首藤若菜『物流危機は終わらない』
首藤若菜さんより『物流危機は終わらない 暮らしを支える労働のゆくえ』(岩波新書)をお送りいただきました。ありがとうございます。
https://www.iwanami.co.jp/book/b427327.html
ネット通販時代のインフラと化した宅配が止まる? ヤマトショックは物流危機を顕在化させた.その真の原因は,物流現場の労働問題にあった! トラックドライバーの過酷な現実と様々な統計調査から,現代日本が直面した危機の実態を明らかにする.社会を維持するコストを負担するのは誰なのかを真剣に議論するときが来た.
首藤さんの嗅覚はすごい。昨年『グローバル化の中の労使関係』で労働関係図書優秀賞を受賞したと思ったら、今度はトラック運転手の労働問題です。
今日の日本社会で、総体としていちばん長時間労働を強いられ、いちばん過労死している職種でありながら、自分の同類の裁量制やら高度プロフェッショナルのことしかあんまり関心のないインテリ連中からは、どちらかというと軽視されてきた分野ですからね。
首藤さんの叙述は決して何か悪者を作り上げて叩けばいいというようなものではなく、物流業界の構造的な問題を淡々と、しかしねちっこく追及していきます。
・・・そして私たちも、宅配便の利用者という意味で、荷主の一人である。私たちが、不在連絡票を受け取ることに罪悪感を覚え、極力それを減らそうと行動すれば、それは「荷主の理解」や「荷主の協力」が進んだことを意味する。だが私たちの大半は、そのために具体的な行動をとっていない。
私たちの社会には、顧客や取引先の都合に合わせて、自らの労働時間を柔軟に調整し、その期待に応えようと融通を利かせながら働いている労働者が、数多く存在する。これは、トラックドライバーだけの話ではない。「お客様のために」「顧客の言うことは絶対」といった考えのもと、労働者が、自信の働き方を調整する姿は至るところで見られる。そして消費者としての私たちは、そのようにして生み出された商品やサービスを、ごく当たり前のこととして受け取り、日々の生活を送っている。
本書の最後の第5章では、本ブログで何回も取り上げてきた生産性の話がでてきます。
・・・日本の宅配業界の労働生産性の低さの一因は、価格に対して過剰に品質の高いサービスが提供されていること、もしくはサービス品質に見合わない安い価格が設定されていることにある。
ところが、適正な運賃をといっても、それは独禁法違反になりかねない。首藤さんはそこで最低賃金の出番だと言います。
・・・事業者は他社と共同して一斉に運賃を引き上げることはできないが、一斉に賃金を引き上げることはできる。すなわち、運賃はカルテルを結べないが、賃金は合法的にカルテルを行いうる。
運賃の適正化を実現するために、そして事業の公正な競争を確保するために、この仕組みを利用することは有効であろう。つまり、人手不足を解消するためにも、運賃を引き上げていくためにも、業界全体で賃金を上昇させ、それを通じて運賃の値上げを求めていく。・・・・
本ブログでこれまた百万回繰り返しているように、労働組合とは何よりも労働市場におけるカルテルであり、それによって社会の安定を実現する存在なのです。
はじめに
第1章 宅配が止まる? ――ヤマト・ショックから考える
1 ヤマト運輸の「サービス残業」問題
2 「即日配達」と「送料無料」――ネット通販以後
3 「お客様のために」――形骸化していったルール
4 社会を維持するコスト
第2章 休めない,支払われない,守られない――トラックドライバーの現実
1 物流の九割を占める日本経済の黒衣
2 ドライバーを取り囲む法制度の「抜け穴」
第3章 悩む物流――なぜこんなに安く荷物が届くのか
1 激化する業界競争
2 賃金の低下と成果主義の強化
3 物流二法は何をもたらしたか
第4章 経済のインフラを維持できるか――持続可能性の危機
1 危機の解決策はあるのか
2 深刻化した人手不足
3 「適正な料金」に向けて
4 運賃が先か,賃金が先か
5 荷主を巻き込む
第5章 物流危機が問いかけるもの
1 「適正」な企業が淘汰され,「不適正」な企業がはびこる
2 「高い質を安い価格で」の限界
3 ルールづくりの重要性
あとがき
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「いの」さんのツイート:
https://twitter.com/ino_net/status/1078616303437520896">https://twitter.com/ino_net/status/1078616303437520896
このリンク先の下のほうに、高知県の一般貨物自動車運送業910円というのが載っています。トラックドライバーの唯一の産別最賃です。首藤さんの本にも出てきます。
投稿: hamachan | 2018年12月29日 (土) 08時56分