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2019年4月13日 (土)

浅尾裕『思考を深める考察術』

C96377a9bdd431544c35181b21459278 浅尾裕『思考を深める考察術』(幻冬舎ルネッサンス新書)をみつけました。

https://www.gentosha-book.com/products/9784344921504/

著者の浅尾裕さんは、

1953年大阪府生まれ。大阪大学経済学部卒業後、1976年労働省(現・厚生労働省)に入省。
2006年同省退職後、独立行政法人労働政策研究・研修機構(研究職)に転職。
2009年7月から2014年3月まで同機構労働政策研究所長を務め、2019年3月に同機構退職。
同機構在勤中は、多様な就業、高年齢者雇用などを中心に労働政策分野の調査研究に従事し、
報告書等多数執筆。「自称『ケインジアン』」を自称。 

と、専門分野は違いますが、私にとっては労働政策研究の先輩に当たります。

ただ本書は、うーむ、なんというのだろう、その専門分野にかかわる章もありますが、ご自分の障害者としての経験からの省察もあり、時事評論(放談?)的なエッセイもあり、いかにも素人ななしろうと歴史談義もありと、まことにバラエティに富んだ内容になっていて、浅尾さんの人格の多面性がよく表れていますね。時事エッセイに対しては、「そうやそうや!」と膝をたたきたくなるところもあれば、「ほんまにそうかいな」と首をかしげるところもあり、人によってさまざまな感想を抱くであろうと思われますが、それはまさに著者の望むところなのでしょう。

Ⅰ 一歩遅れの世の中評論
Ⅱ しろうと歴史談義
Ⅲ はいろうと経済社会談義
Ⅳ 障害者ということ
Ⅴ 駄じゃれまじりに

一点注文を付けておくと、第3章の「はいろうと経済社会談義」の「はいろうと」。これは、自分は「くろうと」と「しろうと」の間の灰色の「はいろうと」だという韜晦なんですが、いやいや、経済系の研究者としてあれだけの報告書をたくさん書いておいて、いまさら「はいろうと」はないでしょう。経済以外の分野の人々から見たら立派な玄人のエコノミスト(官庁エコノミスト→シンクタンクエコノミスト)なんですから、そういう韜晦はいけません。最初見たときは「ハイロード(high road)」と懸けているのかと思いましたが、そうでもないようです。ついでに言うと、「自称ケインジアンを自称」ってのも、世にいんちきケインジアンがあふれているのを皮肉っているんでしょうけど、やっぱり韜晦が過ぎるように思います。

その第3章から、「賃金論議」の興味深かったところを。例の人手不足なのになぜ賃金は上がらないのか論議への一つの視角です。

・・・さて、近年における賃金をめぐる論議に入りましょう。ケインズ先生は、『貨幣改革論』などで労働者はデフレよりもインフレに益されることが多いという方向の論を展開しています。私も、働く人々総体にとってみればその論に賛同しています。しかしながら、自称ケインジアンとしてはあまり書きたくないのですが、働く人々もデフレ(=物価の下落傾向)に利益を感じてしまう場合もあることにも注意しておく必要があると思います。とりわけ、月給制によって賃金の主要部分が固定(保障)されているような、例えば語弊があることを覚悟で言えば、大企業の正社員層にあっては、デフレであることに痛痒を感じないどころかある種の「暮らしやすさ」さえ感じる場合があると思います。したがって、消費者物価が相当程度上昇する局面にならない限り、賃金の本格的な上昇は起こりにくいということになります。私は、このことに労働市場が好転しても、いわゆる「人手不足」の状況があるにもかかわらず、「賃金が<想定通りに>上がらない」ことの根本的な原因があるように思っています。

これは、私は大変納得できる議論です。

 

 

 

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