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« 自民党の政策集に全国一律最低賃金? | トップページ | 萬井隆令さんの反批判@『労働法律旬報』4月下旬号について »

2019年5月 6日 (月)

第3号被保険者問題の経緯

なんだか『週刊ポスト』の記事がやたらにバズっているようですが、コメントを見ていると、この問題の長い経緯がほとんど理解されていないように見えるので、本来の私の守備範囲ではないのですが、ごく簡単にまとめておきたいと思います。

https://www.moneypost.jp/531848 (働く女性の声を受け「無職の専業主婦」の年金半額案も検討される)

令和を迎え年金改悪の議論が始まっている。現在、夫の厚生年金に加入し、年金保険料を支払わずに基礎年金をもらうことができる「第3号被保険者」の妻は約870万人いる。
 第3号については共稼ぎの妻や働く独身女性などから「保険料を負担せずに年金受給は不公平」という不満が根強くあり、政府は男女共同参画基本計画で〈第3号被保険者を縮小していく〉と閣議決定し、国策として妻たちからなんとかして保険料を徴収する作戦を進めている。
 厚生年金の加入要件を広げることで仕事を持つパート妻をどんどん加入させているのはその一環だ。3年前の年金法改正で厚生年金の適用要件が大幅に緩和され、わずか1年で約37万人が新たに加入している。
 そうして篩(ふるい)に掛けていけば、最後は純粋に無職の専業主婦が残る。厚労省や社会保険審議会では、無職の主婦から保険料を取る方法も検討してきた。
「第3号を廃止して妻に国民年金保険料を払ってもらう案、妻には基礎年金を半額だけ支給する案、夫の厚生年金保険料に妻の保険料を加算して徴収する案などがあがっている」(厚労省関係者)
 令和の改革でいよいよ「3号廃止」へと議論が進む可能性が高い。

この問題の起源は、1959年の国民年金法制定時にさかのぼります。「国民皆年金」という掛け声で作られた国民年金は、厚生年金などの被用者年金加入者以外をみんな入れるはずでしたが、その例外として被用者年金加入者の妻と学生・生徒は任意加入としました。この後者の学生・生徒は、その後20歳で強制加入に変わったことは周知のとおりです。

被用者年金加入者の妻についてはいろいろの議論の末、1985年年金改正で、国民年金の強制被保険者としつつ、その保険料は夫の加入する被用者年金全体で賄うこととしました。これが今日に至る第3号被保険者です。それまでの任意加入では自ら保険料を払わなければならなかったのが、払わなくても受給資格を得られるのですから、これこそが「婦人の年金権の確立」の切り札とされたわけです。しかし逆に言うと、これは被用者の妻を被用者の妻であるというだけで優遇する差別的取扱いでもありました。この改正が、労働法政策においては男女雇用機会均等法が立法された1985年という年に行われたという事実に、皮肉なものを感じざるを得ません。

1985年改正で導入された第3号被保険者に対してはその後、片働き世帯を優遇する制度であり、女性の就労の妨げとなっているなどと、次第に批判が高まってきました。そこで2000年から女性のライフスタイルの変化等に対応した年金の在り方に関する検討会を設置して、この問題について本格的な議論を開始しました。翌2001年12月、17回に及ぶ熱心な議論の末に「女性自身の貢献がみのる年金制度」という副題の報告書が取りまとめられました。これは今でもここで全文が読めます。

https://www.mhlw.go.jp/shingi/0112/s1214-3.html

第3号被保険者制度については、次の6つの見直し案を提示し、「問題の大きさを踏まえつつ、国民各界各層の間で、さらに踏み込んだ議論が行われ、国民的合意が形成されていく中で、適切な結論が見いだされ、改革が行われていくことを強く望む」と述べました。

