ととりわけ第3章の「座談会 有償ボランティアの法的検討」です。

というのも、この座談会のディスカッサントは、山口浩一郎、大内伸哉、小野晶子、堀田力という顔ぶれで、それだけでも読みたくなるでしょう?

こういうかなり刺激的な議論も展開されています。

・・・山口氏:ボランティアを労働者だとすることにどうしても抵抗があるのは、ボランティア活動ができなくなってしまうからです。労働時間が何時間で、休憩や休暇を与えなければいけないなど、活動がきゅうくつになってしまいます。ボランティア活動とは、そういうものではないんだろうという気がしています。やはり、ボランティア基本法のような法律があるべきだと思います。
大内氏:この問題の解決には、社会的に有用な公益性の高い事業を実施する側、すなわちボランティアを使う側は基本的に労働基準法を適用しないというような法改正が必要になってくるのではないでしょうか。
それをもっと進めて、有償ボランティア法などの立法へつなげる。労働者性をめぐる問題を完全に解決するならば、それしかないかなと思います。
・・・大内氏:1つの考え方として、副業型のボランティアは労働法を適用しないということは、もしかしたら経済産業省はのってくるかもしれません。労働法には生活保障的な意味もあって、そうだとすると、本業で労働者として保護されている人の副業であるボランティアの活動については労働法を適用しないという考え方もできるのではないでしょうか。ただ、労災だけは外すというわけにはいかないと思いますが。
小野氏:フランスにはボランティア活用の法政策があって、その中に明白に労働者ではないと規定されていますよ。

第30回人間らしく働くための九州セミナー

Kyushu

2019年7月29日 (月)

LGBT法連合会『日本と世界のLGBTの現状と課題』

1016 性的指向および性自認等により困難を抱えている当事者等に対する法整備のための全国連合会 (通称:LGBT法連合会)編『日本と世界のLGBTの現状と課題 SOGIと人権を考える』(かもがわ出版)をお送りいただきました。

http://www.kamogawa.co.jp/kensaku/syoseki/na/1016.html

欧米などの関連法制定の動向を各国の大使館代表が、日本の大学の取り組みを学長などが語り、日本に求められる立法その他の課題を提示。

「はじめに」に、本書の趣旨がこう書かれています。

近年「LGBT」関連活動を始めて以来、政治家の「LGBT は生産性が無い」「LGBT ばかりになったら、国が潰れる」という発言に接するにつれ、社会の隅々に一度行きわたったスティグマは、除去するのがいかに難しいかを思い知らされる。
しかしだ、この本を見て欲しい。われわれはやっとここまできたのだ。専門家を初め世界の人々が、「性的指向・性自認= SOGI」をどう考えるかを、ここまで言説化したのだ。かつて社会は、「すべての人間が男・女に単純に分類でき、異性愛なのが当然」だと思い込んでいたに過ぎない。現実はもっと複雑多様であり、SOGI の多様性を、その少数者を尊重することがいかに重要かを、体系的に示せるようになったのだ。政策や法制度が多くの国で実践され、それは社会を壊すのではなく、より豊かにしていることを、確認できるようになったのだ。

 

 

2019年7月26日 (金)

倉重公太朗『雇用改革のファンファーレ』

17091202x300_20190726113901 倉重公太朗さんの新著『雇用改革のファンファーレ~「働き方改革」、その先へ~』(労働調査会)をお送りいただきました。いまや若手経営法曹の星といわれる倉重さんの意欲溢れる新著です。溢れすぎて、若干吹きこぼれているところもありますが。

https://www.chosakai.co.jp/publications/22754/

これまでの「働き方」「働かせ方」が通用しなくなる日本型雇用神話の崩壊と、新時代の「働き方改革」の到来を告げるファンファーレが労働市場に鳴り響いた。今後、企業は、経営者は、働く人はどのような選択をしていくべきか。企業労働法専門の弁護士が、わが国における雇用慣行の問題点を指摘し、現代の世相や法的問題を読み解いた上で、これから真に求められる「働き方改革」について解説、提言する。
筆者と雇用・労働問題に詳しい著名な有識者、実務家6名との対談も収録。 

序章 日本型雇用の「終わりのはじまり」
第1章 日本型雇用のひずみと崩壊
第2章 「働き方改革」ってなに?
第3章 脱「時間×数字」の働き方
第4章 解雇の金銭解決制度のススメ
最終章 「雇用改革のファンファーレ」~4つの視点から~
対談編 荻野勝彦氏×筆者
◇◇◇◇濱口桂一郎氏×筆者
◇◇◇◇唐鎌大輔氏×筆者
◇◇◇◇森本千賀子氏×筆者
◇◇◇◇田代英治氏×筆者
◇◇◇◇井上一鷹氏×筆者 

というわけで、対談編には労務屋こと荻野勝彦さんや私も登場しています。

弁護士が書いた労働法の本というイメージとは、本の作り方がだいぶ違います。

序章の「日本型雇用の「終わりのはじまり」」を一枚めくると、やたらにでかい文字で

雇用不安が襲う日本
これからどう働く、
生きるか

とあります。

この調子で、第1章の「日本型雇用のひずみと崩壊」をめくると、

正社員の特権が
「非正規貧困化」の根本原因だ
「雇用身分格差」を放置
することは許されない

と大音声で呼ばわっています。

その後も十数ページごとに、

「解雇しやすい社会」
にすれば正社員は増える
真の意味での雇用の安定を
どう考えるべきか

とか、

残業代ゼロは
年収いくらなら良いか。
賃金の公平分配が
問題の本質だ!

とか、

「ブラッククビ」が
中小企業で横行する理由
大企業の社員だけが
法律で保護されている

と、倉重節が鳴り響いています。

このあたり、hamachanの持論とも交わっているじゃないと感じる方もいるでしょう。

最終章では、4つの視点から今後の雇用社会の進むべき道を論じていますが、その最後でこう漏らした言葉が沁みます。

現在、小学生である筆者の子供たちが将来、社会に出るとき“よい雇用社会”であることを願ってやみません。

昨年10月の独立記念ディナーショーに「出演」していた倉重さんのお子さんたちの姿が脳裏に浮かびました。

ちなみに、巻末の対談編は、本ブログでも紹介してきたYahooニュースの短縮版です。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2019/01/post-bdc0.html

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2019年7月25日 (木)

職場の黒騎士@『日本労働研究雑誌』2019年8月号

709_08 『日本労働研究雑誌』2019年8月号は、「変わるワークプレイス・変わる働き方」が特集です。ワークプレイスって、日本語では「職場」ですが、いわゆる「職場」というよりも、働く場所が揺れ動いているというニュアンスが込められているようです。

https://www.jil.go.jp/institute/zassi/new/index.html

日本のワークプレイスのこれまでとこれから─働く空間と働き方の関係及びその社会的背景に着目して 仲隆介(京都工芸繊維大学教授)
日本におけるテレワークの現状と今後─人間とICTとの共存はどうあるべきか 柳原佐智子(富山大学教授)
近未来のワークプレイスを創り出すソーシャルテレプレゼンス技術 中西英之(大阪大学大学院准教授)
ICTが「労働時間」に突き付ける課題─「つながらない権利」は解決の処方箋となるか? 細川良(青山学院大学教授)
活動に合わせた職場環境の選択が個人と組織にもたらす影響─ Activity Based Working/Office とクリエイティビティ 稲水伸行(東京大学大学院准教授)
産業社会学から見た職場 立道信吾(日本大学教授)
ワークプレイス研究と自然的な観察の意義─ある会議場面の分析から 山崎敬一(埼玉大学教授)山崎晶子(東京工科大学准教授)

JILPTから先日青山学院に移った細川良さんのは、テレワークの労働法問題とフランスのエルコムリ法で導入された「つながらない権利」の解説ですが、この問題まじめに考えていくとそもそも労働時間って何をどう測るの?という深刻な議論にはまり込んでいく気がします。

 2018年に成立した「働き方改革法」は、高度プロフェッショナル労働時間制度や、労働時間の上限規制など、新たな労働時間規制の手法を導入した。同時に、テレワークをはじめ、情報通信技術(以下、ICT)の発達に伴う働き方の変化に対応するための法政策の議論も進められている。しかし、「働き方改革法」による労働時間改革それ自体は、こうしたICTの発展がもたらす課題に正面から答えを出したものとはなっていない。ICTの発達に伴い、モバイルワークやサテライトワークにおける「労働時間」とそれ以外とではどのように区分されるのか、ICTによりいつでも接続可能な状況は労働に拘束されているといえるのか、使用者の直接の指揮命令下にある典型的な「労働時間」外においても、労働者に与える負担を考慮し、健康確保のために統制されるべき新たな「労働時間」を確立する必要はないのか等、労働法上の「労働時間」をどのように位置づけるのかという点については、多くの課題が残されている。この点、2016年にフランスにおいて立法化された「つながらない権利」は、ICTの発達がもたらす働き方の変化に対処するための方策として、一つの可能性を示すものといえるだろう。しかし他方で、「つながらない権利」という考え方そのものは2000年代から生じており、従来は私生活の確保、および裁量労働がもたらす過重労働への対処という視点から議論されてきたものである。その意味で、「つながらない権利」もまた、ICTの発展に伴う働き方の変化に、十分にこたえるものとなりうるのかについては、なお課題がある。

一方、立道さんのはワークプレイスというよりも古典的な「職場」をめぐる雇用関係、労使関係の問題ですが、それがICTの発達の中でいかに変容しつつあるかに着目します。

 これまで、日本の産業社会学者が、職場を研究する際に前提としてきたアプローチは、すべての原因を人間的要素に還元して説明する「人間遡及的アプローチ」である。この方法を用いて、産業社会学者達は、組織の構造だけでなく、組織で働く人間の感情や、集合現象としての集団も同時に職場研究の対象としてきた。本稿では、最近の職場の変化に関係する研究の中から、①雇用システム、②ブラック企業、③労使関係の3つの領域についてレビューした結果、以下の6点が明らかになった。第1に、企業の雇用システムの変化が労働者の意識に影響を与えている点である。第2に、〈職場の分断化〉という新しい現象が生じている点である。第3に、企業と労働者の関係性が従来よりも短期化している点である。第4に、近年、社会問題となっているブラック企業が登場した背景には、〈見返りのない滅私奉公〉を求めるというような企業の機会主義的な行動が増加した点である。第5に、労働組合と労使協議制が併存する状況が、労使のコミュニケーション上において望ましい結果をもたらす点である。第6に、職場における新たなステークホルダーとして、〈職場の黒騎士〉(workplace vigilante)の存在が明らかになった点である。現代の社会学者は、〈個人化〉の進展という社会変化に注目しており、その背景には、資本の移動速度の増加がある。この現象は、労働者と企業の関係の短期化を加速する1つの要因となっている。

読んでて目を惹いたのが「職場の黒騎士」という言葉です。これはデセルスとアキノの論文で出てくる概念のようですが、どういう存在かというと:

・・・著者によると<職場の黒騎士>は、組織の内外に向かって、組織や同僚の・上司らの不正を通報もしくは告発しようとする。ただし、告発もしくは通報の対象となる事象に関して、組織上は正式な監督権限を持たない非公式な存在が<職場の黒騎士>である。労働組合にも頼らず(あるいは頼れず)、ときには日本における内部通報制度などにもよらず、直接外部に向かって告発を行うこともある。彼ら<職場の黒騎士>が信じているのは、自らの持つ価値観と一致するかどうかであり、それが客観的に見た規範や正義と必ずしも一致するとも限らない。・・・

こうして、立道さんはこう予言します。

・・・ローカルな空間でしか交渉力を発揮し得ない既存の枠組みに代わり、交渉力を持ちうるのは、高度で、変化する環境にも対応できる、知的な意味での柔軟性が高い一部の個人となる。企業組織や職場集団の拘束を受けない、新しいステークホルダーとしての<職場の黒騎士>が、ひっそりと闇の中で発言を行うことで、組織や職場集団を規制する新たな力となる。

「黒騎士」という言葉のインパクトが強すぎて、脳内でさまざまな映像が流れていきます。

 

 

 

健康増進につながる働き方改革@『ビジネス・レーバー・トレンド』2019年8・9月号

201908_09 JILPTの『ビジネス・レーバー・トレンド』2019年8・9月号は、去る3月15日に開催されたJILPT・EHESS/FFJ共催ワークショップが特集記事です。

https://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2019/08_09/index.html

JILPT・EHESS/FFJ共催ワークショップ

働き方改革・生産性向上・well-being at work――日仏比較・労使の視点から

【特別講演】日仏関係における働き方改革の重要性クリステル・ペリドン 在日フランス大使館公使 

【基調講演1】労働組織と労働者の脆弱性 ――OECD成人スキル調査からナタリー・グリーナン フランス雇用労働問題研究所所長

【基調講演2】働き方改革における長時間労働是正山本勲 慶應義塾大学商学部教授

【基調講演3】フランスにおける就業日の昼休み ――幸福の一要素と捉えられるかフランス・カイヤヴェ フランス食・社会科学研究所上級研究員 

パネルディスカッションでは、日仏財団理事長のルシュバリエさん、連合総研の古賀理事長、岩田喜美枝さんが長めのコメントをされ、私が司会役でディスカッションをしております。興味深い議論になっていると思います。

その他いろいろな記事が満載ですが、最近のある報道との絡みで興味を惹かれたのが、海外労働事情のうちのアメリカの記事です。

アメリカ農業労働者に労働基準法の適用と団体交渉権を認める――ニューヨーク州

ニューヨーク州議会は6月19日に上院、よく20日に下院が賛成多数で農業労働者に労働基準法を適用するとともに、団体交渉権を認める法案を可決した。

農業労働者は1937年からこれらの適用から除外されてきたが、初めて州労働法に組み込まれることになる。

日本では労働組合法も労働基準法も原則として農業労働者にも適用されますが、労働基準法の労働時間に関する規定だけは適用除外とされています。

(労働時間等に関する規定の適用除外)
第四十一条 この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一 別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
三 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの 

