経団連の「今後の採用と大学教育に関する提案」
経団連が「今後の採用と大学教育に関する提案」をアップするだけではなく、その最後のところで、大学側に対して「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」の設置を呼び掛けています。これがなかなか面白い。
http://www.keidanren.or.jp/policy/2018/113_honbun.html
経団連はまず自分たち企業側の新卒採用のありようについて、率直にこのように述べます。
文系の総合職採用(オープン採用)では、入社後に複数の職務を経験するジョブローテーションを前提としたジェネラリストとしての採用が一般的である。個々人の将来性を総合評価する「ポテンシャル採用」であるため、採用時の学修成果に応じた入社後の職務内容やキャリアパスを具体的に示すことは難しいとする企業がほとんどである。学生に対しては、先輩社員の入社後のキャリアパスなどの事例(ロールモデル)を紹介することを通じて、大まかなイメージを持ってもらおうとしている企業が多い。
いわゆる典型的なメンバーシップ型の採用ですね。
しかし今後の方向性は大きく変えなければならないという意向を示します。
Society 5.0時代に適する人材育成を担う大学が教育改革を進めることはもちろん、企業もまた、時代に適合した人材活用、評価・処遇のあり方を考える中で、様々な採用・選考機会を提供し、様々な知識や経験を持つ多様な人材の獲得を図ることが求められる。そのために企業は、4月の一斉入社による集合研修を前提とした新卒一括採用のほか、卒業時期の異なる学生や未就職卒業者、留学経験者、外国人留学生などを対象に、夏季・秋季の採用・入社なども柔軟に行うべきである。
さらに今後、専門的な知識・技能や職務経験を有する高度な人材を採用するには、長期雇用を前提とした年功序列・横並びの賃金体系にうまく当てはめることができない事態も生じうる。このような人材に関して、職務の内容や成果に応じた人材活用、評価・処遇を行うジョブ型雇用の仕組みを構築する中で、採用においても、新卒・既卒や文系・理系の垣根を設けない、通年採用・通年入社等の多様な選択肢を設けていく必要がある。
そこで、大学に大きく変わってもらわなくてはいけない、という話の流れになります。
いくつもあるのですが、ポイントだけ引いておくと、
多様な価値観が融合するSociety 5.0時代の人材には、リベラルアーツといわれる、倫理・哲学や文学、歴史などの幅広い教養や、文系・理系を問わず、文章や情報を正確に読み解く力、外部に対し自らの考えや意思を的確に表現し、論理的に説明する力が求められる。さらに、ビッグデータやAIなどを使いこなすために情報科学や数学・統計の基礎知識も必要不可欠となる。
そのため大学は、例えば、情報科学や数学、歴史、哲学などの基礎科目を全学生の必修科目とするなど、文系・理系の枠を越えて、すべての学生がこれらをリテラシーとして身につけられる教育を行うべきである。理系とされる学部でも語学教育を高度化する必要があるし、文系とされる学部でも基礎的なプログラミングや統計学の学修が求められる。さらに、近い将来には、文理融合をさらに進め、法学部、経済学部、理学部、工学部といったこれまでの学部のあり方や学位のあり方、カリキュラムのあり方などを根本から見直すことが必要になると思われる。
デコレーションを抜いて率直に言えば、ベースラインとして数学、統計学はみんなできるようになれよという話、
大学教育改革の前提として、高大接続の円滑化に向けた取り組み#8をさらに推進し、高校卒業時に、大学で学ぶ最低限の基礎的学力が備わっているようにすることが重要である。また大学入試では、原則として、文系でも数学を、また理系でも国語を課すことを検討すべきである。
入試に数学のない私立文系の学生は採らないよ、ということでしょうか。
ほかにもいくつかの提起をしており、それらを踏まえて、
大学と経済界が直接、継続的に対話する枠組み(仮称:採用と大学教育の未来に関する産学協議会)を設置し、本提言で掲げた大学教育改革や新卒採用に関して企業側に求められる取り組みについて、双方の要望や考え方を率直に意見交換し、共通の理解を深めるとともに、具体的な行動に結びつけることを提案する。あわせて、当面、大学と経済界が共同で取り組むべき事項についても提案する。
と、大学側への呼びかけをしています。
これが面白いのは、この手の話は今までいつも、「そうは言っても現実の企業の採用行動がこうこうじゃないか」「大学側はそれに合わせているだけだ、文句があるなら、自分たちの採用行動を変えてからにしろ」という反発でごじゃごじゃになってきたわけですが、そこをきちんとすり合わせるような議論ができるのかどうかですね。
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久しぶりに少しだけ…。ビジネスパーソンにとっての真の「学び」は、むしろ社会人になってから。実際のジョブをアサインされてからの方がはるかに重要ですね。典型的には、英語学習や関連資格の取得やビジネスやローなどの専門性を磨く大学教育などが知識学習の常套手段でしょうが、思うにそのポイントは、生涯学習という射程から、いかに自分固有の「職業、職種」(サラリーマンという漠とした区分でもなく、会社という容れ物による自己定義でもなく)を明確にし、そこにアイデンティティや価値を自他共に認められるようになっていけるか、かと。ここで経団連がいう所の大学教育が若者限定の学習要件(大人からの要望)であれば、それはちと違うでしょ、と…。
例えば、私のような人事マネジャーの場合、毎日の「実務」に必要な知識は本丸の労働法とHRM&OBに加えて、会計、税務、社会保険、年金数理、臨床心理、カウンセリング、人事情報システムなど極めて多岐にわたります。これらの包括的かつ実践知の取得には、ゆうに20年はかかりますよね…。
投稿: ある外資系人事マン | 2018年12月 9日 (日) 07時13分