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労働者性の問題、団体交渉権の問題

例のコンビニエンスストア店長の労働者性の問題について、中央労働委員会が労働者性を否定する決定を下したという件ですが、

https://www.mhlw.go.jp/churoi/houdou/futou/dl/shiryou-31-0315-2.pdf (ファミリーマート事件)

https://www.mhlw.go.jp/churoi/houdou/futou/dl/shiryou-31-0315-1.pdf (セブンイレブン事件)

まあ、労働者性ありやナシやという法学的な議論を厳密にやれば、こういう結論になる可能性が高いということは想定されていたところです。

一方で、労働者であるかどうかは別として、集団的な形で交渉して物事を決めるという枠組みが不適切なものかそれともむしろ適切なものかという点からすると、コンビニオーナーたちの団体交渉適格性はかなり高いように思われますが、残念ながらそれにふさわしい法的枠組みはないということなのでしょう。

いや実は、一見これにふさわしいように見える法制度はあるのです。経済産業省が所管する中小企業等協同組合法では、事業協同組合等に団体交渉権を認めています。

http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=324AC0000000181#65

第九条の二 事業協同組合及び事業協同小組合は、次の事業の全部又は一部を行うことができる。
六 組合員の経済的地位の改善のためにする団体協約の締結
12 事業協同組合又は事業協同小組合の組合員と取引関係がある事業者(小規模の事業者を除く。)は、その取引条件について事業協同組合又は事業協同小組合の代表者(これらの組合が会員となつている協同組合連合会の代表者を含む。)が政令の定めるところにより団体協約を締結するため交渉をしたい旨を申し出たときは、誠意をもつてその交渉に応ずるものとする。
13 第一項第六号の団体協約は、あらかじめ総会の承認を得て、同号の団体協約であることを明記した書面をもつてすることによつて、その効力を生ずる。
14 第一項第六号の団体協約は、直接に組合員に対してその効力を生ずる。
15 組合員の締結する契約であつて、その内容が第一項第六号の団体協約に定める基準に違反するものについては、その基準に違反する契約の部分は、その基準によつて契約したものとみなす。

(あつせん又は調停)
第九条の二の二 前条第十二項の交渉の当事者の双方又は一方は、当該交渉ができないとき又は団体協約の内容につき協議が調わないときは、行政庁に対し、そのあつせん又は調停を申請することができる。
2 行政庁は、前項の申請があつた場合において経済取引の公正を確保するため必要があると認めるときは、すみやかにあつせん又は調停を行うものとする。
3 行政庁は、前項の規定により調停を行う場合においては、調停案を作成してこれを関係当事者に示しその受諾を勧告するとともに、その調停案を理由を付して公表することができる。
4 行政庁は、前二項のあつせん又は調停については、中小企業政策審議会又は都道府県中小企業調停審議会に諮問しなければならない。

ただ、労働組合法上、労働組合というのは全く自由に結成することができ、許可だの認可だのは一切必要はなく、勝手に労働組合を作って団体交渉を要求すれば、彼らが労働組合法上の労働者である限り、相手方はそれに応じなければいけませんが、この中小企業協同組合法では、この団体交渉権その他を得るためには、行政庁の設立の認可を受けなければなりません。

(設立の認可)
第二十七条の二 発起人は、創立総会終了後遅滞なく、定款並びに事業計画、役員の氏名及び住所その他必要な事項を記載した書面を、主務省令で定めるところにより、行政庁に提出して、設立の認可を受けなければならない。

労働者性の議論をぎりぎりやっていくという方向も重要ですが、労働者であるか否かを超えて、社会的にある種の集団的«労使»関係の枠組みで物事を解決していくような枠組みをいかに広く作っていくかという観点も同時に必要になっていくように思われます。

11021851_5bdc1e379a12a (参考)

