« 『生活経済政策』2019年2月号 | トップページ | 蘭紙「Trouw」に取材記事 »

『現代日本の公務員人事』

12141554_5c13538a3883f大谷基道・河合晃一編『現代日本の公務員人事――政治・行政改革は人事システムをどう変えたか』(第一法規)を、執筆者の一人であるJILPT研究員の前浦穂高さんよりいただきました。ありがとうございます。

https://www.daiichihoki.co.jp/store/products/detail/103445.html

90年代以降の一連の政治・行政改革の下で、中央省庁及び地方自治体の公務員人事システムがどのように変化してきたかを実証的に分析し、また、今後どのようにあるべきかを示した、研究者や自治体人事担当者のための書。

この本、「人事労務」カテゴリではなく、「自治・行政」カテゴリに入っていることからも分かるように、またなにより標題の上に「稲継裕昭先生還暦記念」と書かれていることからも分かるように、行政学系の研究者による論集です。前浦さんはかつて中村圭介さんの下で公務員の労使関係の研究をしていたことから、この方々とのつきあいができたのでしょう。

目次は下記の通りですが、前浦さんの「非常勤職員の発言と処遇改善」はテーマ自体はもうかなりおなじみの内容なので、むしろ私、というか労働関係者にとっては必ずしもおなじみではないそれ以外の論文が目新しくて面白かったです。

第1章の「官僚人事システムの変化と変遷」(河合晃一)は、自治官僚(1981年採用)のキャリアパスを詳細に分析しながら、1990年代以前とそれ以後で何が変わり、何が変わっていないのかを明らかにしています。ふむ、branchlogさんあたりが舌なめずりをしそうなテーマではあります。ちなみに、『総務省名鑑』で調べたため何人かの若いところが空欄になっていますが、いやそれは『内政関係者名簿』ですぐわかるやろ。

第2章の「官僚人事システムと「仕切られた専門性」」(伊藤正次)は、国税専門官や労働基準監督官といった「専門官」の人事システムという、これまでほとんど誰も手を付けなかった世界への第一歩みたいな論文です。そういえば、公務員制度論からの労働基準監督官論て見たことないなあ。

第4章「幹部人事と政治介入制度」(芦立秀朗)は、1993年通産省人事騒動とか、2007年防衛省次官人事騒動とか、ややジャーナリスティックなトピックが満載。

そうだろうなと思われていたことをデータで検証しているのが第8章「遅い昇進の中の隠れた早い選抜」(竹内直人)で、キャリア、ノンキャリアに分かれた「二重の駒形」の国家公務員に対して、そういう分離のない「将棋の駒形」の地方公務員の人事においても、若い頃に一定部署(人事、財政、企画)を経験した者が早いうちに選抜されているという暗黙の了解を実証しています。

というわけで、いずれもなかなか面白く読めました。

なお、最後の前浦さんの「非常勤職員の発言と処遇改善」は、彼がここのところずっとやっている非正規労働者と労使関係というテーマの公務員版で、荒川区と市川市へのヒアリングの結果です。非常勤職員が組合を結成し、集団的に発言することで、正規職員と非常勤職員との処遇格差を縮小しようとしてきたことが、一定の効果を上げてきていると述べています。

はしがき
執筆者一覧
目次

序章 日本の公務員人事と人事行政研究(大谷基道/河合晃一)
1 本書の目的
2 日本の公務員人事をめぐる改革動向
3 日本の公務員人事をめぐる研究動向
3.1 国家公務員人事に関する研究
3.2 出向官僚人事に関する研究
3.3 地方公務員人事に関する研究
4 本書の構成
4.1 国家公務員編
4.2 地方公務員編
5 本書の含意

第1部 国家公務員編

第1章 官僚人事システムの変化と実態(河合晃一)
1 本章の目的
2 日本の官僚人事システムの特徴とその変化
2.1 管理の論理に着目した研究
2.2 政治の論理に着目した研究
2.3 官僚人事システムを取り巻く存立条件の変化
3 人事データによる実証分析
3.1 分析対象としての自治官僚とグループ別人事管理
3.2 使用データに関する説明
3.3 自治官僚のキャリアパス
3.4 遅い昇進システムの検証
3.5 キャリアパスの制度化の検証
4 官僚人事システムの展望と課題

第2章 官僚人事システムと「仕切られた専門性」──専門官の人事システムの構造と展望(伊藤正次)
1 本章の目的
2 専門官の多様性
2.1 俸給表による分類
2.2 採用方法による分類
3 専門官の人事システムの特質と変遷
3.1 グループ別人事管理と専門官
3.2 専門官の任用・給与体系の変遷
4 専門職試験の創設と専門官の人事システム
4.1 専門職試験の創設
4.2 専門職試験と専門官の人事システム
5 総括と展望

第3章 公務員の専門性強化の試み──韓国の専門職位(専門官)制度を事例として(申 龍徹)
1 研究目的
2 公務員の現況と専門性低下の問題
3 補職循環の現状とZ型の補職循環
4 人事革新庁の誕生と専門職位(専門官)制度の導入
5 結論と示唆