現行:第3号被保険者にかかる保険料負担を負担能力に応じて負担-夫-定率負担
第Ⅰ案:第3号被保険者にかかる保険料負担を負担能力に応じて負担-妻-定率負担(潜在的な持分権の具体化による賃金分割を行った上で、妻自身にも分割された賃金に対して定率の保険料負担を求める)
第Ⅱ案:第3号被保険者に係る保険料負担を受益に着目して負担-妻-定額負担(第2号被保険者の定率保険料は第3号被保険者の基礎年金に係る拠出金負担分を除いて設定し、それとは別に第3号被保険者たる妻自身に、第1号被保険者と同額の保険料負担を求める)
第Ⅲ案:第3号被保険者に係る保険料負担を受益に着目して負担-夫-定額負担(第2号被保険者の定率保険料は第3号被保険者の基礎年金に係る拠出金負担分を除いて設定し、第3号被保険者のいる世帯の夫には、それに第1号被保険者の保険料と同額を加算した保険料負担を求める)
第Ⅳ案:第3号被保険者に係る保険料負担を受益に着目して負担-夫-定率負担(まず第2号被保険者の定率保険料を第3号被保険者の基礎年金に係る拠出金負担分を除いて設定し、第3号被保険者のいる世帯の夫には、それに第3号被保険者に係る拠出金負担に要する費用を第3号被保険者のいる世帯の夫の賃金総額で割った率を加算した保険料負担を求める)
第Ⅴ案:第3号被保険者に係る保険料負担をより徹底した形で負担能力に応じて負担-夫-定率負担(夫の賃金が高くなると専業主婦世帯の割合が高まることに着目し、高賃金者について、標準報酬上限を引き上げて、保険料の追加負担を求める)
第Ⅵ案:第3号被保険者を、育児・介護期間中の被扶養配偶者に限る(その余の期間については、他案のいずれかの方法で保険料負担を求める)

その後これを受けた改正は行われないまま20年近くが過ぎましたが、その間民主党政権時代に、「運用3号問題」という問題が生じたことがあります。第3号被保険者の夫の第2号被保険者が退職し第1号被保険者になった場合、妻は第3号から第1号に変更しなければなりませんが、それがなされずに第3号のままになっている記録が多数見つかったのです。これに対し、本来は記録を訂正し、過去の期間の保険料を納付させ、受給者には年金の裁定をやり直すべきなのに、民主党政権は過去2年間分を納付すればそれ以前の期間についても未納のまま納付済期間として認めるという救済策(運用3号)を打ち出し、2010年12月の課長通知(平成22年12月15日年管企発1215第2号、年管管発1215第1号「第3号被保険者期間として記録管理されていた期間が実際には第1号被保険者期間であったことが事後的に判明した場合の取扱いについて」)で指示しました。

 その背景には、2007年からいわゆる年金記録問題が「消えた年金記録」として当時の自公政権を揺るがす大きな政治問題となり、同年の参議院選挙、2009年の衆議院選挙で自民党が大敗し、民主党への政権交代が起こる要因ともなったことがあります。この年金記録問題が専ら社会保険庁側の事務処理の不備によるものであったため、第3号被保険者の記録不整合についても、本来届出すべきものをしていなかった被保険者側の責任を問う方向に向かわず、その部分の不当利得を国が負担するというポピュリズム的な解決策に走ったのでしょう。

 しかしそれまでに第3号から第1号に変わった人々の多くが届出をして国民年金の保険料を納めてきていたので、この扱いは法に違反し、一部の者を優遇する著しく不公平なものだとの批判がわき起こりました。総務省に設置された年金業務監視委員会も運用3号を国民年金法違反であり、年金受給者間に著しい不公平をもたらすとしてその廃止を求めるとともに、早急に公平・公正な立法措置を講ずべきとの意見を提出し、厚生労働省も2011年3月上記通達を廃止し、法改正によって対応することを決めました。

 その後、主婦年金追納法案を国会に提出しましたが、審議未了を続け、2012年11月衆議院解散で廃案となりました。自公政権に復帰後、2013年4月に厚生年金基金の廃止とともに公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚生年金保険法等の一部を改正する法律案に盛り込まれて国会に提出され、同年6月に成立しました。これにより、不整合期間をカラ期間として受給資格期間に算入し、過去10年間について特例的な保険料追納を可能にしました。

第3号被保険者本体についてはなかなか対応できない状況が続く中で、政策として近年進められてきたのが非正規労働者に対する適用拡大です。ここに来ると、わたくしの本来守備範囲に入ってくるので、いくつか解説した文章もあります。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2018/10/web-e008.html (短時間労働者の社会保険からの排除と復帰@WEB労政時報)