『日本の労働法政策』

第3部 労働条件法政策
第7章 非雇用労働の法政策
第2節 その他の非雇用労働者への法政策

3 協同組合の団体協約締結権*21

 労働組合法上の「労働者」は「賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」とされており、労働基準法上の「使用される者で、賃金を支払われる者」よりもやや広くなっている。実際に、プロ野球選手や建設業の一人親方の労働組合も存在する。
 しかし、それだけではなく、法制的には明らかな自営業者に対しても、日本の法制は既に集団的労使関係システムに類似した法制度を用意している。すなわち、各種協同組合法は組合員の経済的地位の改善のためにする団体協約の締結を各種組合の事業として挙げ、しかもこれに相手方の交渉応諾義務や団体協約の規範的効力、行政庁による介入規定などが付随している。
 このうち、特に労働者との連続性の強い商工業の自営業者を対象とした中小企業等協同組合法についてみると、1949年7月の制定時に既に事業協同組合の事業として「組合員の経済的地位の改善のためにする団体協約の締結」(第70条第1項第5号)を挙げ、この「団体協約は、あらかじめ総会の承認を得て、同項同号の団体協約であることを明記した書面をもつてすることによつて、その効力を生」じ(同条第4項)、「直接に組合員に対して効力を生ずる」(同条第5項)とともに、「組合員の締結する契約でその内容が第一項第五号の団体協約に定める規準に違反するものについては、その規準に違反する契約の部分は、その規準によつて契約したものとみなす」(同条第6項)とその規範的効力まで規定した。これらは協同組合連合会の締結する団体協約についても同様である。
 これら規定は1955年改正で第9条の2に移されたが、その後1957年改正で団体交渉権の規定が設けられた。すなわち、「事業協同組合又は事業協同小組合の組合員と取引関係がある事業者(小規模の事業者を除く)は、その取引条件について事業協同組合又は事業協同小組合の代表者(これらの組合が会員となつている協同組合連合会の代表者を含む)が政令の定めるところにより団体協約を締結するため交渉をしたい旨を申し出たときは、誠意をもつてその交渉に応ずるものとする」(第9条の2第5項、現第12項)とされており、この「誠意をもつて」とは、下記商工組合について「正当な理由がない限り、その交渉に応じなければならない」と規定しているのと同趣旨と解されている。
 さらに同改正によって斡旋・調停の規定も設けられた。すなわち、「交渉の当事者の双方又は一方は、当該交渉ができないとき又は団体協約の内容につき協議が整わないときは、行政庁に対し、そのあつせん又は調停を申請することができ」(第9条の2の2第1項)、「行政庁は、前項の申請があつた場合において経済取引の公正を確保するため必要があると認めるときは、速やかにあつせん又は調整を行」い(同条第2項)、その際「調停案を作成してこれを関係当事者に示しその受諾を勧告するとともに、その調停案を理由を附して公表することができる」(同条第3項)。
 なお、これら改正と同時に中小企業団体の組織に関する法律が制定され、商工組合及び商工組合連合会に組合協約締結権が認められ(第17条第4項)、商工組合の組合員と取引関係にある事業者等は「正当な理由がない限りその交渉に応じなければならない」(第29条第1項)。もっとも組合協約は「主務大臣の認可を受けなければその効力を生じ」ず(第28条第1項)、また主務大臣は商工組合又はその交渉の相手方に対し、組合協約の締結に関し必要な勧告をすることができる」(第30条)と、行政介入が強化されている。商工組合等に関しては、1999年に中小企業の事業活動の活性化等のための中小企業関係法律の一部を改正する法律によって組合協約関係の規定がばっさりと削られ、上記事業協同組合の規定を準用する(第17条第7項)という形になった。
 なおこの外に、自営業者の団体による団体協約の締結を規定している法律としては、1947年の農業協同組合法(組合員の経済的地位の改善のためにする団体協約の締結、規範的効力あり)、1948年の水産業協同組合法(同前)、1954年の酪農及び肉用牛生産の振興に関する法律(規範的効力の規定なし)、同年の輸出水産業の振興に関する法律(規範的効力あり)、1957年の内航海運組合法(認可制、規範的効力あり)、1978年の森林組合法(規範的効力あり)がある。
 ちなみに、こういった自営業者よりも実態としては労働者に近いはずの家内労働者については、家内労働法において特に団体協約締結権の規定は置かれていない。なまじ、労働法制の枠組みの中におかれると、かえって柔軟な対応は困難になるように見える。もっとも、かつての社会党の法案には家内労働者組合と委託者との団体協約の規範的効力や、斡旋、調停、委託者の不当行為に対する命令といった規定が盛り込まれていた。

(参考)

https://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2017/0809/007-009.pdf (基調報告 日本的柔軟性からデジタル柔軟性へ(『ビジネス・レーバー・トレンド』2017年8・9月号))

集団的“労使”関係の再認識

 最後に、一つ指摘しておきたいのは、集団的労使関係 の意義を、再認識する必要があるのではないかという ことです。自営業(雇用類似の働き方)は、法的には 厳密な意味で労使関係はないわけです。しかし、エン プロイヤーではなくても、使う側、ユーザーというの はあるわけですし、エンプロイーではなくても、労務 を提供する人、ワーカーはいるわけです。事実上、労 使関係に近い社会関係が存在するはずです。

 そうすると、こうした人々にどういうルールを設定 するか。そして、そのルールをどのように実施していくかについて、これを労使関係といっていいのか、わ かりませんが、集団的な労使関係を活用できるかどう かが、今後の課題になるのではないでしょうか。集団 的といっても大きく2種類あり、一つは、労働組合タ イプの結社型の集団性、もう一つは労使協議会タイプ の機関的な集団性。これを組み合わせながら、解決の 方向性を考えていく必要があるのではないかと考えて おります。

 日本には労働組合法があり、そこで労働組合は労働 協約を締結することができますが、実はそれだけでは なく、六法全書の経済法のところに中小企業協同組合 があり、それを見ると、多くの方はご存じないかもし れませんが、協同組合も自分たちのメンバーのために 交渉をし、団体協約を締結する権利があると書かれて います。

 いわゆる独禁法などの競争法との関係をどう整理す るか。労働者の外縁にあるような人々を集団的な枠組 みでどのように対応していくかを考える上で、拠り所 になる法制度があるのかもしれない。若干トリビアル な知識を提供させていただいて、私の基調報告にした いと思います。

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