別表第一(第三十三条、第四十条、第四十一条、第五十六条、第六十一条関係)
六 土地の耕作若しくは開墾又は植物の栽植、栽培、採取若しくは伐採の事業その他農林の事業
七 動物の飼育又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業その他の畜産、養蚕又は水産の事業

で、これに対して異議を申し立てる訴訟が提起されたと報じられています。

https://www.asahi.com/articles/ASM7M5724M7MTIPE01W.html

「農業は残業代ゼロ」おかしい 養鶏社員が勤務先提訴へ 

 天候に左右されがちな農業は労働時間が定まらず、残業代を支払う必要はない――。そんな労働基準法の規定を理由に残業代を出さない養鶏会社を相手に、社員が支払いを求めて近く福岡地裁に提訴する。現場では機械化が進み、規定は実態に合わないと主張する。・・・

法律上は明確に適用除外なんですが、それにどこまで合理性があるのか、突っ込んでいくといろんな論点がありそうです。同じ農林業の中から林業が一足先に適用されるようになっていたり、屋外型で天候に左右されるといえば建設業も同じだとか。

もう一つ興味深い論点として、外国人の技能実習制度では、法律上は適用除外とされながら、2000年3月の農林水産省農村振興局地域振興課の通知「農業分野における技能実習移行に伴う留意事項について」が、技能実習生の労働時間等を決める場合は、基本的に労働基準法の規定に準拠し、①の労働契約、②の就業規則において、具体的に定めることを求めているのです。

1369_o_20190725114301 この点については、先日『ジュリスト』6月号に掲載された拙評釈「技能実習生の請負による残業等 -協同組合つばさ他事件」で若干論じております。関心のある方は是非。

・・・・ 

Ⅴ 労働時間規制の適用の有無

 Ⅱで述べたように、Y2は個人の農家であり、労基法41条1号で労働時間規制は適用除外されている。それゆえ少なくとも法令上は、X1には法定労働時間規制や時間外・休日労働に係る36協定の締結義務や残業代の支払義務といった規定は適用されていない。ただし、2000年3月の農林水産省農村振興局地域振興課の通知「農業分野における技能実習移行に伴う留意事項について」は、「農業労働の特殊性から、労働基準法の労働時間・休憩・休日等の規定は適用除外されているが、技能実習生の労働時間等を決める場合は、基本的に労働基準法の規定に準拠し、①の労働契約、②の就業規則において、具体的に定める」ことを求めている。これにより、労働基準監督の対象にはならないが、労働契約上の権利義務としては残業代が発生するというのが法令上の状況である(通達を無視して契約上に定めを置かなければ残業代は発生しないことになる)。

 本件の場合、X1雇用契約上に勤務時間と時間外割増賃金が明確に規定されており、従って大葉巻き作業が大葉摘み取り作業と同一の雇用契約に基づく労務として労働時間が通算されるのであれば、当然契約所定の時間外割増賃金が支払われるべきものとなり、請負名目で支払われた報酬との差額が未払賃金額ということになる。

 なお、本判決では未払賃金額に相当する付加金の支払を命じており、これは労働基準法114条の上限に等しい。しかしながら、本件の残業代は「裁判所は、・・・第三十七条の規定に違反した使用者・・・に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる」という要件には該当せず(あくまでも私法上の契約に基づき「支払わなければならない金額」)、そもそも同条に基づく付加金の支払を命じることができないはずである。・・・・

 

 

2019年7月24日 (水)

ポピュリズムの原動力は何か?

Danirodrik153x166 例によってソーシャル・ヨーロッパから、ダニ・ロドリクの「ポピュリズムの原動力は何か?」(What’s driving populism?)を紹介しておきます。

https://www.socialeurope.eu/whats-driving-populism

 Is it culture or economics? That question frames much of the debate about contemporary populism.・・・

問題は文化か経済か?この問いが現代ポピュリズムに関する議論の枠組みをなしている。・・・

If authoritarian populism is rooted in economics, then the appropriate remedy is a populism of another kind—targeting economic injustice and inclusion, but pluralist in its politics and not necessarily damaging to democracy. If it is rooted in culture and values, however, there are fewer options. Liberal democracy may be doomed by its own internal dynamics and contradictions. 

もし権威主義的ポピュリズムが経済に根ざしているのであれば、適切な治療法は別種のポピュリズム-経済的不公正と統合に焦点を当てるが、政治的には多元主義的であり、必ずしも民主主義を破壊しない-であろう。しかしもし文化と価値観に根ざしているのであれば、選択肢は数少ない。自由民主主義はそれ自身のダイナミクスと矛盾によって滅びの運命にある。

このソーシャル・ヨーロッパというネットジャーナルは、本ブログでもいくつも紹介してきたように、文化じゃないぞ、経済だぞ、という論調の記事が多いのですが、そしてこのロドリクさんのエッセイも基本的にそのスタンスなんですが、興味深いのはむしろ、そこでかなり長く引用されている、いやいや文化や価値観が重要なんだという議論で、それを唱えている人の中に、ロナルド・イングルハートという名前がありました。

イングルハートといえば、大学生時代に『静かなる革命』を読んだ記憶がありますが、その延長線上で、ポスト物質主義的な価値観のシフトが重要なんだと論じているようです。

Other accounts are more sophisticated. The most thorough and ambitious version of the cultural backlash argument has been advanced by my Harvard Kennedy School colleague Pippa Norris and Ronald Inglehart of the University of Michigan. In a recent book, they argue that authoritarian populism is the consequence of a long-term generational shift in values. 

別の説明はより洗練されている。最も一貫しかつ野心的な文化的バックラッシュ論はピッパ・ノリスとロナルド・イングルハートによって提示されている。彼らは近著において、権威主義的ポピュリズムは長期的な世代間の価値観のシフトの帰結であると論ずる。

 

 

「留学生のアルバイトというサイドドア」@『労基旬報』2019年7月25日号

『労基旬報』2019年7月25日号に「留学生のアルバイトというサイドドア」を寄稿しました。

http://www.jade.dti.ne.jp/~roki/index.html

 最近、東京福祉大学の留学生が大量に行方不明となった事件がマスコミを賑わせましたが、留学生のアルバイト(入管法上は「資格外活動」)が日系南米人や技能実習生と並ぶ外国人単純労働力の調達ルートとなっていることはよく知られています。
 今年1月に公表された「外国人雇用状況」の届出状況まとめによると、2018年10月末現在の外国人労働者総数1,460,463人のうち、留学生の資格外活動は298,461人(20.4%)です。これは、技能実習生の308,489人(21.1%)にほぼ匹敵し、専門的・技術的分野の在留資格276,770人(19.0%)や永住者の287,009人(19.7%)よりも多いのです。
 他の在留資格と明確に異なるその特徴は就労業種にあります。技能実習生は308,489人のうち186,163人(60.3%)が製造業、45,990人(14.9%)が建設業と、圧倒的に第2次産業に従事しているのに対し、留学生の資格外活動は298,461人のうち、宿泊・飲食サービス業が109,175人(36.6%)、卸売・小売業が61,360人(20.6%)、その他のサービス業が47,152人(15.8%)と、圧倒的に第3次産業に集中しています。
 そうした労働需要は今回の入管法改正によって設けられた「特定技能」によってもあまりカバーされないことを考えると、このサイドドアについてきちんと考えていく必要がありそうです。そこで今回はまず、戦後入管法の歴史を振り返り、留学生のアルバイトがどのような制度的枠組みの中で発展してきたのかを概観したいと思います。
 出入国管理令はいわゆるポツダム政令として1951年に制定され、翌1952年に法律としての効力を有することとなりましたが、30年以上にわたって留学生の資格外活動を原則として禁止し、すべて法務大臣の許可制の下に置いてきました。
第十九条・・・
2 前項の外国人は、その在留資格に属する者の行うべき活動以外の活動をしようとするときは、法務省令で定める手続により、あらかじめ法務大臣の許可を受けなければならない。
 この規定自体は1989年入管法改正まで変わっていませんが、1983年に運用方針が大きく変わりました。同年6月の閣議で留学生のアルバイト解禁が了承され、風俗営業や公序良俗に反するものでない限り、週20時間程度であれば資格外活動許可を得ることなく、自由にアルバイトをすることができるようになったのです。ただし、就学生のアルバイトは個別の法務大臣の許可を要しました。この時期、1984年には留学生受入れ10万人計画が打ち出され、中国からの留学生、就学生が急増しました。
 1989年法改正により第19条第2項は次のようになり、留学生と就学生のアルバイトについては一律かつ包括的な資格外活動許可が与えられることとされました。
第十九条・・・
2 法務大臣は、別表第一の上欄の在留資格をもつて在留する者から、法務省令で定める手続により、当該在留資格に応じ同表の下欄に掲げる活動の遂行を阻害しない範囲内で当該活動に属しない収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動を行うことを希望する旨の申請があつた場合において、相当と認めるときは、これを許可することができる。
 「包括的」というのは、通達で定める許可基準内であれば自由に行うことができるという意味です。具体的には、大学等の留学生は1日4時間以内、大学の聴講生、研究生は1日2時間以内、専修学校等の留学生、就学生は1日4時間以内です。いずれも夏休み期間は1日8時間以内です。
 この基準が緩和されたのが1998年です。1日単位の時間制限があるとアルバイトの選択肢が限られてしまうという意見を踏まえ、大学等の正規生や専修学校等の留学生は1週28時間以内、研究生と聴講生は1週14時間以内とされました。いずれも教育機関の長期休業期間は1日8時間以内です。また、個々の留学生が入管窓口で資格外活動許可申請をしなくても、留学生の在籍する教育機関が一括して申請を取り次ぐ制度も導入されました。これらは法務省令(入管法施行規則)で規定されました。なお、1999年法改正で留学生の在留期間が2年に延長されたことも、留学生のアルバイトを促進しました。なお就学生の取扱いは従前のままでしたが、2009年法改正で就学生という在留資格が留学生に統合され、1週28時間以内に統一されました。現在の入管法施行規則の規定は次の通りです。
第十九条 法第十九条第二項の許可(以下「資格外活動許可」という。)を申請しようとする外国人は、別記第二十八号様式による申請書一通並びに当該申請に係る活動の内容を明らかにする書類及びその他参考となるべき資料各一通を地方入国管理局に出頭して提出しなければならない。
3 第一項の規定にかかわらず、地方入国管理局長において相当と認める場合には、外国人は、地方入国管理局に出頭することを要しない。この場合においては、次の各号に掲げる者であつて当該外国人から依頼を受けたものが、本邦にある当該外国人に代わつて第一項に定める申請書等の提出及び前項に定める手続を行うものとする。
一 第一項に規定する外国人が経営している機関、雇用されている機関、研修若しくは教育を受けている機関若しくは当該外国人が行う技能、技術又は知識(以下「技能等」という。)を修得する活動の監理を行う団体その他これらに準ずるものとして法務大臣が告示をもつて定める機関の職員(以下「受入れ機関等の職員」という。)又は公益法人の職員で、地方入国管理局長が適当と認めるもの
5 法第十九条第二項の規定により条件を付して新たに許可する活動の内容は、次の各号のいずれかによるものとする。
一 一週について二十八時間以内(留学の在留資格をもつて在留する者については、在籍する教育機関が学則で定める長期休業期間にあるときは、一日について八時間以内)の収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(昭和二十三年法律第百二十二号)第二条第一項に規定する風俗営業、同条第六項に規定する店舗型性風俗特殊営業若しくは同条第十一項に規定する特定遊興飲食店営業が営まれている営業所において行うもの又は同条第七項に規定する無店舗型性風俗特殊営業、同条第八項に規定する映像送信型性風俗特殊営業、同条第九項に規定する店舗型電話異性紹介営業若しくは同条第十項に規定する無店舗型電話異性紹介営業に従事するものを除き、留学の在留資格をもつて在留する者については教育機関に在籍している間に行うものに限る。)
 下表のように、近年の留学生資格外活動労働者数は急激な増加を示しています。外国人労働者総数も増えているのですが、その中でも割合を高めているのです。これまで労働政策の観点からはほとんど取り上げられてこなかった留学生のアルバイトですが、現実の日本社会では既に労働集約的な第3次産業の基盤を支える労働力になりつつあることを考えると、もっと正面から議論していく必要がありそうです。ちなみに、留学生のアルバイトに着目して外国人労働者の実態を探った最近の著書に、芹澤健介『コンビニ外国人』(新潮新書)があります。「日本語学校の闇」では、「日本語学校の中には、学校というよりただの人材派遣会社になりさがっているところもありますしね」という証言など、興味深い記述も多く、この問題を考える上で参考になります。
  留学生の資格外活動 割合
2012 91,727 13.4%
2013 102,534 14.3%
2014 125,216 15.9%
2015 167,660 18.5%
2016 209,657 19.3%
2017 259,604 20.3%
2018 298,461 20.4%
 

 

2019年7月23日 (火)

芸人は民法上れっきとした雇傭契約である件について

都内某所で、雇用類似の働き方について議論することがあり、ひとしきり例の吉本興業の件についても話題になりましたが、そもそも社長が「クビだ」と言っているその「クビ」とは、雇用契約を解除するという意味すなわち解雇なのであろうか、とか話は尽きないわけですが、そもそもボワソナードが作成した旧民法では、相撲、俳優、歌手などの芸人は立派な雇傭契約であったということが、必ずしもあまり知られていないことが残念です。

第12章 雇傭及ヒ仕事請負ノ契約

第1節 雇傭契約  

第260条
 使用人、番頭、手代、職工其他ノ雇傭人ハ年、月又ハ日ヲ以テ定メタル給料又ハ賃銀ヲ受ケテ労務ニ服スルコトヲ得  

第265条
 上ノ規定ハ角力、 俳優、音曲師其他ノ芸人ト座元興行者トノ間ニ取結ヒタル雇傭契約ニ之ヲ適用ス

よく読むと、俳優や音曲師その他の芸人と雇傭契約関係にあるのは座元興行者とあるので、芸人を抱えていて様々な興行に送り込む芸能プロダクションは、雇用主自体ではなく労務供給事業に当たるのではないかという説も出てきて、ひとしきり談論風発しました。

