『「独立自営業者」の就業実態』
JILPTの調査シリーズNo.187『「独立自営業者」の就業実態』がようやく刊行されました。西村純、前浦穂高両研究員による労作です。
https://www.jil.go.jp/institute/research/2019/187.html
ようやく、というのは、厚生労働省の検討会での報告や概要の記者発表からほぼ1年たったからで、皆さん覚えていますかね?
ただそれだけに、結構分厚く、中身の多い報告書になっています。
主な事実発見
- 仕事の受注方法について見てみると、対象サンプル全体では「自分で営業活動をして」、「現在の取引先から声がかかった」、「知人・親戚等から紹介された」が上位の三つに挙げられている。仕事別に見てみると「デザイン・映像製作関連」は、上位三つの方法によって仕事を受注していると答えた割合がいずれの場合であっても最も高い。また、仕事別に見た場合の受注方法の特徴として、「事務関連」は他の仕事に比べるとクラウドソーシングの会社や仲介企業などの仲介組織を活用している傾向が窺われる(図表1)。
図表1 受注方法(仕事別)
注1)無回答144サンプル(2.3%)については、図表に表記していない。
注2)一般消費者のみに対して業務やサービスを提供していた者を除く6,329サンプルが対象。
- 作業内容や範囲に関する取引先からの指示の有無について見てみると、対象サンプル全体としては、6割弱が指示を受けていない傾向にある(「全く指示されなかった」と「あまり指示されなかった」の合計:図表2)。この点について主な仕事別に見てみると、六つの仕事の中でより指示を受けない傾向にあるのは、「専門業務関連」であり、一方、指示を受ける傾向にあるのは、「事務関連」、「デザイン・映像製作関連」、「IT関連」となっている。
図表2 作業内容・範囲に関する取引先からの指示の頻度(仕事別)
注)一般消費者のみに対して業務やサービスを提供していた者を除く6,329サンプルが対象。
- 取引社数は、「1社」と「2~4社」の割合が高かった。「独立自営業者」は、多数の企業と取引するというよりは、特定の企業と取引をしていることが窺われる(図表3)。
図表3 取引社数(仕事別)
注)一般消費者のみに対して業務やサービスを提供していた者を除く6,329サンプルが対象。
- 1年間の報酬総額について見てみると、200万円未満の割合が6割を超えている。仕事別に見ると、特に「事務関連」が低い。専業/兼業別に見ると、「兼業(独立自営業が副業)」は、専業や兼業(独立自営業が本業)に比べると、報酬総額が低い傾向にある。
- 「独立自営業者」になった理由の上位三つは、「自分のペースで働く時間を決めることができると思ったから」、「収入を増やしたかったから」、「自分の夢の実現やキャリアアップのため」となっている。この点について専業と兼業別に見てみると、「専業」と「兼業(独立自営業が本業)」は、「自分のペースで働く時間を決めることができると思ったから」が最も多かった回答で、「兼業(独立自営業が副業)」は、「収入を増やしたかったから」が最も多かった回答となっている。
- 今後(約3年後)のキャリア展望について見てみると、「独立自営業者としての仕事を専業とする」の割合が最も高く、これに「独立自営業者の仕事を兼業とする」、「分からない」が続く。「独立自営業者」を辞めようと考えている者は、1割未満となっている。専業/兼業別に今後のキャリア展望について見てみると、独立自営業が本業の兼業「独立自営業者」の中には、将来的に専業「独立自営業者」への移行を考えている者が一定数存在している(「兼業(独立自営業が本業)」33.5%:図表4)。
図表4 今後(約3年後)のキャリア展望のまとめ
- 専業「独立自営業者」の「独立自営業者」になる前のキャリアを見てみると、雇用労働者であった者が多いことが窺われる。「正社員・正規職員」と答えた者は、6割を超えており、「非正規雇用・非正規職員」と併せると8割弱に上る。
- 「独立自営業者」として必要なスキルを身につけた場所について見てみると、上位三つは、「会社(以前の会社を含め)での経験、研修及び勉強会」、「特にない」、「関連書籍等を使って自学自習」となっている。
- サンプル全体の傾向として約半数の者はトラブルを経験していない。仕事別の傾向を見てみると、「事務関連」は、六つの仕事の中ではトラブルを経験している傾向がある。一方、トラブルを経験しない仕事としては、「専門業務関連」が挙げられる。
- 2017年にトラブルを経験したサンプル全体の傾向として、「作業内容・範囲についてもめた」、「仕様を一方的に変更された」、「一方的に作業期間・納品日を変更された」が経験したトラブルの上位三つとなっている。
- トラブル解決の困難さについて確認すると、2017年にトラブルを経験した者のうち、「全て解決した」が6割以上のトラブルは、「作業内容・範囲についてもめた」、「一方的に作業期間・納品日を変更された」、「報酬の支払いが遅れた・期日に支払われなかった」、「予定外の経費負担を求められた」となっている。逆に「全て解決した」が4割以下のものは、「報酬が支払われなかった・一方的に減額された」、「自分の案が無断で使われた」、「セクハラ・パワハラ等の嫌がらせを受けた」となっている。
- 「独立自営業者」を続ける上での問題点について確認してみると、サンプル全体で上位に挙げられている三つは、「収入が不安定、低い」、「仕事を失った時の失業保険のようなものがない」、「仕事が原因で怪我や病気をした時の労災保険のようなものがない」となっている。
- 整備・充実を望む保護施策について、サンプル全体のニーズを見てみると、上位三つは、「特に必要な事柄はない」、「取引相手との契約内容の書面化の義務付け」、「トラブルがあった場合に、相談できる窓口や僅かな費用で解決できる制度」となっている(図表5)。
図表5 整備・充実を求める保護施策(MA)(仕事別)(列%)
- 労働法上の「労働者」の判断基準を参考にスコア(「労働者性スコア」)を算出し、その働き方別に「独立自営業者」の特徴を確認すると、働き方が労働者に近い(「労働者性スコア」が高い)と思われる「独立自営業者」は、そうではない働き方の「独立自営業者」に比べると、次のような特徴を持っていることが窺われる。すなわち、「中・高卒」が多く、「生活関連サービス、理容・美容」や「現場作業関連」の仕事に携わっており、収入アップを目的として「独立自営業者」という働き方を選択しているケースが多い。そうした働き方が労働者に近い「独立自営業者」は、他の者でも代替可能な業務を提供していることが窺われる。そのような業務の提供に必要なスキルは、自然に身につけたか、もしくは、企業内での訓練や高校、専門学校、大学などの教育機関で身につけている場合が多い。
- 本調査結果より、サンプル全体の「独立自営業者」と比較した際の「クラウドワーカー」の特徴として、次のような点が浮かび上がってくる。すなわち、女性が多く、主たる生計の担い手ではない者が多い。兼業として「独立自営業者」の仕事に携わっている者が多い。従事している主な仕事は、「事務関連」が多く、収入アップを目的として「独立自営業者」という働き方を選択している。そうした「クラウドワーカー」は、他の人でもできるような業務を提供している。取引先から作業場所や作業時間についての指示は受けないが、作業内容や進め方については指示を受ける傾向がある。このような特徴を持つ業務の提供に必要なスキルは、自然に身につけている場合が多いようである。
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