『21世紀前半期の年金と雇用』
年金シニアプラン総合研究機構から『21世紀前半期の年金と雇用』という報告書が先月出されていたようです。
https://www.nensoken.or.jp/wp-content/uploads/H_30_03.pdf
急速な少子高齢化の進展により、若年・熟年層の労働力人口が減少している。これを補うためには、女性とならび高齢者の就労促進を本格的に進めなくてはならない。他方、公的年金制度の持続可能性を維持するためには、年金制度における就業インセンティブの強化を積極的に図る必要がある。すなわち、就業インセンティブの強化と、量質伴った高齢者の雇用確保、所得保障、中年期以降における能力開発などを統合した政策プランを早期に構築・推進することが重要である。 公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構では、2015年8月、こうした問題意識を共有するメンバーからなる研究会を組織し、今後の高齢者の雇用促進方策、高齢者の雇用促進と整合的な年金制度のあり方につき、2年半にわたり21回の研究会を開催し、このたび報告書をとりまとめた。多くの論点に関し活発な議論を交わしてきたが、最終的に、まとまった結論を出すことなく終えることになった。しかし、日本の少子高齢化の急進展に即し、雇用制度・政策、年金制度・政策のあり方について多様な論点を提示することができたと考えている。
実質的には次のような人々による論文集ですが、
西村周三、岩田克彦、小峰隆夫、中井雅之、高山憲之、白石浩介、久保知行、小野正昭、駒村康平、西村淳、堀江奈保子、八代尚宏、福山圭一
このうち、特に第2章の3つの論文が、日本型雇用システムと高齢者雇用というテーマを取り扱っています。
第2部 日本的雇用システムと高齢者雇用
第3章 日本型雇用慣行と高齢者雇用 小峰隆夫
第4章 日本的雇用システムにおける高齢者雇用と今後の高齢者雇用のあり方 中井雅之
第5 章 生涯就業をめざした日本の生涯学習及び職業教育訓練の課題 岩田克彦
これら論文の要旨を、岩田さんによる概要紹介から紹介しておきます。
第 2 部では、日本的雇用システムの今後の変化のあり方と高齢者雇用をテーマに、3 つの 論考を収録した。小峰が、同一労働同一賃金の実現等を通じた「メンバーシップ型からジョ ブ型への転換」等日本的雇用システムの見直しが急がれるとするのに対し、中井はこれまで の対応や労働現場の制度運用を踏まえ、漸進的な変化が必要と論ずる。岩田は、急速な高齢 化を迎え、日本的雇用システムの変化を踏まえた生涯就業の実現が必要とし、そのための施 策を、生涯学習政策及び教育訓練政策を中心に整理している。
第 3 章で、小峰隆夫(大正大学)が、「日本型雇用慣行と高齢者雇用」と題し、日本型雇 用慣行の特徴(メンバーシップ型で、社会の革新者であるべき若年層もまたメンバーシップ 型雇用を支持しているのだから、その改革は非常に難しいとする。)を論じた後、人口オーナ ス(生産年齢人口が絶対数でも人口比でも減少して行く人口構造を有する)の時代での女性 や高齢者の動員で対応できた第1期は限界に近付いており、人口オーナス第2期では、効率 性向上型による労働力生産性の向上が必須で、それが実現できるような働き方改革を進めて いくべきだとする。最後に、よりジョブ型に向けて日本的雇用システムを変えていくために、 同一労働同一賃金が働き方改革の切り札になるのではないかと指摘する。
第 4 章で、中井雅之(厚生労働省)が、「日本的雇用システムにおける高齢者雇用と今後 の高齢者雇用のあり方」と題し、日本的雇用システムとの関係を整理しながら、高齢者雇用 の現状と課題、今後の方向性について検討している。中井は、これまでの高齢者雇用対策は、 日本的雇用システムと整合性を図りつつ、可能な限り継続雇用を促進する方向で推進された 現実的な対応であり、一定の成果を挙げてきたが、今後については、安倍政権が進めている 「働き方改革」の必要性からも分かるように、均質な労働力から多様な労働力へと労働市場 の構造変化が進む中、仕事に人を合わせるのではなく、人に仕事を合わせることが求められ ており、従来型の日本的雇用システムを維持することは困難になっていると論ずる。但し、 労働現場の制度運用を考えた場合、日本的雇用システムの変化はドラスティックではなく、 漸進的な変化が必要だとし、多様な労働力が多様な就業形態で能力を発揮できる環境整備に 向けた政策的支援が求められている、とする。
第 5 章で、岩田克彦(ダイバーシティ就労支援機構)が、「生涯就業をめざした日本の生 涯学習及び職業教育訓練の課題」と題し、欧州諸国と比較しつつ、生涯就業をめざした日本 の生涯学習および職業教育訓練の課題を整理している。日本の雇用システムも、従来型の「メ ンバーシップ型」から「ジョブ型」の要素を強めていかなければならないとし、そのために は、従来の日本型フレクシキュリティ(労働者活用の柔軟性と雇用・所得の安定性の両立)・ モデルから新たな日本型フレクシキュリティ・モデルに移行していく必要があり、生涯学習・ 生涯就業を目指し年齢別重点課題に積極的に取り組むべしと論ずる。そして、とりわけ、職 業教育訓練の強化が重要とし、資格制度全体の一貫性と比較可能性を強化し、教育界・企業・ 労働市場関連機関が実施している教育・訓練と資格制度の連動を図る資格枠組み(資格レベ ルの物差し)を日本でも早期に導入すべきである、とする。
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