 去る2018年9月から社会保障審議会年金部会で被用者保険のさらなる適用拡大についての審議が始まりました。これは、同年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2018~少子高齢化の克服による持続的な成長経路の実現~」において、「働き方の多様化を踏まえ、勤労者が広く被用者保険でカバーされる勤労者皆保険制度の実現を目指して検討を行う。その際、これまでの被用者保険の適用拡大及びそれが労働者の就業行動に与えた影響についての効果検証を行う」と書かれていることを受けて始まったものです。この「勤労者皆保険制度」という言葉は、自民党の小泉進次郎氏らが近年打ち出しているもので、いかなる雇用形態であっても、企業に働く人が全員加入できる制度を意味します。
 本来、被用者保険と住民保険の二本立ての世界で国民皆保険というのであれば、被用者はすべて被用者保険に、被用者でない者はすべて住民保険に、という制度設計であるべきだったはずです。しかし、1958年の国民健康保険法は被用者でありながら被用者保険の未適用者であった者を住民保険の適用者にする形で問題を「解決」してしまい、しかもその後の行政運用は被用者保険の適用対象であった短時間労働者までも「内々のお手紙」でその外側に排除してしまうという経緯をたどってきました。小泉氏らの「勤労者皆保険」は、その半世紀以上にわたるボタンの掛け違いを根っこに戻って掛け直そうという意欲が示されているようです。
 今回はその短時間労働者をめぐる経緯を振り返ってみます。
 厚生省はかつては、日々契約の2ヶ月契約で勤務時間は4時間のパートタイム制の電話交換手について、「実際的には2ヶ月間の雇用契約を更新して行くものと考えられるので、当初の2ヶ月間は日雇労働者健康保険法を適用し、その2ヶ月を超え引き続き使用されるときは被保険者とする。」(昭和31年7月10日保文発第5114号)という通達を出していました。ところが、1980年6月6日厚生省保険局保険課長・社会保険庁医療保険部健康保険課長・社会保険庁年金保険部厚生年金課長名の「内翰」により、「1日又は1週の所定労働時間及び1月の所定労働日数が当該事業所において同種の業務に従事する通常の就労者の所定労働時間及び所定労働日数のおおむね4分の3以上である就労者については、原則として健康保険及び厚生年金保険の被保険者として取り扱うべき」であるとし、所定労働時間4分の3未満の短時間労働者を適用除外としたのです。
 これは、1970年代から80年代にかけての時代の「社会常識」を反映したものでした。すなわち、家計補助的な主婦パートと学生アルバイトが非正規労働の中核をなし,成人男性が主であった社外工に代わって結婚退職後のOL からなる派遣労働者が間接雇用の中心となり,さらに男性正社員が定年退職後に嘱託として非正規労働力化するという形で,雇用形態と労働者の属性がかなりの程度一致するようになった時代です。いわば,性別と年齢により社会的役割を当てはめる一種のマクロ社会的分業体制といえます。
 しかし1990年代以降、このモデルが現実と乖離していきます。すなわち、主婦パートが量的にも質的にも基幹化していき,必ずしも専門職でもない契約社員や,もはや学生ではなくなったフリー・アルバイターと混じり合いながら,膨大な非正規労働力を構成するようになっていったのです。そして21世紀に入り、年長フリーターが社会問題として取り上げられるようになると、非正規労働者の低処遇問題と並んで、社会保険の適用除外にも疑問の目が向けられるようになってきました。裏返して言えば,問題が主婦パートや学生アルバイトに限られていると認識されている間は,問題視されなかったということです。こうして、21世紀に入ってからは、短時間労働者への社会保険の適用問題が社会保障法政策と労働法政策にまたがる大きな政策課題として紆余曲折の歩みをたどることになります。
 まず、2003年9月の社会保障審議会年金部会の「年金制度改正に関する意見」において、働き方の多様化への対応、短時間労働者自身の年金保障の充実、就業調整問題の解決、事業主間の保険料負担の不均衡是正、雇用労働者としての均衡処遇等の観点から、基本的に短時間労働者への厚生年金の適用拡大を行うべきとし、具体的な基準としては週所定労働時間20時間以上のほか、収入要件として年間賃金65万円以上を併用すべきといった意見が示されています。しかし反対が強く、与党内調整の結果最終的に法案に盛り込まれず、2004年の国民年金法改正法の附則に「企業及び被用者の雇用形態の選択にできる限り中立的な仕組みとなるよう、この法律の施行後五年を目途として、総合的に検討が加えられ、その結果に基づき、必要な措置が講ぜられるものとする」という検討規定が置かれました。
