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東和工業事件控訴審判決評釈日本語バージョン

Jli先月25日にアップされた『Japan Labor Issues』10月号に掲載されたわたくしの判例評釈(英文)については、その日にご案内したところですが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2018/09/japan-labor-iss.html

https://www.jil.go.jp/english/jli/documents/2018/009-03.pdf

Judgments and Orders
Course-Based Employment Systems and Gender Discrimination: The Towa Kogyo Case Keiichiro Hamaguchi

もしかしたら、英語では読みにくいという方もおられるかも知れないので、日本語バージョンの方もブログにアップしておきます。

『Japan Labor Issues』2018年10月号
「判例と命令」
「東和工業事件-コース別雇用制度と男女差別」

・事実
 Xは1987年Yに採用され、当初は事務職であったが、1990年からは設計職としてプラントや産業機械の設計に従事し、2001年には二級建築士の資格を取得した。Yは2002年に男女別賃金制度に代えてコース別雇用制を導入したが、男性は全て総合職、女性は全て一般職とされた。設計部でも7名のうち女性のXのみが一般職とされ、後輩の男性よりも低い賃金とされた。XはYに対し、繰り返し総合職として扱うよう求めたが受入れられず、訴訟を提起した。2015年3月26日、金沢地方裁判所は労働基準法4条に違反する不法行為として、総合職と一般職の年齢給及び退職金の差額と慰謝料の支払を命じた。しかし査定に基づく職能給の差額については認めなかった。X、Yともに控訴した。

・判決
 2016年4月27日の名古屋高等裁判所金沢支部判決は、原判決をほぼ踏襲している。すなわち、「Yのコース別雇用制度導入時の従業員の振り分けは、総合職及び一般職のそれぞれの要件に従って改めて行ったものではなく、総合職は従前の男性職からそのまま移行したもの、一般職は女性職からそのまま移行したものであり、・・・結局のところ、男女の区別であることが強く推認される」とし、「Yにおいては、・・・実質的に男女別の賃金表が適用されていたということができ、・・・かかる取扱いは労働基準法4条に違反する」と判断した。その場合のXの損害として、総合職と一般職で別々に定められている年齢給の差額と退職金の差額及び慰謝料は認めたが、職能給の差額は認めなかった。この点について、控訴審判決はやや詳しく「昇格のためには、これを充たすか否かに関するYの裁量的判断を含んだ人事考課の査定等を経なければならない」という理由で、職能給の差額相当の損害の主張を退けている。
 Xは上告したが、2017年5月17日、最高裁判所は上告を受理しないと決定した。

