吉見俊哉編『平成史講義』
吉見俊哉編『平成史講義』(ちくま新書)を、執筆者の一人である本田由紀さんよりお送りいただきました。ありがとうございます。
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480071989/
と、お礼を言った舌の根も乾かぬうちにこういうことを言うのは失礼千万ですが、この本、はっきり言って失敗作だと思います。
平成の三〇年間は、グローバリゼーションの進展の中で、戦後に形成された日本的システムが崩壊していく時代だった。政治、経済、雇用、教育、メディア、防衛―。昭和の時代にはうまく回っていたものがすべて機能不全に陥り、そこから立ち直ろうとする挑戦の失敗と挫折の繰り返しが、平成史を特徴づけている。「平成」という時代を過去に葬り去ることなく、失敗の歴史を総括し、未来への指針を示すために。各分野の第一人者が一〇のテーマで見通す、最もリアルな平成史。
同じちくま新書の『昭和史講義』や『明治史講義』が、筒井清忠さんの下で若手歴史家たちの短い各章が統一感の取れた全体性を示していたのと対照的に、この本はてんでんばらばらの勝手な小論文を寄せ集めたものになっています。
いや、それこそ吉見俊哉先生還暦記念集とかいうなら中身バラバラでもかまわないんですが、少なくともこの内容で『平成史講義』と銘打って出すのは、平成終焉まじかに売らんかなででっち上げたといわれても仕方がないんじゃないでしょうか。
第1講 昭和の終焉
第2講 「改革」の帰結
第3講 官僚制・自治制の閉塞
第4講 会社の行方
第5講 若者の困難・教育の陥穽
第6講 メディアの窮状
第7講 平成リベラルの消長と功罪
第8講 中間層の空洞化
第9講 冷戦の崩壊
第10講 アメリカの後退・日本の漂流
私にお送りいただいた本田由紀さんの「第5講 若者の困難・教育の陥穽」の直前で「第4章 会社の行方」を書いているのは石水喜夫さんです。どちらもちくま新書で本を出しているとはいえ、その教育=労働ネクサスに対する視角はまったく逆向きであることは、彼らの本を少しでも読んでいればわかるはずでしょう。現政権に対するスタンスなどという全く表層的な次元のことは別にして。
各章を読めば読むほど、全体を貫く視角は雲散霧消していき、最後に吉見御大がまとめてくれるのかと思いきや違う方向に行って全部ほったらかし。
でも、逆にあまりにもバラバラな各章のはざまから、この本は失敗作だけれども、そうではないこういう平成史講義という本の作り方はありうるんじゃないか、というそこはかとない感覚がにおい立ってくる面もあったりします。
それはやはり、平成が始まる頃に頂点に達していた、昭和後期に確立した日本型社会システム、その部分システムとしての企業システム、雇用システム、教育システム、政治システム、行政システム等々が、この平成という30年間に、いかに変容しなかったか/したか、という観点から、その入り組んだせめぎあいとして描き出すことができれば、もう少し全体の見通しの良いすっきりした本になりえていたように思うのです。
残念ながら本書は、もっとうまく編集されていればそうなりえていた素材を、そうならなくしてしまった失敗作ですが、しかし逆に言えば、同じテーマの成功作はこう作ればいいのではないかというヒントをいっぱい提供してくれる本であるように思います。
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