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2019年4月19日 (金)

特定技能外国人労働者の受入れ@『労基旬報』2019年4月25日号

『労基旬報』2019年4月25日号に「特定技能外国人労働者の受入れ」を寄稿しました。

 2018年12月8日に入国管理法等の改正案が成立し、去る今年4月1日に施行されました。これにより「特定技能1号」「特定技能2号」という新たな在留資格が創設されました。これは、これまで専門技術的分野に限ってきた外国人材の受入れを技能労働者層に大きく拡大する法律です。今回はここに至る日本の外国人労働政策の流れを振り返ってみたいと思います。
 そもそも日本では1960,70年代に、外国人労働者を受入れないという旨の閣議決定を繰り返していました。外国人労働者の受入れが政策課題として議論され始めたのは1980年代後半のいわゆるバブル経済期で、労働省は1988年に雇用許可制(使用者が外国人を雇入れる場合に事前に雇用許可を取得することを義務づける制度)を提案しました。これに対して出入国管理行政を所管する法務省が猛烈に反発し、雇用許可制は実現しませんでした。しかし、法務省は1989年に入国管理法を改正し、ブラジルやペルーなどの南米諸国に移住した日系人の二世・三世に対して、就労に一切制限のない定住者という在留資格を与えることで、企業側が要求していた外国人労働力の導入に(サイドドアから)対応したのです。また、同改正は「研修」という在留資格により事実上の労働力を労働者ではないという名目で導入することを可能にしました。
 1993年に成立した研修・技能実習制度は、労働者ではないとみなされる「研修生」の時期と、労働者であると認められる「技能実習生」の時期を結合した制度で、法務省と労働省の妥協の産物です。当初の制度設計では、2年間のうち初めの3分の1が労働者ではない「研修」で、残りの3分の2が労働者である「技能実習」とされ、後に3年間のうちそれぞれ初めの1年間と残りの2年間とされましたが、その実態は研修と技能実習とでほとんど変わりがなく、オンザジョブトレーニングで作業する労働者そのものでした。やがて累次の裁判例によって研修生の労働者性が認められ、入国管理法の改正が求められるに至ります。
 政府部内でも規制改革会議や経済財政諮問会議、厚生労働省が制度の見直しを求め、2009年の入国管理法の改正により、3年間通じた「技能実習」という在留資格を設け、座学以外は雇用関係による就労と位置付け、全面的に労働法を適用することとしました。同時に、それまで事実上認められていた団体監理型という一種のブローカー方式の労働力需給調整システムが法律上に明記されました。
 その後も技能実習制度に対しては法令違反や不正行為が後を絶たず、その適正化が強く求められました。一方、企業側は技能実習生を利用できる期間の延長を求めました。そこで、法務省と厚生労働省が合同で学識者による検討会を開催し、その報告書に基づいて2016年に技能実習法が成立しました。これにより、3年間の技能実習が終わって一旦帰国した者がさらに2年間技能実習できることとなり、計5年間実習生として就労できることになりました。一方、多くの問題が指摘されていた監理団体(需給調整のブローカー)に許可制を導入し、場合によっては許可を取り消すこととするとともに、実習実施機関(企業や農家など)を届出制とし、個々の技能実習計画を認定制とするなど、制度の厳格化を図りました。
 しかし、法律上は労働者として認められているとはいえ、特定の企業や農家で技能実習するという条件の下で就労が認められていることから、技能実習生が別の企業に転職することは原則として認められていません。そのため、特に地方の低賃金企業や農家から脱走して、都市部の高賃金企業で闇就労する者が後を絶ちませんでした。また、依然として技能実習生に対するセクハラなどの人権侵害行為も指摘されました。
 以上のような外国人労働者政策を抜本的に変更する政策が、2018年2月の経済財政諮問会議において、安倍晋三首相から提起されました。中小企業での人手不足が深刻化していることを背景に、在留資格の上限を定め、家族の帯同を基本的に認めないという条件の下で、多様な業種における技能労働力として外国人労働者を受入れるという方針です。官邸のタスクフォースで議論が進められ、6月の「骨太の方針」に制度の大枠が示されました。さらに法務省で検討が進められ、11月に法案が国会に提出され、12月に成立し、2019年4月に施行されました。