(追記)

ちなみに、アダルトビデオ等の公衆道徳上有害な業務については、労働者派遣、職業紹介、労働者募集などと判断された裁判例があります。詳細はこちら:

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2016/06/post-d708.html (公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で労働者派遣をした者は)

 

 

2019年7月22日 (月)

労働組合は8勝2敗

Mainimage 昨日の参議院選挙で、立憲民主党と国民民主党に分かれた比例区の連合推薦候補者は10名中8名が当選し、2名が落選したようです。立憲民主党は5名中5名全員当選に対し、国民民主党は5名中3名当選2名落選と明暗を分けました。参院比例区は組織内候補者の名前を書かせる各労働組合の力量が試される選挙であるとともに、政党自体への風の吹き工合にも大きく左右されるので、必ずしも各産別の力量それ自体ではない面もありますが、その順位はやはり意味を持つでしょう。

https://www.jtuc-rengo.or.jp/25th_sangiin/

現時点ではまだ最終得票数は出ていないのですが、とりあえず現時点の得票数順位で。

田村麻美(国 UAゼンセン) 259,467票

礒崎哲史(国 自動車総連) 258,345票

浜野喜史(国 電力総連) 256,259票

石上俊雄(国 電機連合) 192,124票 落選

岸真紀子(立 自治労) 157,848票

水岡俊一(立 日教組) 148,309票

小沢雅仁(立 JP労組) 144,751票

吉川沙織(立 情報労連) 143,472票

田中久弥(国 JAM) 143,343票  落選

森屋隆(立 私鉄総連) 104,339票

どちらも、その政党内では労働組合議員が1位から5位を独占しているのですが、政党自体の絶対的な得票数の違いが響いています。

 

                                                                        

                                                                        

                                                                        

                                                                        

                                     

 

2019年7月20日 (土)

日本労務学会のレビュー研究会

Logomark 日本労務学会のレビュー研究会というのに呼ばれて、ゲスト報告をすることになりました。

https://kokucheese.com/event/index/573524/ (創造的回顧 -日本の人事労務研究のレビュー研究会)

2020年に日本労務学会の設立50周年を迎えるのに際し,日本における人事労務研究の蓄積を振り返りつつ、今後の新しい研究成果の誕生の呼び水となるような研究会を公開形式で開きたい。特別に編成された5つの研究チームの成果報告と,ゲストによる問題提起・話題提供を通じ,日本労務学会ひいては学界全体の研究活動を活性化することを目指している。
本研究会の性質を踏まえ,非学会員による参加も積極的に歓迎したい。また,本研究会での議論の成果を発展または変奏させたものを,2020年7月に開催される予定の日本労務学会第50回記念大会へのプログラムにも反映させていきたい。

2019年9月15日(日)
早稲田大学14号館4階403教室  

定員140人

第一部 13:00-15:20
経済学の視点から(報告:勇上和史(神戸大学)ほか コメント:松繁寿和(大阪大学))
心理学の視点から(報告:坂爪洋美(法政大学)ほか コメント:石川淳(立教大学))
経営学の視点から(報告:江夏幾多郎(名古屋大学)ほか コメント:上林憲雄(神戸大学))

第二部 15:30-17:45
社会学の視点から(報告:池田心豪(JILPT)ほか コメント:佐藤厚(法政大学))
労働調査の視点から(報告:梅崎修(法政大学)ほか コメント:白木三秀(早稲田大学))
労働法政策の視点から(ゲスト報告:濱口桂一郎(JILPT所長))

日本労務学会50周年準備委員会
白木三秀(早稲田大学)
上林憲雄(神戸大学)
梅崎修(法政大学)
江夏幾多郎(名古屋大学)  

 

 

2019年7月19日 (金)

周燕飛『貧困専業主婦』

603844_xl JILPT研究員の周燕飛さんが『貧困専業主婦』(新潮選書)を出版しました。本書は周さんがここ数年来やってきた貧困専業主婦に関する研究の、一般向けの集大成になっています。

https://www.shinchosha.co.jp/book/603844/

「100グラム58円の豚肉をまとめ買いするために自転車で30分をかける」「月100円の幼稚園のPTA会費を渋る」――勝ち組の象徴とも思われていた専業主婦の8人に1人が貧困に直面している。なぜ彼女らは、自ら働かない道を選択しているのか? 克明な調査をもとに研究者が分析した衝撃のレポート。

この研究の出発点は、本ブログでも紹介したこのディスカッションペーパーですが、

https://www.jil.go.jp/institute/discussion/2012/12-08.htmlディスカッションペーパー 12-08 専業主婦世帯の収入二極化と貧困問題)

その後、子育て世帯全国調査を繰り返す中で、さらに研究を深めていって、昨年はJILPTから出版した『非典型化する家族と女性のキャリア』の中の第4章「貧困専業主婦がなぜ生まれたのか」を書いていますし、今年は英文誌Japan Labor Issuesの6月号と7月号に、「Poverty and Income Polarization of Married Stay-at-home Mothers in Japan」を書いています。これが本書の英文要約版になっているので、関心のある方はどうぞ。

https://www.jil.go.jp/english/jli/documents/2019/015-02.pdf (Part I: Historical Perspectives of Japanese Full-time Housewives)

https://www.jil.go.jp/english/jli/documents/2019/016-02.pdf (Part II: What Drives Japanese Women to Be Full-time Housewives despite Poverty?)

さて、周さんの研究が世間の注目を集めたのは、世の常識、というか、経済学でもダグラス・有沢の法則(本当は中村隆英さんが発見したそうですが)として知られていた金持ち世帯ほど専業主婦が多いという常識に反する実態を見いだしたためです。

英文誌から切り取ってそのデータの図を示すと、

Figure1

若干くねくねしていますが、豊かな世帯の方が専業主婦率が低く(リッチなダブルインカム)、貧しい世帯の方が専業主婦率が高いのですね。

で、本書には個々のケースの聞き取りが載っていて、これがいろんな意味で興味深いのです。詳しくは是非本書を買い求めの上じっくり読んでいただきたいのですが、「家庭内の問題を抱えるため今は働けない」とか「心身共に健康を害してこぼれ落ちる」とかの例が上がっています。

実際にどんな格差が生じているかというと、

「食」格差-2割は食糧不足が常態化

「健康」格差-子供は6人に1人が病気か障害

「ケア」の格差-貧困・低収入と育児放棄

「教育」格差-人並みの教育をさせてあげられない

この中でいちばんショッキングなのは児童虐待や育児放棄の割合でしょう。

6438 本書はもちろん、研究者としての周燕飛さんの顔で書かれていますが、最後のあとがきでちらりと1人の働く母親としての顔を垣間見せています。

アメリカ滞在から帰国後、3歳の子供が待機児童となり、認可保育所にも認証保育所にも入れず、ベビーホテルを見に行ってその余りの惨状に、仕事を辞める覚悟もしたときに、土壇場で認証保育所に入れたというエピソードを示しながら、

・・・今もその時に救ってくれた東京都認証保育所には感謝の気持ちでいっぱいです。しかし、世の中には、私と似たような状況に陥り、専業主婦を選んだ、あるいは選ぶことを余儀なくされた女性は数知れません。・・・

と綴っています。

 

 

 

 

今野晴貴・藤田孝典編『闘わなければ社会は壊れる』

454642 今野晴貴・藤田孝典編『闘わなければ社会は壊れる 〈対決と創造〉の労働・福祉運動論』(岩波書店)をお送りいただきました。

https://www.iwanami.co.jp/book/b454642.html

多くの人々が十分な社会保障・福祉を受けることなく,日々の暮らしにも困窮している.雇用と労働をめぐる環境は悪化の一途を辿り,ブラック企業による被害は後をたたない.一人ひとりの生活を守りつつ,社会全体の変革をめざす運動を生み出すことが求められている.労働と福祉,それぞれの領域から提起する,本当の闘い方.

中身は以下の通りです。

はじめに  今野晴貴・藤田孝典
 第一部 福祉運動の実践をどう変革するか?
  1 みんなが幸せになるためのソーシャルアクション――福祉主体の連帯と再編を求めて ……………藤田孝典
  2 ソーシャルビジネスは反貧困運動のオルタナティブか?――新しい反貧困運動構築のための試論 ……………渡辺寛人
  3 不可能な努力の押しつけと闘う――個人別生活保障の創造へ …………………後藤道夫
 第二部 「新しい労働運動」の構想
  4 新しい労働運動が,社会を守り,社会を変える ……………今野晴貴
  5 年功賃金から職種別賃金・最賃制システムへの転換――新しい賃金運動をめざして ……………木下武男
 第三部 ポスト資本主義の社会運動論
  6 経済成長システムの停滞と転換――ポスト資本主義に向けて ……………宮田惟史
  7 福祉国家論の意義と限界――七〇年代西独「国家導出論争」を手がかりにして ……………佐々木隆治
おわりに  今野晴貴・藤田孝典

このメンツからわかるように、基本的にPOSSEに関わりのある活動家や研究者による本です。なので、同感するところも、同感できないところもあります。

第2部の労働に関する部分はその認識枠組みに概ね同感です。それに対して第1部の福祉の話については、恐らく湯浅誠さんらを念頭に置いているのだと思いますが、「対決を避けた運動」を批判し、「敵対性を意識した運動」を称揚する議論には、まさにその湯浅さんが自らの経験から感じたであろう陥穽が待ち構えているように思います。

この点については、本ブログでも何回か取り上げてきました。たとえば湯浅誠氏が自らの経験から語るこれなんか、百万言を費やすよりもこの問題の本質を語っています。この辺は、広い意味での「政治」をどう捉えるかということとも関わる気がします。マックス・ウェーバーのいう、堅い木の板にぐりぐりと穴を空けるような辛抱強い作業だと思えるかどうか。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/03/post-3bac.html (湯浅誠氏がさらに深めた保守と中庸の感覚)

原則的な立場は大事です。問題は、原則的なことを言っていれば原則的なことが実現するわけではない、という点にあります「ぶれずにある立場を堅持していれば、いずれ理解される」と言って、30年40年と同じことを言い続けている人がいます。しかし、言い続けてきた30年分40年分、世の中が言っていることに近づいてきているかというと、必ずしもそうでないという場合があります。世の中には、反対の立場から30年40年原則的なことを言い続けている人もいるからです。その際の問題点は「原則的な立場を堅持するかどうか」ではなく、「原則的な立場に現実を少しでも近づけるための、言い方ややり方の工夫をする必要がある」という点にあります。工夫が足りないことの結果として自分の見解が広く理解されなかったことの結果責任の自覚なく、「聞き入れないあいつらがわかってない」と言っているだけでは、さらに多くの人たちから相手にされなくなっていくだけで、その逆にはならないでしょう。

 あたりまえのことしか言っていないと思うのですが、実際にはそのあたりまえが通用しない局面があります。現実的な工夫よりは、より原則的に、より非妥協的に、より威勢よく、より先鋭的に、より思い切った主張が、社会運動内部でも世間一般でも喝采を集めることがあります。そうなると、政治的・社会的力関係総体への地道な働きかけは、見えにくく、複雑でわかりにくいという理由から批判の対象とされます。見えにくく、複雑でわかりにくいのは、世の利害関係が多様で複雑だからなのであって、単純なものを複雑に見せているわけではなく、複雑だから複雑にしか処理できないにすぎないのですが、そのことに対する社会の想像力が低下していっているのではないかと感じます

 テレビや新聞の断片的な情報と、それを受け取った際の印象で自分の判断を形成し、それがきわめて不十分な情報だけに依拠したとりあえずの判断でしかないという自覚がなく、各種の専門家の意見に謙虚に耳を傾けることもなく、自分と異なる意見に対して攻撃的に反応する。ツイッターでもブログでも、テレビのコメンテーターから中央・地方の政治家から、そして社会運動の中にも、このような態度が蔓延しており、信頼感と共感は社会化されず、不信感ばかりが急速に社会化される状態、他者をこきおろす者が、それが強ければ強いほど高く評価されるような状態、より過激なバッシングへの競争状態です

容易に転換しそうにないこの風潮をどうすれば変えることができるのか、私にはまだよくわかりません。ただ少なくとも、このような局面で社会運動が採るべき方向性は、バッシング競争で負けないためにより気の利いたワンフレーズを探すことではなく、許容量を広く取って理解と共感を広げていくために、相手に反応して自分を変化させ続けていくこと、政治的・社会的な調整と交渉に主体的にコミットすること、そして自分という存在の社会性により磨きをかけていくことではないかと思います。それが、私の考える「社会運動の立ち位置」です。

闘わなければ社会は壊れるかも知れませんが、闘い方を間違えればもっと社会は壊れるでしょう。

最近藤田さんがやらかした、(ワンフレーズ的思考停止の典型である)「年金返せデモ」への称揚など、その一つの例だと思われます。

リバタリアン的立場からすれば最も正しい「年金返せ」(=再分配的要素のある公的年金など廃止して保険料を払い戻し、全部個人の貯蓄でやれ)を、目の前の政府批判のために叫んでしまってその意味内容をこれっぽっちも考えないような愚かな「闘い方」に未来などあろうとは思えません。

まあこれはそもそものスタンスの問題なので、収斂はしがたいでしょう。

一方、認識枠組みのレベルで同意しがたいのが第3部の経済学めいた議論です。正直、こういう議論が社会を辛抱強く改善していくための作業に対してどういう意味があるのか理解できません。

経済成長と国民生活の向上とは両立しうるか? 否

経済成長と社会福祉の向上とは両立しうるか? 否

そんな両立論ではなく、資本主義を超えたアソシエーションを目指さなければならない

せっかくの福祉や労働の議論を、そういう全部資本主義が悪いんや社会主義にすれば全部解決や話に集約してしまおうという(実は戦後長いあいだけっこう有力だった)発想に未来があるとは思えないのです。

堅い木の板に辛抱強く穴を空けるのが性に合わない人にはとてもありがたい話でしょうけど。

(参考)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2019/06/post-9979b9.html (無知がものの役に立ったためしはない)