 その後、2007年には第1次安倍内閣の再チャレンジ政策の一環として再度検討課題となり、厚生労働省は社会保障審議会年金部会にパート労働者の厚生年金適用に関するワーキンググループを設け、同年3月の報告書が詳細に適用拡大の必要性とその在り方を論じています。健康保険については最後のところで「医療保険・介護保険は従前より厚生年金と同一の基準で一体的に適用されており、適用を分離した場合には、事務手続が煩雑になるという実務的な問題があり、できる限り同一の基準で適用拡大することが基本」と、ついでのように論じられているだけですが、被保険者の被扶養者として無拠出の給付を受けられる者の範囲が、厚生年金保険では第3号被保険者という主婦パート層だけであるのに対し、健康保険では学生アルバイト層にも広がっています。そのため、同報告書では「「学生」「主婦」「年齢」など労働者の属性や「業種」など事業主の属性によって適用拡大の対象から除外するという考え方は、市場にゆがみをもたらすおそれが強く、基本的に採るべきではない」としていたのですが、同年4月に国会に提出された被用者年金一元化法案では妥協の結果として、①週所定労働時間が20時間以上、②賃金が月額98,000円以上、③勤務期間1年以上、④学生は適用除外、⑤従業員300人以下の中小零細事業主は「別に法律で定める日」まで適用猶予、となっていました。しかし、この法案は同年7月、衆議院解散のため廃案になってしまいました。
 次の動きは民主党政権下の社会保障改革の中から始まりました。2011年2月に発足した社会保障改革に関する集中検討会議では労働組合などから適用拡大が求められ、同年5月に厚生労働省が提示した「社会保障制度改革の方向性と具体策」において、非正規労働者への適用拡大が盛り込まれました。同年6月には菅直人総理から「安心3本柱」の一つとして「正規と変わらないのに、非正規で社会保険適用から排除されている人が増加。これは格差問題にも関係。中小企業の雇用等への影響にも配慮しつつ、適用拡大を図る」ことが指示されました。
 同月に集中検討会議がとりまとめた「社会保障改革案」を受けて、同月に政府・与党社会保障改革検討本部が「社会保障・税一体改革成案」を決定しました。そこでは、「セーフティネットから抜け落ちていた人を含め、すべての人が社会保障の受益者であることを実感できるようにしていく」という理念から、医療・介護等の項で「短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大」が、年金の項で「短時間労働者に対する厚生年金の適用拡大」が謳われています。
 同年9月には社会保障審議会に短時間労働者への社会保険適用等に関する特別部会が設置され、審議が進められましたが、特に外食産業や流通業など非正規労働者が労働力の中心を占める業界団体から猛烈な反対があり、意見のとりまとめは難航を極めました。一方、与党民主党内でも調整が難航しましたが、最終的に2012年3月、前原誠司政調会長が裁定を下し、①週所定労働時間20時間以上、②賃金月額78,000円以上、③雇用期間1年以上、④学生は適用除外、⑤従業員501人以上企業から適用という方針を発表しました。
 これらは同年3月に国会に提出された年金機能強化法案に盛り込まれ、審議が行われました。そして民主・自民・公明3党の協議の結果、賃金下限を88,000円とするなどの修正がされ、同年8月に成立に至りました。
 法改正後、社会保障審議会年金部会は引き続きこの問題についても議論を深め、2015年1月の「議論の整理」では、さらに適用拡大を進めていくべきという大きな方向性については異論はないが、特に短時間労働者の比率の高い業種や中小企業の負担を考慮すべきとか、年金財政だけでなく医療保険財政に対する影響についても考慮すべきという意見も示されています。そして、2016年10月施行の適用拡大から外れる者、特に企業規模要件を満たさない事業所について、労使の合意を前提として、加入できる条件の整ったところから任意で適用拡大できるようにすることが考えられるという意見を提起しています。これに対しては、筋としてはやはり一律に適用すべきという意見も付記されています。
 この「議論の整理」を受けて、2016年3月に国会に提出された年金持続可能性向上法案に、500人以下企業に対し労使合意に基づき適用拡大を可能にする改正が盛り込まれ、同年12月に成立に至りました。こちらは2017年4月から施行されています。
 こうした状況下で、今回さらなる適用拡大に向けた審議が始まったわけです。まだ議論が始まったばかりですが、1回目に出された資料には、現在の適用要件についていくつかの意見が示されています。今後の改正の方向を占う上で重要な項目が並んでいます。
 ①週所定労働時間20時間以上については、雇用保険の下限であることからも妥当という意見のほか、最終的には時間要件を撤廃し賃金要件に一本化することもあり得るのではないかとか、20時間未満の複数の仕事を掛け持ちする人の問題も指摘されています。
 ②賃金月額8.8万円以上については、最低賃金水準で週20時間働くと月額5.8万程度となるのでそのような労働者も適用される水準とすべきという意見が示されています。
 ③勤務期間1年以上見込みについては、労働時間4分の3要件を満たす者は2か月以上で適用されるのに、短時間労働者についてことさらに1年にする必要はなく、将来的には最低2か月で適用すべきという意見が示されています。
 ④学生の適用除外については、そもそも家庭を持っている学生や社会人経験を経て大学院で学ぶ学生、親の都合で休学して働く学生なども増えており、学生像が多様化している実態を踏まえれば一律に適用除外とする必要はないという意見が示されています。
 ⑤従業員規模501人以上については、中小企業への激変緩和措置として附則に規定されたものですが、いずれは引き下げるべきという意見とともに、適用拡大を極端に進めると必ず滞納事業所を生んでしまうので、実態をきちんと見て進めていくべきという慎重論も示されています。

