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2018年12月12日 (水)

国際自動車労供事件

水谷研次さんの「シジフォス」で、国際自動車労供事件の東京都労委命令が取り上げられていて、

https://53317837.at.webry.info/201812/article_8.html(国際タクシー労協事業での不当労働行為が断罪)

その都労委命令がこちらですが、

http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2018/12/10/03.html

話の中身は、私が一昨年に東大の労働判例研究会で評釈したものとほぼ同じですね。

これは『ジュリスト』には載せなかったのですが、理路自体はこの通りだといまでも思っているので、関係者の参考までにお蔵出ししておきます。

http://hamachan.on.coocan.jp/rohan161007.html

労働判例研究会                             2016/10/07                                    濱口桂一郎

 

国際自動車事件(東京地判平成27年1月29日)

(労働経済判例速報2241号9頁)

 

Ⅰ 事実

1 当事者

・原告X:Yに雇用されてタクシー運転手として勤務し、平成25年1月17日に64歳の定年を迎えた労働者。

・被告Y:タクシーによる一般旅客自動車運送事業を業とする株式会社。なお、Xを採用時は国際自動車という同一商号の別会社で、平成21年4月に会社分割により旧ケイエムタクシーにタクシー事業が承継されるとともに国際自動車に商号変更され、これが現在の国際自動車である。紛らわしい上に判旨に関係ないので、本評釈では法人格にかかわらず全てYで通す。

 

2 事案の経過

・平成17年、XはYに雇用され、タクシー乗務員の業務に従事。

・YにはU1という多数組合、U2という少数組合、U3という新設組合(平成22年11月結成)がある。Xは入社時はU1に加入したが、その後U2に加入し、そこでU3の結成に関与し、その委員長を務めた。なおU3の上部団体がU3’である。

・Yは従前、就業規則25条2項の定めに基づき、嘱託という形式で定年後再雇用を行っていたが、平成10年下記U1との合意で凍結され、以後同項に基づく嘱託職員としてタクシー乗務員を雇用する運用はしていない。

・Yは平成10年、定年に達したタクシー乗務員について労働者供給事業を利用する形を採用することとし、同年9月U1と労働者供給に関する基本契約を締結した。平成18年2月にはU2とも同様の基本契約を締結した。いずれも労働協約ではない。

・定年の近づいた乗務員は所属組合で登録され、Yによる選定の上、定年後は組合からの供給労働者として業務に従事する。

・平成24年11月頃、XはYから、U3は労働者供給事業の許可を有する労働組合に所属していないので定年後雇用できないとの回答を受け、U3’は平成25年3月1日付けで労働者供給事業の許可を得た。

・平成25年1月7日、U3’とU3はYに対してU1、U2と同様の労働者供給に関する労働協約の締結とそれに基づくXの再雇用を求めたが、1月11日Yは拒否した。1月13日再度要求したが、1月17日再度拒否した。

・Xは平成25年1月17日に定年に達してまもなくU3の組合員資格を喪失した。

・U3は平成26年6月1日付けで労働者供給事業の許可を得たが、YとU3の間に労働者供給に関する基本契約は締結されていない。

・Xは「定年後もYによる雇用が継続するとの労使慣行、又は黙示の合意の成立、若しくは合理的な雇用継続に対する期待があるにもかかわらず合理的な理由なく再雇用を拒否されたこと、のいずれかの事情の下、Yに再雇用されていると主張し」、主位的に労働契約上の地位確認、予備的に再雇用拒否を不法行為として損害賠償を請求して提訴した。

 

Ⅱ 判旨

1 定年後乗務員を再雇用する労使慣行の有無

(上記労働者供給事業を利用する枠組みを採用していたことから)「Yが、定年後の雇用継続を希望する乗務員を原則として再度雇用するという取扱いを行っていたとの事実を認めることはできない。したがってXのこの点に関する主張は、慣行と評価すべき事実自体が存在せず、前提を欠くものとして理由がない。」