第4章 幹部人事と政治介入制度(芦立秀朗)
1 本章の目的
2 幹部人事と政治介入制度に関する先行研究──戦前から1980年代まで
3 2度の政権交代と政治介入
4 1990年代以降の政治介入制度(1)──閣議人事検討会議と人事の閣議承認
5 1990年代以降の政治介入制度(2)──内閣人事局
5.1 内閣人事局をめぐる法案制定の過程
5.2 内閣人事局による政治介入の程度
6 第二次安倍晋三内閣以降の政治介入制度の運用実態
6.1 外務省の人事から──首相との距離
6.2 厚生労働省の人事から──女性登用と府省間交流
7 政治環境との交差と政治介入の程度の変化を測定することの困難さ──文部科学省の人事から
8 総括と展望

第5章 出向人事研究の現代的意義(村上祐介)
1 本章の目的
2 出向人事の研究動向と論点
3 2000年代以降の出向人事の変容
4 出向人事の研究から何が得られるのか
5 総括

第2部 地方公務員編

第6章 自治体における閉鎖型任用システムと「開放性」(小野英一)
1 本章の目的
2 自治体における閉鎖型任用システム
2.1 閉鎖型任用システムと開放型任用システム
2.2 閉鎖型任用システムと法制度
2.3 閉鎖型任用システムの運用実態
3 「開放性」をもたらす変化(1)──採用システム改革
3.1 採用試験における年齢制限の緩和
3.2 経験者採用の進展と多様化
4 「開放性」をもたらす変化(2)──任期付職員制度
4.1 任期付職員制度の創設
4.2 任期付採用の進展
5 総括と展望

第7章 ポスト分権改革時代における自治体の職員採用(大谷基道)
1 本章の目的
2 自治体の職員採用をめぐる動向
2.1 受験者数及び競争率の変化
2.2 採用試験の見直し──「学力重視型」から「人物重視型」へ
2.3 地方分権改革と「受験者負担軽減型」採用試験の登場
3 受験者数の減少に伴う採用試験の新たな潮流
3.1 2010年代における受験者数の減少
3.2 民間志望者の取込み──質的拡大から量的拡大への転換
4 「受験者負担軽減型」採用試験の実施状況とその効果
4.1 2017年度における採用試験の実施状況
4.2 「受験者負担軽減型」採用試験の実施状況
4.3 「受験者負担軽減型」の導入効果
5 「受験者負担軽減型」採用試験の課題
5.1 受験者数が増えれば優秀な人材を確保できるのか
5.2 公務員志望者と民間企業志望者の違い
5.3 採用時のミスマッチを防ぐ取組み
6 総括と展望

第8章 遅い昇進の中の隠れた早い選抜──自治体ホワイトカラーの昇進パターンと組織の機能(竹内直人)
1 本章の目的と視点
2 調査の内容と方法
3 4県の部長級昇進者の経歴
3.1 同期採用者のキャリア分析
4 TMS理論と組織
4.1 TMS理論の展開
4.2 一層の展開と昇進構造への含意
4.3 人事課、財政課の機能と職員の昇進
5 隠れた選抜方式の特徴と課題

第9章 特別職の議会同意と人事行政──なぜ議会は同意しないのか(出雲明子)
1 首長の補佐職としての議会同意人事
1.1 議会同意の対象となる人事
1.2 副知事・副市区町村長の同意人事
1.3 行政委員会委員の同意人事
2 なぜ不同意となるのか
2.1 首長への不信任による不同意
2.2 業績評価による不同意
2.3 外部人材の登用による不同意
2.4 中立性と公平性を問う不同意
3 不同意人事と自治体行政の環境変化
3.1 地方分権改革との関係
3.2 議会改革との関係
4 不同意人事の増加と人事行政への影響
4.1 自治体行政の担い手をどのように確保するか
4.2 議会同意を必要としない特別職人事の広がり

第10章 大規模災害時の職員応援システムの展開──一般行政職等の自治体職員を事例に(玉井亮子)
1 災害対応と自治体応援職員
2 一般行政職等の自治体職員による被災地の応援についての制度と先行研究
2.1 災害時の人的支援をめぐる制度
2.2 災害時の人的支援をめぐる先行研究
3 自治体応援職員に関する制度の展開
3.1 災害対策基本法の制定
3.2 阪神・淡路大震災
3.3 東日本大震災
3.4 熊本地震
4 災害時における人的支援システムの変化とその要因
4.1 災害の規模
4.2 地方分権改革の展開
4.3 組織の指揮命令系統
4.4 国の役割
5 災害への対応と地方自治

第11章 非常勤職員の発言と処遇改善──二つの自治体の事例(前浦穂高)
1 問題意識
2 本研究の位置付けと分析課題
2.1 本研究の意義と分析枠組み
2.2 分析枠組み
2.3 分析課題
3 荒川区の事例
3.1 行政改革と職員数の適正化の動き
3.2 非常勤職員の組合結成
3.3 保育園における正規職員と非常勤職員の役割分担
3.4 非常勤職員の処遇改善
3.4.1 非常勤職員の処遇改善をめぐる労使の話し合い
3.4.2 非常勤職員の処遇改善──六つの職層区分
4 市川市の事例
4.1 保育労の組織概要と組合結成の背景
4.2 正規職員と非常勤職員の役割分担
4.3 組合結成の効果
4.3.1 一体感の醸成
4.3.2 非常勤職員の処遇改善と現行の処遇制度
5 総括

参考文献一覧
事項索引
稲継裕昭先生の略歴及び業績

|

« 『生活経済政策』2019年2月号 | トップページ | 蘭紙「Trouw」に取材記事 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 『現代日本の公務員人事』:

« 『生活経済政策』2019年2月号 | トップページ | 蘭紙「Trouw」に取材記事 »