 

2019年7月18日 (木)

『2019年版 日本の労働経済事情』

Keidanren 例によって、讃井暢子さんより『2019年版 日本の労働経済事情』をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

http://www.keidanren-jigyoservice.or.jp/public/book/index.php?mode=show&seq=549&fl=

本書は、人事・労務部門の初任担当者に向けて、わが国の労働市場の動向、
働き方改革関連法(時間外労働の上限規制や同一労働同一賃金等)や
2019年6月5日に公布された改正女性活躍推進法等をはじめとする重要な労働法制、
そして人事・労務管理に関する基本事項等について、図表を用いてわかりやすく解説しています。
実務担当者はもとより、新任の管理職やマネージャーにも幅広くご活用いただけます。

○○おもな内容○○
Ⅰ 労働市場の動向・雇用情勢・賃金と労働時間
 失業率・求人倍率、雇用形態別労働者、労働時間と労働生産性 等
Ⅱ 労働法制
 働き方改革関連法の全体像、労働基準法(時間外労働の上限規制、年5日の年休取得義務化 等)、
 労働契約法/パートタイム・有期雇用労働法/労働者派遣法(同一労働同一賃金 等)、
 労働安全衛生法、労働施策総合推進法(パワーハラスメント防止対策)、女性活躍推進法 等
Ⅲ 人事・労務管理
 人事・労務管理における重要テーマ(ダイバーシティ・インクルージョン、仕事と介護の両立支援 等)、
 人材育成、人事評価 等
Ⅳ 労使関係
 日本の労使関係の変遷、春季労使交渉 等
Ⅴ 労働・社会保険
 医療保険制度、介護保険制度、年金制度の体系、雇用保険制度 等
Ⅵ 国際労働関係
 グローバル化の進展、ILO(国際労働機関) 等

 

 

 

悪質クレームを許さない by UAゼンセン

UAゼンセン(正式名称は全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟)が「悪質クレームを許さない」という動画をホームページ上にアップしています。短いですが、最近話題のカスタマー・ハラスメントの問題を大変見事に表現していて、多くの人にみてもらいたい作品になっているので、こちらにリンクを張っておきます。

https://uazensen.jp/claim_cm/

 

2019年7月17日 (水)

岩崎仁弥他『リスク回避型就業規則・諸規程作成マニュアル』『社内諸規程作成・見直しマニュアル』

51fsyfgorll__sx351_bo1204203200_ 特定社会保険労務士の岩崎仁弥さんより、『リスク回避型就業規則・諸規程作成マニュアル』(7訂版)と『社内諸規程作成・見直しマニュアル』(3訂版)をお送りいただきました。どちらも1000ページ近い大冊です。

https://www.amazon.co.jp/7%E8%A8%82%E7%89%88-%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%82%AF%E5%9B%9E%E9%81%BF%E5%9E%8B%E5%B0%B1%E6%A5%AD%E8%A6%8F%E5%89%87%E3%83%BB%E8%AB%B8%E8%A6%8F%E7%A8%8B%E4%BD%9C%E6%88%90%E3%83%9E%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%82%A2%E3%83%AB-%E5%B2%A9%EF%A8%91-%E4%BB%81%E5%BC%A5/dp/4539726811

★あらゆる時代の流れを網羅した就業規則のスタンダード!
★働き方改革法施行を受け、全面改訂!
採用、異動、服務規律、労働時間、休暇、賃金、休職及び復職、
解雇、退職、安全衛生、災害補償といった労働関係の中で考えられるステージごとに、
複雑な法令体系を解きほぐしながら、就業規則の規程例とその作成のポイント、
個別規程例、労使協定・書式例を豊富に提示。

https://www.amazon.co.jp/3%E8%A8%82%E7%89%88-%E7%A4%BE%E5%86%85%E8%AB%B8%E8%A6%8F%E7%A8%8B%E4%BD%9C%E6%88%90%E3%83%BB%E8%A6%8B%E7%9B%B4%E3%81%97%E3%83%9E%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%82%A2%E3%83%AB-%E5%B2%A9%EF%A8%91-%E4%BB%81%E5%BC%A5/dp/4539726633/ref=pd_lpo_sbs_14_t_0?_encoding=UTF8&psc=1&refRID=P88Q3M0HGENYDQSWX6N7

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その策定や見直しをするうえで必要となる視点やポイントを、
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“規程そのものの作り方"の解説もさらに充実したものとなり、
見栄えよく・誤解のない規程を作成するためのノウハウが詰まったものとなっている。

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2019年7月16日 (火)

『POSSE』 vol.42

9784906708802_600 『POSSE』 vol.42をお送りいただきました。ありがとうございます。今号の特集は「ストライキが変える私たちの働き方」です。

https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784906708802

日本では久しく忘れ去られていたストライキという闘い方が、にわかに注目を集めている。
図書館司書、私学教員、保育士、自動販機ベンダー……さまざまな業種の労働者たちが、自らの労働条件を改善するために、ストライキを武器に闘いはじめた。
そして彼ら彼女らのストライキは、SNSやメディアを通じて社会的な注目と支持を集めている。
なぜ、いま、ストライキが支持されるのか。現代のストライキは、過去のストライキと何がどう異なるのか。21世紀におけるストライキの意義を改めて問う。

と言うことで、練馬区立図書館非常勤司書をはじめ、例のキリンビバレッジなど自動販売機関係のユニオン、正則学園など私立学校関係のユニオンなどの事例が紹介された上で、浅見和彦さんと今野晴貴さんがやや理論的な考察をしています。

◆特集「ストライキが変える私たちの働き方」
練馬区立図書館・非常勤司書のストライキ闘争に迫る――彼女たちのパワーの源泉はどこにあるのか? 三澤昌樹(練馬区立図書館専門員労働組合特別執行委員)

自販機産業ユニオンの挑戦――順法闘争とストライキで業界改善へ 本誌編集部

学校×ストライキ――教育現場を取り戻すための闘い 本誌編集部

全労働者を結集するストライキを――ストライキは「伝染」する 須田光照(全国一般東京東部労働組合書記長)

サービス業時代の「新型ストライキ」とは――社会連帯型ストライキが生み出す共感と交渉力 浅見和彦(専修大学教授)

今日のストライキ その特徴とは何か? 今野晴貴(NPO 法人POSSE 代表)

実を言うと、ストライキなど労働争議に関わるテーマは、もう何十年にもわたって労働法や労働問題の議論のホットな舞台からは消えています。教科書には昔からのことが書かれていますが、また昔の労働争議の歴史研究みたいなのは細々とありますが、あるいは中国や韓国など外国の労働争議も話題になったりしますが、この現代日本でストライキがホットなテーマとして取り上げられるということ自体、長らく絶えて久しかったのです。

今回のPOSSEの特集が、それを変えるものであるのかどうか、改めて図書館の奥にほこりをかぶったかつての労働争議論を紐解いてみることも必要かも知れません。

 

 

『はじめよう!SOGIハラのない学校・職場づくり』

457293 大月書店編集部の岩下結さんより『はじめよう!SOGIハラのない学校・職場づくり 性の多様性に関するいじめ・ハラスメントをなくすために』(大月書店)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

http://www.otsukishoten.co.jp/book/b457293.html

「ホモネタ」やアウティング(暴露)、男女別制服の強要など、性的指向や性自認(SOGI)にかかわるハラスメントは深刻な人権侵害となります。
基本的なとらえ方から、事例も多数紹介した初の入門書。

そもそもSOGIって何?LGBTとどう違うの?という基本からわかりやすく説明しています。冒頭には「マンガで考える「これってSOGIハラ?」」もあり、まずは若者たちを主たる対象においていることが窺われます。

はじめに
マンガで考える「これってSOGIハラ?」

パート1 基礎から知る「SOGIハラってなに?」
 1「SOGI」ってなんだろう
 2 SOGIの視点で多様な性をとらえる
 3「SOGIハラ」をどう防ぐか

パート2 学校で起こるSOGIハラと支援のありかた――そのとき、あなたにできること
 はじめに
 1 あなたにできること(1)──想像する
 2 あなたにできること(2)──聴く
 3 あなたにできること(3)──変えていく
 おわりに

パート3 これってSOGIハラ?事例集
 はじめに
 1 差別的な言動や嘲笑、差別的な呼称
 2 いじめ・暴力・無視
 3 望まない性での生活の強要
 4 不当な入学拒否や転校強制、異動や解雇
 5 だれかのSOGIについて許可なく公表すること(アウティング)
 6 その他

パート4 SOGIハラのない学校・職場づくりに必要なこと

巻末資料

パート3の不当な入学拒否云々の中にこんな事例が:

トランスジェンダーの私は、通名と、性別を記載しない履歴書で就職活動を行い、首尾よく内定が決まりました。きっと会社の方も理解があるのではないかと思い、内定後の面談で、実は戸籍上の性別が女性であるということをカミングアウトしたのですが、そのとたんに「今回の話はなかったことに」と言われ、内定を撤回されてしまいました。とても落ち込みましたが、小さい会社でしたし、訴えたりはせず、あきらめて次を探すことにしました。

こういうふうに表に出ない事例が結構多いのでしょう。

 

 

 

中国における権威主義の影と国家-労働関係@BJIR

Bjir 英国労使関係雑誌(British Journal of Industrial Relations )の2019年6月号にJude Howell と Tim Pringleの「Shades of Authoritarianism and State–Labour Relations in China」(中国における権威主義の影と国家-労働関係)という大変興味深い論文が載っています。

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1111/bjir.12436

 Attempts to analyse authoritarianism in China tend towards a static focus on the state that is homogeneous across time. We argue for a more nuanced approach that captures the dynamism and contours of state–civil society relations, and state–labour relations, in particular, in authoritarian states. Taking state–labour relations as a bellweather, we conceptualize ‘shades of authoritarianism’ as a framework for better understanding the complexities and evolution of state–society relations in authoritarian states. We illustrate this through the case of China, distinguishing different shades of authoritarianism in the Hu-Wen era (2002–2012) and in the current regime of Xi Jinping

中国における権威主義を分析する試みは時を通じて同質的な国家に静態的な焦点を当てる傾向がある。我々は権威主義国家における国家と市民社会の関係、とりわけ国家と労働の関係の動態と輪郭をつかむよりニュアンスに富んだアプローチを唱える。主導部として国家と労働の関係をとりあげると、我々は権威主義国家における国家と社会の関係の複雑さと展開をよりよく理解するための枠組みとして「権威主義の影」を概念化する。我々はこれを中国のケースを通じて明らかにし、胡錦濤-温家宝時代(2001-2012)と現在の習近平体制における異なった権威主義の影を区別する。

本論文では、胡・温時代の「開かれた権威主義」(open authoritarianism)と習時代の「封じ込め型権威主義」(encapsulating authoritarianism)を、さまざまな観点から比較検討し、その違いを浮き彫りにしています。労働問題に関心のある方々だけにとどまらない興味深さを示しているように思われます。

 

 

 

2019年7月15日 (月)

日雇派遣問題への新たな視角

大内伸哉さんがブログ「アモリスタ・ウモリスタ」で「日雇派遣規制の見直し」について論じています。

http://lavoroeamore.cocolog-nifty.com/amoristaumorista/2019/07/post-570a80.html

 ・・・・いったん作ったものでも,おかしいものであれば,迅速に廃棄することが必要です。「直接雇用のみなし」にはいろいろな考え方の違いがあり意見が分かれるのはわかりますが,「日雇派遣」は論理的におかしい規制というべきなので,この時期の見直しは遅すぎたほどです。

現行日雇派遣法制が矛盾に満ちており、見直すべきであるという点については全く同感であり、今までもその旨のことは何回か書いてきています。

https://www.jpc-net.jp/paper/zokunihonjinji/20160315zokunihonjinji.pdf (日雇派遣規制の矛盾(『生産性新聞』2016年3月15日号))

ただ、一方世界的な新たな就業形態の進展とそれに対する法的対応の状況を踏まえて考えると、日雇派遣問題を日本の派遣法規制という枠内だけで考えること自体があまりにも狭隘に過ぎるという感もあります。もちろん、日雇派遣を目の敵にする人々が、ややもすると派遣という働き方を目の敵にする古びた発想でもって論ずる傾向があったために、日雇派遣規制も派遣規制のまことにできの悪い出来損ないみたいな形になってしまってしまっているわけですが、そこに現れていた問題とは、実は近年世界共通に表れてきつつあるオンコールワーク、オンデマンドワークといった問題であったように思われるのです。

この件については、一昨年にWEB労政時報に小文を書いていますので、この問題をまじめに考えようという方のためにお蔵出しをしておきたいと思います。

https://www.rosei.jp/readers-taiken/article.php?entry_no=75705 (日雇派遣の歴史的位置)

 今から10年前の時期に、日本の労働市場法政策において注目され話題となった就業形態に「日雇派遣」があります。それまでの構造改革への熱狂が一段落し、格差問題が大きな問題になっていった時期に、派遣労働者の中でもとりわけ日雇派遣で働く人たちにテレビや新聞が着目し、ネットカフェに寝泊まりしている姿など彼らの窮状を集中的に報道したことが、社会に対し非常に大きな影響を与えました。グッドウィルやフルキャストといった日雇派遣会社の名前を思い出す方もいるでしょう。
 
 最初は規制緩和の方向で始められた労政審の審議も風向きが変わり、2007年12月の中間報告では日雇派遣の一部規制強化が打ち出されました。そこでは、日雇派遣は契約期間が短く、仕事があるかどうかが前日までわからない、当日キャンセルがあるといったことや、給与からの不透明な天引きや移動時間中の賃金不払い、安全衛生措置や教育が講じられず労災が起きやすい、労働条件の明示がされていないといった問題点が指摘されていました。そこでこの時点で省令改正がされ、日雇でも派遣先責任者の選任義務や派遣先管理台帳の作成記帳義務を課し、派遣元事業主が定期的に日雇派遣労働者の就業場所を巡回し就業の状況を確認することを義務づける等しました。
 