2 Xを再雇用するとの黙示の合意の有無

「Yにおいて、定年後乗務員のうち、希望した者は特別な事情のない限り、再雇用されることが長期間にわたり反復継続して行われていたとの事実が認められないことは、前記2(本評釈Ⅱ1)で判示したとおりであり、Xの前記主張は前提を欠くものである。」

3 解雇権濫用法理の類推適用の可否

「定年退職後の再雇用は、それまでの雇用契約とは別個の新たな契約の締結に外ならない。すなわち、使用者は労働者を再度雇用するか否かを任意に決めることができ、新たな雇用契約の内容については、労働者及び使用者双方の合意(申込み及び承諾)が必要であり、労働者において、新たな雇用契約が締結されるはずであるとの期待を有して契約の締結を申し込んだとしても、使用者において、当該期待に応ずるべき義務が生ずる基礎がなく、それゆえ、申込みに対する承諾なくして労働者と使用者間に新たな雇用契約が締結したというべき法的な根拠はない。」

「Yにおいては、事実上、定年後の乗務員の再雇用は労働者供給事業によるとの運用が確立しており、就業規則25条2項に基づく再度の雇用など、労働者供給事業以外の枠組みによる再雇用は、XがYに入社した時点では既に行われていなかった・・・ところ、Xも、遅くとも平成24年11月上旬の時点では、Yからの回答により、このことを認識していた・・・上、Xが定年に達した時点では、Xの所属組合であるU3及びU3’のいずれも、Yとの間で労働者供給に関する基本契約の締結に至らず、かつ、労働者供給事業の許可も取得していなかった・・・ことを踏まえると、Xの期待が、Yにおける具体的な状況に照らして合理的なものであったとはいえない。」

4 YのXに対する不法行為の成否及び損害額

「本件は、定年退職後の新たな雇用契約の締結(雇入れ)の問題であるところ、雇入れの拒否は、それが従前の雇用契約関係における不利益な取扱いにほかならないとして不当労働行為の成立を肯定することができる場合に当たるなどの特段の事情がない限り、労働組合法7条1号本文にいう不利益な取扱いには当たらないと解するのが相当である(=JR北海道・JR貨物採用差別事件最高裁判決)。」

「Yの運用・・・に照らせば、YがU3及びその上部団体であるU3’のいずれとも労働者供給に関する基本契約を締結しない場合、U3に所属するYの乗務員は、就業規則25条2項の規定にかかわらず、事実上、Yに再度雇用される可能性がないことは、Xの指摘するとおりである。しかし、U3’がYとの間で労働者供給に関する基本契約を締結し、これに基づき所属組合員であるXの再雇用を実現するには、前提として、労働者供給事業の許可を取得していることが必要であるところ、U3’が当該許可を取得したのは、Xが定年に達し、Yを退職した後の平成25年3月1日・・・である。したがって、Xの定年退職時における再雇用の問題に限っていえば、Yが両労働組合と労働者供給に関する基本契約を締結しなかった結果、Xの再雇用がなされなかったという関係にはない。」

「Yが、U3’との間で労働者供給に関する基本契約を締結しなかったことについては、U3’はいわゆる一般労組であるため、仮にU3’と労働者供給に関する基本契約を締結した場合、いかなる組合員が労働者供給を申し込むことになるのか、Yにおいて把握できなかったことから、上部団体又は外部組合とは契約の締結ができない旨回答しており・・・、Yの対応として無理からぬ面があるともいいうるところ、X本人の供述によれば、U3’は、この点に関してYに格別説明を行っていないことがうかがわれる。以上の経過に照らせば、Yが、U3’からの労働者供給に応じなかったことには、相応の理由があったものといえ、Xに対する不利益取扱い・・・に当たるとまではいえない。」

「また、Xは、定年退職後まもなくU3の組合員資格を喪失している・・・ので、その後の出来事である、YがU3からの基本契約の締結の申込みに応じていないことを、Xに対する不当労働行為として問題にする余地はない。」

 

