フォト
2019年9月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30          
無料ブログはココログ

« 今様人権争議・・・ですらないけど | トップページ | ホワイトカラーの労働法政策@『労基旬報』2019年1月5日号 »

2019年1月 9日 (水)

大量移民と格差拡大

Jameswickham例によってソーシャル・ヨーロッパから新年1月8日付の記事を紹介。アイルランドのウィッカム氏による「Mass immigration and the growth of inequality」(大量移民と格差拡大)という文章です。時あたかも欧州に遅れること半世紀、日本も大量移民時代に足を踏み入れつつある中で、それが何をもたらしうるのかを冷静に考えておく必要があるでしょう。

The claim that immigration is economically beneficial appears to be an article of faith amongst those who consider themselves progressive. However, mere changes in total GDP often mean little in terms of the lived reality of society. Much more important is whether or not mass immigration changes the social structure and the pattern of economic inequality.

移民が経済的に有益だという主張は自分を進歩的だとみなす人々の間で教条と化しているかのようである。しかし、GDP総額の僅かな変化など社会の生きられた現実にとってはほとんど意味はない。より重要なのは、大量移民が社会構造と経済的格差のパターンをどのように変えるのか変えないのかだ。

Economic inequality (in the distribution of income and wealth) has been growing in virtually every developed society. It is clear that there is no single cause, but one important driver is changes in the occupational structure. In some countries, but especially in the UK and the USA, occupational growth has polarised: there are more well-paid high-skilled jobs, there are more low-paid jobs, but there are fewer moderately well-paid secure jobs in the middle.

経済的格差(所得と富の分布における)はほとんど全ての先進国で増大してきた。単一の原因がないことは確かだが、一つの重要な動因は職業構造の変化だ。いくつかの国、とりわけ英国と米国では職業構造が二極化しており、一方に高賃金の高技能職、他方に低賃金職があるが、中間のそれなりの賃金の安定した職が少なくなっている。

A growing social science research suggests that the reason for the existence of low-paid jobs has been precisely the availability of a large pool of immigrant labour. Low-paid jobs have expanded simply because there are people prepared to do them. If this labour supply did not exist and, crucially, if there was no alternative labour supply, then the jobs would not exist. The argument that immigrants are ‘needed’ to fill existing jobs takes the existing jobs and hence the occupational structure for granted; furthermore, it accepts that immigrants are the only possible source of additional labour.

社会科学研究によれば、低賃金職が存在しえているのは、正確に膨大な移民労働プールが入手可能だからである。低賃金職はそれをやろうとする人々がいるが故に拡大してきた。もしこの労働供給が存在しなかったなら、決定的に、もし代替的労働供給がなければ、その職は存在しなかったであろう。移民は既存の職を埋めるために「必要」だという主張は、その既存の職を、それゆえ職業構造を当然と考え、しかも、移民が唯一可能な追加的労働供給だと認めている。

In some sectors enterprises’ business model depends upon paying low wages. The transformation of agriculture in the USA and more recently in the UK has involved a shift to forms of production and even to crops that are only viable because of low wages. Employers, sometimes supported by immigration advocates, now argue that food production can only occur if there is cheap immigrant labour.

いくつかの業種では、企業のビジネスモデルは低賃金に依存している。米国や近年の英国における農業の構造転換は、もっぱら低賃金ゆえに可能な生産様式と収穫様式へのシフトに関わっている。使用者は、時に移民唱道派に助けられて、今や食料生産は安価な移民労働があるが故に成り立つのだと主張する。

Until the 1980s domestic servants were declining in numbers. Today professionals and managers expect to employ domestic labour to clean their houses, mind their children, etc. These jobs are overwhelmingly taken by immigrants who are often illegals. Intriguingly, the particular beneficiaries are women earners at the upper end of the income distribution – purchasing labour in the home enables them to devote more time to their remunerative career. Thus, one US study shows that, in areas with a high immigrant population, high income women spend more time at work than in areas where there are fewer immigrants. Such privatised domestic employment ensures that there is less pressure on men to contribute to domestic labour – and certainly reduces the demand for effective publicly funded childcare.

1980年代まで、家事使用人の数は減少していた。今日、専門職や管理職は家を掃除したり子供の面倒を見るために家事使用人を雇うようになった。これらの職は圧倒的に移民、それも不法移民だ。興味深いことに、最大の受益者は所得分布の最上層の女性稼得者で、家内の労働を購入することで彼女らの稼げるキャリアにもっと時間をつぎ込むことができる。それゆえ、ある米国の研究が示すように、移民の少ない地域よりも、移民人口の多い地域ほど、高所得女性が労働に多くの時間を費やす。このような私有化された家事労働によって、男性は家事労働に貢献する圧力が少なくなり、確実に公的費用による保育サービスへの需要を減らしてしまう。

The new availability of low wage labour has contributed to the survival and even expansion of low technology manufacturing. One US study shows that engineering firms are likely to use less capital in production in areas with high immigrant populations. Indeed, in some areas the availability of low wage labour is facilitating technological regression – the replacement of capital by labour. Instead of driving the car to a self-service car-wash, you get the car ‘valeted’ by workers who use nothing more advanced than a bucket and mop. Away from such public view, in many European cities there is a revival of the clothing industry, based on micro-workshops using only the very simplest technologies and immigrant workers with very long hours and low pay.

