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2018年12月13日 (木)

「あらゆる差別の禁止」!?

日経新聞がこういうとんでもない見出しで記事を書いているので、

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO38869780T11C18A2CC0000/「あらゆる差別を禁止」条例成立へ、東京・国立市

東京都国立市で、あらゆる差別を網羅的に禁止する条例が制定される見通しとなった。ヘイトスピーチ対策法、部落差別解消推進法、障害者差別解消法の「人権3法」が求めた自治体の取り組みを受けた。12日の市議会総務文教委員会が全会一致で可決。21日の本会議で成立すれば2019年4月に施行される。・・・

まさかほんとうに「あらゆる差別を網羅的に禁止する条例」なんて代物が成立するはずがないが、と思いながら見に行くと、案の定、

http://www.city.kunitachi.tokyo.jp/ikkrwebBrowse/material/files/group/69/gian30_3_0068.pdf(国立市人権を尊重し多様性認め合う平和なまちづくり基本条例案)

「人種、皮膚の色、民族、国籍、信条、性別、性的指向、性自認、障害、疾病、職業、年齢、被差別部落出身その他経歴等を理由とした差別を行ってはならない」と言っているだけです。

これらは、(「その他経歴等」の「等」の中身が不明確な点に一抹の不安がありますが)人権的差別禁止の国際的にほぼ標準的な相場であって、これを「あらゆる差別の禁止」などという神経が信じがたいものがありますが、日経新聞の記者が勝手にそういう言葉を使ったとも思えないので、たぶん国立市の人がそういう言い方をしたんでしょうな。

これって、要するに、自分がなにをしようとしているかが本当のところよく分かっていないということを露呈しているような。

本当に言葉の正確な意味で「あらゆる差別を網羅的に禁止」したら、いかなる社会も存立不可能なはずです。今話題になっている医学部の不正入試も、入試とは成績で差別することなんだからそもそも正当な入試はあり得ない。

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コメント

というか、あらゆる差別とまでいかずとも、「障害で差別しない」というだけで知的・精神・発達障害者に対する差別ができなくなりますから、じゅうぶんに入試が成立しなくなりますね。
いや、本来は公的雇用は差別の禁止よりもむしろ「障害者の優先雇用」にまで踏み切らないといけないのかもしれませんが。

という話の延長線上に、今から12年前に本ブログで取り上げたこんな話題が:

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/08/post_8260.html
(無能者差別禁止法)

要は、アメリカの障害者差別禁止法のパロディで無能者差別禁止法なるものが制定されたぞうという世界を描いているんですが、こういう記事を読んで腹を抱えて笑っている経済学者の払った税金もまたフードスタンプなど福祉に回っているわけで、(もちろん経済学ネタとしてからかっている分にはいいのですが)マクロには本当はどっちが合理的なのか?という問いはなかなか難しいところもあるのですね。


エセ歴史家の視点からすると、戦時中の日本はまさにこれに似た政策をやったわけで、そのなごりがある意味で戦後もずっと続いてきたわけですが、無能な者を企業の中に抱えている社会と、企業の外に放り出して福祉で食わせている社会と、どっちを選ぶかというのは、経済学者の一時の慰みにしておくにはもったいない社会科学的含意があります。もとの記事ではこういうトンデモ法律を作ったのはクリントン大統領だということになっていて、それでまた保守派の皆さんは大受けするということなんでしょうけど、今までの福祉をやめてワークフェアにするんだと最初に言い出したのがクリントン政権であることを考えると、この記事は(恐らく書いた人の想定以上に)真に迫っている面がありますね。

一点だけ労働法学者としてつまらない指摘をしておくと、この問題がこういう記事になるのはアメリカが障害者についてクォータ制をとらず、差別禁止政策をとっているからなんですね。だから、最後にあるように、却って無能者の割合を下げる云々という話になる。そういう特殊アメリカ的要素を取り除いて、日本やヨーロッパ的な雇用政策、社会政策の枠組みでこの記事をモディファイすると、無能な奴らでも雇っといてくれよという政策(「無能者雇用促進法」ないし「無能者雇用確保助成金」!?)になって、ちょっと言葉はえぐいけど、一体どこが面白いの?ということになる。


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