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中曽根平和研究所設立30周年記念政策論集

Npi30thpp_2一昨年10月に、中曽根康弘世界平和研究所という、いかにも国際政治とか安全保障とかいったハードな領域を研究してそうなところに呼ばれていろいろとお話をしたことがあり、その影響とおぼしき文章がいくつか同研究所の刊行物に垣間見られたりしていましたが、昨年末に出された『設立30周年記念政策論集』には、かなりのページ数を割いて、「従来のメンバーシップ型雇用の良い点を取り込む形でのジョブ型雇用」という一節が書かれています。

http://www.iips.org/research/npi30thpp.pdf

もちろん、なんといっても中曽根康弘世界平和研究所なので、第1部は外交安全保障で、第2部がジョブ型論も含まれる経済社会、そして第3部が教育・科学技術と、まことに全方位をにらんだ作りになっています。

①外交安全保障(価値観を共有する諸国とのパートナーシップ、近隣諸国との関係の維持、より安定した国際環境の構築、我が国を取り巻く安全保障環境の変化への対応)

②経済社会(失われた20年とデフレとの闘い、投資・雇用・社会保障などの中期的諸課題、自由貿易・移民政策などの国際的側面への貢献と対応、人口構造の変化への対応)

③教育・科学技術(高等教育改革、教育機会の均等化、日本型エリートの育成、真の「科学技術創造立国」の実現のために、防災対策先進国、ICTの社会実装向上)

第2部のテーマ1が「テーマ1:失われた20 年とデフレとの闘い」で、テーマ2が「各分野における中期的諸課題」。その3つめに「従来のメンバーシップ型雇用の良い点を取り込む形でのジョブ型雇用」というのが出てきます。

要約するとこうなりますが、

提言4:「従来のメンバーシップ型雇用の良い点を取り込む形でのジョブ型雇用」を日本の転換期における雇用体系として取り入れよ
(趣旨)
これまでの日本の雇用である「メンバーシップ型雇用」は、現在の日本の経済環境およびこれからの労働環境を考えると変化が不可避である。しかしながら一足飛びに欧米で主流の「ジョブ型雇用」に転換するのではなく、これまでの日本企業の強さの源泉であった日本的雇用システムの良さを意識し、転換期の混乱を極力抑えた形での「日本の現状を踏まえたジョブ型雇用」というものをステップの一段階として取り入れよ。