・解説
 本件は今日ではやや珍しい古典的な女性差別の事案であるが、1985年制定の男女雇用機会均等法以前の日本の典型的な雇用管理をよく示している。伝統的な日本型雇用システムにおいては、男性労働者が採用から定年退職までの長期間勤続し、基幹的な業務に従事して年功的に賃金が上昇するのに対して、女性労働者は採用から結婚退職までの短期間勤続を前提に、補助的な業務に従事することが一般的であった。しかし国連女性差別撤廃条約の影響で、1985年の男女雇用機会均等法で男女の募集・採用・配置・昇進に関する均等待遇が努力義務とされ、1997年に至って1985年法の努力義務が改正され、男女差別が禁止された。これに対応するため、企業はコース別雇用制度を導入し、それまでの男性コースを「総合職」、女性コースを「一般職」とし、男女を問わず適用することとした。しかしながら、1997年改正までは、多くの職場では、男性は全て総合職、女性は大部分が一般職という運用が続けられていた。
 本件ではXは大学理学科を卒業し、二級建築士の資格を有して設計業務に従事しているにもかかわらず一般職とされ、同じ設計部のF(男性)は工業高校の機械科を卒業し、二級建築士の資格がないだけでなく簡単な製図も独力でできないのに総合職とされていた。これはこの「総合職」「一般職」という概念が欧米諸国で一般的な「職種」とは別の概念であることを示している。そして本判決はそれを実質的に「男性職」「女性職」のラベルを貼り替えたものに過ぎないと判断しており、その判断は適切であろう。実際、Xの退職(2012年1月)後の2012年6月にYは新制度を導入し、2013年4月には初めての女性総合職が採用されている。
 この新制度における「総合職」「一般職」は確かに男女共通に適用されるものであるが、「総合職=職種転換及び転勤を使用者が命じうる職種」、「一般職=基本的には転勤を使用者が命じることができず、限定された職種」という原則は維持されており、なお欧米諸国で一般的な「職種」とは別の概念である。しかしながら、大変困惑的であるが、日本の男女雇用機会均等法及びそれに基づく指針が「職種」と呼んでいるのは、この「総合職」「一般職」の区別であって、営業職、設計職、事務職といった欧米型の「職種」概念ではない。日本型雇用システムにおいては欧米的な意味での「職種」概念が存在しない、あるいは少なくとも重要性を持たないのであり、雇用区分として重要なのは業務内容や勤務場所が無限定であるか限定的であるかという点である。この点に注意を喚起している文書はほとんど存在しないため、多くの外国の研究者は男女雇用機会均等法上の「職種」について誤解をする可能性がある。
 なお、本判決がその差額を差別と認めなかった職能給も日本独自の賃金制度であり、労働者ごとの職務遂行能力の評価に基づいてそれによって賃金が決まる各等級・号俸に当てはめるものであるが、実態としては厳格な査定に基づき個人の能力に応じて大きな格差をつけるものから極めて年功的な運用までさまざまである。本件では必ずしも明確ではないが、X側が総合職と一般職の昇格基準に違いはなく、一般職としての年功的職能等級の昇格と同水準の年功的昇格が総合職労働者にも期待できたと主張しているのに対して、Y側はそれを否定し、判決は職能給の原則論で処理し、Xの主張を退けている。職種概念が希薄な中での職務遂行能力の個別査定について差別の存在を認定するのは、それが実態として極めて年功的に運用されているのでない限り、極めて困難である。これは男女差別に限らず、例えば組合加入に基づく差別を立証しようとする際にも障壁となる。 

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コメント

和文で初読、いい判例& 解説ですね。いかなる意味で「いい」と言えるかというと(ILOの国際的な)人権思想、反男女差別の原則にストレートに沿っているから…。

(以下、多少なり穿った姿勢で論述しますと)これまで日本では「当然」とされてきたコース別人事管理(という隠れ蓑)による男女間接差別の是非が問われる、ある意味で画期的な判決かと。(欧州大陸びいきの)水町プラン主導でなされてきた昨今の「日本型」同一労働同一賃金のイニシアチブが(おそらく経団連の強い反対により)どうしても踏み込めなかった領域こそ、過去ある一時期には「正社員改革」と呼ばれることもあったこのコース別人事管理に起因する男女差別問題でした。

(ジョブ型の)独仏でも同様に一定のコース別人事管理が許認されている事案により日本でも完全には切り崩せなかったこの聖域が、このような喧嘩両成敗的な判決であったとしても部分的(ピースミール)に否認されるに至ったことは、株式会社ニッポンを支えてきた戦後司法の日和見主義ではない本来の意味での司法の役割(社会正義の実現)が見えて、清々しいではありませんか。

さらには、Hamachan先生縷々詳述の件の「能力給」だけは、保留なのか永遠の宿題(宿痾)なのか、いったん会社側に勝たせて預けることで以後は各社の経営判断(ひいては労使自治)に任せようという辺りの「引き際」のさじ加減も、いやいや中々お見事と言わざるを得ません。

今後とも、同一労働同一賃金テーマをめぐる裁判の動きに目が離せない日々が続きそうです…。

投稿: ある外資系人事マン | 2018年10月 5日 (金) 08時22分

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