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2019年1月17日 (木)

暴力団員であることを隠して就労して得た賃金は「詐取」なのか?

こういう記事が話題になっていますが、

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190116-00020480-tokaiv-soci

暴力団組員であることを隠して郵便局からアルバイト代を騙し取ったとして、60歳の男が逮捕されました。
 逮捕されたのは六代目山口組傘下組織の組員の男(60)です。男は、2017年11月29日、実際には暴力団組員であるのにもかかわらず、愛知県春日井市の郵便局で反社会勢力ではないと誓約書に署名したうえでアルバイトし、給料として現金7850円を騙し取った疑いが持たれています。
 警察によりますと、男はこの日だけ「ゆうパック」の集配アルバイトとして働きましたが、その後暴力団関係者であることを明かし、わずか4日後に自主退職したということです。
 警察が別の事件で男の組事務所を捜索したところ、男の口座に郵便局から給料が支払われていたことがわかり、犯行が発覚しました。
 調べに対し男は容疑を認めていて、警察は、男がアルバイトを始めた経緯などを調べています。

記事はこれだけで、これ以外に何か書かれていない事情があるのかどうかはわかりません。しかし、この記事の情報だけからすれば、当該暴力団員は虚偽の誓約書を書いて、さもなければ雇用されなかったであろうアルバイト雇用で就労したことは確かですが、雇用契約に定める労務を提供し、それに相当する賃金を稼得しただけであって、その賃金が「騙し取った」という表現がされるべきものであるかには、かなりの疑問を感じます。

採用時に正直に申告すべき事情を申告せず、虚偽の情報を提供することによって採用されるという事態は世の中には結構存在します。それが問題になるのは、そのことがばれて解雇されるという事態になって、その解雇が正当な理由のあるものかそうでないかという民事上の紛争として現れることが多いのですが、虚偽の申告に基づいて誤って採用してしまったからと言って、現に契約上の労務を提供したことに対して既に支払った賃金を詐取されたから返せ、というような訴訟は見たことがありません。

というか、いかに採用判断の根拠に錯誤があったからと言って、提供された労務とそれに支払われた賃金は少なくとも民事上は決済済みの話で、根っこに戻ってすべて無効になるわけではなかろうともいますし、もし万一元に戻って無効になるというのなら、無効な雇用契約に基づいて4日分の労務を受領しているのだから、その分の不当利得を返還しなければならないようにも思えます。

法律上の根拠をざっと見ても、少なくとも国家法である暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律には、暴力的要求行為の禁止として多くの行為が列挙されていますが、当然ながらその中に雇用契約を締結して労務を提供し報酬を得ることなどというのはありませんし、おそらく逮捕の根拠となっているであろう愛知県暴力団排除条例には、他の都道府県の条例と同様、事業者に「当該契約の相手方に対して、当該契約の履行が暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなるものでない旨を書面その他の方法により誓約させること」の努力義務を課しているにとどまり、その誓約書に違反して締結された雇用契約を無効にしたり、いわんやその(それ自体は契約に従った)労務に対する報酬の支払いを無効にしたりする効果はないように思われます。

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