Ⅲ 評釈 

1 本件労供事業による再雇用制度の高年齢者雇用確保措置該当性

 本件においてX側は、「定年後もYによる雇用が継続するとの労使慣行、又は黙示の合意の成立、若しくは合理的な雇用継続に対する期待があるにもかかわらず合理的な理由なく再雇用を拒否されたこと、のいずれかの事情の下、Yに再雇用されていると主張したため、判旨はそのそれぞれに対して否定的な結論を導いている。しかしながら、本件は64歳定年後の再雇用が問題となっており、高齢法9条の高年齢者雇用確保措置の義務づけの対象に含まれる以上、その点を全く論じないで結論を導いている本件判決には問題がある。なお高齢法平成24年改正は平成25年4月1日に施行されているので、本件定年退職はその直前の平成25年1月17日であり、同改正前の規定、すなわち労使協定により対象者選定基準を定めることができるという規定が適用される。

 その意味で、X側が主張しなかったからとはいえ、判決が漫然と「定年退職後の再雇用は、それまでの雇用契約とは別個の新たな契約の締結に外ならない。すなわち、使用者は労働者を再度雇用するか否かを任意に決めることができ」るなどと論じているのは、既に定年後再雇用に係る判決が多数蓄積されている状況下ではいささか問題がある。

 同規定それ自体は直接私法的効力を有さない公法上の規定であるとしても、同規定に基づく継続雇用制度を導入していれば当該制度の効果として再雇用の可否が論じうる。本件においては、労働組合による労働者供給事業を通じた再雇用という特殊な形態をとっているが、それが高齢法9条の高年齢者雇用確保措置に該当するのであれば、当然当該労供制度の合理的解釈によって問題を決すべきである。もし、当該労供制度が高齢法9条の高年齢者雇用確保措置に該当しないというのであれば、就業規則25条2項による再雇用が「XがYに入社した時点では既に行われていなかった」と認定している以上、高齢法9条違反ということになる。そのことが直ちにXの地位を左右するものではないとしても、もしその旨が公式に認定されれば、同法10条の勧告、公表等の対象となりうる状態であることが明らかになるはずであるから、X側がこの論点を全く主張しなかったことは不思議である。仮に当該労供制度ではなく就業規則25条2項の存在だけで高齢法9条の公法上の義務は果たしているという解釈をとるのであれば、今度は当該就業規則の私法上の効力として「XがYに入社した時点では既に行われていなかった」との認定でその適用を排除することは困難であろう。本判決でも、労供事業による再雇用が制度として確立しているから当該就業規則の適用を否定しているのであり、そうすると結局、労供事業による再雇用が高齢法9条の高年齢者雇用確保措置に当たるからということに帰着する。

 実際、本件労供事業による再雇用は、①Yから定年が近づいた乗務員に定年到達日を通知、②当該乗務員が雇用継続を求めた場合は所属組合で労供登録、③登録の通知を受けてYは乗務員に健康診断を受けさせ、定年後雇用するか否かを決定し、所属組合に供給申込、④Yと当該所属組合は当該乗務員の供給契約を締結、⑤Yは当該乗務員と労働契約を締結、という手続になっており、形式上は高齢法9条の雇用確保措置を満たしている。しかしながら、所属組合による労供事業という迂回路を挟むことで、再雇用を求める労働者の希望が制度的に排除されるようになっているとすれば、それが法の趣旨に沿ったものであるかどうかを論ずる必要がある。その際、継続雇用制度の導入を義務づける高齢法の趣旨と、労供事業を労働組合のみに認めた職業安定法の趣旨と、当該事業の主体である労働組合に関する労働組合法の趣旨を総合的に考える必要があろう。

2 平成24年改正前継続雇用制度としての法適合性

 上述のように、本件定年退職は平成25年1月17日であり、平成24年改正前の継続雇用制度の規定、すなわち労使協定により対象者選定基準を定めることができるという規定が適用される。本件労供事業による再雇用制度はこの規定に適合していると言えるであろうか。両者の間にはいくつものずれがある。そもそも高齢法上の労使協定は過半数組合又は過半数代表者が締結するものであり、これに該当する組合はU1のみである。また、高齢法が認めているのは対象者選定基準を定めることのみであって、上記①~⑤の手続がこれに適合しているかどうかは微妙である。