 日雇派遣形態そのものの規制については、2008年7月の「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会報告書」で、危険度が高く、安全性が確保できない業務、雇用管理責任が担い得ない業務を禁止し、専門業務など短期の雇用であっても労働者に特段の不利益が生じないような業務のみ認める方向が打ち出され、同年9月の労政審建議では「日々又は30日以内の期間を定めて雇用する労働者について、原則、労働者派遣を行ってはならない」とした上で、「日雇派遣が常態であり、かつ、労働者の保護に問題ない業務等について、政令によりポジティブリスト化して認めることが適当」としました。これを受けて同年11月に労働者派遣法改正案が国会に提出されましたが、折からのリーマンショックで、多くの派遣労働者が派遣会社の寮を追い出されて住むところを失うという状況があらわになり、同年末から2009年始にかけていわゆる「年越し派遣村」が設立され、派遣制度に対する風当たりはさらに強くなりました。
 2009年の総選挙で民主党政権が誕生すると、あらためて労働者派遣法の審議が始められ、2010年4月により規制を強化した改正案が国会に提出されましたが、日雇派遣については自公政権時の法案と変わっていませんでした。しかし、政治状況から同法案が塩漬けになり、2012年3月に野党の自公両党と合意して登録型派遣の原則禁止の削除など修正可決した際、禁止の例外としてさらに「雇用の機会の確保が特に困難であると認められる労働者の雇用の継続等を図るために必要であると認められる場合その他の場合で政令で定める場合」を加え、具体的には60歳以上の高齢者、昼間学生、労働者自身かその配偶者が年収500万円以上の者を適用除外としました。この規定は2015年9月に労働者派遣法が全面的に改正されたときにも触れられず、現在も適用されています。
 一方この間、日雇派遣の原則禁止を見越して多くの業者は日雇派遣から日々紹介への業態転換を図り、現在では実質的に同様の業務が日々紹介として行われています。有料職業紹介事業には手数料規制など派遣事業にはない規制があるとはいえ、対象者に制限がないのでやりやすいことは確かでしょう。とりわけ、日雇で働くために年収500万円以上要件をクリアしているかどうかを証明させる面倒くささを考えれば業者が日々紹介に流れていったことはよく理解できます。しかし、形態が日雇派遣から日々紹介に変わっても、指摘されていた「契約期間が短く、仕事があるかどうかが前日までわからない、当日キャンセルがある」といった問題点に変わりはありません。これは、たまたま日雇派遣という形で現れた問題を、もっぱら労働者派遣という側面に注目して派遣法の法的手段を使って対応しようとしたことの結果と言えます。
 
 実をいえば、こういった問題点は近年、イギリスを始めとして世界的に拡大しているオンコール労働、とりわけ「ゼロ時間契約」と呼ばれる新たな就業形態の問題点を、やや先取り的に現していたものということができます。これは、あらかじめ労働時間を定めることなく、呼び出しがあれば行って働くという契約ですが、一定時間の就労を保障するわけではなく、呼び出しがなければいつまでも待ち続けなければならず、まさにその不安定さが問題となりました。特にイギリスの労働組合TUCはゼロ時間契約の廃止を訴え、野党労働党の公約にも盛り込まれました。
 欧米のゼロ時間契約を見てから、あらためて日本の日雇派遣や日々紹介を見てみると、就労時間以外の待機時間に当たる部分を、日本では派遣会社や紹介会社の「登録」という曖昧な状態におくことによって、同じような効果をもたらしていることがわかります。どちらも、情報通信技術の発達のおかげで、いつどこにいても携帯電話による呼び出しが可能になったことを利用した新たな就業形態であり、その歴史的位置はほぼ同じようなものではないかと思われます。経済のデジタル化に伴う新たな就業形態が話題となる今日、日雇派遣・日々紹介についても新たな視点からの議論が求められるのではないでしょうか。

そして、実はこの問題が近年EUでも大きな議論となり、今年5月には新たな指令「透明で予見可能な労働条件指令」として成立に至っているのです。

この指令については、指令案の段階で『季刊労働法』2018年春号(260号)で「EUの透明で予見可能な労働条件指令案」としてかなり詳しく紹介していますが、改めてきちんと(日本へのインプリケーションにも含めて)論じなおす必要があるのかもしれません。

ポピュリスト右翼の敗北は必ずしも社会民主主義左翼の勝利にあらず

Sheribermanfinal 例によってソーシャル・ヨーロッパから、最近のデンマークの選挙結果を素材にしたシェリ・バーマンさんのエッセイ「ポピュリスト右翼の敗北は必ずしも社会民主主義左翼の勝利にあらず」(A defeat for the populist right isn’t always a win for the social-democratic left)を。

https://www.socialeurope.eu/populist-right-social-democratic

 The populist right and the social-democratic left may contest for the support of the popular classes but, Sheri Berman argues, it’s not a simple zero-sum game.

ポピュリスト右翼と社会民主主義左翼は大衆階級の支持を求めて争っているが、それは単なるゼロサムゲームではない。

最後の2パラグラフを紹介しておきましょう。

 Parties succeed when the issues on which they have an advantage are at the forefront of debate: populists do well when attention is focused on immigration, green parties do well when attention is focused on the environment and social-democratic parties do well when attention is focused on economic issues and, in particular, on the downsides of capitalism and unregulated markets—assuming they have something distinctive and attractive to offer on the economic front. (This has not been the case for many social-democratic parties for too long but many authors at Social Europe are trying to rectify that.)

政党は彼らが優位を持つ問題が議論の正面にあるときに成功する。ポピュリスト政党は移民問題に焦点が当たっているときにうまくいく。みどりの党は環境問題に焦点が当たってるときにうまくいく。社会民主主義政党は経済問題、とりわけ資本主義と規制されない市場のマイナス面に焦点が当たっているときに、なにがしか特色があり魅力的だとすればみなされてうまくいく。(多くの社会民主主義政党にとってあまりにも長い間そうではなかったが、ソーシャル・ヨーロッパの多くの筆者たちはそれを直そうとしている)

What the Danish elections should remind us is that politics is largely a struggle over agenda-setting. Defeating populism requires removing the issues on which populism thrives from the forefront of debate. But for the social-democratic left to succeed, it must do more than neutralise the fears populists exploit. It must also focus attention on the myriad economic problems facing our societies—and convince voters it has the best solutions to them.

デンマークの選挙が我々に思い出させるべきことは、政治とは何よりもアジェンダセッティングをめぐる闘争であるということだ。ポピュリズムを打倒するのに必要なのは、ポピュリズムがそれを取り上げることによってポピュリズムが力強く成長してきた論点を議論の正面にあって繁栄してきた問題を議論の正面から取り除くことだ。しかし社会民主主義左翼が成功するためには、ポピュリストがうまく活用してきた恐怖を中和化させるよりももっとしなければならないことがある。我々の社会が直面している無数の経済的問題に焦点を当て、その最善の解決策があると有権者を説得することだ。

 

2019年7月13日 (土)

小熊英二『日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学』

9784065154298_obi_w 小熊英二さんより『日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学』(講談社現代新書)をお送りいただきました。新書でありながら600ページという常識外れの分厚さにまず目を剥きましたが、中身を読み始めて、これはいったい何という本だ!と叫んでしまいました。どういうことか?というと、私の様々な議論や本と、ほぼ重なるような内容の本になっていたからです。

http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000321617

正直言って、この著者名とこのタイトルから想像される中身とは相当に異なっています。もし本書が学術出版であれば、内容を正確に伝えるタイトルをつけるとしたら、『詳説 日本型雇用システムの形成史』となるはずです。そう、私がいくつかの本で、序説であったり傍論であったりしながら割と簡略に叙述してきた事柄を、(ページ数が増えることを全く顧慮することなく)元の研究成果をかなり詳細かつ緻密に追いかけながら、あれこれの論ずるべきことをほぼ取り落しなくややゆったりとした筆致で描き出しているのです。

「日本社会のしくみ」は、現代では、大きな閉塞感を生んでいる。女性や外国人に対する閉鎖性、「地方」や非正規雇用との格差などばかりではない。転職のしにくさ、高度人材獲得の困難、長時間労働のわりに生産性が低いこと、ワークライフバランスの悪さなど、多くの問題が指摘されている。
しかし、それに対する改革がなんども叫ばれているのに、なかなか変わっていかない。それはなぜなのか。そもそもこういう「社会のしくみ」は、どんな経緯でできあがってきたのか。この問題を探究することは、日本経済がピークだった時代から約30年が過ぎたいま、あらためて重要なことだろう。(中略)
本書が検証しているのは、雇用、教育、社会保障、政治、アイデンティティ、ライフスタイルまでを規定している「社会のしくみ」である。雇用慣行に記述の重点が置かれているが、それそのものが検証の対象ではない。そうではなく、日本社会の暗黙のルールとなっている「慣習の束」の解明こそが、本書の主題なのだ。 ――「序章」より

本書がそういう内容のものになった事情は、あとがきに書かれています。もともとは、日本の戦後史を総合的に、つまり政治、経済、外交、教育、文化、思想などを連関させ、同時代の世界の動向と比較しながら歴史を描くという構想だったようです。

ところが、研究を進めていくうえで、「カイシャ」と「ムラ」を基本単位とするようなあり方を解明しなければならないと考え、

・・・「日本社会の仕組み」としか表現のしようのないもの、つまり雇用や教育や福祉政党や地域社会、さらには「生き方」まで規定している「慣習の束」が、どんな歴史的経緯を経て成立したのかを書きたい

と変わったようです。それであれば、それは本書の副題「雇用・教育・福祉の歴史社会学」にぴったりと符合します。しかし、本書の内容はそういうものにもなっていません。なぜなら、小熊さんによれば

・・・ところが、雇用慣行について調べているうちにこれが全体を規定していることが、次第に見えてきた

からです。そこで、

・・・最初に書いた草稿はすべて破棄し、雇用慣行の歴史に比重を置いて、全体を書き直すことになった。

「比重を置いて」、というよりも、これはもはや、日本型雇用システムの形成史に関する、現在の時点の知見の相当部分を包括的に取り入れたほとんど唯一の解説書になっています。小熊さん自身はそういうつもりはなかったようですが、社会政策とか労働研究といった分野の研究者が、細かなモノグラフは書くけれどもこういう骨太の本を書かないものだから、これから長い間、日本型雇用システムの関する定番の本になってしまう可能性が高いように思われます。

目次は以下の通りですが、まさに『詳説 日本型雇用システムの形成史』であることがお判りでしょう。

 第1章 日本社会の「3つの生き方」
第2章 日本の働き方、世界の働き方
第3章 歴史のはたらき
第4章 「日本型雇用」の起源
第5章 慣行の形成
第6章 民主化と「社員の平等」
第7章 高度成長と「学歴」
第8章 「一億総中流」から「新たな二重構造」へ
終章 「社会のしくみ」と「正義」のありか

ちなみに、このうち第2章と第3章は、欧米社会の雇用システムについて120ページ以上を費やして論じています。下手をするとそれだけで新書一冊になるような分量です。ここは、私も最近JIL雑誌に書いた「横断的論考」でごく簡単に考察したところですが、そのトピックをここまでねちっこく追及する小熊さんの執念深さには脱帽します。

日本型雇用システムを下手に論じる人の陥りがちな落とし穴は、ややもするとある政治勢力や社会勢力に一方の在り方を重ね焼きして非難の対象とし、それに反する歴史的事実は無視するという傾向ですが、小熊さんは極めて丁寧に様々な勢力の動きをフォローしており、歴史叙述としては(当たり前と言えば当たり前ですが)安心できます。

逆に言うと、その叙述の大部分は、私にとっては既視感のあるところが大きいのですが、最後のところで、私の変に世に普及してしまった図式に対する異論が提示されています。

・・・日本の雇用慣行を語る際には「ジョブ型」「メンバーシップ型」あるいは「初めに職務ありき」「初めに人ありき」といった類型がよくつかわれてきた。これは日本の慣行を理解する際に便利な図式化ではあるが、主として企業の労務担当者の視点からの類型であって、一面的なものと言える。

企業の労務担当者から見れば、アメリカもドイツも、どちらも「ジョブ型」「初めに職務ありき」の社会のように見える。企業を横断した職務市場や技能資格があるため、どちらも経営の裁量だけでは賃金や人事配置を決められないからだ。

しかし労働者の視点から見れば、話は違う。専門職団体が認可した専門学位や技能資格があれば、どの企業でも同じ賃金になる社会のほうが、よほど「初めに人ありき」で「メンバーシップ型」だと映るだろう。

というわけで、小熊さんは2類型ではなく「企業のメンバーシップ」「職種のメンバーシップ」「制度化された自由労働市場」の3類型を唱えます。日本は「企業のメンバーシップ」が支配的な社会であり、ドイツは「職種のメンバーシップ」、アメリカは「制度化された自由労働市場」が支配的な社会だというのです。

実は、それには私はほぼ全面的に賛成です。ただ、話は日独米の3社会だけでは終わらないでしょう。他の労働社会もそれぞれに特殊性があり、それぞれに類型化していくと類型はどんどん増えてしまいます。

これは、本書でも引用されている拙論「横断的論考」で、イギリスやフランス、さらにはオランダやスウェーデン等も含めてあれこれ(ごく簡略に)考察したところですが、限られた紙幅の中で分かりやすく説明するという状況下であれば、最初の2類型がある意味一番間違いのない類型化なんじゃないかと考えているところです。

もちろん、私にも600ページを超える新書を書かせてくれる奇特な編集者がいれば、もう少し詳しく突っ込んでみてもいいんですけど。

(参考)

https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2018/04/pdf/002-010.pdf (この国の労働市場-横断的論考(『日本労働研究雑誌』2018年4月号))

Ⅰ ジョブ型社会の多様性
日本の雇用システムをメンバーシップ型とか 「就社」型と定式化し,欧米諸国のジョブ型ない し「就職」型と対比させる考え方は,ごく一部の 人々を除き,多くの研究者や実務家によって共有 されているものであろう。 ところが,日本以外の諸国を全て「ジョブ型」 に束ねてしまうと,その間のさまざまな違いが見 えにくくなってしまう。常識的に考えても,流動 的で勤続年数が極めて短いアメリカと,勤続年数 が日本とあまり変わらぬドイツなど大陸欧州諸国 はかなり違うはずだ。そこで,世界の雇用システ ムを大きく二つに分けて,日本に近い側とそうで ない側に分類するという試みが何回か行われてき た。ところが,そうした議論を見ていくと,まっ たく矛盾する正反対の考え方が存在することがわ かってくる。 ・・・

Ⅱ 欧米諸国の人事管理

Ⅲ 雇用システム形成史からの考察

(余計なお世話)

一点だけ余計なお世話ですが間違いを指摘しておきます。407ページに、1951年に労働省婦人年局が「男女同一労働同一賃金」という書籍(正確にはパンフレット)を出したとありますが、役所の名前は婦人年局です。労働組合の場合は青年婦人部ですが。

 

ポピュリスト時代の公共議論

Lukashochscheidt1250x250 例によって、ソーシャル・ヨーロッパからドイツ労働総同盟のホッホシャイト氏による「ポピュリスト時代の公共議論」を紹介。内容はアイデンティティポリティクスに傾斜する進歩派を批判し、経済的不平等に目を向けろという話で、ああ、またかというものかもしれませんが、ここまで欧州社会民主勢力が弱体化していく中で、長らくその支持勢力であった労働組合サイドの「なんとかしろよ」感がにじみ出ています。

https://www.socialeurope.eu/populist-age-union-perspective

 Public discourse in the populist age—a trade-union perspective by Lukas Hochscheidt

・・・・・To respond to the double attack from populists and a new generation of liberals, trade unions have to build their strategy on a different line of political conflict—a cleavage over inequalities. As Thomas Piketty, Branko Milanovic and many others have shown, social inequalities are structural and will continue to grow. The line of conflict opposing ‘haves and have-nots’ has a great advantage compared with the ‘progressives versus populists’ cleavage: instead of reducing politics to the pros and cons of liberal democracy, it enables a debate on how exactly democracy should work. Hence, it gives intermediary institutions, as vectors of collective interests, a raison d’être in the 21st century.