これをもう少しパラフレーズすると、こういう話になるようです。

3. これからの働き方に関する提言

3.1 新たな雇用体系として「ジョブ型雇用」に転換せよ

 戦後構築された日本的雇用システムは、経済のグローバル化に伴い変質しつつある。この状況下において、労働政策研究所の濱口桂一郎所長は、「メンバーシップ型雇用」と「ジョブ型雇用」という概念を提示した。
 メンバーシップ型雇用では、労働者が従事すべき職務は「雇用契約で特定されているわけで」なく「あるときにどの職務に従事するかは、基本的には使用者の命令によって決ま」る(濱口, 2009, p3)。この職務の範囲や場所が限定されていない「無限定正社員」(≒所謂「総合職」社員)については、採用は新卒一括採用、教育は主にOJT や社内研修、評価は職務遂行能力の高低による。職務範囲や場所に限定はなく使用者の任意で配置転換も行われるが、これは使用者にとって権利である一方義務でもあり、不景気になっても雇用維持のためあらゆる努力をすることが課せられている。ただし定年による一括解雇は認められている。また、従業員が同一企業内・別業務間を異動していき、賃金その他処遇も企業単位で決まるため、賃金も年功・職能給が中心になり、労働組合も企業ごとに結成される。このように、日本型雇用システムの特徴たる「三種の神器」(年功序列、終身雇用、企業別労組)はメンバーシップ型雇用の「コロラリー(論理的帰結)として導き出され」る(濱口, 2009, p4)。
 メンバーシップ型雇用が日本企業に特有の雇用形態なのに対して、ジョブ型雇用は、欧米等の諸外国が主に採用している雇用形態である。「雇用契約でその内容を明確に定めて、その範囲内の労働についてのみ労働者は義務を負」い、「使用者は権利を持つ」のであって、「特定された労働の種類のことを職務(ジョブ)とい」う(濱口, 2009, p2)。企業はジョブの範囲で必要な人材を求め、労働者は自分の専門スキルを活かして適切なジョブを選択する。そのため企業は、社内教育するまでもなく、ジョブの範囲で必要かつ優秀な労働者を確保することができる。年齢・勤続年数や能力向上を理由とした昇給も必要がない。また企業は、合意なく配置転換できないが、ジョブ自体がなくなった労働者は雇用維持の努力をするまでもなく解雇できる。労働者から見ると、ジョブを遂行するスキルがあるかどうかが問題であって、努力してスキルを上げれば、より高賃金のジョブに代わることが可能になる。ジョブの範囲を逸脱した業務を行う義務はないから、同意なく別の業務・場所に異動させられることはないので、ワークライフバランスを図りやすい。
 これまでの日本的雇用システムとはメンバーシップ型雇用であったが、既述のとおりこのシステムを継続することは困難になっている。その上、生産年齢男性を中心としたメンバーシップ型雇用が維持され、処遇も業務内容も周縁に置かれたままで、女性や高齢者の力を活かすことが可能だろうか。現在の労働環境を鑑みると、メンバーシップ型雇用から欧米で主流のジョブ型雇用への転換を進めていくことが必要なのは明らかである。
 私たちは「ジョブ型正社員」という制度の導入に基本的に賛同する。
 ただ、現在のメンバーシップ型雇用は定着するまでに長い年月をかけ、日本社会に適合したシステムであり、その良さを残した雇用形態として、「日本式ジョブ型雇用」といった中間形態を有効なステップとして構築していく必要があろう。
 「日本式ジョブ型雇用」とは、現状のメンバーシップ型雇用をベースに、新規採用ではジョブ型雇用を増やし、既存の正社員に対しては希望者からジョブ型雇用への転換を進めていって、段階的にジョブ型雇用の正社員を増やしていく、という方式である。この場合、例えば既存制度と合わないジョブ型雇用対象の正社員は、いったん別会社に移籍して逆出向という形を採るということも選択肢としてあろう。
 残るメンバーシップ型雇用に対しても、メンバーシップ的要素を順次減らしていき、最終的にはジョブ型雇用に転換していく。最終的に全社がジョブ型雇用になるのか、一定規模のメンバーシップ型雇用を残すかどうかは、企業によって異なることになろう。企業によっては人事・総務部門や経営企画部門に関しては、これまでのようなジェネラリスト養成のキャリアが有効で、こういった部門にはメンバーシップ型雇用の社員を残していきたいという考えもあるだろう。
 ジョブ型雇用を主とする雇用制度に至るには、段階的にでもジョブ型雇用の社員を増やしていく過程から、職業教育の制度を整える必要があること、従来の新卒一括採用から欠員補充型採用に転換すること、賃金体系を年功給・職能給から職務給に変えていくこと等、企業内にとどまらない教育制度、社会制度の根本的な改革が必要になる。それでも現在の労働環境から、ジョブ型雇用への転換が不可避であるなら、できるだけ早くに、国レベルでこのような変革にも取り組んでいく必要がある。
 前述の濱口氏は、「職務範囲や労働時間および就業場所の一つ以上を限定した、期間の定めのない雇用契約を締結する正社員」という「ジョブ型正社員」というものを創出し、現在の日本の労働社会が、無限定の義務を負う「メンバーシップ型正社員」と、家計補助的低労働条件の「非正規労働者」という形で二極分解しつつあることに対し、その間に第三の類型を構築することで、対処しようとする戦略を提唱した。
 これも非常に有効な考え方ではあるが、当研究所では現状のメンバーシップ型雇用をベースに、段階的にジョブ型雇用の社員を増やすと同時に、非正規労働者はジョブ型雇用の社員に転換していくという「日本式ジョブ型雇用」を転換期の雇用形態として提唱する。なお、ジョブ型雇用での不可欠な作業は、ジョブ別の業務内容をできるだけ詳細かつ明確に記述したジョブ・ディスクリプション(職務基準書)を作成することと、個別のジョブに賃金的評価を行うことである。特に管理部門のような定量評価しにくい部門においては作成が難しい。しかしながら、ジョブ・ディスクリプションの徹底をひたすら追求していくことにより、ジョブ型雇用への転換が可能になり、ジョブ型雇用が支配的な雇用形態になっていく。
 更に、労働力の流動性を高めるためには、ジョブ・ディスクリプションを極力標準化し、企業横断的なものにしていくことが重要である。企業の独自性を担保しながらジョブ・ディスクリプションの標準化を進めていくためには、行政のリードも必要不可欠だと考える。

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