 しかしながら一方で、定年後再雇用の可否を労働者の集団的意思にかからしめる仕組みという意味ではその趣旨に反するものとは言えないし、そもそも労働者の集団的意思の代表性という点で、法が認める過半数代表者との労使協定よりも多数少数にかかわらず労働組合との合意の方が高く評価されるべきともいいうる。仮に本件労供事業による再雇用制度が平成24年改正前高齢法に適合しないことを理由に高年齢者雇用確保措置に該当しないとすると、Yは高齢法違反の状態にあるか、又は就業規則25条2項による再雇用制度が高年齢者雇用確保措置に該当すると解さざるを得ず、現実に大多数の定年退職者が労供事業による再雇用制度で再雇用されている実態と乖離することになり、適当とは思われない。従って、法の想定する制度とはずれがあることを認めつつ、高齢法の高年齢者雇用確保措置として認めた上で、それが労働組合による労働者供給事業という職業安定法上特に認められた制度として適切であるかどうかを検討し、仮に不適切な部分があれば、当該部分に限って修正する形で解釈することが適当であろうと思われる。

3 労働組合による労供事業としての法適合性

 本件定年退職時点でU1及びU2の両組合は労働者供給事業の許可を得、Yと基本契約を締結して労働者供給事業を行っていたのであるし、その後U3’及びU3も労働者供給事業の許可を得ていることからすると、少なくとも取締法規としての観点からはこれら労働組合による労働者供給事業は職業安定法に適合するものと認められていると言ってよい。

 ただし、少なくともU1及びU2の現に行っている労働者供給事業は、もっぱらYの定年退職者のみを登録し、Yにのみ供給するというビジネスモデルであり、同法が本来想定する労働者供給事業とはかなりずれがあると思われる。労働者供給事業業務取扱要領では、「過去に労働者供給事業が果たしていた労働力需給調整機能を民主的な方法によって発揮できる」と述べており、労働力需給調整機能があることが前提であるが、Yの内部労働市場に閉ざされた労供事業において労働力需給調整機能がどれだけあるか疑問である。

 なお、同様に労働力需給調整機能を期待されて認められている労働者派遣事業においては、法制定以来企業グループ内に派遣会社を設立して特定企業の退職者を登録し、当該企業に派遣するというビジネスモデルがかなり広がっていたため、平成24年改正によっていわゆるグループ企業内派遣の8割規制(23条の2)及び離職後1年以内の派遣禁止(35条の5)が設けられている。

 職業安定法上にはかかる規制は存在しないので、U1及びU2の労働者供給事業は職業安定法に適合するものといってよいが、そのビジネスモデルのみが適正なものであるということはできない。本件においては、Xの定年退職時点でU3’及びU3は労働者供給事業の許可を得ていなかったので仮想的な議論になるが、仮にこれら組合がその時点で許可を得ていた場合に、Yが「U3’はいわゆる一般労組であるため、仮にU3’と労働者供給に関する基本契約を締結した場合、いかなる組合員が労働者供給を申し込むことになるのか、Yにおいて把握できなかったことから、上部団体又は外部組合とは契約の締結ができない旨」を主張したとすれば、それは職業安定法、労働者派遣法を通じる労働力需給調整機能のための法制度全体の趣旨に反するものといわざるを得ず、少なくとも本件判決が漫然と「Yの対応として無理からぬ面がある」などと述べるのは、労働市場法制に対する理解の欠如を示している。労働者派遣法であれば規制されるビジネスモデルが労働者供給事業では特に規制なく認められているというだけであって、それ以外のビジネスモデルを排除する論拠となるものではなく、むしろそれ以外のビジネスモデルこそが職業安定法の本来想定するモデルであるというべきである。

