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2019年6月24日 (月)

70歳までの就業機会確保@『労基旬報』2019年6月25日号

『労基旬報』2019年6月25日号に「70歳までの就業機会確保」を寄稿しました。

 現在、未来投資会議で審議されている成長戦略実行計画には、「第3章 全世代型社会保障への改革」の冒頭に「70歳までの就業機会確保」という項目が掲げられています。そこでは、「65歳から70歳までの就業機会確保については、多様な選択肢を法制度上許容し、当該企業としては、そのうちどのような選択肢を用意するか、労使で話し合う仕組み、また、当該個人にどの選択肢を適用するか、企業が当該個人と相談し、選択ができるような仕組みを検討する」とされ、具体的な選択肢としては次の7つが提示されています。
(a) 定年廃止
(b) 70歳までの定年延長
(c) 継続雇用制度導入(現行65歳までの制度と同様、子会社・関連会社での継続雇用を含む)
(d) 他の企業(子会社・関連会社以外の企業)への再就職の実現
(e) 個人とのフリーランス契約への資金提供
(f) 個人の起業支援
(g) 個人の社会貢献活動参加への資金提供
 このリストはなかなか興味深いものがあります。(a)から(c)までは現在の高齢法第9条の高年齢者雇用確保措置と同じです。ですが、これを60歳代後半層にそのまま押しつけるのは無理だろうというのは多くの人々の共通の認識でした。そこで、同じ高齢法の後ろの方にある第15条(再就職援助措置)を持ってきて、他企業への再就職(d)も選択肢に入れるというのは、想定の範囲内であったと思われます。
 しかしこのリストはそれよりもさらに広く、個人請負による自営業も就業機会として含めています。ただこれも、実はそれほど意外感はありません。高齢者対策では既に長らくシルバー人材センターという形で雇用によらない就業形態を推進してきていますし、隣接分野である障害者対策では、2005年改正で雇用によらない在宅就業障害者に仕事を発注する事業主に対して、障害者雇用納付金制度において特例調整金、特例報奨金の支給を行うこととされています。(e)(f)はその高齢者版と位置付けられるのでしょう。
 (g)の社会貢献活動になると、解釈によってはそもそもここでいう「就業機会」に含まれるのかという疑問も生じますが、恐らくここで想定されているのは、NPOやNGOなどの非営利組織の一員となって社会的に有用な経済活動に参加するものなのだと思われます。
 「企業は(a)から(g)の中から当該企業で採用するものを労使で話し合う。それぞれの選択肢についての企業の関与の具体的な在り方について、今後検討する」とありますが、この「労使で話し合う」の中身が恐らく過半数組合又は過半数代表者との協定で云々という形になるとすると、2004年改正で継続雇用対象者の選別を委ねたときと同様に、改めて従業員代表制の議論を喚起することになるでしょう。
 この立法は二段階方式で進めるということです。まず第1段階は、「法制度上、上記の(a)~(g)といった選択肢を明示した上で、70歳までの就業機会確保の努力規定とする。また、必要があると認める場合は、厚生労働大臣が、事業主に対して、個社労使で計画を策定するよう求め、計画策定については履行確保を求める」とされ、この第1段階の実態の進捗を踏まえて、第2段階として、「現行法のような企業名公表による担保(いわゆる義務化)のための法改正を検討する。この際は、かつての立法例のように、健康状態が良くない、出勤率が低いなどで労使が合意した場合について、適用除外規定を設けることについて検討する」とされています。
 まず努力義務で促進し、その上で義務化するというのは、60歳定年でも65歳継続雇用でもとられてきたやり方なので違和感はありませんが、企業名の公表が義務化であるかのような表現ぶりには疑問があります。いうまでもなく、企業名の公表というのは1986年改正時に60歳定年の努力義務を定めた時にその実効確保のために導入されたもので、義務化とともに廃止されています。ここにはいささか概念の混乱が見られるようです。
 また、「混乱が生じないよう、65歳(現在63歳。2025年に施行完了予定)までの現行法制度は、改正を検討しないこととする」というのは、法的安定性を考えれば当然のこととはいいながら、高齢期の人事管理が60歳まで、60歳から65歳まで、65歳から70歳までと5歳刻みで分断されてしまい、本来あるべき一貫した人事管理が難しくなるという難点があります。もちろん、早い段階から社会貢献活動に専念するわけにもいかないでしょうが、たとえば再就職や起業をするにしても、65歳というのでは遅すぎて、もっと早い段階から進めていかなければならないといった意見が出てくるのではないでしょうか。
 今後の日程としては、「労働政策審議会における審議を経て、2020年の通常国会において、第一段階の法案提出を図る」ということなので、実はあまり時間はありません。秋口から審議会で議論をし、年末には建議を取りまとめるというスケジュールで動いていくことになります。その際、上述のような問題点がどこまできちんと議論されるのかが重要でしょう。
 なお、今回はわざわざ念押し的に「70歳までの就業機会の確保に伴い、年金支給開始年齢の引上げは行わない。他方、年金受給開始の時期を自分で選択できる範囲(現在は70歳まで選択可)は拡大する。 加えて、在職老齢年金制度について、社会保障審議会での議論を経て、制度の見直しを行う」と書かれています。これまでの高齢者雇用対策がほとんどすべて厚生年金の支給開始年齢の引上げと連動する形で進められてきたことを考えると、この点は大きな違いです。これは、年金受給開始時期を60歳に繰り上げ受給することから70歳に繰り下げ受給することまで可能である現行年金法の枠内で、70歳就業の自然な帰結として70歳繰り下げ受給を拡大していこうという温和なやり方で、無用の反発を回避する狙いがあるのでしょう。
 ただ、在職老齢年金の見直しというのは、もちろん60歳代後半層の就労意欲を高めるためという意図はわかるのですが、要は在職しているが故に削減されている部分を満額支給するということなので、数千億円の追加支出を必要とすることになり、ただでさえ逼迫している年金財政にさらに悪影響を与えることになりかねません。これは年金政策サイドとしては、そう簡単に実施できないように思われます。

なお、成長戦略実行計画は先週金曜日に閣議決定されています。

 

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