・・・・・ポピュリストと新世代リベラルからの二重攻撃に対処するために、労働組合はその戦略を政治的紛争の違うライン-不平等をめぐる断絶-に立脚させるべきだ。トマ・ピケティ、ブランコ・ミラノビッチらが示すように、社会的不平等は構造的で拡大傾向にある。「持てる者と持たざる者」を対立させる紛争ラインは「進歩派対ポピュリスト」の断絶と比べて大きな利点がある。というのも、政治をリベラル民主主義への賛成と反対に切り縮めるのではなく、民主主義がいかに実際に機能すべきかという議論を可能にするからだ。それゆえ、それは中間的機構に集団的利益のベクトルとして21世紀の存在意義を与える。

First, the material cleavage is socially inclusive: it addresses issues which concern society as a whole, such as inequalities of wealth and income. Therefore, it is the best remedy against what Mark Lilla calls ‘identity politics’—atomised societies shaped by small lobby groups which focus on minority interests alone. Representing working people on what unites them rather than what makes them different from one another, trade unions contribute to social integration and cohesion.

第1に、物質的断絶は社会包摂的で、富や所得の不平等といった社会全体にかかわる問題に取り組む。それゆえ、それはマーク・リラが「アイデンティティ・ポリティクス」と呼ぶもの、マイノリティの利益のみに焦点を向ける小さなロビー集団によって作られる原子化した社会に対する最善の処方箋となる。

Secondly, the material line of conflict is genuinely democratic: it highlights the fact that in a democracy the markets are subordinated to political decision-making. If there is a majority in favor of social progress—for instance, more worker participation at company level—the ‘invisible hand’ of the market cannot and will not stop a democratic majority. The inequalities cleavage also urges us to question the political influence of global business networks and to make them accountable for the downsides of globalisation.

第2に、紛争の物質的ラインは純粋に民主的であり、民主的社会においては市場は政治的意思決定に従属するという事実を明らかにする。もし社会の多数派が社会進歩-例えば、企業レベルにおける労働者参加の拡大-を望むなら、市場の「見えざる手」は民主的な多数派を止めることはできない。不平等の断絶もまた、我々にグローバルなビジネスネットワークの政治的影響力に疑問符を呈し、グローバル化の影の面に対して責任を追及させる。

Finally, the socio-economic cleavage is participatory and sustainable: by foregrounding class interests and structural disparities between labour and capital, it stresses the importance of intermediary institutions—simply because they are indispensable for the representation of aggregated collective interests. Therefore, it makes citizens engage with politics in a sustainable manner and enables comprehensive feedback, (re-)connecting decision makers and citizens.

最後に、社会経済的断絶は参加的であり、持続可能である。階級的利益と資本と労働の構造的不均衡を前景化することによって、それは中間的機構の重要性を強調する。集計された集団的利益を代表する上で不可欠だという単純な理由からだ。それゆえ、それは市民が持続可能なやり方で政治に関わり、包括的なフィードバックを可能にし、意思決定者と市民を(再)結合する。

The 21st century is about to establish new rules for the functioning of politics and the economy. Under the growing influence of populism, the construction of the public space is subject to change—and so are intermediary institutions. Stressing the inequalities cleavage, to repoliticise the institutional arena, is only one important step among many others.

21世紀は政治と経済が機能する新たなルールを樹立しようとしている。増大するポピュリズムの影響力の下で、公共圏の構築は変化に左右され、それは中間的機構である。不平等の断絶を強調し、機構のアリーナを再政治化する事は、他の何よりも重要な唯一のステップである。

 

2019年7月 9日 (火)

ジョブ型正社員再び@WEB労政時報

WEB労政時報に「ジョブ型正社員再び」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers-taiken/article.php?entry_no=76340

 去る6月6日に内閣府の規制改革推進会議が「規制改革推進に関する第5次答申~平成から令和へ~多様化が切り拓く未来~」を公表し、これを受けて6月21日に規制改革実施計画が閣議決定されました。今回の項目には、兼業・副業を促進するために労働時間通算規定を見直すことや日雇派遣の年収要件の見直しなど、労働法的に議論のネタの多い項目もあるのですが、今回はジョブ型正社員の雇用ルールの明確化について取り上げます。
 このジョブ型正社員、具体的には勤務地限定や職務限定などの限定正社員とも呼ばれますが、2013年ごろに当時の規制改革会議から雇用ルールの整備が求められ、厚生労働省が多様な正社員という名称で有識者懇談会を開き、同懇談会の報告書に基づいて、パンフレットや事例集を作成配布するなど、その円滑な導入・促進を図っています。ただ、2013年の規制改革会議答申では「労働条件の明示等、雇用管理上の留意点について取りまとめ、周知を図る」ことを求めていたのに対し、今回は労働基準法の改正という立法対応を求めている点が一歩踏み出しています。・・・・

2019年7月 8日 (月)

道幸哲也『ワークルールの論点』

458010 道幸哲也さんより新著『ワークルールの論点 職場・仕事・私をめぐって』(旬報社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.junposha.com/book/b458010.html

 
働き方を変えるためにワークルールを!現在の長時間の働き方、不平等な労働条件をどう変えていくのか。リアルな問題点を検討する。

 第1章 法的な発想と身近な世界
第2章 労働者でなければ私はなに
第3章 労働条件はどう決まっているか
第4章 よくわからない就業規則法制
第5章 採用時の駆け引き
第6章 業務命令権は絶対か
第7章 人間関係の難しさ―パワハラの法律問題
第8章 最後の切り札は懲戒権
第9章 仮眠も働時間
第10章 ケガや病気は自分のせい
第11章 解雇の作法
第12章 多様な辞めさせ方―退職・有期雇用の法理
第13章 どうしたら権利を実現できるか
第14章 やっぱり集団法

タイトルは「ワークルール・・・」ですが、中身はむしろ「ちゃんとした大人」向けに労働法の論点を取り上げて論じている本です。

最後の章では、働き方改革が国、企業、個人に着目して労働者集団や労使関係の影が薄いことに疑義を呈し、その集団法的な課題をいくつか提起しています。

 

『ITエンジニアの働き方改革 情報サービス産業白書2019』

1119101023520x 情報サービス産業協会から 『ITエンジニアの働き方改革 情報サービス産業白書2019』(インプレス)をお送りいただきました。今年は働き方改革特集なので私にもお送りいただいたようです。

https://book.impress.co.jp/books/1119101023

1987年に刊行が始まった「情報サービス産業白書」は、企業情報システムの開発を請け負う情報サービス産業に、最新のテーマに基づいた提言を行ってきました。「情報サービス産業白書 2019」では、情報サービス業界における「働き方改革」にフォーカスし、その働き方の実態と働き方改革への取り組みを紹介します。
かつて「3K」や「7K」などといわれ、「ブラック」な職種の代名詞だったITエンジニアですが、いち早く職場環境の改革に取り組んできたのがITエンジニアを多数抱える情報サービス企業です。情報サービス企業の業界団体である情報サービス産業協会(JISA)では「JISA働き方改革宣言」を掲げ、業界を上げて働き方改革を推進しています。
「JISA働き方改革宣言」は、「時短」や「効率化」の先にある、「ワクワク」の追求を究極の目標としたユニークなものです。本書には、JISAが会員企業に勤めるITエンジニア4,000人以上を対象に行った、「ITエンジニアのワクワクする働き方に関する調査」の全容を掲載しています。ITエンジニアはどのような時にワクワクを感じるのか、ワクワクを感じているITエンジニアのポジションや属性、仕事の内容は、など、「ワクワク」と働く環境の因果関係を明らかにするために行った調査です。長年、IT人材の働き方を研究してきた同志社大学大学院の中田喜文教授が調査結果を詳細分析し、「ワクワク」の正体を数値から解き明かします。どのような働き方改革を実践すれば、従業員満足度の高い職場環境を実現できるのか、そのヒントが得られます。

その中田さんによる「ワクワク」の分析によると、最も影響する要因は経営理念、次に能力発揮とプロジェクトの新規性、そして製品のコンテント及びその作成に用いる技術の新規性とのことです。

興味深いの残業時間の効果で、繁忙期の残業のみがワクワク度を下げる効果を持ち、通常期の残業は統計学的には効果は検出できなかったとしています。そして、残業時間が長くなってもそのマイナス効果は増大しないことや、その効果が比較的小さいことも興味深いとしています。

 

2019年7月 7日 (日)

ワーク・ワーク・ワークじゃなくってジョブ・ジョブ・ジョブ

なんだかいきなり、私が「ワーク・ワーク・ワーク」(働け、働け、働け)を叫んでいるかのようなツイートがあってびっくりしましたが、

https://twitter.com/yamachan_run/status/1147441464621727744

いま読んでいる専門書に「ワーク、ワーク、ワーク」というワードが出てきて大草原不可避。(「講座 労働法の再生 6巻 濱口桂一郎 論文)」) 

Dyh7rtu0ae8v4p

何が大草原なのかというと、こういうツイッタラが「ワーク・ワーク・ワーク」と叫んでいたからのようなんですが、

https://twitter.com/HaradaTosu (ワーク・ワーク・ワーク)

 ワーク・ライフ・バランス? 若いうちは ワーク・ワーク・ワークでいいんです

まあ、よくあるネタのためのアカウントなんでしょうが。

でもね、上の論文は確かに私が書いたものですが、その中のコック報告書のタイトルの『仕事、仕事、仕事』は、原題は「ワーク、ワーク、ワーク」じゃないんですよ。

注の10が次のページに送られているため、上の写真には出てきませんが、この報告書タイトルの原題はこうです。

*10"Jobs, Jobs, Jobs: Creating more employment in Europe" Report of the Employment Taskforce chaired by Wim Kok(EC、2003年)。

要するに、雇用機会の創出が大事だという意味で、ジョブ、ジョブ、ジョブと叫んでいるんであってね。

つうか、yamachanもそこんとこ分かったうえでわざといじっているんでしょうけど。

07464 ちなみに、この『講座・労働法の再生 第6巻労働法のフロンティア』は、意欲的な論文が多数載っています。まだ読んでない方はぜひ。

https://www.nippyo.co.jp/shop/book/7464.html

第1部 労働法の改革論議
第1章 労働法改革の理論と政策…………水町勇一郎
第2章 雇用社会の変化と労働法学の課題…………大内伸哉
第3章 労働法改革論の国際的展開…………濱口桂一郎
第2部 雇用政策と労働法
第4章 これからの雇用政策と労働法学の課題…………島田陽一
第5章 若年期・高年期における就労・生活と法政策…………小西康之
第6章 障害者雇用政策の理論的課題…………中川 純
第7章 外国人労働者…………早川智津子
第3部 非正規雇用と労働法
第8章 外部市場・非正規雇用と労働法制…………大木正俊
第9章 労働者派遣…………本庄淳志
第10章 有期雇用…………篠原信貴
第11章 パートタイム労働法…………阿部未央
第4部 労働法における学際的研究
第12章 企業法と労働法学…………土田道夫
第13章 ジェンダーと労働法…………黒岩容子
第14章 社会保障法学と労働法学…………菊池馨実
第15章 国際労働関係法の課題…………米津孝司

 

 

 

 

 

2019年7月 4日 (木)

労働時間通算規定を適用した送検事例

兼業・副業の関係で、労働時間通算規定のあり方が論点になっていますが、(ピョンヤンじゃない方の)業界紙の『労働新聞』7月8日号に、その労働時間通算規定を適用した恐らく全国初めての送検事例が報じられています。

・・・三重・伊賀労働基準監督署は、違法な時間外労働をさせたとして、中西総合運輸(株)とウエストウインド(株)および両者の代表取締役を務める男性らを労働基準法第32条違反の疑いで伊賀地検に書類送検した。同代表取締役は労働者1人を中西総合運輸で働かせた後、ウエストウインドで働かせた。・・・