 もっとも、本件においてはU3’及びU3の労働者供給事業許可の取得もXその他のU3所属のY定年退職者のYへの供給を目指したものであるので、この趣旨論はそれとも内在的には反するものがあるといえるが、少なくとも上記理由によってYが基本契約締結を拒否したことについては問題があることを指摘する根拠とはなり得るであろう。そして、そうだとすると、このYによる基本契約締結拒否はU3に所属する労働者を再雇用しないことを目的とした行為であり、労働組合への所属を理由とした不利益取扱いあるいは支配介入として不当労働行為に該当するのではないかという論点が提起されうる。

 以下U3’又はU3がXの定年退職時に労供事業の許可を得ていたにもかかわらずYが基本契約の締結を拒否したと反実仮想した上で検討する。

4 労働者供給事業と不当労働行為該当性

 U3’ないしU3もU1及びU2と同様に労働者供給事業の許可を得ていたとするならば、YがU3’ないしU3との間で労働者供給事業の基本契約の締結を拒否することは、U3に所属する労働者に対する不利益取扱いあるいは支配介入として不当労働行為に該当するのではないか、というのがここでの論点である。

 国・中央労働委員会(近畿生コン)事件(東京地判平成21年9月14日*1)では、原告企業が「労働組合の労働者供給事業は、純然たる事業活動で取引行為であるから、企業や他の労働組合と対等、平等に経済的原理に従って行うことが予定されており、労働組合法で保護される組合活動には当たら」ず、「純然たる取引行為に関して、原告がどの労働組合と労働者供給に関する契約を締結しようが、特定の労働組合との労働者供給活動を停止しようが、労働組合法7条3号の「支配介入」が問題となる余地はな」く、「労働者供給事業は、労働組合法の対象外であり、使用者がどの労働組合に供給を依頼するかは経営判断だから併存組合平等扱いの範疇外であり、組合間での異なった取扱いから不当労働行為意思を推認することはできない」との主張を退け、「原告は、補助参加人弱体化の意思をもって、補助参加人と連帯労組との間で、労働者供給事業における差別的な取扱いを行ったことが強く推認される」として「労働組合法7条3号の支配介入に該当する」と認定している。

 本件とは若干状況が異なるとはいえ、まさに労働組合の労働者供給事業に係る不当労働行為事件についての先行裁判例があるにも関わらず、それを一切顧みることなく、国会の制定した国鉄改革法によってJR各社への採用方式が定められていた特殊な事案であるJR関係事案の最高裁判決のみを引用して、漫然と「雇入れの拒否は・・・特段の事情がない限り、労働組合法7条1号本文にいう不利益な取扱いには当たらない」と論ずるのは、いささか突っ込み不足のそしりを免れないと思われる。

5 本件への当てはめ(反実仮想)

 まず、引き続きU3’又はU3がXの定年退職時に労供事業の許可を得ていたにもかかわらずYが基本契約の締結を拒否したと反実仮想した上で、あるべき議論の組立を考える。4で論じたように、かかる契約締結拒否行為はU3に対する不当労働行為を構成すると考えられるが、しかしながらだからといってYとU3’ないしU3との間で労供事業の基本契約が締結されていない以上、U3’ないしU3からXがYに供給されたものとみなすことはできない。この場合、2で高齢法の高年齢者雇用確保措置として認めつつも、不適切な部分があれば、当該部分に限って修正する形で解釈すべきとした考え方に立脚して、次のように考えることが適当と思われる。

 すなわち、Yの高年齢者雇用確保措置としては、U1及びU2についてはその労供事業による再雇用制度をそれに該当するものと認めつつ、U3’ないしU3についてはYの不当労働行為によって労供事業による再雇用制度が高年齢者雇用確保措置としては認められず、その結果、労供事業による再雇用制度が十全に機能していれば活用する必要のない就業規則25条2項による再雇用制度が現存する高年齢者雇用確保措置として起動されることとなり、同規定に基づき再雇用されたものとして地位確認を求めることができると考えられる。

