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2019年2月21日 (木)

「公立学校教師の労働時間規制」@『労基旬報』2019年2月25日号

『労基旬報』2019年2月25日号に「公立学校教師の労働時間規制」を寄稿しました。

いろんな論じ方のあり得るテーマですが、ここではかなり徹底的にガチ法律論として論じています。

 2017年3月の『働き方改革実行計画』に基づいて、2018年6月に働き方改革関連法が成立し、労働基準法上に初めて時間外労働の絶対的上限規制が設けられました。しかし、そこには建設業や自動車運転業務などいくつもの例外があり、とりわけ医師については厚生労働省医政局に「医師の働き方改革に関する検討会」を設置して、非常に長い時間外労働の上限を検討していることが報じられています。

 これに対して、近年やはりその長時間労働が社会問題となってきた学校教師については、働き方改革実行計画でも働き方改革関連法でも全く触れられていません。しかし、2017年7月に文部科学省の中央教育審議会に「学校における働き方改革特別部会」が設けられ、約1年半にわたる審議の末、去る2019年1月25日に「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について」を答申するとともに、文部科学省は「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」を公表し、学校における働き方改革推進本部が設置されました。この答申は膨大なものですが、今回は学校教師の労働時間規制のいささか複雑な仕組みに焦点を当てて解説したいと思います。

 まずもって、多くの教育関係者にも誤解があるようですが、「教師」という職種のみに着目した労働時間の特例は存在しません。制度上特別扱いがあるのは公務員たる教師のみであり、現在は公立学校教員のみです。一貫して民間労働者であった私立学校教員はもとより、2004年から非公務員型独立行政法人になった国立学校の教員も、労働基準法がフルに適用され、従って36協定も時間外・休日労働に対する割増賃金も、さらに2018年改正による時間外労働の上限規制も、全くそのまま適用されます。ところが非常に多くの私立学校では後述の給特法類似の仕組みを実施しているようですが、いうまでもなくそれは違法であり、労働基準監督官による摘発の対象となります。

 公立学校教員の特例も、基本的にはまず地方公務員であることによるものです。ここも誤解している人がいますが、労働基準法は地方公務員にも原則的に適用されます。地方公務員法第58条の定めるその適用の仕方が複雑なのですが、いわゆる現業(地方公営企業)がほぼフル適用であるのに対し、病院や学校を含むいわゆる非現業は、労使協定を要件とする規定、すなわち(1か月単位を除く)変形労働時間制、フレックスタイム制、裁量労働制、2018年改正で導入された高度プロフェッショナル制が適用除外です。これは、労使対等決定原則を定めた第2条を適用除外していることに基づくもので、もっぱら集団的労使関係法制の観点からのものだとされています。確かに、就業規則で実施できる1か月単位の変形制は適用されています。ところが、それでは説明が付かないのが、肝心の第36条が適用除外になっていないことです。純粋の非現業である官公署については制定当時から、第33条第3項で公務のための臨時の必要がある場合には協定なしに時間外・休日労働が可能ですが、病院や学校では(第33条第1項の災害等の場合でない限り)36協定を結ばなければできないはずです。病院は長くここを、労働基準法施行規則第23条の宿日直と称することでやりくりしてきましたが、近年それが監視断続労働の要件に合わないとして批判を浴びたことは周知の通りです。

 そして、公立学校教師にも第32条と第37条は(少なくとも地方公務員法上は)フル適用です。公務として時間外・休日労働を命じておいて時間外・休日割増賃金を払わなければ労働基準法違反です。もっとも、いわゆる非現業の大部分については、労働基準監督機関の権限(第102条)も適用除外となっています。労働基準法違反を摘発するのは、人事委員会又はその委任を受けた委員、人事委員会がない地方公共団体ではその長(知事や市長)で、「自分で自分を監督するという、労働基準監督システムとしてはいかにも奇妙な制度」(拙著『日本の労働法政策』)なのです。

 ところが、ここでさらに複雑なのは、いわゆる非現業の一部についてはこの奇妙な制度ではなく、素直に労働基準監督機関が監督することになっていることです。例えば公立病院の場合は、地方公務員たる医師に関して、労働基準監督官が臨検して、法違反を摘発し、場合によっては送検することが可能です。これまで問題が表面化しなかった医師の長時間労働が、働き方改革の中で検討されるに至った一つの背景には、この監督権限の所在があります。ところが、公立学校の教師の場合、法違反を摘発するのは使用者の身内ないし本人であって、とても機能するとは思えません。

 ここから給特法の立法経緯に入っていきます。一般公務員より若干高い給与を払う代わりに超過勤務手当を支給しないというのは、1948年の公務員給与制度改革以来の発想です。しかし労働基準法第37条はフルに適用されるのですから、1949年の文部事務次官通達「教員の勤務時間について」(昭和24年2月5日発学第46号)は、「勤務の態様が区々で学校外で勤務する場合等は学校の長が監督することは実際上困難であるので原則として超過勤務は命じないこと」と述べていました。しかし、実態としては時間外労働が多く行われていたため、1960年代後半に超過勤務手当の支給を求めるいわゆる「超勤訴訟」が全国一斉に提起され、下級審で時間外手当の支給を認める判決が続出し、1972年の最高裁判決がそれを確認しました。