・・・同一人物が代表取締役であり、時間外労働の認識もあったと見ている。同労基署は「労働時間の通算規定を適用した送検は恐らく全国初」としている。・・・

この事案、法形式の上では異なる事業主の間での通算なんですが、両者は同一人物が代表取締役を務めており、いわば事実上は同一会社の異なる事業所の通算みたいなものなんですね。

ただ、複数の会社を1人が経営しているなんてことは別に違法でもないし、世の中に結構あったりするので、法人格否認とかいうような話でどうにかする話でもないわけです。

今進められているような、異なる事業主の通算は止めようということになった場合、こういう脱法行為みたいなのが出てくる可能性というのはあるわけで、そこをどう手当てしておくかというのはかなり重要な論点になりそうです。

あるいは、元は同じ業務を細かく切り分けで別の会社に委託して、それぞれで同じ労働者を雇って使うなんてケースもあり得るでしょう。

実は以前、東大の労働判例研究会で評釈した労災保険の通算が問題になったケースですが、議論しておく必要はありそうに思われます。

http://hamachan.on.coocan.jp/rohan151113.html国・淀川労基署長(大代興業ほか1社)事件(大阪地判平成26年9月24日)

 本件におけるA興業とB社はいずれもD事業団からC複合施設の中のプール設備という同一場所において設備管理業務と清掃業務という切り分けられてはいるが密接に関連した業務を請け負っている企業である。判決文からは両者に資本的人的関係があるとは言えないが、労災補償責任や安全衛生責任においてはそれらは関係がない。
 業務としてどの程度包括的に捉えることができるかで見ると、A興業のプール設備管理業務は、地下の機械室でプールと浴室の水温を確認して必要があれば追い炊きをする、玄関まわりで自転車を外に出す、カラーコーンを並べる、煙草の吸い殻入れを定位置に置く、女子浴室の塩素濃度を確認する、地下駐車場のシャッターを開ける、ブロワー、ジャグジーのスイッチを入れる、プールや浴室の塩素濃度等を確認記録する、照明を消し、機械警備を設定し、シャッターを閉め、玄関の自動ドアのスイッチを締め、施錠する、日によっては水を追加したり、電灯の交換、1月に1度程度採温室修理やプール消火栓さび取り等であり、B社の業務はプールサイドの掃除に加え、浴室と男性更衣室の清掃である。広い意味でのプール設備管理業務を切り分けて別の会社に委託することはもちろん可能であり問題はないが、それによって使用者責任が恣意的に切り分けられてしまう危険性も考慮する必要があるのではないか。
 上記1で一般論としては否定的に論じた労働時間の通算についても、空間的に同一場所において行われる類似した業務を別々の企業に請け負わせることによって通算を回避することがあり得るとすれば、むしろ通算を肯定的に解すべきではないかとも考えられる。
 本件ではA興業の業務だけで業務起因性が肯定されるほどの過重労働となっていたので、争点は主として給付基礎日額の算定にとどまったが、仮に上記さまざまな業務を細かく切り分け、別々の企業に行わせていたら、単体としては業務起因性が肯定され得ないような短時間の労働が同一場所で連続的に行われるような状況もありうるのであり、かかる状況に対しても「何ら関係のない複数の事業場において業務に従事し、何ら関係のない複数の事業主からそれぞれ賃金の支払いを受ける場合」とみなすような解釈でいいのかも考えるべきであろう。
4 現行法規を前提とする限り、本件において本判決の結論を否定することは困難であるが、従来から重層請負が通常であった建設業に限らず、近年広い業種においてアウトソーシングが盛んに行われている現在、少なくとも上記労災補償法制や安全衛生法制と類似した状況下にある者については、何らかの対応が必要であると思われる。会社をばらばらにして別々に委託すれば、まとめて行わせていれば発生したであろう使用者責任を回避しうるというようなモラルハザードは望ましいものとは言えない。

 

 

 

「就職氷河期世代」の現在・過去・未来

去る6月21日に閣議決定されたいわゆる骨太の方針には、「就職氷河期世代支援プログラム」が盛り込まれています。

https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2019r/0621/shiryo_04-1.pdf

① 就職氷河期世代支援プログラム

(基本認識)
いわゆる就職氷河期世代は、現在、30 代半ばから40 代半ばに至っているが、雇用環境が厳しい時期に就職活動を行った世代であり、その中には、希望する就職ができず、新卒一括採用をはじめとした流動性に乏しい雇用慣行が続いてきたこともあり、現在も、不本意ながら不安定な仕事に就いている、無業の状態にあるなど、様々な課題に直面している者がいる。
全ての世代の人々が希望に応じて意欲・能力をいかして活躍できる環境整備を進める中で、これら就職氷河期世代への本格的支援プログラムを政府を挙げて、また民間ノウハウを最大限活用して進めることとした。就職氷河期世代が抱える固有の課題(希望する就業とのギャップ、実社会での経験不足、年齢の上昇等)40や今後の人材ニーズを踏まえつつ、個々人の状況に応じた支援により、正規雇用化をはじめとして、同世代の活躍の場を更に広げられるよう、地域ごとに対象者を把握した上で、具体的な数値目標を立てて3年間で集中的に取り組む。
支援対象としては、正規雇用を希望していながら不本意に非正規雇用で働く者(少なくとも50 万人41)、就業を希望しながら、様々な事情により求職活動をしていない長期無業者、社会とのつながりを作り、社会参加に向けてより丁寧な支援を必要とする者など、100 万人程度と見込む。この3年間の取組により、これらの者に対し、現状よりも良い処遇、そもそも働くことや社会参加を促す中で、同世代の正規雇用者については、30万人増やすことを目指す。
社会との新たなつながりを作り、本人に合った形での社会参加も支援するため、社会参加支援が先進的な地域の取組の横展開を図っていく。個々人の状況によっては、息の長い継続的な支援を行う必要があることに留意しながら、まずは、本プログラムの期間内に、各都道府県等において、支援対象者が存在する基礎自治体の協力を得て、対象者の実態やニーズを明らかにし、その結果に基づき必要な人に支援が届く体制を構築することを目指す。

(施策の方向性)
(ⅰ)相談、教育訓練から就職まで切れ目のない支援
○きめ細かな伴走支援型の就職相談体制の確立
SNS、政府広報、民間ノウハウ等も活用し、本プログラムによる新たな支援策の周知徹底を図り、できるだけ多くの支援対象者が相談窓口を利用する流れをつくる。ハローワークに専門窓口を設置し、キャリアコンサルティング、生活設計面の相談、職業訓練の助言、求人開拓等の各専門担当者のチーム制によるきめ細かな伴走型支援を実施するとともに、専門ノウハウを有する民間事業者による対応、大学などのリカレント教育の場を活用した就職相談の機会を提供する。
地方自治体の無料職業紹介事業を活用したきめ細かなマッチングの仕組みを横展開する。
○受けやすく、即効性のあるリカレント教育の確立
仕事や子育て等を続けながら受講でき、正規雇用化に有効な資格取得等に資するプログラムや、短期間での資格取得と職場実習等を組み合わせた「出口一体型」のプログラム、人手不足業種等の企業や地域のニーズを踏まえた実践的な人材育成プログラム等を整備する。「出口一体型」のプログラムや民間ノウハウを活用した教育訓練・職場実習を職業訓練受講給付金の給付対象とし、安心して受講できるように支援する。
○採用企業側の受入機会の増加につながる環境整備
採用選考を兼ねた「社会人インターンシップ」の実施を推進する。
各種助成金の見直し等により企業のインセンティブを強化する。
採用企業や活躍する個人、農業分野などにおける中間就労の場の提供等を行う中間支援の好事例を横展開する。
○民間ノウハウの活用
最近では、転職、再就職を求める人材の民間事業者への登録、民間事業者による就職相談や仕事の斡旋の事例が増加している。就職相談、教育訓練・職場実習、採用・定着の全段階について、専門ノウハウを有する民間事業者に対し、成果に連動する業務委託を行い、ハローワーク等による取組と車の両輪で、必要な財源を確保し、本プログラムの取組を加速させる。
(ⅱ)個々人の状況に合わせた、より丁寧な寄り添い支援
○アウトリーチの展開
受け身ではなく能動的に潜在的な支援対象者に丁寧に働きかけ、支援の情報を本人・家族の手元に確実に届けるとともに、本人・家族の状況に合わせた息の長い継続的な伴走支援を行う。このため、地域若者サポートステーションや生活困窮者相談支援機関のアウトリーチ機能を強化し、関係機関の連携を進める。

○支援の輪の拡大
断らない相談支援など複合課題に対応できる包括支援や多様な地域活動を促進するとともに、ひきこもり経験者の参画やNPOの活用を通じて、当事者に寄り添った支援を行う。
以上の施策に併せて、地方経済圏での人材ニーズと新たな活躍の場を求める人材プールのマッチングなどの仕組みづくりやテレワーク、副業・兼業の拡大、柔軟で多様な働き方の推進により、地方への人の流れをつくり、地方における雇用機会の創出を促す施策の積極的活用を進める。
就職氷河期世代等の支援に社会全体で取り組む気運を醸成し、支援の実効性を高めるための官民協働スキームとして、関係者で構成するプラットフォームを形成・活用するとともに、本プログラムに基づく取組について、様々なルートを通じ、一人一人につながる戦略的な広報を展開する。
短時間労働者に対する年金などの保障を厚くする観点から、被用者保険(年金・医療)の適用拡大を進めていく。
速やかに、実効ある施策の実施に必要な体制を内閣官房に整備し、定期的に施策の進捗状況を確認し、加速する。

というわけで、改めて就職氷河期世代の問題をじっくりと考えてみようという方々に、労働政策フォーラムのご案内です。

https://www.jil.go.jp/event/ro_forum/20190725/index.html

日本の若者の学校から労働市場への移行は90年代初めまで円滑に進んできましたが、長期にわたる不況のため、「就職氷河期」と呼ばれる概ね1993年から2004年に学校を卒業した若者たちは、目の前でドアが閉ざされ、社会に入る際に多くの苦難にぶつかることになりました。それから20年あまりが経過し、「就職氷河期世代」は中年期を迎えています。彼ら彼女らは現在どのような状況にあるのでしょうか。研究と現場の経験を擦り合わせ、「就職氷河期世代」をめぐる課題と将来に向けた希望について議論します。

JILPTの堀有喜衣の問題提起を受けて、玄田有史さんが基調講演を行い、現場で取り組む3人の方々が事例報告をして、小杉礼子さんを司会にディスカッションというものです。

Hyogaki

 

ちなみに、このフォーラムに参加される方には、学習指定文献として(笑)つい最近出たばかりの報告書を読んでこられることをお薦めします。

https://www.jil.go.jp/institute/siryo/2019/documents/217.pdf

Jil 資料シリーズ No.217 『若年者の就業状況・キャリア・職業能力開発の現状③ ―平成29年版「就業構造基本調査」より―』

「就職氷河期世代」の3つの特徴を、現在正社員層、フリーター層、非求職無業者層のそれぞれについて指摘したい。

第一に、先行世代や若い世代に比べて「就職氷河期世代」は現在正社員である者であっても、正社員転職者や後から正社員になった層の割合が大きく、後から正社員になった者については正社員定着者に比べて収入も低い。

第二に、フリーターについては正社員への移行は進み、現状の人手不足の中でフリーターという人は何らかの理由があってアルバイトを継続している人も多いものと推測される。正社員化も重要であるが、非正規雇用の「質」の向上や雇用の安定化も期待される。

第三に、非求職無業者については課題がかなり大きいため、就労だけでなく福祉との連携や、さらには世帯全体を視野に入れた支援も重要である。就職氷河期世代は量的に多いので課題は大きいが、続く世代でも同様の困難を抱える人が存在する。今後の日本社会の継続的な課題となろう。

 

2019年7月 3日 (水)

医師、看護師等の宿日直許可基準新通達

去る7月1日に、厚生労働省労働基準局から「医師、看護師等の宿日直許可基準について」(基発0701第8号)、「医師の研鑽に係る労働時間に関する考え方について」(基発0701第9号 )が発出されました。まだ厚労省のホームページには掲載されていませんが、さっそく日本病院会のホームページ上には載っているので、リンクを張っておきます。

http://www.hospital.or.jp/pdf/20_20190701_01.pdf

医師、看護師等の宿日直許可基準について

1 医師等の宿日直勤務については、次に掲げる条件の全てを満たし、かつ、宿直の場合は夜間に十分な睡眠がとり得るものである場合には、規則第23条の許可(以下「宿日直の許可」という。)を与えるよう取り扱うこと。
⑴ 通常の勤務時間の拘束から完全に解放された後のものであること。すなわち、通常の勤務時間終了後もなお、通常の勤務態様が継続している間は、通常の勤務時間の拘束から解放されたとはいえないことから、その間の勤務については、宿日直の許可の対象とはならないものであること。
⑵ 宿日直中に従事する業務は、一般の宿日直業務以外には、特殊の措置を必要としない軽度の又は短時間の業務に限ること。例えば、次に掲げる業務等をいい、下記2に掲げるような通常の勤務時間と同態様の業務は含まれないこと。
・ 医師が、少数の要注意患者の状態の変動に対応するため、問診等による診察等(軽度の処置を含む。以下同じ。)や、看護師等に対する指示、確認を行うこと
・ 医師が、外来患者の来院が通常想定されない休日・夜間(例えば非輪番日であるなど)において、少数の軽症の外来患者や、かかりつけ患者の状態の変動に対応するため、問診等による診察等や、看護師等に対する指示、確認を行うこと
・ 看護職員が、外来患者の来院が通常想定されない休日・夜間(例えば非輪番日であるなど)において、少数の軽症の外来患者や、かかりつけ患者の状態の変動に対応するため、問診等を行うことや、医師に対する報告を行うこと
・ 看護職員が、病室の定時巡回、患者の状態の変動の医師への報告、少数の要注意患者の定時検脈、検温を行うこと
⑶ 上記⑴、⑵以外に、一般の宿日直の許可の際の条件を満たしていること。
2 上記1によって宿日直の許可が与えられた場合において、宿日直中に、通常の勤務時間と同態様の業務に従事すること(医師が突発的な事故による応急患者の診療又は入院、患者の死亡、出産等に対応すること、又は看護師等が医師にあらかじめ指示された処置を行うこと等)が稀にあったときについては、一般的にみて、常態としてほとんど労働することがない勤務であり、かつ宿直の場合は、夜間に十分な睡眠がとり得るものである限り、宿日直の許可を取り消す必要はないこと。また、当該通常の勤務時間と同態様の業務に従事する時間について労働基準法(昭和22年法律第49号。以下「法」という。)第33条又は第36条第1項による時間外労働の手続がとられ、法第37条の割増賃金が支払われるよう取り扱うこと。したがって、宿日直に対応する医師等の数について、宿日直の際に担当する患者数との関係又は当該病院等に夜間・休日に来院する急病患者の発生率との関係等からみて、上記のように通常の勤務時間と同態様の業務に従事することが常態であると判断されるものについては、宿日直の許可を与えることはできないものであること。
3 宿日直の許可は、一つの病院、診療所等において、所属診療科、職種、時間帯、業務の種類等を限って与えることができるものであること。例えば、医師以外のみ、医師について深夜の時間帯のみといった許可のほか、上記1⑵の例示に関して、外来患者の対応業務については許可基準に該当しないが、病棟宿日直業務については許可基準に該当するような場合については、病棟宿日直業務のみに限定して許可を与えることも可能であること。
4 小規模の病院、診療所等においては、医師等が、そこに住み込んでいる場合があるが、この場合にはこれを宿日直として取り扱う必要はないこと。ただし、この場合であっても、上記2に掲げるような通常の勤務時間と同態様の業務に従事するときには、法第33条又は第36条第1項による時間外労働の手続が必要であり、法第37条の割増賃金を支払わなければならないことはいうまでもないこと。