 この段階に立ち至って初めて、本件でYが繰り返し主張しているXの勤務状況の問題点(本評釈では省略)が論点になり、YがXを再雇用しなかったことの合理性が争われることになる。なお、本判決は直接論点ではないにもかかわらず、黙示の合意の有無のところでXの勤務態度に言及しているが、判決で認定されているXの勤務態度は必ずしも良好と言えるものではなく、それに基づいて再雇用を拒否することもありうるようなものであったとはいえよう。

6 非労供組合組合員の再雇用可能性

 ここまではU3’ないしU3もU1及びU2と同様にXの定年退職時に労働者供給事業の許可を得ていたとする反実仮想に基づく議論であるが、実際にはU3’ないしU3はXの定年退職時に労働者供給事業の許可を得ていなかったのであり、そうである以上その時点でYがU3’から求められた労供事業に関する労働協約を締結することはできないといわざるを得ず、その後U3’やU3が許可を得たときにはXはU3の組合員資格を失っていたのであるから、Xに関する限り上述のような理路で地位確認を求めることはできないし、損害賠償を求めることもできないといわざるを得ないであろうか。

 これは、Xがいずれの組合にも属さない非組合員であり、そのため労供事業を通じた再雇用の道が閉ざされているとした場合において、再雇用される権利が認められるかという問題とほぼ同次元に位置する。X側はこれを労使慣行、黙示の合意、雇用継続への期待といった茫漠たる一般論でのみ主張したため一蹴されてしまったが、上記1で述べたように本件再雇用が高齢法9条の高年齢者雇用確保措置の義務づけの対象に含まれる以上、その観点からの緻密な議論が必要である。

 1で論じたように、本件労供事業による再雇用制度は高齢法の想定する高年齢者雇用確保措置とはずれがある。制度設計として最も重大な問題は、労供事業を行う労働組合に加入している労働者でなければ、そもそも再雇用を求めることができないという仕組みになっている点である。このような特定範疇の労働者の再雇用対象からの一括排除は、平成24年改正後の継続雇用制度に反することは言うまでもない。その場合、Yの有する再雇用に関する諸制度全体として高齢法の趣旨に沿うように解釈されるべきこととなり、U1との労供事業による再雇用の合意とともに「凍結」された状態にある就業規則25条2項の規定により直接再雇用されたものとして地位確認を請求することができるものと解すべきであろう。この状況は、ちょうどユニオンショップ協定に基づく非組合員又は当該ユシ協定組合以外の組合の組合員の解雇の是非の議論とパラレルな面がある。

 本件定年退職は平成25年1月17日であり、平成24年改正以前の継続雇用制度が適用されるが、本件におけるような非組合員又は労供事業組合以外の組合の組合員の包括的な再雇用制度対象からの排除は、当時の労使協定による対象者限定基準を満たすであろうか。当時の施行通達(平成16年11月4日職高発第1104001号)は、「ただし、労使で十分に協議の上、定められたものであっても、事業主が恣意的に継続雇用を排除しようとするなど本改正の趣旨や、他の労働関連法規に反する又は公序良俗に反するものは認められない」と述べ、「適切ではないと考えられる例」として「組合活動に従事していない者(不当労働行為に該当)」が挙げられている。本件は正確にはこれとは状況が異なるが、特定の組合への所属如何が継続雇用の対象となりうるか否かに直結しているという点で見れば、当時の労使協定による対象者限定基準としても許容範囲を超えていると言わざるを得ないであろう。

 かように考えると、実際にはU3’ないしU3がXの定年退職時に労働者供給事業の許可を得ていなかったため本件再雇用がされなかったという状況下においても、Xについては労供事業による再雇用制度が高年齢者雇用確保措置としては認められず、その結果、労供事業による再雇用制度が十全に機能していれば活用する必要のない就業規則25条2項による再雇用制度が現存する高年齢者雇用確保措置として起動されることとなり、同規定に基づき再雇用されたものとして地位確認を求めることができると考えられる。

*1http://web.churoi.go.jp/han/pdf/h10255.pdf

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