経済同友会の「Japan 2.0」
いやまあ、インダストリー4.0とか、ソサエティ5.0とかいうのをいつも目にしていると、ジャパン2.0って、えらく控えめな感じがしますが、さにあらず。総論部分は大変飛ばしてます。
https://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2018/181211a.html
https://www.doyukai.or.jp/policyproposals/uploads/docs/fa762c713fc890b38fcf18c427566f9aa9922165.pdf
Japan 2.0 最適化社会の設計-モノからコト、そしてココロへ-
どれだけ飛ばしているかは是非リンク先をご自分でお読みいただければ、と。
その問題意識のいくつかは共有する面もありますが、議論が滑っているところが気になるとなかなか素直に頭に入ってきません。
「モノ」から「コト」へ、という話をするのに、こういうフランス現代思想がやらかしそうな議論をわざわざ展開する必要があったんだろうか、とか。
・・・今後、リアルとバーチャルの融合、相互作用により、既存の産業構造の変革が進むと共に新たな産業の創出が期待される。このリアルとバーチャルの関係性は、量子力学の重要な特性である光の粒子と波動の二重性になぞらえて考えることができる。
リアルとバーチャルの関係性は数学的に複素空間で表現するとz=a+bⅰとなる。「重さのある経済」は、モノや物質のa(atom)、重さのない経済はコト・情報のb(bit)、複素数ⅰはinternet のⅰとすれば、経済のリアルとバーチャルの関係性を簡潔に表現できる。これは、一般的に言われるサイバー・フィジカル・システム(CPS)20と同意である。・・・
正直、アラン・ソーカルあたりに批評してもらいたい感がありますね。
一方、具体的な政策論を労働問題についてみていくと、
①労働法制改革の継続
・裁量労働制の対象を拡大する。
・解雇無効時における金銭解決制度を導入し、補償金の算定方法や水準を具体的に法定する。
・自立型プロ、高度フリーランサー等の雇用を前提としない就労形態と働き方を支える権利保護を整備する。
②多様な働き方の選択肢の増加
・多様な正社員制度の導入・活用、働く場所や時間のフレキシビリティの向上(テレワークの推進、一律的管理からの脱却)を推進する。
・個人の専門性を多様な場で活かし、組織の枠を越えて技能や人脈を培うために、企業などにおける兼業・副業の禁止規定の緩和とガイドライン策定を推進する。
③雇用流動化の仕掛けづくり
(a)メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への段階的移行
・企業は、時代に合わなくなった雇用慣行の打破に向けて、「新卒・既卒ワンプール/通年採用」の定着、一律的な定年退職制度の見直し、市場価値ベースの人事制度の構築などに取り組む。
・退職金税制について、廃止も含めた今後の方向性を検討する。
(b)デジタル化(AI 化)に対応した労働移動の支援
・労使による支援や、企業単位ではなく特定の職業・スキルを軸に就労を可能にする仕組みを検討する。
・キャリア変更(再就職支援)にかかる費用を、労働者、国、企業等が共同でファイナンスする仕組みを検討する。
④外国人材受け入れのための戦略的で開かれた制度の創設・運営
・中長期視点に立った外国人労働者受け入れに関する方針、包括的政策の策定、および政策実行の司令塔的役割を果たす組織の強化を行う。
・受け入れ対象の業種・職種、および受け入れる人材の質と規模について、客観的な分析・判定を行う仕組みを構築する。
・外国人材の受け入れについて実効性のある監理を行うために、送り出し国における選考、受け入れから帰国支援までのプロセスに国(政府)が直接関与する仕組みや、外国人材を雇用する企業を管理する仕組みを検討する。
・家族帯同への対応も含めた、外国人材受け入れの環境整備の拡充を図る。
・外国人が多く集住する地域の地方自治体に、日本語教育支援等、社会統合政策の強化に必要な予算を配分する。
まず最初に、④の外国人労働者の話は、少なくとも改正入管法が成立した現時点ではもっともまともな提言なので、是非考慮されるべきだと思います。
しかしその前は、あれだけ壮大な話をぶち上げる必要があったのかよく分からないような毎度おなじみの話ですね。
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奇想天外で長大な前置きの後にいつもの決まりきった結論が出てくることの是非…。雄壮な前置きによって結論箇所がいかにも尤もらしく感じられるのであればもちろん成功ですし、その逆は失敗、というか逆効果。その点、今回の報告書は誰が見ても「後者」にハマる出色の仕上がりといっては、皮肉にも程がすぎますか。
投稿: ある外資系人事マン | 2018年12月13日 (木) 07時46分