医師の研鑽に係る労働時間に関する考え方について

1 所定労働時間内の研鑽の取扱い
所定労働時間内において、医師が、使用者に指示された勤務場所(院内等)において研鑽を行う場合については、当該研鑽に係る時間は、当然に労働時間となる。
2 所定労働時間外の研鑽の取扱い
所定労働時間外に行う医師の研鑽は、診療等の本来業務と直接の関連性なく、かつ、業務の遂行を指揮命令する職務上の地位にある者(以下「上司」という。)の明示・黙示の指示によらずに行われる限り、在院して行う場合であっても、一般的に労働時間に該当しない。
他方、当該研鑽が、上司の明示・黙示の指示により行われるものである場合には、これが所定労働時間外に行われるものであっても、又は診療等の本来業務との直接の関連性なく行われるものであっても、一般的に労働時間に該当するものである 。
所定労働時間外において医師が行う研鑽については、在院して行われるものであっても、上司の明示・黙示の指示によらずに自発的に行われるものも少なくないと考えられる。このため、その労働時間該当性の判断が、当該研鑽の実態に応じて適切に行われるよう、また、医療機関等における医師の労働時間管理の実務に資する観点から、以下のとおり、研鑽の類型ごとに、その判断の基本的考え方を示すこととする。
⑴ 一般診療における新たな知識、技能の習得のための学習
ア 研鑽の具体的内容
例えば、診療ガイドラインについての勉強、新しい治療法や新薬についての勉強、自らが術者等である手術や処置等についての予習や振り返り、シミュレーターを用いた手技の練習等が考えられる。
イ 研鑽の労働時間該当性
業務上必須ではない行為を、自由な意思に基づき、所定労働時間外に、自ら申し出て、上司の明示・黙示による指示なく行う時間については、在院して行う場合であっても、一般的に労働時間に該当しないと考えられる。
ただし、診療の準備又は診療に伴う後処理として不可欠なものは、労働時間に該当する。
⑵ 博士の学位を取得するための研究及び論文作成や、専門医を取得するための症例研究や論文作成
ア 研鑽の具体的内容
例えば、学会や外部の勉強会への参加・発表準備、院内勉強会への参加・発表準備、本来業務とは区別された臨床研究に係る診療データの整理・症例報告の作成・論文執筆、大学院の受験勉強、専門医の取得や更新に係る症例報告作成・講習会受講等が考えられる。
イ 研鑽の労働時間該当性
上司や先輩である医師から論文作成等を奨励されている等の事情があっても、業務上必須ではない行為を、自由な意思に基づき、所定労働時間外に、自ら申し出て、上司の明示・黙示による指示なく行う時間については、在院して行う場合であっても、一般的に労働時間に該当しないと考えられる。
ただし、研鑽の不実施について就業規則上の制裁等の不利益が課されているため、その実施を余儀なくされている場合や、研鑽が業務上必須である場合、業務上必須でなくとも上司が明示・黙示の指示をして行わせる場合は、当該研鑽が行われる時間については労働時間に該当する。
上司や先輩である医師から奨励されている等の事情があっても、自由な意思に基づき研鑽が行われていると考えられる例としては、次のようなものが考えられる。
・ 勤務先の医療機関が主催する勉強会であるが、自由参加である
・ 学会等への参加・発表や論文投稿が勤務先の医療機関に割り当てられているが、医師個人への割当はない
・ 研究を本来業務とはしない医師が、院内の臨床データ等を利用し、院内で研究活動を行っているが、当該研究活動は、上司に命じられておらず、自主的に行っている
⑶ 手技を向上させるための手術の見学
ア 研鑽の具体的内容
例えば、手術・処置等の見学の機会の確保や症例経験を蓄積するために、所定労働時間外に、見学(見学の延長上で診療(診療の補助を含む。下記イにおいて同じ。)を行う場合を含む。)を行うこと等が考えられる。
イ 研鑽の労働時間該当性
上司や先輩である医師から奨励されている等の事情があったとしても、業務上必須ではない見学を、自由な意思に基づき、所定労働時間外に、自ら申し出て、上司の明示・黙示による指示なく行う場合、当該見学やそのための待機時間については、在院して行う場合であっても、一般的に労働時間に該当しないと考えられる。
ただし、見学中に診療を行った場合については、当該診療を行った時間は、労働時間に該当すると考えられ、また、見学中に診療を行うことが慣習化、常態化している場合については、見学の時間全てが労働時間に該当する。
3 事業場における研鑽の労働時間該当性を明確化するための手続及び環境の整備
研鑽の労働時間該当性についての基本的な考え方は、上記1及び2のとおりであるが、各事業場における研鑽の労働時間該当性を明確化するために求められる手続及びその適切な運用を確保するための環境の整備として、次に掲げる事項が有効であると考えられることから、研鑽を行う医師が属する医療機関等に対し、次に掲げる事項に取り組むよう周知すること。
⑴ 医師の研鑽の労働時間該当性を明確化するための手続
医師の研鑽については、業務との関連性、制裁等の不利益の有無、上司の指示の範囲を明確化する手続を講ずること。例えば、医師が労働に該当しない研鑽を行う場合には、医師自らがその旨を上司に申し出ることとし、当該申出を受けた上司は、当該申出をした医師との間において、当該申出のあった研鑽に関し、
・ 本来業務及び本来業務に不可欠な準備・後処理のいずれにも該当しないこと
・ 当該研鑽を行わないことについて制裁等の不利益はないこと
・ 上司として当該研鑽を行うよう指示しておらず、かつ、当該研鑽を開始する時点において本来業務及び本来業務に不可欠な準備・後処理は終了しており、本人はそれらの業務から離れてよいことについて確認を行うことが考えられる。
⑵ 医師の研鑽の労働時間該当性を明確化するための環境の整備
上記⑴の手続について、その適切な運用を確保するため、次の措置を講ずることが望ましいものであること。
ア 労働に該当しない研鑽を行うために在院する医師については、権利として労働から離れることを保障されている必要があるところ、診療体制には含めず、突発的な必要性が生じた場合を除き、診療等の通常業務への従事を指示しないことが求められる。また、労働に該当しない研鑽を行う場合の取扱いとしては、院内に勤務場所とは別に、労働に該当しない研鑽を行う場所を設けること、労働に該当しない研鑽を行う場合には、白衣を着用せずに行うこととすること等により、通常勤務ではないことが外形的に明確に見分けられる措置を講ずることが考えられること。手術・処置の見学等であって、研鑚の性質上、場所や服装が限定されるためにこのような対応が困難な場合は、当該研鑚を行う医師が診療体制に含まれていないことについて明確化しておくこと。
イ 医療機関ごとに、研鑽に対する考え方、労働に該当しない研鑽を行うために所定労働時間外に在院する場合の手続、労働に該当しない研鑽を行う場合には診療体制に含めない等の取扱いを明確化し、書面等に示すこと。
ウ 上記イで書面等に示したことを院内職員に周知すること。周知に際しては、研鑽を行う医師の上司のみではなく、所定労働時間外に研鑽を行うことが考えられる医師本人に対してもその内容を周知し、必要な手続の履行を確保すること。
また、診療体制に含めない取扱いを担保するため、医師のみではなく、当該医療機関における他の職種も含めて、当該取扱い等を周知すること。
エ 上記⑴の手続をとった場合には、医師本人からの申出への確認や当該医師への指示の記録を保存すること。なお、記録の保存期間については、労働基準法(昭和22年法律第49号)第109条において労働関係に関する重要書類を3年間保存することとされていることも参考として定めること。

 

大西連『絶望しないための貧困学』

9784591163443 大西連さんより『絶望しないための貧困学』(ポプラ新書)をお送りいただきました。ありがとうございます。

https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/8201174.html

現在、「日本に貧困はない」という人はいない。
実際に、6人に1人が「貧困」と言われるこの日本で、
「貧困」は私たちのすぐそばにある。
しかし、私たちはそれを体感しているだろうか。

「貧困」は数字で語られることが多いが、
数字が語りかける「問題の深刻さ」は、
必ずしも具体的なイメージをともなわない。

本書では、ストーリーとデータの往還から
「この国で貧困であること」の意味を浮かびあがらせていく。
私たちは「貧困」とどう向き合い、乗り越えていけばいいのか。
安易な絶望に陥らないための最良の入門書。

もやい理事長の大西さんの久しぶりの新著、ではありません。実は4年前に同じポプラ社から出た『すぐそばにある「貧困」』の新書版です。

なので、4年前にこの本を頂いたときに書いたエントリをそのまま引用しておきます。これは本当に正真正銘の素直な感想でした。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/09/post-5580.html (ビルドゥングス・ロマンとしての大西連『すぐそばにある「貧困」』 )

・・・大西さんとは、かつて一度、大野更紗さんや川村遼平さんと一緒にお会いしてお話をしたことがあります。いまは「もやい」の理事長をしている大西さんによる貧困問題についての啓蒙書・・・ではあるんですが、そして本人もそういう読まれ方を期待しているとは思うのですが、ここではそれとはひと味違う、この本独特の「読み方」を述べたいと思います。

それは、大西連という1987年生まれの一青年が、人生を見失ってふらふらしていた時にふとしたことからホームレスの支援運動に関わりはじめ、さまざまな出会いと悩みを繰り返しながら、その活動家として、そしてリーダーとして自己形成していく姿を描き出した、そういわゆる一つの「ビルドゥングス・ロマン」になっているんです。

冒頭第1章は、高校時代に不登校で渋谷のカラオケでお金がなくなり路上で出合ったホームレスの「ケンちゃん」とのエピソードから始まります。

高卒後フリーターとなっていた大西青年は、アルバイト先の友人に誘われて新宿中央公園の炊き出しに参加。「意識の低い」青年だった彼が、そこから生活保護の申請同行、相談会、不正受給をめぐるいざこざ、と、「成長」していく姿は、『活動家一丁上がり』の実録編であるとともに、何よりもこの大西連という「意識の低」かった青年の「ビルドゥングス・ロマン」となっています。

いやもう、「貧困」ものはおなかいっぱい。読まなくても大体わかってるし・・・、と言いたげなそこのあなた。本書はそれ以上の大きな付加価値があります。

今回の本には、最後に漫画家の柏木ハルコさんとの対談が載っています。

対談 「自己責任」と説教しても、貧困問題は解決しない(柏木ハルコ×大西連)

 

 

 

2019年7月 2日 (火)

泊まれる本屋で拙著で寝落ち

Img_752f5d874047328e26f434ce08fbda586810 「りぼりぼブログ」というところでの拙著『働く女子の運命』の書評ですが、りぼりぼさんが読まれた場所が「泊まれる本屋」といういささか想定外のものだったので、へえ、そんなのがあるんだとびっくりしました。

http://www.riboribo.com/entry/2019/07/01/224803

そうだ、泊まれる本屋さんに行こう!!

ということで、BOOK AND BED IKEBUKUROへ宿泊してきました!!

B&Bといっても、ブレクファストじゃなくてブックのBなんですね。

ソファでゴロゴロしながら読書する、至福の時間を過ごせます。夜が更けると個室の中の方が個人用電灯があるので却って明るかった印象です。心置きなく寝落ちできます。

とのこと。

20190701220237

りぼりぼさんが読まれた3冊のうちに、拙著『働く女子の運命』が含まれていました。

私自身、社会人になってから1年が経過したので、2冊目は働く女性についての本を選びました。戦前から現在に至るまでの女性の働き方の変遷が記されています。

富岡製糸場の話に始まり、補助的な業務にしか就けなかった時代を経て、現在へ。女性のロールモデルはこの数十年で大きく変わってきたんだなあ、と改めて実感しました。そしてロールモデルはこれからもどんどん変わっていくはず。社会に求められる姿に過度に惑わされることなく、自分が大切にしたいものを見極め、自分で働き方を選ばないといけないと感じました。

また、最終章の"マミートラック"が"ノーマルトラック"になるといいよね、という話にすごく同感しました。今は長時間労働が常態化しているから、定時に仕事を切り上げられる育児中の方、時短社員が特別に思えてしまうけれど、本来ならば定時に仕事が終わるのがノーマルなのではないか、と。総合職になったものの、今の働き方で妻や母としての役割を果たしている未来が描けない私にとってはホットな一冊でした。・・・・

この本を読みながら寝落ちされたため、夢に架空の人事部長マイケルが出てきたそうなんですが、そいつ何者なんでしょう?

 

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