« 佐藤俊樹『社会科学と因果分析』 | トップページ | スティーブン・K・ヴォーゲル『日本経済のマーケットデザイン』 »

梅崎修・田澤実編著『大学生の内定獲得』

9784588686085_0
梅崎修・田澤実編著『大学生の内定獲得』(法政大学出版局)をお送りいただきました。ありがとうございます。これは、法政大学キャリアデザイン学部とマイナビの産学連携調査プロジェクトの研究成果で、ジャーナリスティックな関心を社会科学的な分析手法とみごとに結合させている、一つの成果だと思います。

http://www.h-up.com/books/isbn978-4-588-68608-5.html

現代日本の大学生たちは、就職市場でどのように内定を獲得しているのか? キャリア教育に携わる大学の教職員・実務者や学生自身の家族も含めた、就活に関わる支援者たちの関与に注目しつつ、日本全国の大学生のデータを多面的に分析する実証的研究。法政大学キャリアデザイン学部の教員と株式会社マイナビによる、産学連携調査プロジェクトの画期的な研究成果。企業人事関係者にも推奨。

編者の梅崎さんと田沢さんが全ての章を執筆し、児美川孝一郎さんなど何人かがいくつかの章に加わっています。詳細目次は下の方にありますが、それよりもむしろ、序章に並んでいる分析結果の方が、本書の狙いをよく示しています。

内定獲得に有効な要因

→大学教員と交流の機会を多く持つこと(その他私立大の学生の場合)

→大学院に進学すること(理系の場合)

→就職活動で疲弊した子供をリラックスさせ、また送り出すようなベースとしての機能を親が持つこと

→共働きを希望すること(国公立大学の男子学生の場合)

内定獲得に有効と言えない要因

→実名制SNSの利用

→大学院に進学すること(文系の場合)

これを見ると、同じ「大学院に進学すること」が、理系と文系で全く逆の効果をもっていますね。

そこで、第5章「大学院進学は内定獲得を促すか?」を見ると、その結語のところにこう書かれています。

・・・内々定の獲得において、文系大学生と比較した場合、理系大学院生の優位と文系大学院生の劣位が明らかになった。初職の獲得における優位性は、理系大学院」>理系大学・文系大学>文系大学院という順番になる。

・・・本研究の主要な成果は、(文系大学と比較した場合)理系大学院に就職プレミアムがあり、文系大学院のそれは負であるという、ある意味ショッキングなものである。・・・

キャリア形成の重要な起点となる条件のよい初職が獲得できないことで、その後のキャリア(特に賃金)において、文系大学院教育の収益が投資に見合わないという事態が社会的に発生しかねない。また、条件の良くない職の獲得は教育過剰に繋がり、学歴と職のミスマッチが生産性にロスを生むことになる。・・・

もっともその最後のパラグラフで、慎重にこういう留保も付けています。

・・・ただし、学歴変数の内生性に十分に対処できていないという本研究の限界を考えれば、以上の議論には労働供給の側面からも言及・留保が必要であろう。文系と理系で大学院進学のセレクション構造が異なっているとすれば、4グループ(文系大学、文系大学院、理系大学、理系大学院)間の平均的能力にはかなりの差が生じる可能性もある。この場合、文系大学院卒のペナルティと理系大学院卒のプレミアムは、個人の能力差と選択の結果を反映したものとなり、労働供給側の要因も無視できないことになる。・・・

このアカデミックな表現を下世話な表現に翻訳すると、理系は優秀な学生ほど大学院に進学するが、文系では優秀な学生ほど学部卒で就職するので、文系大学院卒のペナルティは文系なのに大学院なんかに進学するような優秀でない素材への評価かもしれないということですね。

