西口想『なぜオフィスでラブなのか』
西口想『なぜオフィスでラブなのか』(堀之内出版)をお送りいただきました。ありがとうございます。
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784906708994
「なぜオフィスでラブなのか」。
「職場で出会った人とつきあっています/結婚しました」という話は一般的で、珍しいことではありません。
でも、冷静に考えてみると、仕事を目的とする場で、なぜそんなに恋愛が発生するのでしょうか。
小説を題材に日本の「オフィスラブ」について、労働にも造詣が深い新進気鋭の著者が論じます。
この本をお送りいただいたのは、本書の第2章の田辺聖子『甘い関係』を取り上げた「祖父母たちのオフィスラブ伝説」のところで、拙著『働く女子の運命』がちらりと引用されたりしているからでしょう。そう、この拙著で引っ張り出した60年代の女子たちというのは、西口さんたちからするとまさに「祖父母たち」の世代になるんですね。
実は、この本の元になったマネたまの連載のときに、本ブログで取り上げたことがありました。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/02/by-a993.html (祖父母たちのオフィスラブ伝説 by 西口想)
まえがきによると、
・・・本書の元になったウェブ連載のために、私は約1年半にわたって各時代の小説を漁りながらオフィスラブについて考え、調べ、経験談を蒐集して回った。連載を続けるうち、自然と周囲からオフィスラブの報告や相談が寄せられるようになり、気づけば「オフィスラブの専門家」になりかけている。
とのことですが、一方で西口さんは現在労働団体の職員でもあり、戦後日本の労働社会を背景にした日本的オフィスラブの諸相を見事に描き出しているなと思います。
ここからは西口さんの本から若干離れて、オフィスラブの帰結の一つとしての社内結婚について、かつて『日本の雇用と労働法』(日経文庫)のコラムに書いた小文を。これ、西口さんの本と響き合っているんですよ。
社内結婚の盛衰
OL型女性労働モデルには、女性正社員を男性正社員の花嫁候補者的存在とみなすという側面もあります。つまり、会社は長期的メンバーシップを保障する男性正社員に、「後顧の憂いなく」働いてもらえるように、安心して家庭を任せられる女性を結びつけるという機能も果たしていたわけです。女性正社員の採用基準に、「自宅通勤できること」といった職務とも人格とも直接関係なさそうな項目が含まれていたのも、花嫁候補という観点からすれば合理的であったのでしょう。
社内結婚した女性は、結婚退職までは短期的メンバーシップで、その後は夫の長期的メンバーシップによって、会社とつながりを持ち続けます。これも一種の終身雇用かも知れません。逆に、社内結婚したのに妻が同じ会社で働き続けるなどということは、許されない雰囲気も強かったようです。
日本人の結婚形態は、かつては親や親族などの介在する見合い結婚が中心で、その後本人同士の恋愛結婚が主流になったとされています。それに間違いはありませんが、ある時期までその中心は社内結婚でした。自分と釣り合いのとれた相手が多く存在し、しかも企業の採用基準によって選抜されているため、配偶者選択の効率性が極めて高かったのです。男性にとっては長時間労働に追われて相手に十分な時間が割けないことが結婚への阻害要因にはなりませんし、女性にとっては同じ社内にいることで相手の出世の見込みも大体分かります。
やがて、男女平等と女性の非正規化が進む中で、こうしたOL型社内結婚モデルが次第に衰退していきました。しかし、それは他の形態による結婚が増えるのではなく、結婚しない男女が増えるということだったようです。この事態に、「就活」ならぬ「婚活」を唱道する向きもありますが、社内結婚のように低コストで高水準の配偶者を得られる場は、とりわけ会社以外のメンバーシップが極めて希薄な日本では数少ないため、なかなか難しいようです。
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