 この動きに対応すべく1971年5月に立法されたのが、国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(いわゆる「給特法」。後に国立学校が外れる。)です。これにより給与月額の4%の教職調整額が支給されるとともに、労働基準法第37条が(法文上で)適用除外されました。併せて、上記第33条第3項の「公務のための臨時の必要がある場合」に36協定なしに時間外・休日労働可能という規定も官公署並みに適用することとしたのです。そして、「正規の勤務時間をこえて勤務させる場合は、文部大臣が人事院と協議して定める場合に限るものとする。この場合においては、教育職員の健康と福祉を害することとならないよう勤務の実情について充分な配慮がされなければならない」という条文が設けられ、その「場合」は政令でいわゆる超勤4項目とされました。具体的には①生徒の実習、②学校行事、③職員会議、④非常災害、児童生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合等です。

 ところが、公立学校教師の長時間労働は悪化の一途をたどっています。その大部分はクラス担任や部活動担当に伴うもので、超勤4項目に含まれない「自発的勤務」とされ、裁判例(札幌高裁平19.9.27)もそれを容認しています。しかし、実態としてはそれなしには学校運営が成り立たない状況にもかかわらず、引き受けた教師の自発的活動ゆえ公務ではないので公務災害補償の対象にもならないという理不尽なことになってしまいます。

 さらに、一般の働き方改革の一環として、労働安全衛生法上に労働時間の適正把握義務(第66条の8の3)が規定され、これは地方公務員にもフルに適用されます。ただし、官公署と公立学校は例によって身内ないし本人が監督するという仕組みです。とはいえ、働き方改革が国政の重要課題となる中、監督署に臨検される恐れがないから労働時間の把握もしませんというわけにはいきません。遂に文部科学省も教員の働き方改革に踏み出さざるを得なくなったわけです。

 ただ、なまじ給特法で時間外・休日労働が第36条や第37条の違反にならないような仕組みにしてしまったために、それをどうするかが悩ましい問題となります。素直に考えれば、「給特法を見直した上で、36協定の締結や超勤4項目以外の「自発的勤務」も含む労働時間の上限設定、全ての校内勤務に対する時間外勤務手当などの支払」を原則とするところから始めるべきことになりますが、答申はそれを是としません。あくまでも給特法の基本的枠組みを前提として、「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」でもって在校時間等の縮減に取組むというスタンスです。

 この「ガイドライン」は、超勤4項目以外の自発的勤務を行う時間も含めて、在校時間プラス児童生徒の引率等校外勤務時間(在校時間等)の上限の目安を示すもので、1か月45時間、1年360時間、特例で年720時間、その場合1か月100時間未満など、基本的に2018年改正労働基準法に沿っています。ただし、在校時間自体が法的概念ではなく、ガイドラインも法的拘束力はありません。教育委員会はそれぞれガイドラインを参考にして方針を策定し、業務の役割分担や適正化、必要な環境整備に取り組むこととされています。

 では労働時間規制については何もしないのかというと、やや唐突に1年単位の変形労働時間制の導入が打ち出されています。学校には夏休みなど児童生徒の長期休業期間がある一方、学期末・学年末には成績処理や指導要録記入で忙しく、また学校行事や部活動の試合の時期も長時間勤務になりがちなので、年間を通した業務のあり方に着目して検討しようというわけです。その発想自体は「ありうる」とは思われますが、残念ながら現行地方公務員法は1年単位の変形制を適用除外しています。答申は「当時において地方公務員の業務においてあらかじめ繁閑が生じるものが想定されなかったことにより適用されなかった取扱いが、現在も引き続いているもの」と説明していますが、これはウソです。地方公務員法の解説書に、はっきりと「労使協定による・・・規定は適用されない」と書かれています。だからこそ、就業規則で可能な1か月単位の変形制は適用されるのです。より細かく言えば、1998年改正で1か月単位の変形制は労使協定又は就業規則で導入することとされましたが、このとき地方公務員法第58条に第4項を追加し、読み替え規定でわざわざ労使協定の部分を削って就業規則で導入する部分だけ残したのです。そのくせ36協定は堂々と残っているのですから首尾一貫していないのですが、少なくとも地方公務員法制としては労使協定を前提とした制度を地方公務員たる公立学校教師にだけ適用するというのは難しそうです。

 答申は「地方公務員のうち教師については、地方公共団体の条例やそれに基づく規則等に基づき、1年単位の変形労働時間制を適用することができるよう法制度上措置すべきである」と述べていますが、1か月単位変形制と違って1年単位変形制は労働基準法上労使協定のみであって就業規則という途はないので、それを実現するためには労働基準法第32条の4を改正し、労使協定なしに1年単位変形制を導入できる根拠規定を設けなければなりません。地方公務員法や給特法は、労基法の規定を適用除外することはできても、労基法にない規定を勝手に作ることはできないからです。ところが、1か月単位変形制はもともと就業規則で導入可能だったから労使協定との選択制にするのは可能でしたが、もともと労使協定が要件の1年単位変形制を就業規則との選択制にすることは、労使対等決定原則に反する「改悪」ですからほぼ不可能でしょう。いや、公立学校教員だけを労基法上で特別扱いしてくれればいいのだというかも知れませんが、それならなぜほかの特別扱いは労基法上ではなく、地方公務員法や給特法でやっているのかということになります。この政策方向は、文部科学省が考えている以上に本質的な難点を孕んでいるのです。

 

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