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2019年5月30日 (木)

ハラスメント紛争の調停に参考人制度

昨日、いわゆるパワハラの措置義務等を定める労働施策綜合推進法等の改正法が成立したことを受けて、焦げすーもさんが、こうつぶやいているのですが、

https://twitter.com/yamachan_run/status/1133747768881664000

「パワハラ防止法」について 案レベルしか確認できていないが、パワハラに関する個別労使紛争で「あっせん」ではなく「調停」で対応するという箇所はそのまま成立したのだろうか。 マスコミは罰則の有無ばかり報じているが、調停に格上げされることで救済される事案がかなり増えると思う。

https://twitter.com/yamachan_run/status/1133748430700830723

相談窓口では、「あっせんではなく調停できます、制度はこう違います」と説明するくらいの変化だろうかね。

おおむねそうですが、それだけじゃない点もあります。

この点については、3月12日のWEB労政時報でやや詳しく解説をしておりましたので、せっかくなのでお蔵出ししておきます。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2019/03/post-a446.html

 今期の通常国会に提出される予定となっている法案に、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案」がありますが、101~300人規模の中堅企業にも行動計画策定と情報公表を義務づける女性活躍推進法の改正がさほど興味を惹かないものであるのに対して、職場のいじめ・嫌がらせ、いわゆるパワーハラスメントに対する事業主の措置義務等を定める労働施策総合推進法の改正は大きな注目を集めています。この問題は、法律上は「職場における労働者の就業環境を害する言動に起因する問題」という表現になりました。
 「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」から労働政策審議会雇用環境・均等分科会で激しい議論の対象となってきたのは、法律上に禁止規定を設けるべきか、事業主の措置義務を明記すべきか、ガイドラインにとどめるべきか、といった問題でしたが、結局事業主の措置義務に加えて、国の責務規定の中に「労働者の就業環境を害する(中略)言動を行ってはならないこと」について、国民一般の理解と関心を深めるための措置をとるべしというやや迂遠な表現が盛り込まれることで決着しました。また、顧客からのハラスメントをどう取り扱うかも大きな論点となりましたが、結局措置義務の対象には含めず、指針で対応することとされました。
 しかし、これら本丸の問題と並んで今後に大きな影響を及ぼしそうな規定が、改正案には盛り込まれています。それは、これまで個別労働関係紛争解決促進法に基づく「あっせん」の対象であったいじめ・嫌がらせが、今後は「調停」の対象となるという点です。「調停」は、男女雇用機会均等法に基づき男女差別問題について設けられた後、セクシュアルハラスメントや母性健康管理、育児・介護休業等にも拡大してきました。さらに、昨年成立した働き方改革推進法では、パート、有期、派遣といった非正規労働者の均等・均衡処遇問題も「調停」に移行することになっています。なお、2019年3月時点では、同じハラスメントでもセクハラやマタハラは「調停」であり、パワハラは「あっせん」ということになります。
 
では、「あっせん」と「調停」はどこが違うのでしょうか。どちらも任意の制度であるという点は変わりません。しかし、「あっせん」においてはその制定時の経緯から、あっせん申請がされても、被申請人(ほとんどは使用者側)から手続きに参加する意思がない旨が表明されれば、直ちに手続きを打ち切ることとされており、実際に不参加による打ち切りが2017年度は37.4%に達しています。それに対し、「調停」の方には、男女雇用機会均等法に次のような規定が設けられています。
 
第二十条 委員会は、調停のため必要があると認めるときは、関係当事者の出頭を求め、その意見を聴くことができる。
2 委員会は、第十一条第一項及び第十一条の二第一項に定める事項についての労働者と事業主との間の紛争に係る調停のために必要があると認め、かつ、関係当事者の双方の同意があるときは、関係当事者のほか、当該事件に係る職場において性的な言動又は同項に規定する言動を行つたとされる者の出頭を求め、その意見を聴くことができる。
第二十一条 委員会は、関係当事者からの申立てに基づき必要があると認めるときは、当該委員会が置かれる都道府県労働局の管轄区域内の主要な労働者団体又は事業主団体が指名する関係労働者を代表する者又は関係事業主を代表する者から当該事件につき意見を聴くものとする。
第二十二条 委員会は、調停案を作成し、関係当事者に対しその受諾を勧告することができる。
 
 もちろん任意の制度ですから、調停案を拒否して打ち切りになる可能性はありますが、セクハラを受けた労働者とその使用者のみならず、セクハラをした者まで出頭を求めることができる仕組みです。今回の改正案では、この仕組みがパワハラにも適用されるのですが、実はそれだけではありません。
 今回の改正案には、女性活躍推進法、労働施策総合推進法のほかに、男女雇用機会均等法の改正も含まれていて、その中では「関係当事者の同意の有無にかかわらず、調停のため必要があると認めるときに、出頭を求め、意見を聴くことができる者として、関係当事者と同一の事業所に雇用される労働者その他の参考人を加える」とされているのです。被害者がセクハラを受けているところを見たと証言してくれる同僚たちも呼び出せることになるわけです。そして、この規定も同様にパワハラに適用されることになります。
 これは、これまでの「あっせん」におけるいじめ・嫌がらせ事案の処理の仕方に大きなインパクトを与える可能性があります。私は二度にわたってあっせん事案の内容分析を行いましたが(濱口桂一郎『日本の雇用終了』『日本の雇用紛争』)、とりわけいじめ・嫌がらせ事案においては、使用者側がそもそもいじめの事実を認めない場合が極めて多く、にもかかわらず一定の解決金で解決しているケースが多いのです。これまで、いじめたとされる者も呼ばず、事実認定を行わないという前提で、とにかく労働者側がいじめられたと主張しているのだから、紛争を解決させるためにいくばくかの金銭を払って決着をつけようという、必ずしも理屈だけではないやり方でなんとか行われてきた「あっせん」という仕組みが、いじめたとされる者に加えてその同僚たちまで参考人として出頭させて意見を聴取し、ある意味で事実認定に近いことをやれる仕組みに変わるのです。
 
 現時点ではここに着目している人はほとんどいないようですが、個別労働関係紛争の実態を研究してきた者の一人としては、今回の改正のインパクトがどれくらいの規模に及ぶものであるのか、興味津々です。ちなみに、2017年度の数字ですが、あっせん申請件数5021件のうち、いじめ・嫌がらせ事案は1529件に上ります。かたや、同じ時期のセクハラの調停申請件数は全46件中34件に過ぎません。セクハラより二桁多いパワハラ事件が、当事者や参考人まで呼び出せる調整制度にやってくるのです。

 

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