 新たに設けられた「特定技能」という在留資格は2つに分かれます。「特定技能1号」は特段の訓練を受けることなく直ちに一定程度の業務を遂行できる技能水準の者であり、業所管官庁が定める試験で確認しますが、上記技能実習2号修了者は試験が免除されるので、実際には当面、技能実習生から特定技能1号に移行する者が主となると思われます。特定技能1号の在留期間は5年で家族の帯同は認められません。技能実習期間と併せれば計10年間単身で就労することとなります。
 これに対し「特定技能2号」は熟練した技能であり、自らの判断により高度に専門・技術的な業務を遂行でき、あるいは監督者として業務を統括しつつ遂行できる水準とされています。こちらは在留期間の更新に上限がなく、家族の帯同も認められるので、より移民政策の性格が強いと言えます。
 外国人労働者の導入に対しては、労働市場に対するマイナスの影響を懸念する国内労働者の不安を払拭する必要があります。そこで、法律上対象業種は「人材を確保することが困難な状況にあるため外国人により不足する人材の確保を図るべき産業分野」とされ、業所管官庁と協議して法務大臣が指定するとされています。しかし、2018年2月の経済財政諮問会議の時点では5業種程度が例示されていただけですが、法制定後に閣議決定された基本方針では14業種に膨れあがっており、事実上様々な業界の人手不足の悲鳴をほぼ聴き入れた形となっています。
基本方針に定める受入れ業種:1介護業、2ビルクリーニング業、3素形材産業、4産業機械製造業、5電気・電子情報関連産業、6建設業、7造船・舶用工業、8自動車整備業、9航空業、10宿泊業、11農業、12漁業、13飲食料品製造業、14外食業。
 さらに、受入れ分野における人手不足の状況について継続的に把握し、人手不足でなくなった(言い換えれば、労働力過剰になった)場合には、受入れ方針を見直し、在留資格認定証明書の交付を停止したり、省令から当該分野を削除することも検討するとされています。とはいえ企業にとって、ある程度長期間就労してその企業の仕事に慣れた外国人を解雇して、技能の乏しい日本人失業者を採用することは合理的な行動ではありません。現在の好景気が終了し、日本経済が不況に陥ったときに既に外国人を大量に導入した労働市場で何が起こるのかは、現時点では予測することは困難です。
 また、高賃金を払えない中小零細企業が外国人労働者を最低賃金程度で雇用することで、その分野の労働市場に対して賃金低下の悪影響を及ぼすのではないかという国内労働者の懸念に対応して、省令上「報酬の決定・・・その他の待遇について差別的取扱いをしてはならない」と規定され、外国人の報酬額が日本人が従事する場合の報酬額と同等以上であることが求められています。とはいえ、そもそも日本人労働者が応募しようとしないほどの低賃金だから人手不足に陥っている職種については、これは必ずしも高賃金を保証するものではありません。むしろ、特定業種の特定職種は、外国人労働者に依存する低賃金構造が固定化する可能性もあります。
 法制定後に指摘されるようになったこととして、都会と地方の賃金格差が大きいことの影響があります。日本の最低賃金制度が都道府県別に設定されており、最高の東京都の1時間985円から最低の鹿児島の1時間761円まで約3割もの格差があります。人手不足に悩む地方の中小企業が現地の最低賃金近辺で雇用した特定技能外国人材は、都会に行けばもっと高い賃金が得られると知れば、転職することに躊躇しないでしょう。上記技能実習生と異なり、(人手不足であると認定された)同じ業種の中では転職することに制約はないからです。この問題に対しては、与党自民党の内部から全国一律最低賃金制にする提案が出されてきていますが、厚生労働省の賃金課長が特定技能対象職種については全国一律最低賃金とする私案を提示したところ、大きな波紋を呼び、内閣官房長官が否定するという騒ぎになるなど、この問題の決着の方向は未だ見通せません。

 

 

 

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