低賃金労働が入手可能になることでローテク製造業が生き残り、拡大すらしてしまう。ある米国の研究によれば、移民人口の多い地域では製造企業は生産において資本を少なく使う傾向にある。実際、低賃金労働が入手可能な地域では、技術の退歩-労働による資本の代替、が起こっている。セルフサービスの洗車を促進する代わりに、バケツとモップ以外の進んだ道具を持たない労働者によって「近侍」されるのだ。多くの欧州の都市では、極めて単純な技術と長時間労働低賃金の移民労働者のみを用いた零細事業所に立脚した繊維産業が復活している。

This relationship between mass immigration and occupational change cannot be generalised to all periods and places. The mass European migration in the second half of the 19th century to the USA and other areas of new settlement did not have this result, nor in fact did the mass immigration to Western Europe in the post-world war period. It is, however, clear that today those who call for ‘open borders’ – the unrestricted entry of unskilled workers into the EU – are facilitating a more polarised occupational structure, more low paid workers and greater social and economic inequality.

大量移民と職業構造の間のこの関係は全ての時期と場所に一般化できない。19世紀後半の欧州から米国や他の地域への大量移民はこのような結果をもたらさなかった。しかし、今日、「国境の開放」-EUへの未熟練労働者の制限なき導入-を呼びかける人々は、より二極化した職業構造、より低賃金の労働者、そしてより大きな社会的経済的格差を促進しているのだ。

« 今様人権争議・・・ですらないけど | トップページ | ホワイトカラーの労働法政策@『労基旬報』2019年1月5日号 »

コメント

冷静な評論ですね。そして醒めてますね。低賃金単純労働を前提とする以上生産性の低い企業ならびに業種が蔓延り、それが生産性の低さを温存し、労働市場における二極化(多分総体的には労働者の経済的・社会的地位の低下)をもたらしているという指摘ですね。
Newsweek2018年12月11日号にも特集「移民の歌」で、日本の零細企業がベトナム人労働者を頼りに操業していることを報じていました。
個人的な実感としては、もはやモノ作りの現場では外国人労働者は日常化しています。私は東海地方で某個人加盟ユニオンに参加していますが、名だたる大メーカーでも外国人を大量に雇い入れています。そして例の雇止めや日本人にはしないであろう解雇なども行います。労組が申し入れを行うと途端に態度を変えて謝罪し決定を撤回します。相手が外国人、特に東南アジアなり中南米なり出身で日本語もあまり分からない場合、このようなケースが多いです。産業の実態、労働市場の実態をしっかりと把握することなしに、外国人を「技能実習」と称して低賃金かつ無権利な状態で働かせることは、取り返しのつかない状態を作り上げていると感じます。低賃金かつ無権利な労働者の存在なしには成立しない中小零細の下請け(中には国際的な大企業もあります)と、その下請けがないと成立しない大手メーカー、どうしようもない現実が広がりつつあると感じます。そして日系の方々の少ない方々が日本語を話せず、そのお子さんたちもあまり日本語が話せません。教育と就労という意味ではとてつもないハンディキャップであると思います。。
この記事のように醒めた視線が本当に大切だと思います。

“最大の受益者は所得分布の最上層の女性稼得者で、家内の労働を購入することで彼女らの稼げるキャリアにもっと時間をつぎ込むことができる。”
   
   
   
上野千鶴子さんがこうなるのは、むしろ、当然なのですね。
   
   
   
“性差別の解消について理想主義を失ったことがない”
https://wan.or.jp/article/show/8029
“上野千鶴子氏は反省のしどころを間違えているのでは?”
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2018/08/post-c283.html

フェミニズムが「女性の権利拡大」を目指すのは、当然なのですが、むしろ、気になるのは、
   
   それって、「貴方と同類の女性」の権利拡大ですよね。
   女性一般の権利拡大になってませんよね
   
ということですね
   
“ブルジョワの実生活を支えていたのは、使用人や家政婦のたぐいだ”
“子どもには上昇志向な教育をカネをかけてほどこすのが当然とみなされている”
https://p-shirokuma.hatenadiary.com/entry/20180702/1530518723

私が気になったのは、
This relationship between mass immigration and occupational change cannot be generalised to all periods and places.
うまく機能したときがあるなら、その要因はなんだったのかウィッカム氏の見解を聞きたいところです。

私は、ここではthe second half of the 19th centuryですが、第二次大戦後の数十年も概ね当ては まるとすれば、高い累進課税は大きな要因だったと思います。

つい数日前ですが、米国で民主党下院議員が最高税率70%を提唱し、それに対し共和党などか ら総攻撃を受けていることに対し、クルーグマンが反論しています。 https://www.nytimes.com/2019/01/05/opinion/the-economics-of-soaking-the-rich.html?partner=rs s&emc=rss

そもそも格差対策として累進強化が求められますが、大量移民に直面するとき、さらに輪をかけた高い累進税率が望ましいでしょう。

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 大量移民と格差拡大:

« 今様人権争議・・・ですらないけど | トップページ | ホワイトカラーの労働法政策@『労基旬報』2019年1月5日号 »