そもそもれっきとした雇用労働者であるにもかかわらず、法律上は加入すべき被用者保険から排除されているということがおかしいわけですが、その人が第3号被保険者として別途年金が保障されているという状況が広く存在すればするほど、その排除が社会的に正当化されてしまいやすくなります。一方、過去十数年間進んできた(必ずしも家庭の主婦に限らない)非正規労働化の進展の中で、本来加入すべき社会保険からの排除に対する問題意識が高まってきたのも当然のことであったわけです。

こうして、2007年に再チャレンジ政策の一環として非正規への適用拡大法案が国会に提出されたにもかかわらず、廃案となり、民主党政権下で2012年にようやく成立しましたが、流通・サービス業界の猛烈なロビイングで、500人以下企業は拡大対象から外され、今回再び議論が始まっているわけです。この問題については、もう一回来週にもWEB労政時報に解説を書く予定です。

 

 

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コメント

なぜ「賃金月額78,000円以上」でなければならないかは、審議会でもきちんと説明されていました。
これより下げると、労使合わせて国民年金未満の掛け金で、基礎+比例分の年金を得てしまい、不公平です。

私見ですが、さらに加えて、例えば月1万円の給料でも社会保険加入とすると、実態は雇用以外の仕事で生活している者が節税のために大挙して加入することになり、労働者から非労働者への不当な不公平な再分配になります。
また、月収5.8万円というのは障害者の作業所の報酬とか、不定期の労働、補助的労働なわけで、「その仕事で食っている」わけではない人です。ほとんどが家族に扶養されてるか生保じゃないですか?
そういう人まで「労働者」だけが負担して再分配しろというのは変です。
「労働だけで食っていけないレベルの労働者」は自営業者も含めて全国民で再分配すべきです。
そもそも、月収5.8万円の被扶養者は弱者ではないので過度に再分配の必要もないと思います。

私のところに相談に来た人で、年収100万円くらいで所得ゼロの方なんですが、「健康保険適用されたせいで本人負担分だけでも5万円も取られた。国民健康保険では7割軽減か5割軽減で年1万円台だったのに」と言う方がいた。

年収100万円の労働者を雇う会社や、労働組合にアドバイスするなら、「健康保険に入ると個人負担だけで年3万以上損をするので、労働者本人にとっても国保のほうが断然お得です。労働法専門家らは『労働者は社会保険に入るべきで、入ったほうが得で、労働者を社保に入れない企業はヒドイ」と言うてますが、真っ赤な嘘です」と言うしかない。

とうぜん政府与党が低収入労働者を社保に入れようとするのは、そのほうが保険料を多く搾取できるからです。
年収100万円だと(自治体によるが)国保は年15000円、社保は企業負担込みで10万円
つまり85000は完全なムダ金。
これで労働者を社保に入れて救おうなんて言ってるんだから偽善もいいところ。

低所得世帯が、高所得世帯の専業主婦の年金保険料を支えているのではないか、という調査、研究はどこかにあるでしょうか?ダグラス・有沢の法則は、年金保険料に関連あるのかどうか、です。

やや古いですが、『日本労働研究雑誌』2001年08月号に、小原美紀さんの「専業主婦は裕福な家庭の象徴か? 妻の就業と所得不平等に税制が与える影響」という論文が載っています。


http://db.jil.go.jp/db/ronbun/2001/200112/F2001120047.html">http://db.jil.go.jp/db/ronbun/2001/200112/F2001120047.html

夫の所得が高い妻ほど専業主婦を選択しているだろうか。夫婦ともに所得が高い家計は増えているだろうか。本論文はこれらの問いに答える。そして、このような家計所得構成の変化が世帯全体の所得不平等にどれだけ影響したかを示す。また、税制度が与える影響について議論する。分析により、少なくとも若い家計について、1)夫の所得の高い妻が就業を抑制する関係は弱まっている、2)夫婦ともに所得の高い家計が増加していることがわかった。このような家計構成の変化は、世帯全体で見たときの不平等の拡大に約5%貢献した。配偶者控除の存在は夫の所得が高い妻の就業を抑制するが、それが世帯全体の所得を平等化させる効果は小さくなっている。

全文もここで読めます。

http://db.jil.go.jp/db/ronbun/zenbun/F2001120047_ZEN.htm">http://db.jil.go.jp/db/ronbun/zenbun/F2001120047_ZEN.htm

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