序章 大学生の内定獲得に対するアプローチ
 1 はじめに
 2 本書の構成
 3 支援の現場に向けて
 4 本書を読み進める中での注意

第Ⅰ部 就職活動支援編

第1章 学生の就職意識はどのように変化したのか?
 1 問題の所在
 2 環境要因の変遷
 3 分析に使用するデータ
 4 学生の就職意識の変化
 5 結語

第2章 就職活動時における過去の回顧と未来の展望
 1 問題の所在
 2 方法
 3 結果と考察
 4 総合考察

第3章 SNSは内定獲得に役立つのか?
 1 問題の所在
 2 先行研究
 3 分析に使用するデータ
 4 実証分析
 5 結語

第4章 教員の就職活動へのかかわり方
 1 問題の所在
 2 先行研究
 3 分析に使用するデータ
 4 実証分析
 5 結語

第5章 大学院進学は内定獲得を促すか?
 1 問題の所在
 2 先行研究
 3 新規大学院卒労働市場とは
 4 分析に使用するデータ
 5 実証分析
 6 結語

第Ⅱ部 家族・きょうだい・地元編

第6章 就職活動中の親子関係
 1 問題の所在
 2 先行研究の整理
 3 理論的枠組みと本章の仮説
 4 量的調査
 5 考察
 6 結語

第7章 学生は親とのかかわりに満足しているのか?
 1 問題の所在
 2 方法
 3 結果と考察
 4 総合考察

第8章 地元志向が就職活動に与える影響
 1 問題の所在
 2 方法
 3 結果と考察
 4 総合考察

第9章 きょうだい出生順と地域移動の希望
 1 問題の所在
 2 先行研究
 3 方法
 4 分析結果
 5 考察
 6 結語

第10章 結婚観が方向づける学生の就職活動
 1 問題の所在
 2 先行研究
 3 分析に使用するデータ
 4 性別で見た結婚に対する希望
 5 就職活動への影響

結 語

あとがき
初出一覧
索 引

|

« 佐藤俊樹『社会科学と因果分析』 | トップページ | スティーブン・K・ヴォーゲル『日本経済のマーケットデザイン』 »

コメント

>理系は優秀な学生ほど大学院に進学するが、文系では優秀な学生ほど学部卒で就職するので、文系大学院卒のペナルティは文系なのに大学院なんかに進学するような優秀でない素材への評価かもしれない

まあ、こんなことはみんな直感的には分かっていた話ではありますけどね。文系大学院が社会不適合者の収容所であるなどということは(理系大学院生が社会に適合できているとは言っていない)。

昔から私大の文系大学院が就職できない、したくない人間の吹き溜まりであったのは事実でしょうし、それでも後で高校や予備校の先生、地方自治体の職員などにある程度吸収できてはいた。しかし社会経済の変動で出口が揺らぎ、にもかかわらず大学院が肥大化して生態系が崩れてしまった。

結局日本の社会経済の状況に応じた教育システムの再構築が必要であって、そこに大学院をどのように位置づけるかというビジョンが必要なのでしょう。

にもかかわらず、日本の博士課程の人数が欧米の数分の一なのは問題だとかいう愚にもつかない議論がいまだに横行しているのには呆れるばかりです。国ごとに社会経済の構造や教育システムの在り方は異なる。アメリカは学部で専門教育をしないため、アメリカの博士課程は日本の修士課程に対応している。単純に数を比較できるものではない。

日本の実情に応じた地に足のついた議論がなされることを願ってやみません。

投稿: 通りすがり2号 | 2019年2月 4日 (月) 21時27分

“内生性に十分に対処できていない”
“共働きを希望すること(国公立大学の男子学生の場合)”

これなんか、特にそうですけど、相関は見出されたが、原因とはとても言えないですからね。
如何なる機構が、これらの相関を発生させているのか、というのが、興味深い論点でしょう。

投稿: いぞねす | 2019年2月 4日 (月) 21時45分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 梅崎修・田澤実編著『大学生の内定獲得』:

« 佐藤俊樹『社会科学と因果分析』 | トップページ | スティーブン・K・ヴォーゲル『日本経済のマーケットデザイン』 »