« 中途半端な新自由主義の末路@児美川孝一郎 | トップページ | 東和工業事件控訴審判決評釈日本語バージョン »

2018年10月 3日 (水)

後藤道夫他編『最低賃金1500円がつくる仕事と暮らし』

375688 後藤道夫・中澤秀一・木下武男・今野晴貴・福祉国家構想研究会編『最低賃金1500円がつくる仕事と暮らし 「雇用崩壊」を乗り超える』(大月書店)をおおくりいただきました。

http://www.otsukishoten.co.jp/book/b375688.html

年功賃金の崩壊と労働市場の激変、非正規雇用だけでなく正社員にも低所得層が増加するなかで、 〈最賃1500円運動〉への期待が広がっている。

最賃引き上げで地域経済を元気にする戦略など最低賃金1500円が切り開く社会への展望を示す。

目次は下にある通りで、日本型雇用を前提に、「家計補助的」非正規労働者にそれだけでは生活できない低賃金が当然視されてきたありようを批判しているところは、編著者たちのいつもの議論ですが、その中で注目すべきだと思ったのは、蓑輪明子さんの「公共サービス労働と業種別・職種別最低賃金――保育労働を素材に」という論文です。

本書の標題にもあるように、、現在の日本で最賃というとどうしても地域最賃ばかりが意識され、1000円とか1500円とかいう話になりますが、そもそも最低賃金とは労働組合の最低価格協定の拡大から始まったものであり、その趣旨が残っているのは産業別最低賃金なんですね。

ここで蓑輪さんは「保育最賃」の創設を提起しています。現在の保育業界の組織率の状況からすれば絶望的な話のようにも聞こえますが、これと公契約条例を絡ませて、

・・・公契約条例で職種や業種ごとに下限報酬額を設定することがあります。これを用いて、「保育士」や「給食調理員」といった保育業界の下限報酬額を定めるのです。・・・

と論じていきます。これは子育て支援が政策課題になっている現在、公益性が高いのに低賃金になっているとして、戦略的にも攻撃ポイントとして絶好のように思います。もう一つのポイントは介護業界でしょう。

的が広がれば広がるほど、「そんなの無理だ」という抵抗が強くなるのですから、下限に張り付くことが予想される全国一律最賃とか打ち出すのはあまり意味があるとは思えません。

はじめに(後藤道夫)

第1章 最低賃金1500円は社会をどう変える――家計補助賃金からリビング・ウェイジへ  
1.日本の最低賃金は、なぜこれほど低いのか?(後藤道夫)
 トピック① AEQUITAS(エキタス)と「#最低賃金1500円になったら」(栗原耕平)
 トピック② 子どもの貧困から見た地域格差と最賃格差(戸室健作)
2.「ふつうの暮らし」がわかる――生計費調査と最低賃金(中澤秀一)
 トピック③ 生計費調査から考えた、私の地域の「ふつうの暮らし」(岩崎 唯)
3.女性の貧困は最賃引き上げでどう変わる?(後藤道夫)
4.働き手がふつうに生活できる最賃へ──子育て・老後の展望を切りひらく(後藤道夫)

第2章 労働市場と働き方の現在~未来
1.労働市場はどう変わっているか――非正規就業を中心に(伍賀一道)
2.正社員労働の変容と最低賃金――「働き方改革」と関連して(今野晴貴)
3.「新産業構造ビジョン」と最低賃金の意義 AI、インダストリー4.0、IoT(今野晴貴) 
4.公共サービス労働と業種別・職種別最低賃金――保育労働を素材に(蓑輪明子)

第3章 最低賃金の歴史と思想
1.日本の労働運動と最低賃金闘争(小越洋之助)
 トピック④ 最低賃金審議会に民主的ルールを――「鳥取方式」の実践(藤田安一)
2.最低賃金制とナショナル・ミニマム論(木下武男)
 トピック⑤ 最低賃金と協約賃金(浅見和彦)
 トピック⑥ イギリスの最低賃金制度(遠藤公嗣)
 トピック⑦ アメリカの最賃運動・地域運動の展開
       ――地域での「コアリッション」構築による最低賃金条例制定(小谷 幸)
 トピック⑧ ドイツ・フランス・韓国の最低賃金(中澤秀一)
3.政党・労組・論壇は、最低賃金をどう見ているのか?(戸室健作)  

第4章 大資本に対する防波堤としての最低賃金――地域経済と中小企業
1.最賃引き上げと地域内再投資(岡田知弘)
 トピック⑨ 最低賃金引き上げは地域共通の課題(出口憲次)
 トピック⑩ 自治体首長も賛同する「北海道・東北最賃引き上げキャラバン」(中村健)
2.中小企業も地域経済も元気にする道(岡田知弘)
 トピック⑪ 公契約条例と最低賃金(川村雅則)  
3.全国チェーンに“おいしい”最賃格差(中澤秀一)

終章 社会的危機を救う──最賃1500円と福祉国家型生活保障
1. 座談会 最低賃金を下層社会の現実からとらえ返す(藤田孝典・今野晴貴・後藤道夫)
 トピック⑫ 年収270万円でも暮らせる社会へ――時給1500円×1800時間労働の実現に向けて(北口明代)
2.最低賃金と社会保障・教育保障・住宅保障(後藤道夫)

あとがきにかえて――エビデンスをもとに新たな運動の展開へ(中澤秀一)

|
|

« 中途半端な新自由主義の末路@児美川孝一郎 | トップページ | 東和工業事件控訴審判決評釈日本語バージョン »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/3288/74324093

この記事へのトラックバック一覧です: 後藤道夫他編『最低賃金1500円がつくる仕事と暮らし』:

« 中途半端な新自由主義の末路@児美川孝一郎 | トップページ | 東和工業事件控訴審判決評釈日本語バージョン »